二次創作小説(紙ほか)
- デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.78 )
- 日時: 2013/08/04 08:19
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
教祖、金守深を倒し、夕陽たちはめでたくデッキと『神話カード』を取り返すことに成功した。
……と、それだけで終わらないのが、現実だ。
とはいえ、その代償にまた何かを失ったと言えば、そういうわけではない。ただ、まだすべてが解決していないということだ。
まずは教祖、金守深の処遇。彼は姫乃に敗北した後、警察に捕まったらしい。夕陽たちが山を下りた直後に駆け付けたようだが、誰が通報したのだろうか。甚だ疑問である。
ちなみに逮捕された際の罪状は、窃盗、傷害、詐欺、そのた軽犯罪多数とのこと。どうも『神話カード』を探すにあたって、いろいろと悪さもしていたようだ。
そして教祖が逮捕されたと同時に、【慈愛光神教】は事実上の解体。信者たちも散り散りになっていった。《ヴィーナス》の信仰心をより強めていた力も消え、根っからの信者がほとんどいなくなったのも大きな要因だろう。
とまあ、そんなことがあった後日、夕陽たちは、いつものように『御舟屋』に来ていた。ただし今日は、いつもより一人増えている。
「——で、気になってたんだけど、光ヶ丘とあの教祖って、その……どういう関係なの?」
増えているのは、言わずもがな、光ヶ丘姫乃。半ば無理やりこのみが引っ張ってきたのだが、本人もまんざらではないようだ。
今日は、先日の清算というか、気になっていたことを解消するための日だった。
「うーん、どんな関係って言われても、なかなか答えられないんだけど……師弟関係、みたいな感じだったかな? 少なくとも、小さい頃のわたしはあの人に憧れてたし、あの人みたいになりたいって思ってた。向こうがわたしのことをどう見てたのかは知らないけど」
夕陽は思い返す、最後に教祖が放っていた言葉。声を荒げ、支離滅裂で正直その言葉の意味はよく分からなかったが。
ただ、後から知ったことだが、金守深は精神的な疾病があったらしい。どういうものか、詳細は分からないが、精神的な障害があり、人と考え方がずれているところもあったようだ。
そんな人物だからこそ、宗教団体の教祖となり得、『神話カード』の力に魅せられたのかもしれないが。
なんにせよ、それは誰にも分からないことだ。これ以上の追及は無意味だろう。だから次は、よりリアルで突っ込みにくいことだが、しかし聞いておかなければならないことを尋ねる。
「じゃあ、その……光ヶ丘の家は、どうなったの……?」
「まだちょっとぎくしゃくしてるとこはあるけど、わたしがお説教して分からせたよ」
しどろもどろになる夕陽と対照的に、姫乃は即答した。しかも胸を張っている。姫乃の説教に如何ほどの説得力があるのかは知らないが、しかし胸を張るほどの成果が得られたのか疑問ではある。
「ただ、おとうさんやおかあさんは、あの宗教団体で情報収集? みたいな仕事をしてたみたいで、わたしの家の収入は全部それだったんだよね……」
「え……ってことは、光ヶ丘の家って、今……」
収入がない家庭がどうなるのか、経験したことのない夕陽には分からないが、想像することは難しくなかった。
しかし、姫乃は首を横に振る。
「日本は生活保護の制度とかがあるから、今は大丈夫。おとうさんもすぐに仕事が見つかりそうって言ってたし。でも……」
「でも?」
そこで、姫乃は少し悲しげな、憂いのある表情を見せる。
「最悪、本当に最悪の場合、授業料が払えなくなって、学校をやめることになるかもしれないんだって」
「えぇ!? それはダメ、絶対!」
真っ先に反応したのはこのみ。だが、高校は義務教育ではないため、そのような事情があるのなら仕方ないとも言える。
だがそれでも、夕陽とて姫乃に学校をやめてほしいわけではない。
「つまり、生活費を稼ぐのに精一杯だから、授業料まで払えない、ってことだよね……」
「うん。でも、本当に最悪の場合で、今はまだそういう心配はないよ」
口ではそう言うが、その辺は姫乃の両親もぼかしているのだろう。いまいちはっきりしない物言いだ。
金銭の問題では夕陽たちもそう安々と手が出せない。かと言って姫乃に自主退学をしてほしくもない。どうすることもできず、その場の全員が沈んでいると、ふと汐が口を開いた。
「……ならば、光ヶ丘さんの父親の収入の他にも、生活費の足しになるような収入があれば、その可能性は回避できるかもしれない、ということですね」
「それは、そうか……」
とはいえ、姫乃はまだ高校生だ。できてアルバイトが精々だが、このご時世ではそう簡単にバイト先は見つからない。体が弱い姫乃となればなおさらだ。
しかし、
「だったらあたしに名案があるよ! タイミングもバッチリだ!」
そこで、このみが目を輝かせて勢いよく立ち上がる。もっと大人しくしてろと言いたいが、とりあえず話は聞く。
「名案ってなに?」
「バイトだよ、バイト! アルバイト!」
「そこからかよ……勤め先はどうするんだ、この辺じゃあ求人募集してるとこはあんまりない——」
「うちに来ればいいじゃん」
あっさりとのたまうこのみ。だがその一言で、姫乃以外の全員が納得した。
「ちょうどこの前一人やめちゃったし、新しい子を補充しなきゃっておねーちゃん言ってた。姫ちゃんなら可愛いし、絶対採用だよ!」
「補充て……でもまあ、そうか、その手があったな」
「身内贔屓のようで心苦しいかもしれないですが、実利を求めるのなら有益になる点が多いですね」
どんどん進んでいく話に、姫乃一人だけが取り残される。
「え? え? 春永さんの家って、一体……?」
「喫茶店だよ、『popple』っていう。うちの学校の子もけっこー来てるんだ」
「あそこなら店長も気が利いてるし、大事になることはないと思うよ。ただ、あそこの制服を着る勇気があればの話だけど」
「だいじょーぶだよ! 特注品はあたしのだけだから!」
「いや、そんな話はしてない……ただあのデザインはどうなんだと個人的に疑問を覚えるんだが……」
と、こんな感じで。
なし崩し的に姫乃のバイト先が決まってしまったその時、店の奥の扉から一人の男が現れる。
「お? なんだお前ら、来てたのか」
それは澪だった。両腕に段ボール箱を抱え、適当に床に積み上げている。
「ただいまです、兄さん」
「やっほー、澪にーさん」
「お、おじゃましてます……」
「おう……んん? 今日はなんか一人多いな」
そこで初めて姫乃の存在に気付いたらしい澪は、真っ先に夕陽のところに向かう。
「なんだ主人公、また女が一人増えたのか」
「嫌な言い方しないでください! 友達ですよ!」
澪の発言に猛反発する夕陽。当然の反応ではあるが。
「そういやさっき、バイトがどうのこうの聞こえてきたが、それで一つ思い出した」
唐突に話題が変わる。というか、澪はさっきまでの会話を聞いていたようだ。「来てたのか」などとよくも白々しいことを言えたものである。
「お前らもうすぐ夏休みだよな。実は俺の昔のダチから連絡があってな、海の家でバイトしないかって誘いが来てんだ」
「海の家でバイト? また急ですね。っていうかここ内陸県ですよ?」
「ああ、だから隣の県だな……で、どうせお前ら暇だろうし、俺の代わりに行ってこい」
「命令形ですね……ですが兄さん、わざわざ私たちを頼らなくても、普通に求人募集すればいいのでは?」
「それで集まらないから、こうして頼んでんだろ。毎年バイトを雇ってるらしいが、今年は集まりが悪いらしくてな。とりあえず夏休みの数日間だけでいいから来てほしいそうだ。ま、お前らには適任の仕事内容らしいしな?」
「なんか怪しいな……」
常時ポーカーフェイスの澪は、何を考えているのか表情からは読み取れない。
正直に言えば、夕陽としてはこんなわけの分からない怪しげな誘いに乗せられたくはない。澪には世話になっていることも多少なりともあるが、逆に乗せられたことも何度かある。迂闊に信用はできない。ふと隣を見遣れば、汐も同じことを思っているようだった。
しかし、世の中は多数決がものをいう社会。そしてこの場には、不幸なことに奇数で数えられるだけの人間がいる。
「いいね海! 行きたい行きたい! 澪にーさん、海に連れっててくれるの!?」
「海かぁ、幼稚園の頃に一回だけ行ったっけ……懐かしいなぁ」
超乗り気が一名、やや乗り気が一名、乗せる気が一名と、二対三で夏の海のアルバイトは可決された。
「結局こうなるのか……」
「仕方ないですね、S・トリガーを踏んだと思って諦めるしかないです」
嘆息する夕陽と汐。このみは姫乃の手を掴んではしゃいでいる。
今この時から、その光景が彼らの日常になったのは、言うまでもないことだ——