二次創作小説(紙ほか)
- デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.63 )
- 日時: 2013/07/25 16:41
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
夕陽が姫乃を家まで送り届けた翌日、姫乃は夕陽が言ったように学校を休んだ。他の生徒も、そのことについては異論を唱えず、皆納得していた。
淡々と味気なくその日の授業を終えた夕陽とこのみが向かったのは町内にある公園。まだある程度の遊具が残っている、このご時世では珍しい公園だ。この時間帯にしては珍しく、小学生の一人もおらず閑散としている。夕陽らにとっては都合がいいが。
夕陽は後に合流した汐と並んでベンチに座り、このみはその横のブランコで豪快に立ち漕ぎをしていた。制服なのだからもっと慎みを持て、と小言を言うのは中学時代に既に諦めている。
三人がこうして集まっている理由と言えば、“ゲーム”絡みのことだが、それに加え、姫乃のことも話題に上がっていた。
「……そうですか。私はその光ヶ丘さんという人とは会ったことがないのでなんとも言えないですが、やっぱり他人の家庭に首を突っ込むのはよくないことです。いえ、よくないというより、浅はかに突っ込むべきではない、ですか」
「なんだけどねぇ……なんか気になるというか、引っかかるんだよ。それがただの好奇心なのか、それともそういうタチなのかは分からないけど」
いつまでも残る蟠り。それが単に、光ヶ丘姫乃という一人の少女のことを少しだけ深く知り、少しだけただのクラスメイト以上の関係を持ったからなのかもしれないが、夕陽自身はそうではないと感じていた。
しかしだからといって、その蟠りの正体は分からない。
「先輩、先輩が光ヶ丘さんを気に病む気持ちも分からないでもないですが、今は解決できない問題より、解決しなければならない問題を優先すべきですよ」
煮え切らない夕陽に業を煮やしたのか、汐はそう斬り込む。だが確かにその通りだ。今は触れられない他人の事情より、自分たちに迫っている脅威について考えなければならない。
具体的には、今まで襲ってきた者たちについてだ。
「最近、どうやら私たちの『神話カード』を狙う人が襲ってきますが、この前戦った時、その人たちに違和感を感じたのです」
「ああ、それは僕も思った。はっきり言ってあいつら、“弱かったね“」
はっきりと言う夕陽。汐も首肯する。
「だよねー。あれならまだデュエルロードの人たちのほうが強いよ」
そこで、今までほぼ90°になるまでブランコを漕ぎ続けていたこのみが、相当加速しているブランコから飛び降りて話に加わってきた。流石に体操選手のように宙返りしながら、というアクロバティックなことはしないが、それでもかなり身軽だった。
そしてこのみの言うことも正論、というより同意できる。彼らも彼らでそこそこの実力はあるようだったが、それでもそこまでではない。本当に弱い。違和感を感じるほどに、弱かった。
「最初に僕らが戦った奴らはなんだったんだ、って言いたくなる弱さだよ……っていうか、あの連中はどこの誰なんだ? なんか、凄い一般人っぽかったけど」
一般人と大雑把に言ってしまえば、このみと戦った少女はともかく、『炎上孤軍』や青崎記は容姿だけなら一般人と言えた。しかしここ最近、夕陽たちに襲い掛かってくる者たちは、身なりだけでなく雰囲気までもが一般人のそれと酷似している。
その雰囲気というものは、周りの環境によって変わってくるのだと夕陽は思う。つまり、極端な話、周りが異常者だらけなら自分も異常者のように思われ、周りが普通の人ばかりなら普通に見える、というような感じだ。
それにしたがって考えれば、『炎上孤軍』なんかは【神格社界】なる組織に属しているがゆえに、それ相応の異常事態にも身を投じているのだろう。そして逆に、ここ数日で夕陽たちに襲い掛かってきた者たちは、彼女らが関わっているような異常事態にあまり触れていない、ということになる。
それはつまり、彼らは本当にただの一般人で、異常な組織などに加盟していないということではないのか。
夕陽に声が掛けられたのは、彼がそんな結論を導き出したすぐ後だった。
「そうだ、突き詰めて考えてしまえば、彼らはただの一般人に過ぎない」
「っ!」
思わず身構える夕陽と汐。このみはやはり、緊張感なく突っ立っている。
声の主は、まだ若く見える男だ。ややオールバック気味の髪にカジュアルスーツと、ほどよい軽さがあるもののどこか高貴な雰囲気がある。
「え、えと……誰、ですか……?」
身構えたまま尋ねる夕陽。男は夕陽たちとの距離を変えずに口を開く。
「私は金守深という。先日は、私の部下が世話になった」
「部下……? 誰のこと?」
声自体は穏やかだが、どこか傲慢さがある口調。男——深を警戒しながら、夕陽は問い返す。
「まあ、部下というよりは、同胞と言うべきなのかもしれないな。より正確に言うのなら、私が統括する組織の構成員、だがな」
「組織? ちょっと待って。それは、なんのこと……?」
繋がりそうで、繋がらなさそうで、もうほとんど繋がっている何か。しかし夕陽は、確認するかのように、その問いをぶつける。
「なんのこと? まさかここで誤魔化せるとは思わないだろう、ならば本当に分かっていないのか? なら、はっきりと言おう」
そして深は一拍置き、
「私は、お前たちの持つ『神話カード』を奪いに来た」
単純明快な答え。それは夕陽たちが危惧し、覚悟していた事象だ。
「『神話カード』……やっぱり、そっち関連か。ってことは、この前僕らを襲ってきた奴らは」
「そうだ。言っただろう、部下が世話になったと」
肩を竦める深。その後、彼は右手を前に出す。それは何かを求めるような手だった。
「さあ、渡してもらおうか。お前たちの持つ『神話カード』……《アポロン》と《マルス》、それから《プロセルピナ》に、《ヘルメス》だったか」
「こっちのことは全部知ってるのかよ……」
どこから情報が入っているのかは定かではないが、夕陽に至っては異名まで付けられてしまっているので、さしたる驚きはない。それより、
「渡せと言われて、むざむざ渡すか。お前たちの世界っていうのは、こういう時どうするんだ?」
「え、ちょっと、先輩……」
売り言葉に買い言葉、のような感じで放たれた夕陽の言葉を聞き、汐が声をかける。だが夕陽はあえて無視した。
わりと温厚な夕陽ではあるが、普段からデュエマという、勝ち負けだけの勝負事に手を出しているがゆえに意外と負けん気が強く、喧嘩っ早い。打算でものを考えられないというわけでもないが、汐ほど合理だけで動けるわけでもないのだ。
だからこそ、見の保全のために素直に《アポロン》を渡せないのだろう。
「……ふむ、まあ予想はしていた。そうだな、私たちなら欲しいものがあれば、それ相応の手段を取るな」
と言いながら、深はポケットの中に手を突っ込んだ。夕陽もデッキケースに手を向かわせながら、前へと進み出る。
この時、夕陽は完全に深だけを見ていた。それは物理的にも心理的にもだ。その時だけなら、夕陽は汐もこのみも視界に入っておらず、意識もしていなかった。そして、金守深を、“ゲーム”の一参加者としか見ていなかった。
だからだろう、夕陽は“それ”に反応することができなかった。
二つの影が、近くの植え込みから飛び出す。