二次創作小説(紙ほか)

Re: originalダンガンロンパ ( No.3 )
日時: 2013/07/03 12:47
名前: 魔女の騎士 (ID: lMEh9zaw)

「お?お前が最後のやつか」
「ああ。おれは速水刹那。好きに呼んでくれてかまわない」


 敢えて警察であることは伏せ、とりあえず名乗りをあげる。すると、他の生徒たちは一斉にざわめき始めた。


「速水刹那だな?初日から遅刻とはどういうことだっ!!もうみんなとっくに集まっていたんだぞ!!」
「おいおい。そう言いなさんな。こんな状況だろ?」
「すまない。どうも……気を失ってな。気がついたら自室と思われるところに倒れていた」
「なんだと?お前もなのか?」
「お前も?」
「実はさー、わたしたちもなんだよね。その、気絶して部屋にいたのって」


 全員だと?
 おれはなにか引っかかるものを感じて、今の状況を整理する。
ここに今日入学するはずの全員がいるということは、やはり誘拐か何かに巻き込まれたと考えた方がしっくりはくるが……。


「ねぇ、みんな自己紹介してくれないかな?わたしと辰美ちゃんはしたんだけど、刹那くんはみんなのことは知らないから」
「面倒くせぇな」
「でも、彼がだれと話してるか分からない、っていうのも困るわよ」
「そう……ですね」
「では、改めて自己紹介していきましょう。私たちも確認も兼ねて」
「りょーかい」


 14名全員の視線がおれに集中する。
既に彼らの準備はできているようだ。


まずは手前にいるやつから話していくことにしよう。
おれは最初に、ピンク色の着物に濃い緑色の袴姿のお下げの女に話しかけた。


「あ、あの、初め……ましてわたし……えと……その……」
「?」
「お、怒ってます?」
「……怒っていない」


 不本意ながら怖い顔と言われ慣れてはいるが……。
さすがに、初対面でここまで怯えられるとおれでも傷つく。


「す、すみません。あの……わたし、東雲 菊(しののめ きく)っていいます。超高校級の大和撫子って言われて……ます」


 東雲 菊。
大和撫子といえば、言葉の意味では日本女性の理想とされる意味だが、彼女の場合、茶道、日本舞踊、生け花、カルタ取り、鞠付きといった大方の日本の伝統を極めた女性、だったな。
その業績から、国に国宝とまで認められているらしい。
しかし……。


「……そんなに怖がらなくても、おれは何もしない」
「は、はい……すみません」


 やはり、おれが怖いらしく彼女は今だにしっかりと視線を合わせようとはしない。
下手をすると今にも泣きだしそうだ。ただでさえ弱々しい声が震えきっている。
 どうにも、いじめているようにしか思えないので、おれはそれ以上何も言わず、ため息を一つだけ吐いて別の生徒に向かっていった。

 次におれはブカブカの白衣着た、栗色のパーマを散らした中性的な生徒に話しかけた。


「ぼくは間宮 式(まみや しき)。数学者だよ」


 間宮 式。
抜群の集中力と発想力で数々の難題を打ち破った数学オリンピックの優勝者で、数学者たちも一目置く“超高校級の数学者”だったな。
高校生ながら大学院に出入りしていて、日夜数字に囲まれる日々を送っている、とのことだ。


「ところで、君はどんな数式が好き?」
「数式?」
「そう。友愛数とかルートとかがベタだけど、ぼくは円の数式が好きだな。綺麗にまとまるもの。sinとcosってほんと、すばらしいよねっ。
 数字といえばやっぱり零の概念は重要でしょ?あれが確立されたからこそ、数学は大きく発展したんだ。現代の機器はまさにこの恩恵をたまわっているよね」


 話の通り、数学について語り始めると止まらない性分らしい。
のんびりとしていた間宮の顔は輝き、言葉にはどんどん熱がこもっていく。
さすがに、長くなりそうなのでおれは断りを入れてから次の生徒に向かった。

 今度の生徒は、カウボーイハットと茜色の髪と同色の顎髭が特徴的な男だ。


「よっ。オレは御剣 隼人(みつるぎはやと)。ここでは超高校級のホストで通ってるぜ」


 御剣 隼人。
口説きのテクニックと、親しみやすさから多くの女性客に指名をもらう“超高校級のホスト”。
おれはこの類いには詳しくないのでよく分からないのだが、彼に会うためにはるばる遠方から訪れる女性も多いそうだ。


「お前酒はイケる口か?」
「……どういう意味だ?」


 急に振られた話題に、おれは顔をしかめる。
諸外国はまだしも、ここは日本だ。二十歳未満の飲酒は禁止されているはず。


「おや、ここの連中は堅物だなぁ。さっきのやつもえらい手厳しいやつだったし。ま、飲む酒もないんだけどな」
「はぁ……」


  職種上やむを得ないのかもしれないが、普通は飲まないのが常識だと思うが……。
おれはそう思いつつ、彼から背を向ける。
すると、その先で腰まで届きそうな深紅の髪をなびかせた、プロポーションのいい女性と目が合った。


「あら、こんにちは。私はアヤメ・ローゼンよ。“超高校級の俳優”と言われているわ」


 アヤメ・ローゼン。
10歳の頃から俳優を目指し、主人公の子供役としてハリウッド映画で一躍デビュー。
以降、数々の名作でその演技力を発揮している“超高校級の俳優”だったな。


「よろしく頼む。アヤメ、と呼べばいいのか?」
「ええ。お好きにどうぞ。私は速水と呼ばせてもらうわ」
「ああ。それにしても光栄だな。“サイタニック”で見たことがあるが、迫真に迫る演技だった」
「あら?あなた、映画はよく見る人なの?」
「いや。連れに映画好きのやつがいてな。あんたのことをよく誉めていたよ」
「そうなの。嬉しいわ。次回作はわたしが主役のものだから二人で是非観てちょうだい」
「ああ」


 姿勢、喋り方、まるで隙がない。
さすがに一際厳しい芸能界に身を置く人間だけはある、といったところか。


「それじゃあ、他の子にも挨拶してらっしゃい」
「そうさせてもらう」


 これで後は8名。
おれは奥の方にいるやつらに向き直ると、まずは浴衣姿に羽織をはおった坊主頭の男に話しかけた。


「おれは花月 京(かげつ きょう)!”超高校級の歌舞伎者”さ!」


 花月 京。
幼少期から女形めがた役者として出演し、現在も子供と女の役を専門にしている“超高校級の歌舞伎者”だ。
彼の活躍はめざましく、廃れつつある歌舞伎にブームを巻き起こしたと言われている。


「速水刹那だ。よろしく頼む」
「おうよっ!刹那って呼ばせてもらうぜ!にしても、いいよなー、その身長」
「身長?」
「そうそう。だって身長さえ高けりゃ女もんなんてやらなくて済むだろ?」
「なるほど……。歌舞伎は、男性しかできないからな。男性が女性の役をする必要があるのか」
「お!分かってんじゃん!!とまー、そんなわけでよろしくっ!!」
「ああ」


 歌舞伎者と聞いて古風な男児を想像していたが、元気で明るいやつだ。
 笑顔をふりまく彼におれは手を挙げて答えてから、次に黒髪を上で一つにくくった、気の強そうな女性に話しかけた。


「私は篠田 眞弓(しのだ まゆみ)だ。よろしく頼む」


 篠田 眞弓。
有名な弓道場の跡取りで、幼い頃から弓道に励んでいる”超高校級の弓道者“だったな。
彼女が小学生のとき、流鏑馬(やぶさめ)に選ばれて見事真ん中に的中させた話はおれも記憶にある。


「篠田、と呼んでかまわないか?」
「ああ、別に……かまわないぞ。わたしも速水と呼ばせてもらうからな」
「ああ。…………」
「…………」


 お互い、相手を見ながら無言が続く。
……どうやら、彼女とおれは似た者同士ということらしい。


「……失礼する」


彼女はそう言って頭を下げると道を開けるように、離れていった。