二次創作小説(紙ほか)

デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.79 )
日時: 2013/08/05 04:27
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)

 六月の下旬から七月の上旬にかけて、一般的な高校ならば期末考査なるイベントが発生することだろう。それは無論、雀宮高校も例外ではなく、多くの生徒がその結果に一喜一憂していたのだった——
「……なにが一喜一憂なのさ、喜ぶ要素なんてなにもないよ、憂いしかないよぅ……うぅ……」
「おぉ、珍しくこのみが難しい言葉使ってるな。このみにしては」
「あ、あはは……」
 テストの答案用紙がすべて返却された次の休み時間。一年四組の教室の一角では、いつものように夕陽とこのみによる陶犬瓦鶏なトークが繰り広げられているのだが、ここ最近はその不可侵領域に一人の女子生徒が加わった。
 言わずもがな、光ヶ丘姫乃である。
「ま、お前の気持ちも分からなくもない。僕も今回は、かなり悪かったし……」
「それでも赤点ないじゃんかぁ。ゆーくんには自分の点数とあたしの点数を足して二で割るくらいの甲斐性はないのっ?」
「どんな甲斐性だ。つーかお前の点数と二分することは、自分の点数をほぼ半分にすることと同義だぞ。せめてもう少し普段の授業をちゃんと聞いてろよ」
「ううぅ……だってぇ、先週はあんなこととかあったし……」
 そんなこのみの一言に、姫乃の顔がほんの少しだけ暗くなる。
「ご、ごめん……」
「あっ、いやっ、姫ちゃんのせいじゃないよっ?」
「そうだな。なにも勉強してないこのみが悪い」
 先週、夕陽らと姫乃がこうして親しくするきっかけとなった出来事があった。
 端的に言えば、宗教団体と戦った。そしてその戦いに助力してくれたのが姫乃である。
 本来はもっと細かい点、微に入り細にわたり、詳細部分があるのだが、それは割愛し、ざっくりと大きく言ってしまうとそんな感じである。
 そんなことがあり、夕陽もこのみもテスト勉強をほとんどできず、その結果がテストの点数に克明に表れたというわけである。それを姫乃は、少なからず責任を感じているようだ。
「それより、姫ちゃんはどうだったの?」
「そう言えば聞いてないね。こいつはまさかの5欠を果たしたわけだけど、光ヶ丘はどうだった?」
「あ、えっと……」
 何気なく尋ねる二人だが、姫乃は逆に、しどろもどろになっていた。その様子を見てこのみが身を乗り出し、
「なになに? 悪かったの? 赤点あったの?」
「嬉しそうに言うな。いくら悪くても平均点数から既に赤点のお前以下ってことはまずないからな」
「……えぇっと」
 まだどこか焦ったような風の姫乃。その挙動はどこか申し訳なさのようなものが感じ取れる。
 しばらく言いあぐんでいた姫乃は、やがて諦めたように鞄からテストの答案を取り出し、
「……え、嘘!? 現代文が89点!? なにこれ! あたしなんて20点だよ!?」
「現代社会90、英語93、化学が96、数学に至っては99って。しかも微妙なケアレスミスだ……なにこの点?」
 その他の教科も80後半から90点台ばかり。実技科目も落としていない。
「あ、ははは……えっと、ごめんなさい……」
 項垂れる姫乃。確かにここまで高得点だったら、散々な結果の夕陽と(特に)このみには見せづらかっただろう。
「姫ちゃんすごいね、こんなに頭よかったんだ……びっくり」
「僕も驚いた。こんなに勉強できるなら、雀宮なんて基準偏差値ギリギリの高校より、もっと上を目指せたんじゃないのか?」
「う、うん、でも……ほら、わたしの家、お金とかないし、通学とかもここが便利だから……」
 言われて、姫乃の家庭事情を思い出す夕陽。失言だったと口を塞ぐが、
「あー、そっか、そうだよね。うん、家から近いって重要だよね。うんうん」
「お前、僕と同じ高校行くって言って、誰が勉強の面倒見てやったと思ってるんだ。しかも結局、偏差値が上がらなかったお前に合わせて志望校のランクを下げたのはどこの誰だと思ってるんだ」
 今でも密かに根に持っている夕陽。当のこのみは聞かぬ存ぜぬと言わんばかりに姫乃の答案をしげしげと眺めている。
「でもほんと、すっごい点数。保健とか家庭科とかもあたしより高いや……」
「まあ確かに、正直なこと言うと光ヶ丘がこんなに勉強できる奴だとは思わなかったな……ていうかこの点数、ざっと見た感じだと平均点数90以上あるぞ。それって学年トップじゃないか?」
「いや、それはないよ」
 はっきりと、そしてきっぱりと、このみが否定する。
 彼女のしては珍しく確定的な否定で、そうでなくとも夕陽の言うことはおかしなことでもない。筆記試験だけで成績が決まるわけではないが、姫乃ほどの点数を取っていれば学年でトップの成績であるかもしれないと思っても不思議はない。
 なので夕陽は困惑した。便乗してくると思ったので、その戸惑いはかなり大きかった。
「それはないって……なんでそう言い切れるんだよ?」
「だって、学年の一位はクロさんだもん」
 そう言ってこのみは視線を逸らす。その先には、休み時間にも関わらずどのグループの輪にも入らずに、寡黙に椅子に座り続けている一人の女子生徒の姿があった。
「クロさん? 霊崎のことか?」
 霊崎クロ。その名前と容姿は、一目見ただけで夕陽もすぐに記憶したほどだ。
 長い銀髪、深紅の瞳、それとモデル染みた細身でスレンダーな体型。どこを取っても純正な日本人とは思えない容貌をしている。というか、絶対に異国の血が混じっていると夕陽は思っている。
 そんな目立つ容姿をしているものだから、逆ベクトルで目立つこのみと、最初はクラスの人気を二分していた。しかしこのみと正反対なのはなにも体型だけではなく、社交的でフレンドリーなこのみに対し寡黙で無口なクロと、性格面でも正反対。この場合、高校生ならどちらに近付くか、答えは小学生でも分かる。最終的には気さくなこのみがクラスの人気を獲得した。
 逆にクロはクラスで孤立している。その振る舞いからすればむしろ孤高というべきかもしれないが。
「で、なんで霊崎がトップだって断定でき……ってああ、どっかから聞いてきたのか。お前のことだし」
 と疑問を投げかけようとして一人納得する夕陽。しかしこのみはぶんぶんと大仰に手を横に振って否定する。
「いやいや。だってクロさん、中間テストも学年トップだったんだよ」
「いやいや、はこっちの台詞だ。それだけじゃなんの証明にもならないだろ。中間が良くても、期末で点を落とす奴はいくらでもいる。僕だってそうだ」
「だからそうじゃなくって、クロさんは中学校でも三年間成績一番だったんだって。で、その学校が……えーっと、鷺谷中学だったはず」
 鷺谷中学、その名前に、驚愕とまでは行かないまでも、明確な驚きを覚える夕陽と姫乃。
「鷺谷って、市内じゃ相当頭良い中学だったよな、ここからじゃ少し遠いけど。んで、そこで三年間トップを維持してたと」
「すごいね、霊崎さん。わたしも頑張らないと」
「いや、光ヶ丘はせめて今の状態をキープしておいてくれ……僕らの精神のために」
 ともあれ、その話が本当なら姫乃を押し退けてトップだと言ってもなんらおかしくはないだろう。全教科オール100点などという幻想も、もしかしたら実在するのかもしれない可能性を感じ、戦慄を覚える夕陽だった。
「ちなみにこのみ、ソースは?」
「同じ出身中学の子から聞いた。三年間一緒のクラスだったんだって」
 噂とかではないようだ。となれば信憑性はそれなりだろう。
「そにれにしても、世の中にはいるんだな、そういう奴も」
「中学から今までずっとデュエマやってたゆーくんには縁のないことだね」
「お前が言うな、お前が。言っとくけど、成績不振者は明日補習だからな。お前は確実に引っかかる」
「えぇ!? 聞いてないよ、そんなの! ギリギリセーフにならない?」
「それだとちょっと、難しいんじゃないかな……?」
 そんなこんなで、三人の休み時間は終了した。そして言わずもがな、五科目も赤点を取っているこのみは翌日、補習に駆り出されることとなった。