二次創作小説(紙ほか)

Re: originalダンガンロンパ ( No.25 )
日時: 2013/07/07 07:52
名前: 魔女の騎士 (ID: lMEh9zaw)


「……ふむ。さすがは希望ヶ峰学園だ。すごいな」
「ああ」


 おれと安積でカウンターの傍に向かい、思わず頷く。
より近くで見ると、キッチンの奥は冷蔵庫や食器用の棚はもちろん、調味料専用の大棚もあることが分かった。
15名の寮にしては、充分過ぎる設備だといえる。


「あ、刹那くん」
「あづみんもいるよっ!」


 カウンターに近い米倉と雅がおれたちに気づいたのか、こちらに駆け寄ってくる。


「それは…サラダか?」
「うんっ。グリーンサラダだよ〜。みーちゃんとわたしが作ったの」
「ドレッシングは優くんが作ってくれたんだよ。今はメインデッシュの味つけとデザート作っているの」
「へぇ。僕たちに手伝えることはないか?」
「そうだね……。そういえば、まだ食器を出してないからあるからそれを運んで欲しいな。フォークとか、ナイフとか」


「分かった。安積、こっちだ」
「ああ」


 安積を手招きした後、おれはカウンターの端につけられた扉をくぐってキッチンに入った。
安積が来たと同時に扉を一応閉め、食器棚のある奥に向かう。


「お前たち、来ていたのか」
「安積と……速水……だな」
「あら。安積と速水だったのね。てっきり、花月か御剣だと思っていたわ」


 その途中、米倉たちの反対側、電子コンロのある方にいた篠田とアヤメに話しかけられ、おれは顔を向けた。
篠田はメインプレートににんじんを添え、アヤメはスープを容器に注いでいる。
そして、篠田の後ろには荷台に料理を載せている大山と、フライパンから上がった炎と格闘している石蕗の姿があった。


「どう見たらその二人と僕たちを間違えるんだ?」
「うふふ。そうね、ごめんなさい。ここからだと外側はあまり見えないのよ」
「確かに……そうだな」


 おれは首を回し、食堂を見る。
 アヤメの言う通り、この薄暗いオレンジ色の光の中では、何かがいるのは分かるものの、だれなのかは判別しにくい。
現に御剣がいる出口付近の席だと、陰が色濃くて人がいるのかも特定できないほどだ。


「ふふ。そういえば、安積……」


 楽しそうなアヤメの笑い声に胸騒ぎを覚え、おれは思わず首を戻す。
彼女が目配せした先では、笹川と東雲が黙々とウサギ林檎を皿に盛りつけていた。


「笹川はあっちよ。がんばってね」
「なっ!? なにを唐突に!?」
「あら、てっきり彼女に用があると思ったのだけど?」
「そ、それは……まぁ、そう…だが………」
「けっ」


 笹川が一度だけおれたちを睨み、そっぽを向く。
明らかに、不機嫌な様子だ。


「……速水刹那」


戸惑いがちに顔を向けてきた安積に、おれは大丈夫だと、頷きだけ返し笹川を見遣る。
それで、安積は決心したらしい。
まだ困惑した様子だったが、大きく深呼吸をして彼女の前に歩み寄った。


「笹川辰美」
「………」
「辰美ちゃん……呼ばれて……ますよ?」
「笹川辰美っ!聞こえていないのか!?」
「そんだけ声上げて、聞こえないわけないだろ?」


 笹川がようやく体を安積へ向け、やけに落ち着いた様子で言い放つ。


「で?なんだよ?」
「あ、その……さっきはすまなかった。僕の不用意な発言で君のことを傷つけてしまって……」
「……ふーん」


 まだ怒っている…のだろうか。
笹川は口を真一文字に結んだまま、それ以降言葉を続けようとしなかった。


「「………」」


安積もさすがにああ切り返されては言いづらいだろう。
そのため、できあがったのは二人が真っ向から睨み合うという、傍から見ている人間にとっても重苦しい状況だった。


「た、辰美ちゃん……」
「ね、ねぇ、タッツー。許してあげなよ。あづみん、謝ってるんだからさ」
「笹川……もう……」


 あまりの気まずさに、彼女の隣にいる菊を始め、雅や大山が助け舟を出す。
その会話におれも入ろうとしたところで、気づいた。笹川がわずかに口元をほこばせていることに。


「くく……っ。ちょ、もう無理っ」


 堪えきれない様子で安積を眺め、笹川が吹き出す。
それに安積はもちろん、おれも、みなもただ呆然としていた。
今の流れでなにがおかしいのか……見当もつかない。


「ははっ。お前って、本当に正真正銘の馬鹿だなっ」
「なっ!? そ、それはどういう意味だっ!?」
「どっかの恋愛シュミレーションで出てくるキャラか、ってこと。真面目過ぎるんだよ」
「れ、恋愛しゅみれーしょん?」
「なんだ、そういうゲームも知らないのかお前?」
「あ、当たり前だっ! 僕はゲームなんてまったくしてないんだぞっ!
それに、あれは目を悪くするじゃないかっ!」
「ぷっ。ちょっ……まんま同じ台詞っ。もう、笑わせんなってのっ!」


 笹川が安積の肩をばんばん叩き、笑い声をあげる。
しかし、対して安積は今にも頭を抱え込みそうなほど、戸惑いがちな表情を浮かべていた。
周囲も、同じような顔つきだった。


「な、なにがおかしい!? 訳が分からないぞっ!?」
「だーかーらっ! とりあえず、しゃべるなってこと」
「む…」


 笹川は安積の口に人差し指を当て、ニヤリと口を曲げる。
それから、彼女はうさぎりんごを載せた皿を彼の手に押しつけた。


「ほら、今からあっちに料理運ぶから手伝え」
「あ……ああ。分かった」


 いつの間にか機嫌を取り戻した笹川に言われるまま、安積はうさぎりんごの載った皿を運びはじめる。


「じゃ、菊。おれも運ぶから、残りのやつは任せたぜ」
「あ……は、はい……」


そうして、笹川もうさぎりんごの皿を二枚持ち上げるとさっさと手前の食堂に向かっていってしまった。


「えへへ。あの二人、仲直りできたね」
「……あれは仲直り、か?」


 一人嬉しそうに微笑む米倉に、篠田が怪訝そうに二人を見遣る。
おそらく、今この場にいる米倉以外の全員は篠田の心境に近いだろう。
見る限り、全員が困惑した面立ちで彼らを見据えていた。


「まぁ…確かに、仲直りはできたみたいね。終わりよければ全てよし。そういうことにしましょ」
「ああ」
「そう…だな」


 結局、きれいにまとめたアヤメの意見に頷き、元の作業に戻る。
元から料理に従事していなかったおれは、最初に米倉たちに頼まれた食器類を運ぶことにした。
ナイフとフォークが入った編みカゴをまず運んで、長テーブルに並べ、続いてグラスを引き取って同じように一人分ずつ並べていく。


Re: originalダンガンロンパ ( No.26 )
日時: 2013/07/07 07:54
名前: 魔女の騎士 (ID: lMEh9zaw)


「……そういえば」


 相変わらず長テーブルでのんびりと過ごしている花月、北条、御剣の三人を傍目に、おれは首を傾げた。


「間宮はどうしたんだ?姿が見えないが」
「間宮?」


 お茶をすすっていた花月が湯呑みから口を離し、ああ数学者のやつか、と頷いてみせる。


「あいつなら部屋に戻ったぜ。なんかひらめいた、って言ってノートにすごいスピードでなんか書いてたし」
「一人で帰ったのか?」
「いや、歌音ちゃんと眞弓ちゃんが部屋前までついていったらしい。
うらやましいよなぁ。レディに送り迎えしてもらえるとは」
「じゃあ、今度はお前に迎えに行ってもらおうか?」
「のお!?辰美ちゃん、冗談を。悪いけどボクは野郎を迎える趣味はないんで」
「働かざる者食うべからずだぞっ、御剣隼人!」
「嫌なもんは嫌なんだよっ!!
第一、犯人がいつ襲われるか分からないってとこに一人で行くとか、危ないだろうがっ!?」
「なら、おれも行こう」


 グラスの配置も完了し、他にすることもない。
それに、御剣の言うことも一理ある。
犯人がどこに潜んでいるかも分からない状況で、一人で行動するのは危険だ。
そういう意味で、名乗り出たつもりだったのだが……かえって御剣の顔色は一層険しくなっていた。


「えー……また野郎と一緒かよ」


ワイングラスに入ったジュースを傾け、ちまちまと口をつけて飲みながらため息をつく。
どうやら、迎えに行くよりも俺と行くことが不満のようだ。


「どんだけ男嫌いなんだよ、お前」
「だって考えてもみろよ。半分は麗しのレディたちがいる中で、なぜか野郎としか組んでないんだぜ!?
おかしくないかっ!!」
「どうしたの?」


 テーブルを叩いて熱弁する御剣を余所に、何も知らない米倉がサラダの取り分け皿を両手に載せてやって来る。
そこで、御剣の態度は急な変化をみせた。


「やあ、澪ちゃん。ちょうど今、間宮を迎えに行こうと思ってたんだ。よかったら一緒にどうだい?」


 不満そうに刻まれた眉のシワが消え、ニコニコと爽やかな笑みで語りかける。
おれが一緒に行こうと言ったときとは随分な差だ。


「なにいってるんだ君は!?速水刹那が行こうと言ったときは、とても嫌がっていたじゃないか」
「オレがいつ迎えに行くのが嫌だなんて言ったんだ?」
「屁理屈かよ。よく言うぜ」
「それはそれ、これはこれ。で、澪ちゃん。一緒に間宮クンを迎えに行かないか?」
「えーと……」


 渋い表情の安積と笹川を軽く受け流し、御剣はどうしようか迷っている米倉にウインクを送る。


「今なら特別に超高校級のホストの一級の接待付きだぜ?」
「あら、そうですの。だったら、そのお相手は私にしてくださらない?
ちょうど紅茶が飲み終わりまして。早くお代わりを注いで欲しいのですけど?」


 特別な接待、という言葉に、北条は笑顔を浮かべるとスッと空のティーカップを御剣の前に突き出した。


「え…?ええと……その、ごめんよレディ。オレは今から間宮クンを迎えに行く義務が」
「あら、レディを待たせる気ですの?それが一流のホストだなんて、信じられませんわ。
間宮様のお迎えは速水様と、米倉様を寄越せばよろしいのではなくて?」
「そ、そいつは…」


その場をやり過ごそうとする御剣に毒を含んだ言葉を浴びせながら、流れるような動作で扇子を広げる。
 その姿はお嬢様と言うより、女王様と言った方がしっくりくるだろう。
会話の流れを完全に掌握した彼女は、優雅な微笑みを絶やさないまま、鋭い目線で御剣を睨みつけていた。
御剣はというと、蛇に睨まれたカエルのように顔を強張らせ、押し黙っている。


「……わ、分かりましたよっ。お相手させていただきますって!」
「うふふふ……。それがいいですわ」


 しかし、最終的に北条に逆らえないことを悟ったのか、彼はがっくりと両肩を落として承諾した。
ティーカップを丁寧に持ち上げ、急ぎ足で台所に走る。
その後ろ姿を見送りながら、ぼそりと花月が呟いた。


「やっぱ女ってこえぇー……」
「なにか言いまして?」
「いや、別にー」
「ええと…それじゃ、式くんを刹那くんと一緒に迎えにいけばいいんだよね?」
「そういうことだ。米倉澪」
「えへへ、また一緒で嬉しいなっ。それじゃあ、行こう刹那くんっ!」
「ああ」


 米倉が一人一人の取り分け皿を並べ終わったのを見計らって、おれは彼女といっしょに食堂を後にした。
やはり相変わらず、廊下は悪趣味な蛍光色の光で照らされており、食堂と一線を越えて一層不気味さを増している。
見たところ、おれたち以外にはだれ一人として廊下にはいないようだ。


「やっぱり、ここは怖いね…。照明が変なせいかな?」
「そうだろうな」
「だよね……。ねぇ、刹那くん、唐突だけどクイズを出してもいい?」
「クイズ?」
「そう。わたしに関するクイズだよ」


 寒気さえする廊下を並んで歩きながら、おれは口を結び、しばし返答の言葉を考える。
おそらく、米倉のことだから悪意はないのだろうが、なぜ急にクイズに発想が至ったのかよく分からなかった。


「……別にかまわないが。どうして急に?」
「まだお互いのことあまり知らないから、クイズに出した方が楽しめるかなって。ほら、テレビでもよく盛り上がっているでしょ?」
「そう…なのか?」
「あれ? 刹那くんはバラエティ番組とか見ないの?」
「そうだな。ここ数年は見ていない。おれはずっとアメリカに暮らしていたし、仕事で忙しかったからな。あまり日本のテレビ番組は知らないんだ」
「へぇ〜っ!それじゃ、刹那くんって英語が得意なの?」
「ああ。現地にいても困ることはない」
「すご〜いっ!!でも、日本語もすごく上手だね?」
「父さんが日本人だからな」
「お父さんが日本人……。ということはお母さんは」
「アメリカ人だ」


 おれがそう告げると米倉は顔をパッと輝かせてみせた。


「ということは、刹那くんってハーフだったんだね!
  てっきり日本人だと思ってたよっ!」
「ああ。肌の色も黄色だし、日本の名前だからな。米倉はどうなんだ?」


 階段を上りながら、プラチナブロンドの髪に青い瞳の彼女に尋ね返す。
名前を聞けば日本人だが、見た目はどう見ても純粋な日本人ということはないはずだ。


「わたしの家族は日本人だけど、おじいちゃん一人だけイタリアの人なんだ!
 それじゃあ、唐突だけど、ここで問題っ。刹那くんがハーフならわたしはなんでしょう?」


 祖父が外国人で、それ以外の親族が日本人……。
つまり米倉は換算して四分の一の遺伝子を受け継いでいるわけだから……。


「”クオーター”、だな」
「正解!刹那くんには簡単だったかな?」
「そうだな。これくらいは一般常識だ」


 米倉にそう返し、おれは前に視線を戻す。
それぞれの個室に繋がる廊下に出たらしく、左右に扉が一定間隔を開けて並んでいた。

Re: originalダンガンロンパ ( No.27 )
日時: 2013/07/08 01:27
名前: 魔女の騎士 (ID: lMEh9zaw)


「……ん?」
「どうしたの?」
「いや、これが少し気になってな……」


 立札みたいなものだろうか。
おれは間宮の部屋の前で腕を組み、さきほどまでなかったと思われる代物を眺めた。

 扉のローマ字で「MAMIYA SHIKI」と刻まれた名前の上に、いつの間にか白いプレートが取り付けられている。
それには黒のドットで、縮れた長い髪で片目が隠れている男……間宮と思われる顔が描かれていた。
念のため、他の部屋も確認すると、全員が同じように、ローマ字で書かれた名前の上に名前に対応したドットのプレートが各自かけられている。


  「米倉、おれの部屋を訪ねに来たとき、こんなものはあったのか?」
「ううん。なかったと思うよ。確か、名前だけじゃなかったかな?辰美ちゃんたちも言ってなかったし……」
「そういえば、そうだな」


 ここは花月、笹川、東雲の担当だったはずだ。
だが、彼らからこんなプレートがあったという報告は聞いていない。
敢えて報告することもなかったのか、それともおれたちが食堂にいる間に設置したのか。
戻った後、彼らに一度確認する必要がありそうだ。


「でも、この似顔絵ってとっても似ているよね。これなら、遠くから見てもすぐにだれのお部屋か分かるよ」
「ああ……確かに、分かりやすいな」


 わざわざドット絵を選別したことに、悪意を感じるといえば言い過ぎだろうか。
米倉が間宮のプレートを誉めているのを横目に、おれは扉の横についたインターホンを押す。
ピンポーン、というチャイム音が一度外にまで響き渡った。


「間宮、いるか?」


 数秒を置いて、おれはできるだけ大きな声で尋ね、扉を何度かノックする。
しかし、数分が経過しても返事がくることはなかった。扉が動く気配も、まるでない。


「式くん、ご飯できたよーっ。早くしないと冷めちゃうよーっ!」


 米倉が背伸びをしてインターホンを押し、何度か呼びかける。


「間宮、返事をしろ」
「なんで返事もないのかな……?いるはずなのに……」


 米倉と一度顔を見合わせ、おれは扉の前に向き直る。
既に数分は過ぎたはずなのに、一向に返事がない。


「もしかして……」


米倉の不安げな視線がおれに向けられる。

 間宮が返事をしない理由。
その最悪の事態は嫌なほどすぐに思い至った。

—「だれかを殺したものだけがここから出られる」

 頭に浮かんだモノクマの台詞を振り払い、おれは米倉に向き直る。


「…まだ、決めつけるのは早い」


 単に間宮が気づいていない可能性だってあるはずだ。
自分にも言い聞かせるように米倉にそう告げてから、おれは扉から距離をとった。
内側から閉まっている以上、扉を開けるにはぶち破るしかない。


「刹那君、何をするの?」
「ドアを破る。離れてくれ」
「で、でも、規則では扉を壊したらいけないって。もし規則を破ったら刹那君が……!」
「大丈夫だ。開けるだけで壊しはしない。だから規則違反にならないはずだ」


でも、と米倉が言葉を濁す。 おれはその先を聞かなかった。
低く身体を構え、一直線に頑丈な扉へ突撃をかける。


「ちょーーっと待ったああーーー!!」
「な!?」


しかし、おれと扉の間に唐突に現れた白黒の物体、モノクマにそれは阻まれた。
規則の一つである校長への暴力を禁ずる、という一説を思い出し、なんとかやつの前で踏みとどまる。
それに、やつはやれやれと言わんばかりに息をついた。


「もぉ〜、困っちゃうなぁ、速水くん。扉を破ることが許されちゃったら、鍵をかけてる意味ないじゃーん!!
 頭使いなよ、も〜っ!!」


 不満げに語尾をあげ、幼子のように腕を上下に振り回す。
それを間近で見下ろしながら、おれは頭痛を覚えた。

 毎度のことながら思うが、こいつは一体どこから出てくるのかまるで予測できない。
今のところの目撃情報をもとにすれば、小ホールと二階、食堂は出て来れるといったところだろう。


「だが、間宮の安否を確認するには扉開けないといけない。となれば、鍵のないおれたちにできるのはこれしかないだろう」
「ノンノン。分かってないな〜、速水くんは。こういうときこそボクを呼ぶんだよ」
「呼ぶ?」
「そうそう。モノクマ校長〜とか、モノクマ先生〜とか。あ、”モノクマ様”でもいーよっ。誠意をもって言ってあげたらすぐ駆けつけてあげるからさ。
 ただし、しょうもないことで呼ぶのは止めてよね。ボクだって忙しいんだからさ」
「わかりました。それじゃ困ったときに呼びますね」
「米倉……。仮にもそいつはおれたちを拉致した挙げ句、閉じ込めた連中だぞ。心を許すな」
「あ、そう…だね……」
「もぉ〜、つれないなぁ。速水くんのノリの悪さにはガッカリだよ」
「ほめ言葉として受け取っておこう。ところで、この部屋の鍵をあんたは持っているのか?」
「まっさか〜!!ルームキーなんて一部屋に一つだけだよ!」
「じゃあ、どうやって開けるんですか?」
「それはね〜……じゃっじゃじゃ〜んっ!!」


 もったいぶってモノクマが取り出したもの。
それは、モノクマをモチーフにした青みがかった鍵だった。


「マスターキーッ!」
「マスターキー?」
「どこの扉でも開けられる鍵のことだ」


 首を傾げる米倉にそう答え、おれはモノクマを睨みつける。


「それも一つしかないんだな?」
「もっちろん。でないとマスターキーなんて言えないしね!それじゃ、早速開けてみましょう〜!!」


うぷぷぷぷぷ、と気味の悪い笑い声を出しながらモノクマは鍵を間宮の 扉に鍵を差し込み、器用に回す。
それから……重々しい音を立てて扉は開いた。


「間宮!!」


 モノクマには一別もくれず、おれは真っ先に扉の中に走る。


「なっ……?」


 しかし、部屋に入ってすぐ、おれは目の前にとびこんできた光景に思わず足を止めた。
 間宮の部屋の壁は、天井とその近辺を除いて一面が真っ黒に染まっていた。
よく見るとそれは全て数式だった。
縦横無尽に書き込まれた数式が、壁を覆い尽くして真っ黒になっているように見える。
 ただ、なによりもおれが驚いたのは、ベットの上の壁で必死にペンを動かしていた間宮の姿だった。


「おい、間宮!」


 何かにとり憑かれているかのように、ひたすら訳の分からない数式を書き続けている彼の肩を掴み、耳元で呼びかける。


「間宮!!」
「……ん?……速水、だっけ?」


間宮の栗色の髪が揺れ、緑色の瞳がこちらを向く。
顔色を伺う限り、どこにも問題はなさそうだ。
どうやら、おれたちの心配は杞憂に終わったらしい。


「まったく……心配したんだぞ」
「なにが?」
「お前がいつまで経っても部屋から出てこないから、てっきり何かあったのかと思ったんだ」
「ああ、なるほどね」


 何事もなく淡々と間宮は頷く。
どうにも……どっと疲れた気分だ。


「ごめんね〜。数式を書いているときは何も聞こえなくて」
「だろうな」


 おれが肩を揺らして耳元で叫んでようやく気づいたくらいだ。
おそらく、完全に集中しきっているのだろう。
でなければ、この壁に書かれた数式の羅列はどうみても短期間ではなしえない。


「式くん、大丈夫!?」
「えーっと……米倉だよね?速水ときたの?」
「そうだよ。刹那くんとお昼ご飯ができたよって迎えにきたの。
でも、式くん、返事がなかったから心配になって……」
「そうなんだ。二人には悪いことしたね〜」


 どう聞いても反省しているのか分からないくらい気の抜けた言葉に、おれは肩を落とす。


「とりあえず、食堂に行こう。おそらくみんな待っている」
「りょーかい。と、その前にちょっとだけ数式」
「やめろ」


早速ペンを取り上げて書き始めようとする間宮の細い腕を掴み、首を左右に振ってみせる。


「えー……」


 妙なデジャブを感じるのは気のせいだろうか。
間宮の不満げな視線がおれに向けられる。
とはいえ、ここで間宮が数式を解きだしたら、また止まらなくなることは確実だろう。
そんなことをしている間に料理が冷めてしまう。


「いいから、来るんだ。みんな待っている」
「……わかった。じゃあ本当に少しだけ待って」


 そう言って、間宮は自分の手の甲に短い数式を書き留める。
聞くと、続きをするときにどこまでやったのか分かるようにするためだそうだ。


「いいよ。じゃあ行こうか」
「ああ…。ん?モノクマは?」
「いないよ。刹那くんが部屋に入った後、それじゃあボクはこれで、って言ってどこかに行っちゃったから」
「……そうか」


 おれはそれ以上何とも言えず、間宮と米倉と部屋を出る。
 そうして、間宮が部屋に鍵をかけた後、特に言葉も交わさないまま早足で一階の食堂へ戻って行った。