二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.634 )
- 日時: 2015/06/20 13:09
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
「このみー!」
声が聞こえる。
幼くて、明るくて、和やかな、木々の揺らぎのように、落ち着く声。
それは、自分の相棒——プロセルピナの、声だった。
「だいじょーぶだよ、このみー!」
「プロセルピナ……」
彼女の眼を見る。
いつも明るく朗らかで、弾けたように漲る彼女だが、今は違う。
その眼は、いつものように笑ってはいない。しかし、かといって絶望に満ちているわけでもない。
彼女の眼は、むしろ未来への希望に満ちた眼差しだ。
それだけで、このみはすべてを理解した。
「……あたしのターン」
しかし実際には、理解した、だなんて理屈的なことではない。
感じたのだ。彼女から。今、自分の手中にあるデッキから感じる、生命の鼓動を。
クリーチャーたちの、産声を。
このみは、プロセルピナを通して、感じ取ったのだ。
感じたならば、あとは簡単だ。
あとは感じたままに、カードを操るだけ。
「《守護炎龍 レヴィヤ・ターン》を召喚! その能力で、マナゾーンから《地掘類蛇蝎目 ディグルピオン》をバトルゾーンへ! さらに《天真妖精オチャッピィ》も召喚!」
まずは、前のターンに回収した《レヴィヤ・ターン》を呼び出す。無意識的に回収したカードだが、それはすなわち、彼女の感覚は、既にその時から始まっていたことの証明だ。
《レヴィヤ・ターン》の能力で《ディグルピオン》が現れ、マナを肥やす。
続けざまに表れた《オチャッピィ》も、死した仲間を土へと還す。
「さらに《ボルバルザーク・エクス》も召喚だよ! マナをすべてアンタップ!」
そして、続く《ボルバルザーク・エクス》の咆哮によって、マナがすべて起き上がる。
再び肥えたマナを再利用し、このみは、彼を——彼から受け取ったその力を、解き放つ。
「《神々の地 ディオニソス》を召喚! そして、行くよ——アポロン!」
「おう、任せろ!」
このみが切った手札は、アポロン——夕陽が託した、彼の『神話カード』。
大地が鳴動し、恐ろしき龍が咆哮し、豊穣が君臨するこの空間にて、一つの太陽が昇る。
「《エコ・アイニー》《ヴィルヘルム》《ボルバルザーク・エクス》の三体に重ねて——進化MV! 《太陽神話 サンライズ・アポロン》!」
太陽の如き輝きと炎を放ち、一つの神話が、ここに爆誕する。
その姿を見てこのみは、ふっ、と呟く。
「ゆーくん——力を、借りるよ」
——勝手にしろ。
そんな、彼の声が聞こえた気がした。
大親友の、声が。
「……《アポロン》で攻撃! その時、《アポロン》のCD9が発動! 山札を捲って、ドラゴンならバトルゾーンへ!」
炎が晴れると、すぐさま《アポロン》は特攻する。
しかしただ突っ込むだけではない。彼の翼の羽ばたきが爆風を生み——新たな命の芽吹きを、与える。
アポロンは爆風によって飛ばされたカードへ向けて、呼びかけるように優しく、それでいて、出陣するかのように勇ましく、力の限り叫ぶ。
『さぁ、起きろ! プロセルピナ!』
「とっくにおきてるもん!」
『そうか、悪かった。なら——行ってこい』
「……うんっ! わかったよ!」
そう言うと、彼女は迷いなく、一直線に相棒たる彼女の元へと向かう。
「……《レヴィヤ・ターン》《ディグルピオン》《オチャッピィ》を進化元に——」
雪の妖精や古代の龍たちが、猛烈な吹雪と、桜色の花弁に包み込まれる。
「——芽吹く草花を、萌える木々を、ぜんぶを受け入れて、春の命を咲かせて——」
その中で、神話が形成されていく。雪解けの中、新たな生命が芽吹く、萌芽の時の如く。
「——神々よ、調和せよ。進化MV——」
その神話は、春を告げる。
命の萌芽という、春を。
そして、姿を現す。
「——《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》!」
そこにいたのは、幼き少女。
まだ発育しきっていない、初々しく、瑞々しい肢体。
流れるような、桜色の結った髪。
妖精のような、可憐な羽。
そして彼女の陰に潜む、古木の龍。
《プロセ》をただ一人手懐けることのできる神話《ルピナ》。彼女たちは、二人が揃うことで初めて、《プロセルピナ》の名が与えられている。
そして《プロセルピナ》には、あらゆる生に命を吹き込む、萌芽の力が宿っていた。
「《プロセルピナ》のCD6発動! バトルゾーンのクリーチャーを一体、マナゾーンに送るよ! 送るのは——《王龍ショパン》!」
「なに……?」
怪訝そうな表情を見せる男。確かに《プロセルピナ》のCD6は、味方クリーチャーもマナ送りにできる。だが、プレイヤーを攻撃できないとはいえ、ここでわざわざ味方クリーチャーを減らす意味はあるのだろうか。
そんな疑問がよぎるが、意味は大いにある。男がそれに気づくのも、間もなくであった。
「私のマナゾーンにクリーチャーが置かれたから、続けてCD12が発動だよ! マナに置かれた《ショパン》以下のコストのクリーチャーをバトルゾーンへ!」
《ショパン》のコストは8。なので、マナゾーンから出て来るのはコスト8以下のクリーチャー。
「さぁ、出て来て——《黒神龍エンド・オブ・ザ・ワールド》!」
大地から現れたのは、世界を終わらせる無の龍、《エンド・オブ・ザ・ワールド》。
この龍が姿を見せた時、あらゆる自然という資産が破壊しつくされ、なにもかもが終わってしまう寸前の世界になる。
「《エンド・オブ・ザ・ワールド》の能力で、あたしの山札からカードを三枚残して、残りを墓地へ——」
刹那、終焉の世界が訪れる。
このみの山札が、一気に墓地へと送り込まれた——
「——置く代わりに、《ディオニソス》の能力で、すべてマナゾーンへ——」
神々の地(ジ・アース) ディオニソス 自然文明 (6)
クリーチャー:アウトレイジMAX 7000
自分の他のクリーチャーが、どこからでも自分の墓地に置かれる時、墓地に置くかわりにタップしてマナゾーンに置く。
W・ブレイカー
と、思った刹那、死に向かうはずの命がすべて、土へと還っていく。《ディオニソス》の力によって、神々によって支えられた大地へと、戻っていく。
世界を終わらせるために破壊しつくされた資産は、すべて大いなる大地へと、偉大なる自然の中へと還元される——だけでは、終わらない。
「——置かれた時! 《プロセルピナ》の能力発動!」
その力は、萌芽の力。
命の根源たるマナから、新たな命を芽吹かせる、彼女だけに与えられた、神話の力だった。
「CD12! あたしのクリーチャーがマナゾーンに置かれた時、そのクリーチャー以下のコストのクリーチャーを——マナゾーンから呼び出す!」
そして、彼女たちは祈る。
大地に、味方に、祈るように願う。
「お願い、来て——!」
大地が動く。
カタカタと、ピクピクと、生命の鼓動を感じさせながら、小さく鳴動する。
このみの声で、彼らの意志が、彼らを大地から呼び覚まそうとしている。
そして、彼らを目覚めさせる、最後の呼び声は——彼女だった。
『……みんな、私の友達が呼んでるよ』
誘いかけるように、自然体で、彼女は語りかける。
自分の、大切な——仲間に。
呼びかける。
『——起きて』
刹那。
大地が砕け散った。
そして、怒涛の如く、《萌芽神話》の手によって。
彼女に、彼女たちに味方するクリーチャーが——一斉に目覚めた。
「《プロセルピナ》の能力で、《エンド・オブ・ザ・ワールド》が墓地に送る代わりに、《ディオニソス》がマナに置いたクリーチャーはぜんぶ——ぜんぶ! そのままバトルゾーンへ!」
「……!」
男は、声も出ない。
愕然としていて、口をパクパクと動かすだけで、なにも言葉を発せずにいる。墓地へ行くはずの、墓地へ行く代わりにマナゾーンへ行くはずの、山札に眠っていたクリーチャーがすべて、バトルゾーンへと飛び出したのだ。
しばらく神秘的な静寂が辺りを包んだが、輝くような怒号によって、その静寂が打ち破られる。
そしてそれが、戦いが再開する合図だった。
『てめえら! ボサッとすんなよ! 俺に続け!』
『私にもねっ!』
《アポロン》が先陣も切り、その後に《プロセルピナ》が続く。
そして、萌芽の力で目覚めた数多のクリーチャーたちは、彼——彼女らへと、導かれるようについていく。
『行くぞ! お前も、いつまでも呆けてるなよ!』
「っ……ニンジャ・ストライク、《ハヤブサマル》を召喚し、ブロック……!」
《アポロン》の燃える鉄拳が、《ハヤブサマル》のボディを粉々に粉砕し、灰燼と化す。もはや、灰すらも残らない。
「まだだよ! 《リュウセイ・カイザー》の能力であたしのクリーチャーはぜんぶスピードアタッカーになってる! 《ディオニソス》《バトクロス・バトル》で攻撃!」
「く、ぐぅ……!」
男は《ハンゾウ》や《ゼロカゲ》、S・トリガーも用いてこのみの攻撃を防いでいくが、数が多すぎる。
《リュウセイ・カイザー》と《アポロン》の二体によって、このみの陣形は高速化している。たとえ片方を除去しても、もう片方がその速度を維持するため、彼らに失速という言葉はなくなっている。
「っ……S・トリガー《スパイラル・ゲート》! 《リュウセイ・カイザー》をバウンス!」
「でも、まだ《アポロン》の能力が残ってる! 《エンド・オブ・ザ・ワールド》で攻撃!」
いよいよ、男のシールドがなくなる。S・トリガーもなく、まだこのみには大量のクリーチャーの軍勢。
このみと《プロセルピナ》の声を聴き、彼女たちに加勢する、彼女たちに惹かれ、集うクリーチャーたちがいる。
そのクリーチャーの群れから、妖精のような小さな神話が、飛び出す。
『——長老っ!』
《プロセルピナ》だった。
彼女は子供らしい笑顔の代わりに、大きな壁を乗り越えるような、敬愛する偉人を追い越そうとしているかのような、真摯な面持ちで、《ケレス》へと向かう。
対する《ケレス》は、大槌を地面に突き立て、彼女の前に仁王立ちで、待ち構えるように立ち塞がる。
『……《プロセルピナ》。お主の声を、お主が考え、感じ、導き出した答えを——聞こうか』
『みんなと一緒にいたい!』
即座に。
《プロセルピナ》は、答えた。
『私は、みんなが好き。このみーも、ゆーひーも、ひめのんも、シオンもリューも……勿論、アポロンやヴィーナス、アルテミスやネプトゥーヌス、十二神話たちも好き。私は、みんなが大好き』
いつもの朗らかな表情で、しかしいつもとは違う、静かな優しさを持って、彼女は続ける。
『このみーたちと一緒にいたから、私は今の私があるの。一緒にいたいって思える人がたくさんできたの。それはみんなのおかげで、みんながいたからこそ、そう思えるようになった』
そして、彼女は弾けるように、言葉を紡いでいく。
『だから私は、今の私を形作ってくれたみんなと一緒にいたい! 長老がなんで私を求めるのかは知らないけど、私はいつまでも子供じゃない! 長老の言うことでも、聞けないよ。だって、このみーたちは、みんな——』
一瞬の間があった。その瞬く間にも、彼女や——このみの脳裏には、数多くの顔が浮かぶ。
幼馴染の彼、ただ一人の物静かな後輩、恋い焦がれる彼女、夏に出会った寡黙な先輩——とても、多くの人間が、想起される。
そして、それらに対する、彼女たちの思いは、ただ一つだった。
『——みんな、私の大切な仲間だから!』
『……そうか』
《ケレス》はただ一言、どこか得心いったように、呟くだけだった。
大槌を振り上げることもなく、それを地面に突き刺したまま、眼を閉じる。
《プロセルピナ》が《ケレス》の脇をすり抜ける。その間際。
彼女は、彼女たちだけに聞こえる小さな、囁くような声で、彼女に伝えた。
『——わがままでごめん、おかあさん——』
それは一瞬の出来事。
その一瞬が過ぎ去ると、《ケレス》も、ふっと漏らすように呟いた。
『……行け、《ルピナ》よ』
そんな《ケレス》の姿は、我が子の成長を見守る、母親のようであった。
《プロセルピナ》が飛翔する。古木の龍を引き連れ、神話の妖精が可憐に舞う。
勝利という名の春を、告げるために——
「《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》で、ダイレクトアタック——!」