二次創作小説(紙ほか)
- デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.71 )
- 日時: 2013/07/26 10:44
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
姫乃から得た情報によると【慈愛光神教】の総本山は隣町の山中にあるという。確かにそんな場所なら、安々と情報が漏れるようなことはなさそうだ。
夕陽は光ヶ丘家を後にすると同時にこのみと汐に電話し、そのまま乗り込むことにした。希望的観測だが、デュエマで強行突破ができればなんとかなるだろう、という作戦も何もない考えだ。
とはいえこのまま手をこまねいていても仕方ない。最初からこの手しかないだろうと薄々思っていたので、ある意味では計算通りだ。
その中に誤算があるとすれば一つだけ。
「……光ヶ丘、君までついて来る必要はないんだよ?」
電車の四人の並ぶ姿、右から汐、このみ、夕陽と——姫乃。
夕陽としては“ゲーム”に関係のない姫乃はあまり巻き込みたくなかったのだが、やや強引に姫乃がついて来たのだ。
「言ったと思うけど、僕らのデュエマは命懸け。シールドを割られるだけで、体がズタボロになる。危険だよ」
何度も引き返すように言ったが姫乃も頑なに、
「ううん、わたしも行く。ちゃんとあの人と話がしたいし、それにこのままじゃいけないって思ってた。空城くんのお陰で、変えるきっかけがつかめたんだ。だから、行く」
と返すのだった。
しばらく電車に揺られ、次の駅で目的地というところで、汐が唐突に口を開く。
「……先輩、今、いくらくらいあるでしょうか?」
「へ? 財布の中身ってこと?」
「はいです」
あまりにも唐突過ぎるので面食らい、疑問符を浮かべながら財布の中を確認する。ちょうど大きな収入が入った後なので、中身はかなり潤っている。
「……福沢諭吉が一人」
「あたしは一文無し! というか財布持ってない!」
金がないなら黙ってろ、と言いたくなった。ちなみにこのみの切符代は夕陽が払っている。
「一万円ですか。ならば二箱は行けそうですね」
「え……あの、御舟? それはどういう……?」
夕陽が恐る恐る尋ねるも、汐は何も言わなかった。そして夕陽がその言葉の意味を理解するのは、駅を降りた後だった。
汐の言い分は、これから敵の本拠地に攻め入るのなら、戦力を増強すべき、ということだった。
この場合の戦力とはつまり、デッキ。デッキを強化しようということだ。
電車でこのみのデッキを見せてもらったのだが、その中身は相も変わらず酷いもので、以前使用していた速攻寄りの進化ビーストフォークデッキ(制作者・汐)を雛形にしているが、マナカーブが悲惨すぎる。
さらにどうせ来てくれたのだから戦力に数える、ということで姫乃のデッキ強化も行うこととなった。姫乃は持っているカードが少し古く、また奪われてしまったデッキに有用なカードをすべて詰め込んでいたようなので、現在のありあわせとも言えるデッキではとても戦えないだろう。
というわけで、夕陽の一万円を犠牲に、汎用性の高い有用なカードが詰まっているエキスパンションを二箱購入し、デッキの改造を行った。
とりあえず形にはなったこのみと姫乃のデッキを軽く動かしてから、四人はいよいよ、敵の本拠地に乗り込む決意をする。
山中にあると言っても、その山自体はそこまで深いわけでも大きいわけでもない。山道もある程度は整備されているため、歩きにくいということもない。とはいえ、山は山なので踏み入るには多少の勇気が必要にはなるが。
「はぁ……僕、来月の終わりまでほぼ無一文で生活しなきゃいけないのか……」
「いつまで言ってんの。使っちゃったものはしょーがないよ」
「お前が言うな! お前が!」
「先輩方、一応は登山なのですから、あまり体力を無駄に消耗しない方が良いと思われるのですが」
「……空城くんたちって、仲良いね」
とかまあ、そんなやり取りの末、十分ほどでその建物に辿り着いた。
「うわ……山の中によくこんなもの建てられたな……」
「すっごー! サグラダ・ファミリアみたい! どんなのか知らないけど」
「外装は綺麗ですね。しかしそれでいて、周りの木々とある程度調和し、同化しているようです。拠点というか、隠れ家のような役割もあるのでしょうか」
そこにあったのは、聖堂だ。教会のような神聖で荘厳な外観を持つ大聖堂。それが、山の中に木々の埋もれるようにして鎮座している。
いつまでも眺めているわけにはいかないので、やがて夕陽が入口まで歩いていき、皆に視線で合図する。
「じゃあ……入るよ」
入口もそれなりに大きく、重厚な木製の扉を押し開ける。すると中は、まんま教会のような造りをしていた。
石畳の中央には赤い絨毯が敷かれ、壁にはキラキラと光るステンドグラス。脇には燭台が均等間隔で並んでおり、奥には白いクロスに覆われた台座がある。
そしてその台座の前に立っているのは、見覚えのある男。
「……まさか本命が真正面から突っ込んで来るとは、子供は単純だな。嫌いではないが」
【慈愛神光教】教祖、金守深。
「今日は一人増えているな……む?」
姫乃に視線を動かす深。だがその視線が、不自然に固定された。そして何かを思い出すような仕草そして、
「……ああ、思い出した。見覚えがあると思えば、光ヶ丘夫妻の娘か、姫乃、と言ったか。久しいな」
「……おひさしぶり、です」
おずおずと言葉を返す姫乃。声はほんの少しだけ震えているが、目つきは彼女らしからぬ、厳しい目で睨むように深を見つめている。
その視線に見つめ返していた深は、やがて目線を夕陽たちに戻し、本題に入る。
「お前たちがここに来た目的は分かる、私が奪った『神話カード』だろう?」
「それは第二の目的ですね。一番の目的は、私たちのデッキを取り返すことです」
意外にも、汐が真っ先に答えた。そして深はその回答に対し、意外だと言うように声をあげる。
「ほう? 唯一無二にして絶対的かつ超越的な力を持つ『神話カード』より、たかだか大量生産されているカードの束を欲するとは、理解しがたい思考だな」
「あなたと私たちでは、考え方が違うのです。少なくとも私は、楽しくデュエマができれば、それで十分なのです」
「そうか……そうだな。確かに私とお前たちとでは考えが違う。同じ考えなら、お前たちはとっくに私の傘下なのだから」
「……?」
深の言葉に、首を傾げる夕陽。意味が分からない、なにを言っているだ、思った。
思ったが、口には出さない。その理由は、夕陽が問う前に、深が言葉を発したからだ。
「いい機会だ、知らないのなら教えてやろう。無知なものを見ていると無性に腹が立つからな、不愉快で好感が持てない」
そう前置きし、深は一枚の『神話カード』と思しきカードを掲げる。見たことないカードだ。
「『神話カード』には、不思議な力が宿っている。カードのテキストに書かれている能力などではなく、カードが命のあるものとしての力だ。たとえば、そうだな……試したところ、《焦土神話 フォートレシーズ・マルス》は、敵前逃亡を許さない力がある。具体的には、逃げる敵を炎で阻む力だ」
「っ、それって……!」
夕陽は思い出す。最初に『神話カード』と戦った時のことを、『炎上孤軍』と戦った時のことを。
あの時、夕陽は逃げようとしたが炎の壁に阻まれた。深の言うことが真実なら、それは《マルス》という『神話カード』の力、ということなのだろう。
「そして私の持つ『神話カード』、《慈愛神話 テンプル・ヴィーナス》にも、そのような超常的な力が備わっている。所有者と他者の思考を同化させるという力がな」
「? しょゆーしゃとたしゃのしこーをどーかさせる? ごめん、全然わかんないんだけど……」
このみがしきりに首を傾げている。このみだけでなく、夕陽も汐もいまいち意味が掴みとれない。
それを察してか、深は補足するように説明する。
「《ヴィーナス》の所有者は、その考えを他人に押し付けることが出来る。私の思考、意思、嗜好、目標、信仰といったものが、他者にも伝播する。私の傍にいる者は全て、私と同じ考えを持つことになるのだ」
まだいまいち要領を得ない夕陽たち。無理やり頭の中で、分かる単語とつなげると、
「つまり……洗脳、みたいなものか……?」
「乱暴に言ってしまえば、そうなるな。だがあくまで考えを同じくするだけだ、本人の思考そのものが消えるわけでもなく、自由もある。ただの洗脳なら、もっと使い勝手が良いのだがな」
そう言って肩を竦める深。それと同時に、姫乃がハッとしたような声をあげる。
「! もしかして、最近、おとうさんやおかあさんが【光神教】に入れ込んでいるのって……」
「察しがいいな、夫妻だけでなく、信者全員が《ヴィーナス》の力を受けている。お陰で操るのが簡単になった」
「……外道だな」
堂々と言い放つ深に、突き刺すような言葉を発する夕陽。だが深はそんなことは気にも留めず、
「そろそろ話を戻そうか。お前たちの目的は、まあ私の蒐集したデッキだとして、運の良いことにそのデッキはまだ原型を留めている。つまりお前たちは、私に勝てばめでたくそのデッキを取り返せるというわけだ」
ご丁寧にも嬉しい情報を開示する深。だがその意図が読めない。
「無論、私とて鹵獲物を安々と渡したりはしないがな。信者の集まりにくい今日に限って襲撃されてしまったために、戦える信者はそこまで多くないが、数人の子供の相手くらいはできるだろう」
と言って、深は手元にある小さな鐘状の鈴を鳴らす。すると、
「っ!」
「わわ、なんか出て来た!」
「戦闘要員、ですか」
室内にいくつもある扉から、何人もの人間が飛び出す。年齢も性別もバラバラだが、全員が手にデッキを持っている。その数は十人弱。
「やっぱこうなるのか。一人一殺じゃ足りないな、これは」
「だいじょーぶ、あたしが速攻で薙ぎ倒すから!」
「なら私はまとめて消し飛ばすですよ。こんあこともあろうかと、三つデッキを持ってきたので」
各々臨戦態勢に入り、場の空気が一変する。そして聖堂内で、クリーチャーによる激しい戦闘が開始された。