二次創作小説(紙ほか)

デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.72 )
日時: 2013/07/26 11:55
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)

「さて、では私は見学させてもらおうか……ん?」
 深は夕陽たちが戦う様子を眺めていたが、視界に入って来た少女の存在により、すぐにそれは中断される。
「…………」
「お前か。どうした、友人が戦っているぞ。それともお前は戦力外通告か?」
 少しおどけたように言う深。だが姫乃は酷く静かな表情と、静かな声で、言葉を紡ぐ。
「違う。あなたが、わたしの相手」
「……本気で言っているのか?」
 深の問いかけに、首肯する姫乃。
「お前のデッキは、光ヶ丘夫妻を通して私が奪い取った。その理由は、お前のデッキが《ヴィーナス》の力を引き出すのに有益だと思ったからだ。ここから導き出される解は二つ」
 二本指を立て、深を続ける。
「一つ、お前の戦力は激減している。流石に四十枚しかカードを持っていないということはないだろうが、ありあわせのカードで作ったデッキなど恐れるに足らず。二つ、私のデッキはお前のカードによって強化されている。私が“ゲーム”の参加者であり、十二枚しかない『神話カード』のうち一枚を持っている状況で今まで生き延びられたのは、なにも拠点を隠していたからだけではない。実力もある。以上のことから、お前の勝ち目は薄い。加えて言うのなら、私たちのデュエマは命を賭した戦い、勝っても負けても傷を負う、そんな戦いだ。私も無闇に手の内を晒したくないのでな、退け」
 静かに、しかし重く告げる深。だが姫乃は、退かない。
「もう現状に甘んじているのだけは嫌だ。せっかく空城くんがきっかけを与えてくれたのに、それをふいにはしたくない。それに」
 ほんの一時間ほど前のことを思い出す。デッキを作っている間に交わした約束。



 ——僕らは他の信者を蹴散らすから、光ヶ丘は教祖を頼むよ

 ——えぇ!? わ、わたしが……? でもそういうのは、もっと強い人の方が……

 ——ならば光ヶ丘さんでもなんら問題はないですよ。あなたは十分です。これだけのカードで、よくここまでプレイングできるものです

 ——そーそー、姫ちゃんならだいじょーぶ! あたしが保証するよ!

 ——で、でも……

 ——いいから、頼むよ。それに君自身も、教祖に言いたいこととかあるんじゃないの?

 ——それは……

 ——なら決まり! ガンバ姫ちゃん!

 ——お願いです、勝ってくださいね

 ——頼んだ、光ヶ丘。僕らのデッキとカード、取り返してきてね

 ——う、うん……がんばる



「わたしは約束したんだ、みんなのデッキとカードを取り返すって。それに——」
 それ以上は何も言わず、姫乃は手首に巻いてあった髪紐を手に取り、ポニーテールに結ぶ。そして、デッキを取り出した。
 それを見て、深は溜息を吐き、
「致し方ない、不本意だが相手になろう。昔はお前が幼かったゆえに加減していたが、これから行うデュエマは命を賭けた戦争だ。本気で行くぞ!」
 次の瞬間、二人の間の緊迫した空気が一変し、両者の目の前には五枚の盾が展開される。
「これが、“ゲーム”のデュエマ……」
 急にプレッシャーがのしかかってきたが、姫乃はその重圧に耐え、カードを引く。



 先攻、姫乃の3ターン目。
「マナをチャージして、《コッコ・ギルピア》を召喚!」
「ほう? デッキが変わっているのは当然だが、ドラゴン主体のデッキか。皮肉だな、過去のお前のデッキは、ドラゴンには滅法強い種族だったからな」
 言いながら、深のターンが来る。
「《墓守の鐘ベルリン》を召喚」
「う、ブロッカー……」
 ブロッカーの出現に、たじろぐ姫乃。
 姫乃のデッキは、二箱分の拡張パックでかなり改善されているが、それでもありあわせ。資産のかかるコントロールデッキなどはとてもじゃないが作れず、光・自然の二色で構築した遅めのビートダウン系のデッキとなっている。それもドラゴンを搭載している、超異色の連ドラ、と言えなくもないかもしれない。
 そのため、ブロッカーを出されて攻撃を止められると、デッキカラーから除去がしにくく、かなり戦いづらくなってしまうのだ。
「わたしのターン……《竜舞の化身》を召喚して、ターン終了……」
「私のターンだ。《双剣の使徒ブレイ》を召喚し、ターンエンド」
 次々と並べられるブロッカー。なかなか攻勢に転じられない姫乃。
「《エコ・アイニー》を召喚、効果でマナチャージ……マナに置いたのがドラゴンだから、もう一枚チャージ。さらに《コッコ・ギルピア》をもう一体召喚」
 攻撃に移れないのなら、移れるまで準備を整える。姫乃のマナはどんどん増え、場にはドラゴンの召喚コストを減らす鳥が二体。
「ふん、だがその色構成ではすぐには動けまい。《光器クシナダ》を召喚」
「またブロッカー……わたしのターン」
 三体ものブロッカーを並べられ、焦りを覚える姫乃。だが彼女は、ドローしたカードを見るなり、目つきを変えた。
「これ! 《緑神龍バルガザルムス》!」


緑神龍バルガザルムス 自然文明 (5)
クリーチャー:アース・ドラゴン 5000
自分のドラゴンが攻撃する時、自分の山札の上から1枚目を表向きにしてもよい。そうした場合、そのカードがドラゴンであれば手札に加え、ドラゴンでなければマナゾーンに置く。


 深のブロッカーを突破できるだけのパワーを持つクリーチャー。さらにアタックトリガーで手札補充かマナチャージができる、強力なドラゴンだ。
 しかし、
「私のターン。《光器パーフェクト・マドンナ》を召喚だ」
「え……?」


光器パーフェクト・マドンナ 光文明 (5)
クリーチャー:メカ・デル・ソル/エイリアン 2500
ブロッカー
このクリーチャーは相手プレイヤーを攻撃できない。
このクリーチャーがバトルゾーンを離れる時、そのパワーが0より大きければ、離れるかわりにとどまる。


 《光器パーフェクト・マドンナ》。パワーがゼロにならない限り場に残り続ける不死身のブロッカー。壁としてはこの上ないほど有用で、また姫乃の攻撃が通りにくくなってしまったが、彼女の驚きの理由はそこではない。
「それは、わたしのカード……」
「分かるのか? そうだ、お前から取り上げたカードの一枚だ。有効活用させてもらっている」
 ターンエンドだ、と言って、手番を終える深。
 そうだ、なにも奪われたのは夕陽たちだけではない。姫乃自身も、この男に多くのものを奪われている。
 改めてそのことを自覚した姫乃は、次のカードをドローする。



「《アサイラム》でW・ブレイク! そして、《エンドラ・パッピー》でとどめだ!」
 一人目の信者を倒した夕陽。信者はダイレクトアタックの衝撃で吹っ飛ばされ、地面に頭を打ち付けて気絶した。
「《無頼勇騎タイガ》二体でシールドブレイク! 《番傘の牡丹》でとどめだぁー!」
 同時に、このみも一人倒したようだ。汐は三人同時に相手をしているため、まだ終わっていない。
 夕陽はふと祭壇のように高くなっている聖堂の奥を見遣る。そこでは、姫乃が戦っている。
「姫ちゃんのこと、気になる?」
 次の相手との戦いが開始され、シールドを展開している途中で、このみの声がかかる。
「そりゃまあ、今になってちょっと後悔してる。無理やり言いくるめるみたいにあいつと戦わせたこととか」
「うーん、あたしはだいじょうぶだと思うけど? 姫ちゃんはか弱い女の子だけど、あたしよりずっとしっかり者だから」
「お前よりずぼらな奴を探す方が難しいっての……でもま、必要なことでは、あるんだろうな——」
 ——姫乃と、深の戦いは。
「……考えても、もうどうしようもないか」
「そだよ。今はあたしたちがやるべきことをやんなきゃ」
「お前にそういうこと言われると物凄く腹立つんだが、とりあえず、もっと腹立つ奴の手下を蹴散らすところから始めるか」
 そう言って、夕陽はデッキに手を乗せ、ゆっくりとカードを引いた。