二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.629 )
- 日時: 2015/05/26 16:27
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)
「ゆーくん、ゆーくん! 聞いた聞いた!?」
「いきなりどうしたんだよお前。いつも騒がしいけど、今日は一段とやかましいな」
「一年にね、てんこーせーがきたんだって! これは行くしかないよ!」
「は? てん……なんだって? 早口すぎて聞き取れねえよ、もっとゆっくり言え」
「いいからいいから、早く来てよ! デュエマもすっごい強い女の子だって!」
「なにがだよ……って引っ張んな! おい!」
「——姫ちゃんが来れない?」
試験日も近づいてきたこの頃。
このみは首を捻って、受話器を置く木葉に問う。
「なんで?」
「家の用事ができちゃったんだって。まだ少し、ゴタついてるみたい」
「ほぇー……じゃ、明日の勉強は休みかー」
「本当に自分から勉強する気はないのね……このみ、自分の成績がどうなのか、ちゃんと分かってる?」
「分かってるけどさー、あたし一人じゃなんにも分かんないもん」
一人で教科書を読んで内容が理解できるのであれば、誰だって赤点は取らない。
勿論、このみの場合は、彼女自身の怠惰さが一番の原因なのだが。
「私が見てあげてもいいんだけど、明日は生憎、用事が入っちゃってるのよね。夕陽君は……きっと断るでしょうね」
ならば他に候補は、と頭の中で人物を挙げていくが、誰も彼も、このみの相手ができそうな人物はいない。またできそうだったとしても、他の事情で恐らくは無理だろう。
「……まあ、このみも頑張ってきたわけだし、一日くらい休みを挟むのもいいかしら」
と、木葉も考えるのがやや億劫になり、このみへの甘さも発動して、そんなことを言う始末であった。
「……明日は勉強しなくてもいいのかー……」
ぐでーっとテーブルに突っ伏すこのみ。
明日は休み。その予定外の休息は、彼女にとっては大きかった。
このみは突っ伏したまま、誰にも聞こえない声で、ボソッと呟く。
「……なら、明日しかけてみようかな……」
「——そうか、そういうことだったか」
「なにか分かったんですか、黒村さん」
某所にある【ミス・ラボラトリ】の研究所。
その一室——『個人研究室 黒村形人』とという表示のある部屋にて、黒村と希野は、二人で《豊穣神話》の所有者を探っていた。
そして黒村は、今し方その手がかりを掴んだようであった。
「所長が年明け後に所有者が変わっただなんて適当なことを言うから、なかなか難航したが……いや、事実としては、確かに変わっていた可能性は否定できないか。むしろそうすることで、本当の所有者をカモフラージュしていたのかもしれん」
「話が見えてこないんですが……《豊穣神話》の所有者が分かったんですか?」
「かもしれないな」
そう言って黒村は希野を呼び寄せる。
「俺は《豊穣神話》の以前の所有者を追っていたんだが、年明け後に《豊穣神話》を所有していた集団の姿が掴めなかったんだ」
「でも、年明け前に所有していた者が誰かは掴んだんですよね? そこから手がかりなしですか?」
「あぁ、ほとんどな。無所属の個人所有という線も考えたが、そちらのアプローチから洗っても、ヒットしなかった」
年明け後から、チーム所有の《豊穣神話》が動いた形跡はない。かといって、無所属による個人所有でもない。
それでも、所有者が変わっている。
これは黒村たちのリサーチ不足だろうか。当然、その線も大いにあり得る。だが、他の可能性も存在し得るのだ。
「つまり、一つの集団内で、所有者が変わったということだ」
「……え? でも、それじゃあ、結局は集団所有に変わりないんじゃないですか? 元々その集団は、そういう観点で見ていたんですよね?」
「だからその観点を変えたんだ。俺たちは『神話カード』を収集することよりも、観察や管理すること重視する。だからこそ、集団で所有するということに、囚われていた」
観察するにしても、管理するにしても、集団という単位で行動してくれた方が、黒村たちにとっては効率がいいのだ。だからこそ、《豊穣神話》も集団で所有していると思いこんでいた節がある。
だが、事実は違っていた。
「構成員一人一人のランクや立場がすべて明確に違っていたり、幹部以上の構成員とその他の構成員の差が大きなものであれば、さらにいえば幹部以上の立場の構成員が有名な者であれば、集団所有内の個人所有権の移動はより明確となる。これは【神格社界】や【師団】と同じだな」
【神格社界】はそもそも個人の集まりというコミュニティ的な側面が強いので、この内部で『神話カード』の移動は大きな意味を持つ。
【師団】はそのスタンス、というよりポリシーでもあるのか、下位構成員が手に入れた『神話カード』を上位構成員に献上するようなことはまずないが、“ゲーム”参加者でその名は知らないほどに絶対的な力を持つジークフリートが、他の『神話カード』を手に入れたとなれば、その情報が流れてこないわけがない。
「現在、《豊穣神話》を所有している集団は、上下関係の存在する集団でありながら、故意に下位構成員に『神話カード』を渡していたものと思われる。無名な組織であればあるほど、そのカモフラージュは生きるだろうな」
「それで、最近になってその《豊穣神話》が別の構成員……いや、集団のトップでしょうか? の手に渡ったということですか」
「恐らくな」
なぜこのタイミングなのかは分からないが、年明け後くらいからなにかを画策していると考えられる。
となると、そろそろ本格的に動き出すだろう。
「それで、その集団というのは、今現在《豊穣神話》を所有している集団は、一体どこなんですか?」
「以前の所有者が所属を偽っていたがゆえに、絞り込むのは骨が折れたがな。ある程度その可能性がある集団はすべて探ってみたが、前所有者の経歴、在住所、交友関係などをすべて洗い出した結果……恐らく、ここだ」
黒村はそう言って、ディスプレイに一つの名前を表示させる。見覚えはない。資料で見た可能性は十分あるが、少なくとも“ゲーム”に大きく関わってきたことはないはずだ。
「この集団の一人と、俺の知人が多少なりとも関わりのあるのだがな……正直、盲点だった。まさかこの集団が《豊穣神話》を所有していたとはな」
してやられた、とでも言うように、ふぅ、と息を吐くと、黒村はスッと立ち上がった。
「ど、どちらへ……?」
「もしも奴らが動き出すならば、狙うのは“あいつら”だ。あいつらになにかがあったならばすぐに情報が来るはず、それがないならまだ事は起こっていないのだろうが……あいつらにも警戒を促す必要があるのも確かだ」
「……あたしも行きます」
「あぁ、頼む」
二人は、部屋の状態をそのままに、やや早足で研究室を出ていった。
黒村に続き、希野も部屋から出ようとするが、その時、ふと先ほど表示された画面の名前が目に入った。
「…………」
だが、すぐにそこから目を外し、部屋を出て、バタンと扉を閉める。直後、ガチャリと鍵の閉まる音が鳴った。
電源も落とされず残されたまま、ディスプレイには一つの名前が残されたままだった——
【Kasumike】——【霞家】