二次創作小説(紙ほか)

デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.75 )
日時: 2013/07/29 03:11
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)

 光ヶ丘姫乃の場には《緑神龍ジオグラバニス》と《緑神龍グレガリゴン》が一体ずつ。シールドは五枚。
 一見すればそこまで悪い状況ではないが、しかしデュエマは片方のプレイヤーを見ることより、相手と比較することが重要なのだ。
 相手——金守深はシールドが三枚。だが場には、二体の《光器パーフェクト・マドンナ》に《雷鳴の守護者ミスト・リエス》《邪脚護聖ブレイガー》《魔光王機デ・バウラ伯》《墓守の鐘ベルリン》《破滅の女神ジャンヌ・ダルク》そして——『神話カード』、《慈愛神話 テンプル・ヴィーナス》。
 圧倒的なまでのフィールドアドバンテージの差、そして《ミスト・リエス》の存在から手札の枚数すらも大きく突き放されている。姫乃が勝っているのは、なけなしのシールド枚数と、マナぐらいだ。
 そして、姫乃が死刑宣告を受け、訪れた深のターン。ここが、処刑の時間だ。
「呪文《ヘブンズ・ゲート》で《魔光王機械デ・バウラ伯》と《天国の女帝 テレジア》を召喚。《デ・バウラ》の効果で《ヘブンズ・ゲート》を再び回収」
 さらなるブロッカーが立ち並ぶ。しかも《テレジア》はターンの初めに光のブロッカーを場に出す能力があり、《ミスト・リエス》もいるので手札は枯渇しない。仮にこのターンや次のターンを生き延びても、深のブロッカーはどんどん増え続ける。
「そして、これで終わりだ——崇めよ、神格化されし太陽。照りつける陽光と輝く祈り、あらゆる闇を浄化せよ! 召喚、《光器アマテラス・セラフィナ》!」


光器アマテラス・セラフィナ 光文明 (7)
クリーチャー:メカ・デル・ソル 7000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の山札を見る。その中から、コストの合計が4以下になるよう、好きな数の光または闇の呪文を選び、自分の墓地に置いてもよい。その後、山札をシャッフルする。選んだ呪文を、コストを支払わずに唱える。
W・ブレイカー


「《アマテラス・セラフィナ》……!」
 分かる、先ほどの《テレジア》もそうだったが、これも姫乃のかつての仲間。そして、かつてその力を顕現させていたがゆえに、姫乃には深の次の一手が読める。
「《アマテラス・セラフィナ》の効果で、デッキから呪文を唱える。さあ、堅牢なる光の壁たちよ、その身を研ぎ澄まし、目覚めよ! 《ダイヤモンド・ソード》!」
 《ダイヤモンド・ソード》、ブロッカー特有の攻撃不可能力をや召喚酔いを打ち消し、あらゆるクリーチャーの攻撃を1ターンのみ可能とさせる呪文。
 そして言うまでもないが、深の場には大量のクリーチャーが並んでいる。そのほとんどはブロッカーか、召喚酔いのあるクリーチャーだ。しかしその縛りも、このターン内では無意味。
「終わりにするぞ、姫乃。寄せ集めのデッキでよくここでま戦った、そのプレイングには好感が持てる。だが、これまでだ」
 言われるまでもない、十体ものいるクリーチャー軍団を止めることなど、姫乃にはできない。タップ系の呪文は《ヴィーナス》の効果で無力となり、除去系のカードを使うにしても、深のクリーチャーを一体や二体減らしたところで戦況に大きな変動はないだろう。
「……行け、お前たち。《パーフェクト・マドンナ》でシールドをブレイク!」
 《パーフェクト・マドンナ》の放つ熱戦が、姫乃のシールドを破壊する。その余波が飛散し、姫乃はシールドの破片を被った上から傷口を焼くかのような熱風に晒された。
「っ、あ、くぅ……!」
「《テレジア》! W・ブレイク!」
 次は《テレジア》。紫色の光弾が無数に放たれ、一気に二枚のシールドが粉砕される。同時に残る光弾が、姫乃の小さな体躯を掠めた。
「っ、う……!」
「《アマテラス・セラフィナ》、W・ブレイクだ!」
 最後は《アマテラス・セラフィナ》。容赦を知らない彼女は、最高出力の砲撃を行うべく、力を最大限に凝縮し、濃縮する。その様子を眺めている深の表情は、勝利を確信し、無意識的に緩んでいた。
 一方、姫乃は二度の攻撃で意識が朦朧としかけている。劣悪な生活環境もあってあまり体が丈夫でない姫乃は、三枚のシールドを失うだけでもうボロボロだった。
(ダメ、だったのかな……やっぱりわたしじゃ、この人には勝てないのか……)
 ふらつく足を辛うじて立たせ、不明瞭になりつつある眼で前を見つめる。そこにあるのは、今正に砲撃を行おうとしている《アマテラス・セラフィナ》と勝利を確信した教祖。
(なんか、いろいろ言ってた気がするけど、やっぱり意地の悪い人だよ……最後の最後で、わたしのカードでシールドを割るなんて……ちょっと小物っぽいところは、全然変わんないな……)
 姫乃は力なく、乾いた笑みを浮かべる。酷く自嘲的で、自虐的な笑みだ。
(……笑ってる場合じゃないや。どうしよう……じゃなくて、ごめんね、空城くん……負けちゃった。もう、逆転なんて無理だよ……)
 そもそも、姫乃には深の攻撃を止める術がない。初撃で来たS・トリガー《DNA・スパーク》でも、次の攻撃で来た《ナチュラル・トラップ》でも、深の攻撃は止められない。
(やっぱりわたしじゃ、ダメだよね……ブランクもあるし、デッキだってありあわせ……勝てるはず、ないよ)
 それに、
(あの人に勝てたことなんて、一度もない……いつも負けてた。それでも楽しかったな……)
 次々と胸の内で言葉が溢れてくるが、気付けば姫乃は既に攻撃を受けていた。
 《アマテラス・セラフィナ》の二本の光線が、姫乃の最後のシールドを貫く。
(最後は《ヴィーナス》で来るのかな……なんでもいいか。どっちみち、わたしは負け、もう終わりなんだから、なにでとどめを刺されても、関係ない——)
 と、ゆっくりと瞼を下ろす姫乃。最後に見たのは、こちらに手をかざしている《ヴィーナス》の姿——

「光ヶ丘!」

 ——ではない。
「っ!?」
 一瞬のうちに覚醒する姫乃。反射的に、音源を辿る。
 その先にいたのは、まだ信者の誰かと戦っている、一人の少年だ。
「ここまで来といて諦めるなよ! 諦めなかったから、お前は今、ここにいるんだろ!? それに、なんのためにあの“カード”を入れたと思ってるんだ! 諦めずに、デッキを信じて戦うからじゃなかったのか!?」
 一気に、捲し立てるように言葉を乱打する少年。彼は軽く酸素不足で息も絶え絶えにしていた。
「……なにを今更。デュエマはそんな根性論でなんとかなるものではない、好感が持てん言い分だ。どの道お前の負けだ、姫乃」
 だが深のその言葉は、姫乃には届いていない。姫乃の視界広がっているのは、ほんの一時間前のことだった——



 姫乃のデッキをある程度実戦に耐えうるものにするための改造を施すにあたって、まずはデッキカラーを決めることにした。
 そしてそれはすぐに決まる。姫乃の所持カードには光と自然に有用なものが比較的多くあったので、その色を中心に組むという方針で固まっていた。
 汐や夕陽のアドバイスを元に、基本戦術とマナカーブを考慮しながら、メインとなる戦術を支柱にした構築を行う姫乃だったが、最後に一枚だけ、デッキスペースが余った。
 最後の一枚を選ぶ時が、デッキビルティングでの悩みどころなのだが、しかし姫乃はその一枚をあっさりと決めた。というより、最初から決めていたかのような手つきだった。
「ん? それ、入れるの?」
「うん。色も合うし、このデッキは守りが薄いから、ピッタリだと思うの」
「いやまあ、そうかもしれないけど……使いにくくない、それ?」
「そうだね。確かにちょっと使いどころは選ぶけど……でも、これはいつもわたしを守ってくれた、大切なカードだから」
「大切な?」
「そう、大切なカード。わたしが最初に手に入れたカードなんだ。色が合わなくても、このカードは絶対に入れてた。おとうさんたちにデッキを取られちゃった時も、このカードだけはすぐに抜き取ったんだ」
「……そっか。思い入れが強いカードなんだね。そこまで言うんなら止めないよ。もしもの時、そのカードが来るといいね」
「……うん!」