二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.91 )
日時: 2013/08/07 23:25
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)

「霊崎、大丈夫か……?」
「大丈夫」
「……って、うわ! 霊崎、いたの?」
 すぐさま応答が返ってきたため、思わずたじろぐ夕陽。どうやらほぼ同時に終わったらしい。
「そうか、そっちも終わったのか……あんまり無事って感じじゃないけど……」
「それはお互い様」
 見ればクロの身体には無数の切り傷、制服にも血が滲んでおり、もう学校に着て行くことはできないだろう。クロが言うように夕陽も同じような状態だが。
「……それより、これ」
 クロが手にしているのは、《金属器の精獣 カーリ・ガネージャー》のカード。夕陽が鹵獲した《ドルボラン》と同じく、カードに戻ったのだろう。
「ああ、それ誰のかも分からないし、貰っちゃっても良いんじゃない?」
「じゃあそうする」
 さりげなく自分を正当化するためにクロにも鹵獲を促したが、彼女はそれを思いのほか簡単に懐に仕舞った。元々はプロモーション・カードで、再録もあまりされていない珍しいカードなので、実は欲しかったりしたのだろうか。
 それはさて置き、今の夕陽にはまだすべきことが残っている。というより、すべきことができてしまった。
(このこと、霊崎にどう説明するか……流石に他人に言いふらすような性格ではないだろうけど、全部話すべきか。つっても、僕もクリーチャーがデュエルの時以外に実体化するなんて初めてのことだし……)
 結局、どうすればいいのか分からない。事情を説明するにしても、どこからどこまで説明すればいいのかが分からない。そもそも夕陽にも、今の状況はよく分かっていないのだ、どう説明しろというのか。
 そんなことを思いながらふと顔を上げると、クロはジッとこちらを見ていた、夕陽の顔を見つめていた。
(……いや、違う)
 見つめているのは夕陽の顔などではなく、その瞳はもっと奥。植え込みへと向けられている。
「霊崎……?」
「誰か見てた」
 クロの静かな一言で、夕陽の身体に電流が走り抜けるような衝撃が伝わる。
「っ! 見てたって、いつから……?」
「分からない。でも、デュエル中はいたと思う」
「最初からずっと見られてたってことか……!」
 焦燥感を覚える夕陽。“ゲーム”絡みのことは他言無用、情報の漏洩には気を遣っていた。ただの一般人に“ゲーム”のことを知られるわけにはいかなかったのだ。
 だがそれを、知られてしまった可能性が高い。だが、結果としてそれは杞憂だった。

「——別にそう焦ることはない。お前たちが隠そうとしているものに関しては、俺達の方がよく知っている」

 植え込みから、声が聞こえてくる。どこか聞き覚えのある声。高慢さが伺える挑発的な口調だが、どこか陰気な雰囲気のある、そんな声。
 その声に続いて、人影が姿を現した。
「な……っ、え……?」
 夕陽はその人物の姿を認識した。
 だが同時に、茫然と、唖然と、驚愕する。目の前の事実を受け入れられず、というよりはただ単純に意味が分からず、理解できず、呆けたように口と目を開いている。
「な、なんで、どうして……え、え?」
「…………」
 困惑のあまり、とうとう言葉が繋がらなくなった。隣にいるクロは表情こそ変えないが、驚いてはいるのだろう。いや、状況を理解していない分、その驚きは夕陽より小さいかもしれない。
 だが、状況を理解していようとしていまいと、その人物が今のような声と口調で発生しているという事態が既に、驚愕という感情を生んでいる。
「驚きすぎだ。【神格社界ソサエティ】の誰かから聞いてはいないか? “ゲーム”の参加者は相当数存在する、ならばその参加者の一人二人が、お前たちの身近にいてもおかしくはないだろう」
 その言葉は間違っていない。だがそんな理屈ではなく、そんな理論では夕陽たちの困惑は晴れない。
 とはいえこのまま驚いてばかりもいられない。夕陽は思い切って、尋ねる。
「一つだけ、確認、させてください……あなたは、本当に……?」
 最後まで言葉は続かなかったが、相手もその問いの意味は察したらしい。ふぅ、と気だるげに溜息を吐き、
「面倒だ、この際はっきりさせておこう。そうした方がお前たちの混乱も、ある程度はマシになるはずだ。こんなことで、時間をかけたくもないしな」
 その人物は——彼は、長い前髪の隙間から鋭い瞳を覗かせる。

「【ミス・ラボラトリ】所属、黒村形人。お前たちの観察者だ」

 彼は名乗りを上げる。高らかではなく、やはり陰気さのある彼は、夕陽たちの知る社会科の教師にして副担任の、黒村だった。



「黒村、先生……? なんで、先生が……」
「さっき言っただろう。たまたまお前のクラスを受け持っている現代社会の教師が、“ゲーム”の参加者だっただけだ。まあ、俺がこの学校に勤めていることに関しては、偶然ではないんだがな」
 そんなことはどうでもいい、と吐き捨てるように言う黒村。その口調はやはり、いつもの自信なさ気でおどおどした彼とはまるで違う。正反対だ。
「《ドルボラン》と《ガネージャー》は回収されたか。まあいい、どうせ所に余ってたカードを適当に見繕ってきただけだしな。だが、霊崎クロ、お前の存在はイレギュラーだった」
「私?」
 名指しで言われ、首を傾げるクロ。
「ああ。本来、俺は『昇天太陽サンセット』……空城一人を、二体のクリーチャーと戦わせるつもりだった。、データを取るためにな。だがお前が入り込んだお陰で、取れたのは別のデータだ。追加で報告するにはあってもいいが、ノルマを達成したとは言い難い」
 やはりいつもと違い、流暢に話す黒村。彼に違和感を感じながらも、夕陽はその話を遮った。
「ちょっ、ちょっと待ってください! 黒村先生、あなたは一体、なんなんですか!?」
「さっきも言ったが、また言う羽目になったな。俺は“ゲーム”参加者の一人だ。個人的というか組織的には、参加者というと少々語弊があるのだがな」
「そうじゃない! そうじゃなくて、さっき【ミス・ラボラトリ】とか言ってましたけど、あなたはどういう組織の人間で、どういう目的でこんなことをけしかけてきたんですか!」
 口振りから、クリーチャーを使って襲撃したのが黒村の手によるものなのは理解した。最初はかなり戸惑ったが、その辺りの順応性はそこそこ身についたようだ。
 どういう仕組みでクリーチャーが実体化したのか、興味がないわけでもないが、今は別に聞きたいことがある。それが彼の所属だ。
 夕陽も汐から聞き、その汐も『機略知将ノウレッジ』こと青崎記に聞いたことで、つまりは又聞きなのだが、【ミス・ラボラトリ】は研究機関だと聞いた。“ゲーム”や『神話カード』について調べ尽く組織だと聞いた。だがそれだけだ、それ以上のことは知らない。
「と言われても、概ねそれで合っている。詳細まで説明するにはそれ相応の時間が必要だが、そこまで時間もかけていられない。だから端的に、要点だけを伝えるとしよう」
 面倒だと言わんばかりに肩を竦め、黒村は口を開く。
「お前がさっき言ったように【ミス・ラボラトリ】は研究機関、“ゲーム”に関する物事や人物、そして『神話カード』についてひたすら探究するする組織だ、それ以上でもそれ以下でもない。そして俺はそこの研究員、今は観察者だ。その使命に則り、お前やお前の持つ『神話カード』を観察している」
「……今まで、ずっと見てきたってことか」
「そうなるな」
 あっさり肯定する黒村。夕陽らが『神話カード』を手に入れたのはつい最近のことだが、一体いつから観察していたのかと、疑問と共に嫌悪を感じる。
 なんにせよ、ここで“ゲーム”の関係者が現れたということは、その目的は一つだろう。
「あなたも、僕らの『神話カード』が目的ですか?」
「そうとも言えるが、違うとも言える」
 曖昧に返す黒村。そんな言い方をせずとも、もう夕陽は構えていた。その様子に、黒村は肩を竦める。
「見て知ってはいたが、気性が荒いな。とはいえこちらも本題に移れる、その姿勢に問題はない」
 静かに言って、黒村はポケットからデッキケースと思しき箱を取り出す。もしやとは思っていたが、学校の教師がデュエル・マスターズカードを持っているという光景は、妙におかしく見えた。
「いつかはこうなる可能性も考慮していた。そして実際にデータを取るのであれば、自ら出向く方が分かりやすい。主観が混じってしまうのは如何ともしがたいが、仕方ない」
 次の瞬間、場の空気が変貌する。
「この感じ……やっぱり」
 視線を動かせば、目の前にはシールド、その手前には手札、右には山札と、デュエルの準備は完全に整っていた。
「まさか黒村先生が“ゲーム”の関係者とは思わなかったけど、安々と《アポロン》を渡す気はありませんよ」
「……別に、お前からその“権利”を得られるとは思っていない」
 嘆息するように息を吐き、そんなことを言う黒村。夕陽は少し首を傾げる。
「? なんですかそれ? 戦う前から負ける言いわけですか?」
「違う、負けるつもりは毛頭ない」
 夕陽の挑発も軽く受け流す黒村。いつもの彼の性格とは正反対なので少々やりにくさがある。
 が、それでも夕陽は、目の前の敵に立ち向かうのだった。