二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.96 )
- 日時: 2013/08/08 18:54
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
「うっ、うっ、うぅ……終わんないよぅ……」
雀宮高校の一階にいくつかある学習室の一室で、このみはすすり泣きながら手元のシャーペンを走らせていた。
現在、このみは補習を受けている身。本来なら昨日の時点でほとんどの対象者は補習が終わっているのだが、このみはほとんどのテストで赤点を取り、成績が終わっているため翌日まで補習に駆り出される羽目に陥っている。
山どころか山脈のように連なる大量の課題プリントをせっせと解いていくこのみ。問題自体はこのみの頭でも教科書などを見ればなんとか解けなくもない程度の簡単な問題だが、如何せん量が多く、しかも本人の頭がポンコツなのでなかなか進まない。
「うぅぅ、せっかくデッキを組み替えたから汐ちゃんとこでデュエマしようと思ったのに、今日も補習なんて聞いてないよぅ……ってゆーか、こんな量のプリントが今日だけで終わるわけないじゃん……」
「まったくだ、この量はどうかしてるぜ」
ふと、隣から声が聞こえてくる。どうやらこのみと同じ境遇の生徒のようだ。意識がプリントに向き過ぎていたので、このみはその生徒の存在に初めて気づいた。
その生徒の言葉を皮切りに、両者はプリントとシャーペンを投げ捨て、向かい合った。声の主は男子生徒、見たところ二年生のようだ。
「? あれ? なんで二年生が、あたしと同じ教室で補習を受けてるの?」
プリント作業なので配布されているプリントが違うのだろうか。周りに他の生徒はおらず、補習を受けているのはこのみとこの男子生徒だけ。たった二人のために教室を二部屋開けるのを嫌ったのかと思われるが、しかしそれは否定される。
「覚えておけ一年、この学校は前の学年で取得単位が足らないと、次の学年に持ち越される。つまり、一年の時に欠点を取りまくっていると、二年になってから一年の課題をやらされることになるんだ」
凄く実感のこもった言葉だった。このみは良い情報を得たと思うと同時に、自分にとって決して遠いことではない現実に恐怖を覚える。
「……あ。あたし、一年四組の春永このみです!」
「おぉ? まさかここで自己紹介してくるとは思わなかったぜ……だがまあ、ここで会ったのもなにかの縁か。俺は潮原零佑、補習仲間同士、仲良くやろうぜ」
シンパシーというか、妙な仲間意識が妙な所で芽生える二人だった。
「んん? しおはられーすけ? どっかで聞いたことあるよーな……?」
難しい顔をして目を閉じるこのみ。しばらくして、バッと目を見開く。
「思い出した! 二年生でデュエマがすっごく強いって噂の『荒波の零佑』!」
「お? その通り名を知ってるのか。一年にまで知られてるとは、結構広まってんのな」
その男子生徒は胸を張り、威風堂々とした佇まい再び名乗りを上げる。
「そう、俺こそが『荒波の零佑』こと潮原零佑だ。自分で言うのもなんだが、デュエマの腕には自信がある、だからこその通り名だしな」
「おぉ! すごい、かっこいい! あたしもそんな風に呼ばれてみたいなー……」
脳の構造が小学生レベルなこのみは、そんな零佑の名乗りにすぐ食いついた。
「そういえばお前、さっきデュエマがどうこうとか言ってたな。お前もデュエマするのか?」
「あ、うん、しますよ? あたしも、デュエマにはけっこー自信があります」
「へー、なら機会があれば一度手合せしたいところだな。いや、もうこんなプリント山脈に付き合うのも嫌になってきたところだし、いっそ気分転換も兼ねて、ここでやっちまうか?」
「さんせーい! あたしもデュエマしたくうずうずしてたところですよ!」
もはや課題に向かう集中力が完全に途切れてしまった二人は、素早くデッキケースを取り出してデュエルを始めようとしていた。二人ともノリノリで、もう課題のことなど忘れているかのようだ。
しかしその時、ガラッと教室の扉が開け放たれる。
「うえっ?」
「やばっ……!」
監督の教師が戻って来たか、それとも他の教師が見回りに来たか、どちらにせよ明らかに今からデュエマを始めようとする二人の姿は言いわけできない。
だがそれは、入室したのが教師だった場合だ。
「……見つけた」
現れたのは、教師でも生徒でもない。子供だ。
このみよりも小さい体躯、それを包み込む外套はその子供をすっぽりと包むほどのサイズがあるが、浮浪者の衣服のようにボロボロだ。目深にフードをかぶっており、顔は見えない。素肌もほとんど晒しておらず、両手両足にはぐるぐると包帯が巻かれている。
声からして少女。彼女はペタペタと緊張感のない音を立て、教室の中へと入り込んでいく。
教師ではないと分かり安堵する零佑だが、しかし今度は誰かも分からぬ、しかも非常に奇怪な恰好をした少女の登場で困惑している。
零佑の反応は当然のもので、これが普通の格好なら誰かの兄妹などといった線も考えられたが、こんな浮浪者染みた意匠では反応にも困る。
しかし、このみは違った。
(この子……!)
記憶力には自信のないこのみだが、忘れるはずもない。自分が初めて“ゲーム”の戦いに身を投じた時の出来事。そして、その時の相手。
元《プロセルピナ》の所有者であった少女。それが今、自分の目の前にいる。
「《プロセルピナ》を、返して、もらう」
少女は片手を突き出し、言い放つ。
「……それはできないかな。汐ちゃんから聞いたよ、あなたは——」
「私は、【神聖帝国師団】、第六小隊、副隊長、『白虹転変』、ミウ・ノアリク」
言い切る前に、すべて自己紹介されてしまった。出鼻を挫かれたこのみは言葉を詰まらせる。
「今回の、【師団】の、指令は、《プロセルピナ》の、奪還。春永このみ、力ずくでも、《プロセルピナ》を、返して、もらう」
十二枚存在する『神話カード』、そのうち一枚を失ったという【神聖帝国師団】の損害は大きなものだったのだろう。そしてミウは副隊長と言っていた。こんな子供がそんな軍隊のようなものを率いることができるのかと疑問を抱くが、面子の問題というのもあるのかもしれない。だからまた、彼女が出向いて来たのだろう。
すぐそこには“ゲーム”とは無関係な零佑もいる。ここで問題を起こすのは得策ではないだろう。ここは大人しく『神話カード』を渡すのが、最も平和的な打開策だが、
「ごめんね、《プロセルピナ》は渡せないんだ。姫ちゃんの時で分かったの、『神話カード』はその力で悪い使われ方もされるって。それをおいおい渡すことは、ちょっとできないな。それに、」
けっこー気に入ってるし、とウィンクする始末。本人にその気はないのだが、挑発とられても仕方ない行動だ。
だが、ミウは極めて冷静だ。感情をまったく出さない。
「……交渉、決裂」
そうミウが呟いた、次の瞬間。
「えっ?」
「んあ?」
教室に、一体の女が現れる。
女と言っても、明らかに人間ではない。人間型ではあるが、大きさは普通の人間の半分以下、しかも宙に浮いている。
「これって……クリーチャー?」
「《妖精のイザナイ オーロラ》だ……!」
クリーチャーが実体化している。その現象自体に、このみはそこまで驚きはない。だが、デュエル中でもない今、クリーチャーが実体化するとなると話は別だ。
「春永このみ、あなたの相手は、それ。師団長からの、贈り物」
「……プレゼントは嬉しいけど、できればカードの状態で渡してほしかったよ」
冷や汗をかくこのみ。クリーチャー相手にどうしろというのだ、と言わんばかりに狼狽している。
そうこうしているうちに、オーロラが携える杖から、このみに向けて光弾が放たれる——
ピキッ
「……あれ?」
反射的に目を瞑ったこのみは、攻撃されても何も起こらないことに不審を抱き、恐る恐る目を開く。
視界に広がっていたのは、まずシールド。すぐ横には山札と、そこから五枚の手札が展開される。そしてそれらの中心にいるのが、
「《プロセルピナ》……これ、きみがやったの? てゆーか、クリーチャー相手にデュエマしろってこと?」
このみの問いに答える代わりに《プロセルピナ》は、彼女のデッキの中へと入っていった。
「お、おい、大丈夫か……?」
声のする方向に視線を向けると、そこにはやや焦ったような、しかしどこか安心したような表情の零佑がいた。
「うん、だいじょうぶ。よくわかんないけど、なんかクリーチャーとデュエマしなきゃいけないっぽいです」
「そうか……正直、なにが起こってるのかさっぱりなんだが、かなりやばいことに巻き込まれたっていうのは、なんとなく分かった。それと」
零佑は毅然とした態度を取り戻し、このみに背を向けてミウに向き直る。
「俺の相手は、お前ってことだな」
「……一般人には、関係、ない。危害を加える、つもりも、ない。だから、下がって、欲しい」
「そういうわけにもいかないんだよ。あいつは俺の同士だからな、見過ごせねえさ」
ミウの言葉にも引く様子のない零佑。ややあって、ミウはデッキを取り出す。
「……忠告は、する。この戦いは、危険。退くなら、今のうち」
「断る」
一蹴された。
そして次の瞬間、零佑のミウ。二人の間の空気が、豹変する。