二次創作小説(紙ほか)

Re: originalダンガンロンパ ( No.1 )
日時: 2013/07/03 12:45
名前: 魔女の騎士 (ID: lMEh9zaw)



 その巨大な学園は、都会のど真ん中の一等地にそびえ立っていた。
まるで——、そこが世界の中心でもあるかのように……。

『私立 希望ヶ峰学園』

そこは、あらゆる分野の超一流高校生を集め、育て上げる事を目的とした、政府公認の超特権的な学園。
『この学園を卒業すれば、人生において成功したも同然』とまで言われている。
 何百年という歴史を持ち、各界に有望な人材を送り続けている伝統の学園らしい。
国の将来を担う“将来”を育て上げる事を目的とした、まさに、“希望の学園”と呼ぶにふさわしい場所だ。

 この学園への入学資格は二つ——。

“現役の高校生であること”
“各分野において超一流であること”

 新入生の募集などは行っておらず、学園側にスカウトされた生徒のみが入学を許可される。
そんな常識はずれな学園の校門の前に————おれは立っていた。


「ここが……希望ヶ峰学園、か」


 おれはパンフレットを片手に、悠々とそびえ立つ建物を眺める。
想像していたよりも遥かに大きい。おそらく、世界各国でここまで大きな教育機関は存在しないだろう。
 現に、幾多の修羅場をくぐり抜けたおれでも、この学園の圧倒的な存在感に押しつぶされそうだった。


「だが、おれもいわばイレギュラーな存在か」


 おれは手に抱えたパンフレットとともに届けられた招待状を見る。
それは先月、東南アジアでの調査を終えたおれの元に届けられたものだった。


『速水 刹那(はやみ せつな)様。今回、我々は幼少時よりFBIとして活動し、多大なる功績をあげたあなたを“超高校級の警察官”として選抜させていただきました。』


 速水刹那。そう、それがおれの本名だ。
現インターポールの父と、元FBIの母の間に生まれたおれは必然的に小さい頃から事件に当たってきた。

自慢になるかもしれないが、8歳の頃にはとうに大人に混じって事件の推理、犯人の逃走経路の割り出し、追い込みも行っていた。
その経歴から、おれは最年少でFBIに入り、現在も活動を続けている。

その件でまさか希望ヶ峰学園から招待されるとは、夢にも思わなかったが……。

 しかし、この件に関しては問題がある。
 FBIの者は一部を除き、コードネームを使用している場合が大半で、仲間内でもその本名も知らない。
つまり、当然外部の人間ならば、なおさらおれがFBIの人間であることを知るはずがないのだ。

 だが、希望ヶ峰学園のやつらはおれの名前を知っている。
 となれば、彼らは腕利きのハッカーでも、真っ青になるようなプロテクトが幾重にもかかっているFBIの内部情報にアクセスしたとしか考えられない。
しかし、アクセスされた経歴もないため、いまだにどこからそんな情報が流れたのか、はっきりしていなかった。

 現時点で言えることは、希望ヶ峰学園は本当に一国かそれ以上の力を持っている。それだけだった。

 だからこそ、おれ自身が調査する必要がある。
そう思い、おれは上司との間に三つの条件を約束して、入学までこぎつけた。

一つ目の条件は、どこからおれの情報が漏れたのか突き止めること。
二つ目の条件は、学園内にいるという“超高校級の怪盗”を捕まえること。
三つ目の条件は……希望ヶ峰学園が隠蔽した“ある事件”の真相を明かすこと。

 ここで、もっとも重要なのは三つ目の条件だ。
 上司の話によると、どうやら希望ヶ峰学園の生徒の中に行方不明になった者がいるらしい。
学園側は退学処分になったなどと話しているが、退学になった生徒は実家に帰って来ず、連絡も取れない状態だと聞いている。

 なによりも怪しいのは、学園側の態度だ。
退学処分といえば、実際長い時間をかけて決められるものだが、一時、一週間という短い期間で十数名の退学処分者が出ている。
おかしいのは明らかだ。学園の圧力で警察が関与できない以上、おれが調査するしかない。

ただ、あちらもただではおれに調査などさせないだろうが……。


 とにかく、以上の件があって、おれは中学校以来の学生生活に身を置くことになった。
ただ、ずいぶん久しぶりの学校生活に、慣れるかどうか、不安はある。


「他のやつらと上手くやれたらいいが……」


 希望ヶ峰学園に選ばれる生徒達は本当に、その分野で知らない人はいないほどの超一流高校生ばかりで、事前にその選抜メンバーについては調査していた。
実際に調べてみたところ、やはりどの選抜者も平均値から大きく飛びぬけた知名度も実力も高い“超高校級”の面々ばかりだ。

 例えば、“超高校級のピアニスト”として入学するのは————幼い頃から各国の音楽家や人々を虜にしてきた名演奏を奏でているということ。
“超高校級のゲーマー”として入学するのは————世界ゲーム大会で何度も連勝を重ねてきたという存在。
“超高校級の医者” として入学するのは————どんな病気でも直すという名医と聞いている。
他にも、『歌舞伎役者』、『お嬢様』、『ボクサー』、『力士』、『ホスト』、『大和撫子』、『ソプラノ歌手』、『料理人』、『俳優』、『弓道者』、『数学者』など、そうそうたるメンバーがそろっていた。


 そして、そのメンバーの中には、例の提示された二つ目の条件である『超高校級の怪盗』もいた。

—怪盗パンドラ

 彼、いや彼女か。おそらくは偽名だろうが、それがやつの名前だ。
 簡潔にその人物を説明すれば、やつはいまだに正体が知れていない、世界をまたにかける大泥棒、といえば分かるだろうか。
 盗む品は絵画や宝石の類いでどれも国宝並みの高級品。
そして、そいつは必ずパンドラの名前で何時に何を、とわざわざ犯行二週間前までには予告をする、現在では一風変わった輩だ。
しかし、対してその手口は鮮やかで、現地の警察やセキュリティを今日まで何度も出し抜いている強者(つわもの)であると聞いている。

 かつておれも何度か調査に携わったことがあるが、証拠は見事に隠滅されており、パンドラだと特定できるような手がかりは掴めていない。
 そんな、幻影のような存在がこの学園に一生徒としている。
しかも、情報によればおれと同期という話だから驚くしかない。
 警察官と怪盗が肩を並べて学習机に向かう、というのは考えてみれば、なんともおかしな話だが……。


「さて、行くか」


 現在の時刻は7時。
 予定では始業式の開催は9時からなので、まだ時間に余裕がある。
少しばかりは学園内を回ることもできるだろう。

 入学初日ともあって、おれはつい軽い気持ちで希望ヶ峰学園への第一歩を踏み出した。
それが、間違いだった。


「っ!?」


 急に目眩が起こり、目の前の風景が飴細工のように溶けてぐにゃりと歪む。それは、あっという間に他の景色とどろどろに混じり合って……。
気がついたときには真っ暗闇の世界で、おれは完全に意識を失ってしまっていた。

 このときおれは気づくべきだった。
これが、日常と掛け離れた”殺人ゲーム”の始まりだということに……。