二次創作小説(紙ほか)

デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.77 )
日時: 2013/07/30 06:57
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)

 【慈愛光神教】が拠点とする聖堂は、見た目以上に広い。中で一人二人の人間が暴れたところで、そうと知らない限りなかなか分からない。
 それが何を意味するかというと、たとえば夕陽たちが真正面から聖堂に突っ込んでいった。それとは逆に、聖堂の裏手から忍び込む者がいても、夕陽たちがその存在に気付くことはないだろう、ということだ。
 さらにもう一歩進めると、仮に聖堂に裏から侵入した者が戦闘要員の信者を倒せば、それだけ真正面から突入する者の負担が減る、ということにもなる。
「《死神術士デスマーチ》でダイレクトアタック」
 それはさておき、信者の一人と思われる男が吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。同時に頭も打って気絶した。
「……終わったか」
 そこは礼拝堂ではなく、聖堂内の長い廊下だった。床には何人もの信者が転がっている。
 そんな者たちには見向きもせず、若い風貌の男が呟いた。前髪が長く顔は伺えないが、どこか陰気な雰囲気のある男だ。
 男の呟きの意味は二重にあった。一つは、男自身の状況。周りを見渡しても、立っているのは男一人。新たな信者が出て来る気配もない。
 もう一つは、礼拝堂で行われていたであろう、大規模な戦い。大規模と言っても、デュエマなのだから二人で行うものだが、しかし強大な気配は感じられない。つまり、そこでの戦いは終わった、ということだ。
 その二つの事柄を認識し、男はポケットの中にある物体が震えていることに気付く。その物体——携帯電話をを手に取ると、普通に耳に当てる。そこから聞こえてくるのは、聞き慣れた女の声。
『やほー、もうフィニッシュした?』
 見透かしたような発言。相手はもう女性と呼べる年齢に達しているのだが、若干舌足らずな幼げのある声と朗らかな口調のミスマッチに顔をしかめる。
「……ええ、まあ。今さっき終わったとこです」
『さっすが、グレイトな手腕だね! だったらもうリターンしてもいいよ』
「元よりそのつもりです」
 真面目に取り合うのも面倒なので、適当に返す。すると、ケタケタと笑う声が聞こえてきた。
『クールだねぇ、相変わらず。一応確認だけど、『昇天太陽サンセット』君たちはウィナーなんだよね?』
「そのはずですよ……そうだ、一つ聞いてもいいですか?」
『ん? へー、珍しいね、君のクエスチョンなんて。いいよいいよ、ホワット?』
「俺がわざわざこんな雑魚共を狩りに来る必要、あったんですか?」
 自分の仕事にケチをつけるつもりはないが、しかし理由ははっきりさせたかった。今回の仕事は急に言いつけられたため今まで聞く余裕がなかったが、向こうからかけて来たのだからついでに聞くのも良いだろう。
『必要はあるよ、ありまくりだよ、ベリーニード! ほら、私って宗教とかドントライクだから!』
「……本気ですか?」
『いや? 嘘だよ? ジョークだよ?』
 サラッと言う彼女。この辺の適当に腹立つが、いちいち気にしていたら身が持たないのでスルー。
『本当のところは、観察対象を分散させるため。私たちからしたら、『神話カード』はいろんな人にばらけて持ってもらった方が効率がグッドだからね。それに観察者である君の負担も減るし』
「あなたが俺の負担を真面目に考えているとは思えないですけど。まあ、概ね同意です」
『それにあのカルト宗教、情報がサーチしづらいんだよね。表社会と裏社会の狭間にいるっていうか、いろいろ悪いことやってるくせにそれがフロートしないんだ。そーいうのは邪魔、いらない子』
「理屈としては、分からなくもないですね」
 自分にとって都合の良い相手と都合の悪い相手、味方をするならどちらか。そんなのは誰に聞いたって同じ答えを返すだろう。つまりはそういうことだった。
『ま、なんにせよリーダーである『崇拝教団レリジン』がやられちゃったら、カルトもジ・エンドでしょ。《ヴィーナス》は……えっと、光ヶ丘姫乃ちゃん? だっけ? のハンドに渡って、そのガールもこれからの“ゲーム”に巻き込まれる、と』
 何もおかしなことはない、自分たちの界隈ではよくある話だ。ただ、高校生がそのような事態になるは、少々珍しいが。
『それじゃそろそろ通話もフィニッシュ! ……の前に、二個ほど』
「一個ではなのですか」
『うん、二個。まず一個目』
 声のトーンを変えずに、彼女は言った。
『【帝国師団】の連中、動きがスタートしたっぽい。まだ前段階だけど』
「【神聖帝国師団】……また厄介な奴らですね、予想はしていましたが……で、二つ目は?」
『こっちも動きをスタートしだす。つっても【師団】に対してじゃなくて、『昇天太陽サンセット』、空城夕陽君らに対して、だけどね』
 またも、声のトーンを変えずに言った。
 しばしの沈黙。やがて、電話の奥の彼女が最後の言葉を発する。
『では、引き続き頑張ってくれたまえ“『傀儡劇団ティアリカル』“君』
「了解です……“所長”」
 そして、通話は切れた。