二次創作小説(紙ほか)
- Re: originalダンガンロンパ ( No.2 )
- 日時: 2013/07/03 12:46
- 名前: 魔女の騎士 (ID: lMEh9zaw)
目が覚めたとき、おれは部屋の中にいた。
新品のような白いすべすべとした机と、事務用椅子がまず目の前にとびこんでくる。どうやら、おれはここで眠っていたらしい。
後ろに椅子を回転させる。すると、今度は真っ白な一人用にしては大きいシングルベットがあった。
ベットの中心には鍵らしきものが無造作に置かれている。
−速水刹那
鍵についているキーホルダーに刻まれた、名前を読み上げ、おれは薄々とここがどこなのか確信する。
おそらく、ここはおれの部屋だ。
床には群青色の絨毯が敷かれ、壁は青い縦のストライプの模様で彩られている。
こうしてみると何もないいたって普通の部屋だが、この部屋には一つだけおかしなところがあった。
「なんだ、これは……?」
机から向かって左手のプラスチック製の棚の先にある光景に、おれは首を傾げる。
位置からして、本来は窓だろうか。
外の風景はおろか壁も見えない程、その区画だけ隙間なく木の板や鉄板を敷き詰めてあった。
四端は太いネジが埋め込まれ、とてもじゃないが外せそうにない。
「テロか?」
経験から、もっともらしい答えを探る。
FBIとあろう者が閉じ込められるとはなんとも情けない話だ。
(にしても、一体どうなっているんだ……)
確か、おれは希望ヶ峰学園の入り口にきていたはずだ。どうしてこんな場所にいる?
と、考えたところで答えが出るわけでもない。
止む無くおれは、出口になりそうなものを探し始めた。
すると、ちょうどこの奇妙な壁の反対がわに白いノブを回す用のドアを発見した。
「武器になりそうなものは……ないな」
外に何があるか分からないため、机の引き出しを調べる。
引き出しの中はほとんど何もない状態だった。
あったのは、一番上に鉛筆などの筆記用具とカッター、のり、はさみといった文房具と、新品のノートが三冊。
二番目は何もなく、一番下にはおれの手の平に簡単に収まるくらいの透明な液体が入った小さな瓶が置いてある。
「なんだ、これは?」
よく分からないので、おれは触らず静かに元に戻しておいた。
低いとはいえ、爆発物という可能性も捨てきれないからだ。
続いて、棚を調べると寝間着が一着と、シャツ、下着が二枚ずつ。
それ以外はなにもない。
「結局、着の身着のままか……」
隠し持っていたはずの拳銃(もちろん本物だ)とジャックナイフも無くしたらしい。
落とすはずがないのに、本当に理解不能だ。
ピンポーン!!
「!?」
突如、鳴らされたチャイム音におれは思わず腰を低くして身構える。
どうやら、今の音はドアの方からしたようだ。
しかも、チャイムは一度きりでなく間を開けて、二度、三度と鳴らされている。
(だれだ……?)
声もなく、ひたすら鳴らされるチャイム音に、おれはドアを睨みつけた。
だが、扉の向こうの相手がこちらに入ってくる気配はない。
いつまでも立ち止まっている訳にいかず、おれは鍵を取り、警戒を緩めることなくドアに向かう。
それから、気晴らし程度の小さなドア穴を覗くとまだハッキリと分かった訳ではないが、下側に小さな人影が揺れていた。
「だれかいませんかー?」
(……子供?)
幼子のような声におれは一瞬ためらうも、警戒を解かずにドアノブに手をかける。
それからゆっくり回して、物音も立てないように開いた。
「あ、やっぱりあなたなんだね」
くりくりした青い目が狭いドアの隙間から現れる。
それはどう見ても、やはり小学生程の子供のものだった。
「大丈夫だよ。わたしは米倉 澪(よねくら みお)。あなたと同じ79期生だよ」
「米倉?」
おれは聞き覚えのある名前に思考を巡らせる。
米倉 澪。確か、世界中の音楽家たちを魅了する演奏を奏でる"超高校級のピアニスト"だ。
ソロに留まらず、合唱や楽器の伴奏も一流で、彼女が入ればその楽団の演奏会は大成功を収めるとさえいわれている。
だが、それがこんなに小さい子供とは……。
非常に失礼であるがおれは正直、驚いていた。
「"超高校級のピアニスト"の、米倉 澪か?」
「え?わぁ、すごーいっ!大正解だよっ。よく知ってるね」
随分失礼な物言い、更にドア越しだというのに、彼女はにこにことこちらに微笑んでくる。
どうやら、警戒する必要はなさそうだ。
おれは半分気を緩め一思いにドアを開ける。
そこには空色の青い瞳にプラチナブロンドのウェーブがかった髪を宙になびかせた人形のような少女が、柔和な笑みを浮かべていた。
「失礼した。おれは速水刹那という者だ。好きに呼んでくれ」
「えーと……それじゃあ、刹那くんでいいかな?」
「ああ、かまわない。おれはなんと呼べばいい?」
「わたしも好きに呼んでいいよ〜」
「では、米倉と呼ばせてもらう。いいか?」
「うん」
随分と同年代の人間と話さなかったせいか、どうしても挨拶が堅苦しい。
それでも、米倉は微笑みを絶やさずに答えてくれた。
「体調は大丈夫?」
「ああ。問題ない」
「そっか。よかった。あなただけいなかったから、心配してたんだよ」
「おれだけ?」
「そう。もう他のみんなは集まっているから、一階の玄関ロビーに行こう?」
「……分かった」
他のみな、つまりここに今日、入学する連中が揃っているという。
おれは心の底から感じる嫌な予感を覚えながらも、米倉の案内に従って玄関ロビーへと向かっていった。
(見られているな……)
米倉について廊下を歩きながら嫌な気配を感じて振り返る。
自室では確認していなかったが、この廊下には数箇所にわたって監視カメラが配置されていた。それに付随して、小型テレビも見受けられる。
(犯人の意図はなんだ……?)
道幅も広く、カーペットが一面に敷いてある廊下はホテルを思わせるものだが、変わった蛍光灯によって全体的に蛍光色に照らされていた。
以前、極秘の任務で裏組織に潜入したこともあるが、それでもここまで悪趣味な廊下は見たことがない。
「辰美ちゃん」
ふと、米倉の足が止まる。
先を見ると、ちょうど下り階段の前に手を挙げている一つの人影が見えた。
ラフにYシャツとズボンを着こなした茶色のショートヘアの、女だろう。
胸の辺りにそれらしい膨らみがあるのが分かる。
「おお、澪。そいつが最後の一人か?」
「うん。速水刹那くんっていうんだって」
「へぇー。かっこいい名前だなぁ」
彼女は赤いフレームの眼鏡をかけ直すと、おれの顔をまじまじと見た。
「ありがとう。君は?」
「おれかい?おれは笹川 辰美(ささかわ たつみ)。超高校級のゲーマーってやつだ。まぁ、好きに呼んでくれ」
笹川 辰美。どの分野のゲームも世界大会で連勝。そして数々の新記録を打ち出し、誰よりも早く裏技を見つける“超高校級のゲーマー”。
女性だとは事前に分かっていたが、彼女の態度や口癖はどうも男性を思わせる。だが、悪い気はしない。
「では笹川で。おれも好きに呼んでくれてかまわない」
「お堅いやつだな。落とすには時間のかかりそうなタイプってやつ?」
「落とす?」
「ああ。なんでもねーよ。じゃ、おれは刹那って呼ばせてもらうぜ。さてと、他の連中はもう待ちくたびれてんじゃねぇかな?早く行くぞ」
笹川は背を向けると、おれたちを急かすように足早に階段を下りていった。
「辰美ちゃんはね、口は男の子みたいだけどすっごく優しいの。怖がっていたわたしに最初に話しかけてくれた子なの」
「そうか。怖がっていた、とは?」
「実は……あ、でもまずは下にいってから話すね。みんな待ってるから」
「そうだったな。すまない」
「ううん、いいよ。じゃあ行こう、刹那くん」
米倉に続いておれも階段を下りる。
階段を下りた先を真っ直ぐ進むと、そこにはおれたちを含めて15名の生徒が集まっていた。
やはりある分野の天才級の人間が揃っているせいか、オーラを感じる、と言ったら言い過ぎだろうか。