二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.628 )
日時: 2015/05/24 00:27
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

「わー、海だよゆーくん! 海! 久しぶりだなぁ……」
「…………」
「? ゆーくん? どうしたの? 元気ないけど、どこか悪いの?」
「……このみ」
「なに?」
「お前、金輪際、水着を着るな、薄着をするな」
「え!? いきなりなに!? どゆこと!? イヤだよ!?」
「うるせぇ、問答無用だ。見つけたら全部剥いで簀巻きにするぞ」
「えー……なにそれ……ゆーくん、どうしちゃったの? いきなり」
「自覚がなさすぎるんだよ、お前は……流石に今のお前を見てると、なんか危ない気がしてきた」
「?」



「むー……!」
「……なにしてんだ、お前」
「っ! わぁ、ゆーくん!?」
 昨日訪れたばかりではあるが、本日も何気なしに『popple』に足を運んだ夕陽は、店の隅の通路の奥で、こそこそと動く影を見つけた。
 その影の大きさから、誰なのかは一発で分かったため、近づいて声をかける。
 するとその影——このみは、驚いて後ずさった。
「ゆーくん、うちに来てたんだ、珍しい……」
「プロセルピナのことがあるからな、たまに来るようにしてるんだ」
「そっか、ありがとね、わざわざ」
「それよりお前、なにしてんだよ、こんなところで。勉強はどうした」
 夕陽がそう言うと、このみはギクッとした表情で、分かりやすく目を逸らした。
「あー、えーっと……姫ちゃんが、まだ来てなくて……」
「休憩休憩って駄々をこねて来たんじゃないのか」
「わ、当たり。すごいゆーくん。やっぱあたしとゆーくんの仲だと、そのくらいはお見通しなんだね!」
「さっさと戻れ」
 一人勝手に盛り上がるこのみを抑えて、夕陽はこのみの腕を引っ張るも、このみは必死に抵抗する。
「うー、待って待って! もう少し! もう少しだけ見張らせて!」
「……見張る?」
 本来なら有無を言わさず連行するところなのだが、このみの口から、彼女には似つかわしくない言葉が出てきたために、夕陽は腕を引く力を弱めた。
「誰を見張ってるんだ?」
「あの人だよ」
 そう言ってこのみが指さすのは、カウンター席。
 そこにいるのは、このみの姉の木葉と、客が一人だけだった。
 そして、その客というのが、夕陽の知らない人物ではなかったのだ。
(あの人……確か、昨日も来てた……)
 金髪碧眼、頬にガーゼをしている銀縁眼鏡の男性。
 昨日も『popple』に来ていたことは、夕陽も覚えていた。その時には、明らかに日本人顔なのに西洋人的な特徴があり、容姿は少し変わった人だと思ったが、それでもただの客にしか見えなかった。
「あの人が、どうかしたのか?」
 だからこのみが、彼となにがあったのか、興味本位で聞いてみたのだが、
「あの人……ずっとおねーちゃんとお喋りしてる」
「……は?」
「最近よくうちに来るようになったお客さんなんだけど、あの人、いつもいつもカウンターに座っておねーちゃんとお話してるんだよ! ゆるせないよ!」
「…………」
 それを聞いて、夕陽は脱力した。
 要するにこのみは、自分の姉に身も知らぬ男が寄りついていることに、気分を害しているようだ。嫉妬にも近い感情である。
 このみが姉として、一人の女として木葉のことを慕っていることは、夕陽も知っている。そんな木葉も、このみのことはただの妹以上に愛を注いでいることも、今まで見てきたことだ。
 だが、それでも呆れざるを得なかった。
「このシスコン姉妹が……くだらねぇ」
「くだらないとはなにさ! ゆーくんはおねーちゃんが他の男の人に取られちゃってもいいの!?」
「僕に聞くなよ。つーか、あの人もそろそろいい歳だろ。男の一人いてもおかしくない。むしろ喜ばしいことじゃないのか?」
 これは昨日も木葉に言ったことではあるが、夕陽が常々思っていることでもある。むしろ、今まで彼氏の一人もいなかったというのだから驚きだ。
「……でもあたしはイヤなの」
「あっそ。だが、それとこれとは関係ない。休憩ももう終わりだ。ほらとっとと光ヶ丘んとこに戻れよ」
「むー……ゆーくんのいじわるー」
 と、夕陽はこのみを上階へ向かう階段まで引っ張ると、そこでこのみも諦めたようで、渋々ながら階段を上っていく。
 その途中で、このみは首だけでこちらに振り返った。
「プロセルピナのこと、よろしくね、ゆーくん」
「……全部終わったら、ちゃんとお前が面倒見ろよ」
「うん、分かってる。あたしも、ちゃんと謝らなきゃね」
 それだけ言って、このみはトタトタと、上階の奥へと消えていった。



「……で、お前はいつまで拗ねてるんだ」
「す、すねてなんかないもん……」
 夕陽は家に帰ると、ずっとカードの中に閉じこもるプロセルピナに言った。
 今日は少しだけだがこのみと直に話したわけだが、その間、プロセルピナはまったくカードから出ようとはしなかった。しかし、それでもカードの中でそわそわしているのだけは感じ取れた。
「それってつまり、お前もこのみのとこに戻りたいってことじゃないのか?」
「そんなこと……」
「素直になれよ、プロセルピナ。オイラに夕陽が必要なように、お前にはこのみが必要だろ? オイラたちは、たった一人じゃなんにもできないんだ」
 反抗期の子供のようにいじけているプロセルピナに、諭すような口調で語りかけるアポロン。
 それを聞いてプロセルピナは、俯き加減になりながら、ぼそぼそと言葉を紡ぐ。
「……わかってるもん、ルピナのワガママだってことくらい……」
「なら、ことが全部終わったら、あいつのところに戻れよ。あいつは光ヶ丘が進級させるはずだし、そうなればお前が拗ねる理由もなくなるだろ」
「……うん」
 まだ最後の意地が抵抗しているのか、プロセルピナは消極的だったが、しかし確実に頷いた。
 今は反抗的だが、根っこは素直で純真な性格なのだ。プロセルピナ自身、自分の非はちゃんと認めている。
 それが分かると夕陽は、とりあえず、この問題は大丈夫だろうと結論づける。プロセルピナはまだ意地を張っているところがあるが、一度少々強引にでもこのみとくっつけてしまえば、彼女らの性格からしてなんとかなるはずだ。
 なのであとは、このみが進級できるかどうかだが、これは姫乃に任せるしかない。そこは夕陽の管轄外だ。
(まあ、管轄なんて僕が勝手に思ってるだけだけど……)
 そのことについては、姫乃に多少の罪悪感がないでもないが、夕陽としてはこのみの自業自得に手を差し伸べてやる義理などないし、なにより今はできるだけ姫乃と会いたくない。
 会いたくないと言うよりは、少し距離と時間が欲しいのだ。
 冷静に考えられるだけの距離を。そして、じっくりと悩む時間を。
 しかし、時間を与えられていても、途中で夕陽の思考は途切れる。思考を進める中で、どうしてもシャットダウンしてしまう。
 考えが、どうしても進まない。ゆえに、いくら冷静でも、時間があっても、無駄であった。
(……これは、僕が逃げてるってことなんだろうな、光ヶ丘の思いから)
 そう思うと、自分がたまらなく嫌になる。
 そして、そんな嫌な自分を考えたくなくなり、夕陽はカードケースに手を伸ばした。
「ん? 夕陽、デッキを改造するのか?」
「いや、作る。ちょっと思いついたことがあってさ。とりあえず形にしてみたいんだ」
 普段はあまり多くのデッキを作らない夕陽ではあるが、時たまコンボなどを思いつくと、とりあえずデッキとして作りたくなるのだ。
 とはいえ、大抵はロマン止まりの失敗に終わるが。それを知ってか知らないでか、アポロンは玩具を買う約束でもした子供みたいに微笑む。
「おぉ、そいつは楽しみだな」
「いいなぁ、アポロン」
 アポロンに、玩具を買って貰った兄を見る妹のような視線を向けるプロセルピナ。
 そんな彼らに、夕陽は言った。
「言っとくけど、お前のデッキだからな、プロセルピナ」
「え? ルピナの?」
「あぁ。お前の性能って、実はかなりコンボ向きだろ? それを最大限に利用すれば、お前はかなり色々なことができるはずだ。だから、前から凄いコンボとかができないかと思ってたんだよ」
「そうなんだ……このみーはそんなことなにも言ってなかったよ?」
「まあ、あいつの頭じゃな。御船とか、もっとコンボに精通した人なら、かなり多くのコンボを考えていたと思うよ」
 とはいえ、『神話カード』の性質上、プロセルピナ自体を場に出すことが難しく、ゆえに実用性は分からないが、しかし、もしかしたら物凄いことが起こせるかもしれない。
 そんなロマンのような期待をするだけの性能が、彼女にはある。一人のデュエリストとして、その可能性を模索したがるのも、無理からぬ話だろう。
「もう大体の構想は練ってるんだ。あとはカードの枚数だけど、こればっかりは実際に動かして確かめるしかないか……」
 そんなことを独り言のように呟きながら、夕陽はカードを広げていく。
 アポロンとプロセルピナは、そんな彼をただただ見つめていた。