二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.97 )
- 日時: 2013/08/09 12:03
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
夕陽と黒村、そしてクロの三人は誰も人がいない、一階の廊下を駆けていた。目的地は補習に使われているはずの学習室。【神聖帝国師団】の目的はこのみの持つ《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》らしいので、このみがいるはずの場所を目指しているというわけだ。
だが、普通なら走ればすぐに到着するその教室へも、三人はなかなか辿り着けないでいる。その理由は、
「《アポロン》でワールド・ブレイク! 《コッコ・ルピア》でダイレクトアタックだ!」
「二体の《コダマンマ》でシールドブレイク。《デスマーチ》でとどめだ」
「呪文《大行進・スパーク》。《テルス・ルース》二体と《ハラッカダン》二体でシールドブレイク。《パラ・オーレシス》でダイレクトアタック」
教室に向かう道すがら何体ものクリーチャーが行く手を阻んでいたからだ。
それらを蹴散らしながら進んでいるため、かなり時間がかかっている。
「【師団】の差し金か……まったく、面倒な奴らをばら撒いたものだな」
道中で黒村がぼやく。すると夕陽が、それに対しての疑問をぶつけた。
「先生。さっきも僕らはクリーチャーとデュエルしてましたけど、なんですか? これ」
“ゲーム”におけるデュエル中、クリーチャーが実体化することは知っている。だが現実にクリーチャーが現れるという現象は、今日初めて体験したことだ。
それは誰かが能動的に何かをすることで起こる現象らしいが、詳しいことは聞いていない。なのでこの機会に、その理屈を知っているらしい黒村に尋ねる。
「簡単な話だ。『神話カード』にはそれぞれ個別の特殊な力が備わっているが、それとは別にすべての『神話カード』に共通する能力がある。能力というよりは、影響力と言うべきか」
「影響力?」
個別の力というのは、《マルス》の周囲を炎上させる力だったり、《ヴィーナス》の思想を同調させる力のことだろう。だが、影響力というのは初めて聞いた。
「『神話カード』は強大な存在だ。その存在は、そこにあるだけで他のカードにも影響を及ぼす。具体的に言えば、一枚『神話カード』があれば他のクリーチャーを実体化させることができる。正確には、クリーチャーが実体化するカードにすることができる」
「『神話カード』があるから実体化するじゃなくて、『神話カード』の影響を受けているからカードが実体化できるようになるってこと?」
「そうだ、物分りがいいな。そうして実体化したクリーチャーは、そのカードの主の命令を聞くようになり、クリーチャーの空間を形成し、デュエルもできる」
クリーチャーの空間と聞き、さらに疑問を投げかける夕陽。
「そういえば、さっきも校舎内を走り回ってたけど、あの時の被害は……?」
「あれは特殊な空間の中で起こったことだから、なかったことになっているはずだ」
この際だから、と言って黒村は続ける。
「お前もその場の空気のようなものが変わる感覚を知っているはずだ。俺達がデュエルをする時に発生する空間、それを俺達は“神話空間”と呼んでいる」
「神話空間?」
「ああ、『神話カード』を巡るために戦う空間、という意味を込めてそう呼ばれている。この空間は、基本的に“ゲーム”の参加者しか入れない。参加者の定義は、大まかに言うと「『神話カード』の存在を知っているか」「神話空間に入ったことがあるか」の二つに分けられる」
「へぇ……っていや、ちょっと待って」
思わず流しそうになるが、黒村の言葉に矛盾を見つけた夕陽は慌てて言い返す。
「神話空間は“ゲーム”参加者にしか入れないんだろ? だったら二番目の理由はおかしくないか?」
「今からそれを説明するつもりだ。神話空間はクリーチャーが実体化するという共通項があるが、いくつか種類がある」
「種類?」
「そうだ。まず一般的なのは、デュエリスト同士の空間。これはお前も最も経験が多いだろう。基本的には片方が空間を展開させ、二人でデュエルを行うものだ」
確かに、夕陽は今まで人間とデュエルする時だけあの空間の中にいた。発生させる術ももう分かっている。
「次にクリーチャーの空間。これは『神話カード』の影響を受け、実体化できるクリーチャーが実体化する時、自動的に発生する空間だ。大きさはクリーチャーによってまちまちだが、その空間内でのみクリーチャーは実体化でき、そして力を使うことができる。お前は窓から溝を足場にして一階に降りたが、その時に《ドルボラン》と《ガネージャー》の空間から出ていた。そこで俺はあの二体を回収してからひっそりとお前に近付き、あの二体を再び実体化させた」
「じゃあ、霊崎があの空間に入れたのは……?」
「“ゲーム”参加者とあまりにも接近している時、近くで空間が展開されると周囲の無関係な人間も一緒に巻き込む。それが原因だな」
色々とごちゃごちゃしたことを言われたがざっくり言ってしまえば、クリーチャーが単体で実体化することもあり、クリーチャーもデュエルができる、ということだろう。そして“ゲーム”参加者がデュエルをすれば、近くの一般人も巻き込まれる。
「……とりあえず、説明は一度中断だ。来たぞ」
黒村がそう言った瞬間、その場の空気が変わる。目の前には、行く手を阻むようにクリーチャーが並んでいた。
「雑魚クリーチャーばかりか……乗り込んできたと言っても【師団】はそこまで本気ではないようだ」
だが、雑魚でもある程度は手間取る。今は三体いるが、一人一体倒すだけでもそれなりの時間がかかってしまう。
(そういえば、空間云々は分かったけど、周りの景色とかは変わんないな……)
理屈は不明だが、きっと聞いても無意味だろうと考え、そういうものなんだろうと思っておく。
そして三人は、再びデッキを構え、デュエルを開始する。
このみとオーロラのデュエル。現在、このみの場は《剛勇妖精ピーチ・プリンセス》と《魅了妖精チャミリア》が一体ずつ。シールドは五枚あり、うち一枚を《ハッスル・キャッスル》が要塞化している。
対するオーロラの場は《信心深きコットン》が二体《雷鳴の守護者ミスト・リエス》が一体、《爆裂のイザナイ ダイダラ》が一体。シールドは四枚だ。
「あたしのターン! 《冒険妖精ポレゴン・ジョーンズ》召喚! さらに《ピーチ・プリンセス》の効果で二体目に召喚するクリーチャーのコストは2下がる。2マナ軽くなった《剛勇妖精フレッシュ・レモン》召喚! さらに今度は《フレッシュ・レモン》の効果で三体目に召喚するクリーチャーのコストが3下がって、3マナ軽くなった《豪腕妖精レイジ・ボッコル》召喚!」
1ターンで一気にクリーチャーを展開するこのみ。しかもまだ4マナしか使っていない。
「まだまだ行くよ! 《ジャスミン》召喚! 破壊してマナチャージ! そんで二体目の《ポレゴン・ジョーンズ》召喚! 最後に《チャミリア》のタップトリガーで《ミスティーナ》を手札に加えて、ターン終了!」
たった1ターンで、クリーチャーが六体になったこのみ。だがオーロラは、焦った素振りを見せない。
『ふふっ。じゃーあ、私のターンだね』
どこか余裕なオーロラはカードを引き、動き出す。
『まずは《妖精のイザナイ オーロラ》——つまり私を召喚!』
オラクルの位階の中でイザナイの称号を持つ《オーロラ》は、自らの同胞を光臨させる力を持つ。そして、呼び出すための条件が、
『さらに《交錯のインガ キルト》も召喚! 効果で私をタップ!』
自身をタップしていることだ。
『さーあ、《ダイダラ》! 《チャミリア》を攻撃して!』
《オーロラ》と同じイザナイである《ダイダラ》は、杖を振り炎を放ち、このみの《チャミリア》を破壊する。
これ以上は攻撃しても無駄なので《オーロラ》はターンを終えるが、その時《オーロラ》と《ダイダラ》の杖が光り輝く。
『行くよ《ダイダラ》、光臨発動!』
二体が杖から発する光に、何かの影が浮かぶ。大きな威圧感のようなものを放ちながら、二体はその姿を現す。
『《ダイダラ》が呼ぶのは7マナ以下のフレイム・コマンド、《爆裂右神ストロークス》。そして私が呼ぶのは——』
まず現れたのは、赤色に燃える馬のようなクリーチャー。エネルギー状の鎌を携えている。
神の右腕である《ストロークス》が現れ、それの続き《オーロラ》の放つ光からも神が出でる。
『——光臨せよ! 《妖精左神パールジャム》!』