二次創作小説(紙ほか)

デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.64 )
日時: 2013/07/25 18:34
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)

「わわっ、な、なにっ?」
「……っ」
 飛び出した影は、一直線にこのみと汐に向かい、二人を拘束する。
「! このみ! 御舟!」
「動くな、『昇天太陽サンセット』」
 踵を返そうとする夕陽を、深が制す。そして深は、このみと汐を拘束する二人の男に合図し、呼び寄せた。
「流石に高校生ともなれば、これがどういう状況か分かるだろう?」
「……人質。ベタベタだろ、漫画じゃないんだぞ……」
 力なく悪態をつく夕陽。しかし、そんなものは何の意味もない。
「……要求は?」
「話が早いな。子供でも、そういう者には好感が持てる……さっきも言ったが、私が欲しているのはお前たちの『神話カード』だ」
 夕陽は少しだけ躊躇うも、すぐにデッキから《アポロン》のカードを抜き取り、別に持っていた《マルス》も手にした。
 二枚のカードを、せめてもの抵抗と言わんばかりに投げつけるが、深はそれらを難なくキャッチする。
「物分りが良い者にも好感が持てる。しかしこうも容易く『神話カード』が手に入るのであれば、最初から私が出向けば良かったな。最近は多忙だったとはいえ、信者に重要な案件を任せきりというのも良くない」
「信者……?」
 恐らくは先日襲い掛かってきた者たちのことを指しているのだろうが、その表現は妙に思えた。
「ふむ……そう言えば、まだはっきりとは言っていなかったか。『神話カード』を五枚も持てば、我々も“ゲーム”における主要組織の一つとして数えられることだろう、この際だ、組織の名を大々的に堂々と公表するのも悪くない、か」
 もったいぶるように言葉を並べ立てる深。彼は少し息を吸い、間を置いて、宣言する。自らの立場と、組織を。

「私は金守深——【慈愛光神教】の教祖だ」

 言われて、夕陽は思い出した。
「【慈愛光神教】……あの胡散臭い、カルトっぽい新興宗教か」
「酷い言いようだな。まあいいさ。信じる者は救われるが、信じぬ者は救いを求めていないということ、反発するものが存在していても関係ない。それが外部の者ならな」
 言葉の端々で抵抗を試みる夕陽だが、その言葉はすべて受け流されてしまう。まだこのみと汐は人質に取られている、その優位性が、彼の揺るがせない。
「さて、長々とお喋りをするのは非生産的だ、成すべきことを成して、そろそろ行くとしよう。お前たち」
 深が合図すると男たちは、このみと汐のベルトを抜き取った。
「っ、なにを……」
「え、ちょっ……」
 だがそのベルトは、彼女たちの衣服を繋ぎ止めるものではない。ある種の装飾具であり、彼女たちの武器とも言えるものを繋ぐものだ。
 男はそのベルトに引っかかっているもの——即ち、彼女らのデッキケースを掴む。
「デッキが……」
「ちょっと、それあたしの!」
 ほぼ反射的に腕を伸ばす二人。しかし彼女らと男二人では体格が違いすぎる。簡単に突き飛ばされてしまう。
「うぉっ、と。大丈夫か?」
 なんとか二人を抱き留める夕陽。しかし、
「ふむ、《プロセルピナ》はスノーフェアリーか。そして《ヘルメス》は……サイバーロード? デッキはデーモン・コマンドが中心のようだが、まさか『神話カード』を使っていないのか?」
 深は二人のデッキケースから『神話カード』とデッキを抜き取っており、その中身をしげしげと眺めていた。その様子を見ていたら、余計に腹が立つ。
「おい! お前!」
 そして叫ぶが、深はどこ吹く風で、
「なにをそんなに激昂している。我々が行っているのは“ゲーム”だが、戦争だ。戦争で敗北した敵兵は捕虜となる、残った兵器は鹵獲される、弱者は全てを搾取される。抵抗できぬ者からなにを奪ったところで、咎めるルールは存在しない」
「く、うぅ、だからって、人をデッキを……非人道的だろ!」
「そういう非生産的なことを言う子供には好感が持てないな。お前になにを言われようと、私は私の成すべき事を曲げたりはしない。それとも、力ずくで私を止めてみるか?」
 挑発するような深。だが、夕陽に彼を止める力はない。夕陽のデッキにあるカードは、《アポロン》が抜けたせいで一枚足りないのだ。だから、戦うことすらできない。
「……ではな。お前たちの力は、精々有効活用させてもらうとする。行くぞ」
 そして、深は信者の男二人と共に立ち去った。
 後に残ったのは、デッキを失った、三人のデュエリストだけだった。



「くっそ! なんなんだあいつ! マジで腹立つ!」
 深の姿が完全に見えなくなって、夕陽は力の限り、怒りに任せて地面を踏みつける。
「どーどー。ゆーくん、ゆーくん、キャラが大変なことになってるよ?」
「ですが、先輩の言うことも、分からなくもないです。というより、全面的に同意です」
 汐は首肯し続ける。
「『神話カード』を失ったところで、私個人としてはどうでもいいのですが、流石にデッキを奪われたとなれば話が別です。デッキを失うなんてデュエリストとしてあるまじき事態、許せないです」
「だよねー、さっすがのあたしもちょーっとカチンときちゃったよ」
 いつも通り抑揚のない汐と、いつも通り能天気なこのみ。しかしどちらも、その裏には大きな怒りが見て取れた。
「本来ならもう面倒な事態に巻き込まれないで済むと考えていたのですが、こうなってしまえば話が別です」
「そう! 取り返すよ、あたしたちのデッキを!」
「……だよね。僕も、あいつのやり口は気に喰わない。ぶっ飛ばしてやる」
 まだ気性が荒くなっている夕陽。しかしとりあえず、満場一致で今後の方針は決まった。
 【慈愛光神教】教祖、金守深を倒し、奪われたデッキを取り返す。それだけだ。
「あいつはきっと、その宗教団体の総本山にいるはず。となると、直接そこを叩くべき?」
「いいねそれ! 乗り込んでカチコミだぁ!」
 意気込む夕陽とこのみだが、そこに汐が水を差す。
「どうでしょう、相手はそれなりに大きな組織ですし、まだ中高生である私たちが二、三人で行ったところで、さっきの私やこのみ先輩のように、武力行使されてしまえばそれまでです。それに、肝心の拠点がどこにあるかも分からないんですよ。北の大地とか南の島とかにあったら、私たちだけではとても行けないです」
「そっか……そうだよな、確かに」
「そんなぁ、せっかくいい調子だったのに」
 すっかり勢いが削がれてしまった夕陽とこのみ。
「……ですが、あの人が教祖ということは、あの人ひとりをなんとかできれば、それだけで宗教団体が瓦解するかもしれません。取り巻きの二人の様子を見るからに、教祖の命令には絶対、のような感じでしたし」
「うーん、でも肝心の教祖って、普通は信者に守られるんじゃないの? 今まで襲ってきた連中が宗教団体の信者だって言うなら、僕らの状況も分かってるだろうし。それに、もう僕らの面は割れちゃってるしさ」
 威勢が良かったのは最初だけで、よくよく考えればかなり問題は山積みだ。どこから手をつければいいものかと、項垂れる三人。
「……とりあえず、情報を集めようか。どうするにしたって、奴らの拠点がどこにあるのか、突き止めないと」
 ひとまずの結論は、そういうことになった。
 そして三人は、そこで別れる。一刻も早く、少しでも多くの情報を集めなくてはならず、そして三人とも、新たにデッキを組み直さなくてはならないからだ。