二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.9 )
- 日時: 2013/06/30 12:59
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
- プロフ: http://dm.takaratomy.co.jp/card/search/
空城夕陽と『炎上孤軍』と名乗る女とのデュエル。
最初は地べたにカードを置いてデュエルをするのかと思った夕陽だが、どこから運んだのか、いつの間に置いてあったのか、夕陽と女の間にはちょうどデュエル・マスターズで対戦できるだけのスペースがある透明な台があった。
先攻は夕陽だったのだが、運の悪いことに2マナで使えるカードが初期手札になく、その後のドローでも引けなかったため、マナゾーンにカードが2枚あるだけの状態で女へとターンが回る。
「あたしのターンだな……さて、それじゃあ何も知らないお前に、この勝負の本質を見せてやろうか」
「……?」
女の言うことが理解できず、首を傾げる夕陽。その言葉の意味はその後もはっきりはしなかったが、しかしこの勝負はとんでもないものだと知るには十分な現象が起きた。
女はマナゾーンのカードを二枚タップする。
「召喚だ。《爆裂B—BOY》!」
女が召喚したのは、火文明の進化クリーチャーの召喚コストを1下げるクリーチャー、《爆裂B—BOY》。そのクリーチャーの存在で、女のデッキは進化を絡めたビートダウン系のデッキなのだろうと夕陽は予想を立てた。
次の瞬間、その予想が吹き飛んだ。
《爆裂B—BOY》が、虚空に現れたのだ。
「な……はぁ!?」
流石にこれは驚く。夕陽は茫然と、浮遊する《爆裂B—BOY》を見上げた。
デュエル・マスターズは人気商品だ。そのため、アニメや漫画も存在する。そのアニメや漫画では、視覚的な演出のため、クリーチャーが実体化して描かれていることが多いのだが——これは、完全に実体化している。
発せられる気配で分かった。もしくはその場の空気感で理解した。目の前にいるクリーチャーは、本物だ。
「こういうことだ。今この空間は、擬似的なデュエル・マスターズの世界のようなものとなっている。クリーチャーは本来の肉付けされた姿で現れ、そのクリーチャーを使役する者へのダメージも存在する。あつぃはこれでターンエンドだ」
「っ……僕のターン!」
まだ頭は混乱している。クリーチャーが実体化するという事態に頭が追いついてこない。非常識すぎる展開に脳の演算能力が限界を迎えている。それでも夕陽がこの勝負を続けていられる理由は一つだった。
(クリーチャーが実体化とか、面白すぎるだろ……!)
デュエル・マスターズが好きな者なら一度は思ったことだろう。実際にクリーチャーがいて、そのクリーチャーが戦う様子を見れたらいいのに、と。
創作作品では演出として、一時的にクリーチャーが戦うものがある。作品としても、クリーチャーの世界を描いたものもそれなりに存在する。
しかし、それでも、実際に目の間にクリーチャーが現れるという現象はそれらの創作物に勝る臨場感を与える。夕陽もその見えない力に感化され、力がこもる。
「僕のターン! 3マナで《スピア・ルピア》召喚!」
手札から《スピア・ルピア》のカードを抜き取り、バトルゾーンに置く。すると一瞬、カードが光ったような気がした。
そして次の瞬間、カードから一陣の風が飛び出した。
「……!」
現れたのは、橙色に燃える羽毛を纏った小鳥。剣と槍を携えた火の鳥だった。
自分といつも一緒に戦うクリーチャーが、実体を持って現れる。その事実を実感した夕陽は、さらに高揚感を増していく。
「ターンエンド」
が、それでもまなを使い切った夕陽に出来ることはない。素直に女のターンへと回る。
《スピア・ルピア》の登場にも何の反応を示さず、女はデッキから静かにカードを引く。そしてそのカードを見るや否や、デッキの一番上をめくり、
「潰せる敵は潰せるときに潰しておくに限る。デッキ進化《機真装甲ヴァルドリル》!」
その上に一枚のカードを重ねた。
機真装甲ヴァルドリル 火文明 (4)
進化クリーチャー:ヒューマノイド/オリジン 3000
デッキ進化—自分の山札の上から1枚目を表向きにする。そのカードがクリーチャーであれば、このクリーチャーをその上に重ねつつバトルゾーンに出す。そのカードがクリーチャー以外であれば、このクリーチャーを自分の手札に戻す。
このクリーチャーは、バトルゾーンに出たターン、アンタップされているクリーチャーを攻撃できる。
現れたのは、ドリルを装備した赤い装甲の人型ロボット。
「《ヴァルドリル》で《スピア・ルピア》を攻撃!」
女の勇ましい声を受け、《ヴァルドリル》は両脚のスラスターを全開にし、一直線に《スピア・ルピア》へと向かっていく。そして四つのドリルを一斉に繰り出し、小さな火の鳥を貫く。
「っ、《スピア・ルピア》!」
一度も攻撃できずに破壊されてしまった《スピア・ルピア》だが、その死は無駄にならない。
「《スピア・ルピア》の効果で、デッキからドラゴンをサーチ! 《フレイムバーン・ドラゴン》を手札に!」
女の出すクリーチャーは軽くて速いが、その分パワーがない。そのため低級クリーチャーを破壊できるカードを持っておく。
その後、さらなる追撃に夕陽は構えたが、
「ターンエンドだ」
「え?」
女はあっさりとターンを終了してしまった。
(速攻じゃないのか……? こっちの場にはクリーチャーがいないから、殴り返しの可能性は低い。システムクリーチャーとはいえ、《爆裂B—BOY》で攻撃しない理由はないだろうに)
俗に速攻型、ビートダウンなどと呼ばれるタイプのデッキはとにかく相手のシールドを割っていくものだ。時には殴り返しも気にせず、とにかく攻める。
だが女は、殴り返される可能性が低いという状況でも攻めなかった。
(もしかしてビートダウンじゃないのか……?)
マナゾーンを見るからに、女のデッキは速攻と手札補給を合わせた火と水のビートダウンと判断したのだが、もしかしたら違うのかもしれない。
「……《ルピア・ラピア》を召喚して、ターンエンド」
とりあえず後続のドラゴンのために次なるルピアを召喚するが、
「《ヴァルドリル》進化、《機神装甲ヴァルゲットⅢ》!」
返しのターンで《ヴァルドリル》が《ヴァルゲットⅢ》に進化し、
「《ヴァルゲットⅢ》のメテオバーン能力発動! こいつの下にある《斬込隊長マサト》を墓地に置き、このターン中このクリーチャーはアンタップされているクリーチャーを攻撃できる! 《ルピア・ラピア》に攻撃!」
そのまま《ルピア・ラピア》は破壊されてしまった。
「ぐっ、でも《ルピア・ラピア》は破壊されるとマナゾーンに送られる。僕のターン!」
またしても女は、こちらのクリーチャーを破壊するだけでシールドを割らずにターンを終了した。それを訝しみながらも、夕陽は次のカードを引く。
「! 来た……《ボルシャック・NEX》を召喚!」
ボルシャック・NEX 火文明 (6)
クリーチャー:アーマード・ドラゴン 6000+
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の山札を見る。その中から、名前に《ルピア》とあるカードを1枚、バトルゾーンに出してもよい。その後、山札をシャッフルする。
このクリーチャーは、自分の墓地にあるファイアー・バード1体につき「パワーアタッカー+1000」を得る。
W・ブレイカー
「効果でデッキから《ルピア・ラピア》をバトルゾーンに!」
《ヴァルゲットⅢ》がいることを考えれば、ここは破壊されてもメリットのあるクリーチャーを選びたい。なのでここは、マナをチャージできる《ルピア・ラピア》を出し、ターン終了。
「あたしのターン。《スペース・クロウラー》を召喚だ」
スペース・クロウラー 水文明 (4)
クリーチャー:アースイーター 3000
ブロッカー
このクリーチャーは攻撃することができない。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のマナゾーンにある文明ひとつにつき、自分の山札の上からカードを1枚、見てもよい。その中から1枚を手札に加え、残りをすべて好きな順序で山札の一番下に戻す。
(《スペース・クロウラー》……?)
そのクリーチャーの出現でさらに夕陽の疑念が募っていく。
《スペース・クロウラー》はその能力からコントロール系のデッキによく採用される。逆に言えば、ビートダウン系のデッキには採用されることは少ないのだ。
やはり、彼女のデッキはビートダウンではないのか。
(分からない……あのデッキの奥が見えない)
だが、感じる。口では言い表せない不吉な感覚が、女のデッキから発せられている。
その重圧感を今更のように感じながら、しかしそれに押し潰されないように自身を奮い立たせて、夕陽は次のカードを引く——