二次創作小説(紙ほか)
- Re: originalダンガンロンパ ( No.34 )
- 日時: 2013/07/13 10:15
- 名前: 魔女の騎士 (ID: lMEh9zaw)
おれが訪れた先は、ちょうど先ほどいた場所とは反対側の舞台袖、
つまりは上手側と呼ばれるところだった。
ここには、バスケットボールといった屋内球技用のボールや得点票、
及びにマット、跳び箱といった体育館によくある備品が揃っている。
そのボールを入れるための籠に囲まれた一角に、雅と石蕗の姿があった。
「うぅ〜、あっ、せっちゃーんっ。ひどい目にあったよぉお〜」
頭を抱えて床に座り込んだ雅が顔を上げる。
おそらくは、笹川と何かあったのだろう。雅の瞳は涙で潤んでいた。
「どうした?」
「タッツーにゴチンってされた〜」
「えーとですね…笹川さんに拳骨をもらったんです」
石蕗はそう言うと、事の一部始終を話す。
彼の話によると、笹川は雅をここに追い込んだ後、
彼女の頭に拳骨を一度食らわせて、ホールの方に去ったらしい。
その際、雅があまりにも怯えていたので、石蕗が間に入ったそうだが、
結局怒っていた笹川を止めることができなかった、とのことだった。
「どうも…安積さんとの仲を言われたことが嫌だったみたいで」
「安積と?」
「はい。おれはゲームに否定的なやつとなんか絶対付き合いたくないって、そう言ってました」
「…なるほどな」
未だにうずくまったままの雅を見てから、おれは石蕗に尋ねる。
「ところで、東雲の鞠は見つかったか?」
「いいえ。ここも探してみたのですが、まったく。速水さんは?」
「おれも見かけていない」
「そう、ですか。他の方々が見つけているといいですけど…」
「ああ、そうだな…」
今のところ、他のグループからの連絡はない。
となると、だれもまだ見つけていない、ということだろう。
何事も起こっていない、という点では喜ぶべきだが。
「あの……速水さん、少しいいですか?」
「ああ、なんだ?」
「実は、そろそろ夕食の準備にとりかかりたいと思いまして……抜けさせてもらっていいですか?」
「そうか……分かった。では、おれも食堂まで同行しよう」
「大丈夫ですよ。ここからでしたら、五分もかかりませんから。
速水さんは東雲さんの鞠を探してあげてください」
「だが……」
「心配しないでください。僕も一応…男ですから」
「ならいいが、気をつけろよ」
「はい。それでは僕はこれで。雅さん、もう変なことを言っちゃ駄目ですよ?」
「うぅ…ツッチーまでそんなこと言うー……」
「みんな雅さんが心配なんですよ」
拗ねた雅に石蕗はくすりと笑い、軽く会釈をする。
そして、石蕗はそれ以上何も言わず、舞台袖から出て行った。
それにしても、もうそんな時刻か……。
確かに、昼時から随分時間は経っているはずだが……。
おれは念のため、小ホールに出て時計を確認する。
現在の時刻は五時過ぎ…だな。ようやく、一日が終わりそうだ。
「ねぇねぇ、せっちゃん、せっちゃん」
「…なんだ?」
見ると、雅が舞台袖口からひょっこりと顔を出し、
小声でこっちこっちと手招きしている。
なんというのか…悪い予感しかしない。
とはいえ、無視することもできないため、おれはまた舞台袖に入る。
そうして予想通り、雅はすかさず話を切り出した。
「ここだけの話、せっちゃんはホントはだれが好きなの?」
「…どういう意味だ」
「みーちゃんとも仲良いし、菊っぴとあややとも良さそうだったし、
さっきはタッツーともいい感じだったよね。本命はだれなの?」
「本命…?」
「そうそうっ。ここだけの秘密にしてあげるから、教えて教えてっ!」
目を輝かせる、とはこういうことを言うのだろう。
雅は満面の笑みのまま、期待の眼差しをおれに向けていた。
つい先ほど、その類で痛い思いをしたはずなのに…懲りていないらしい。
おれはため息を押し殺すと、できるだけ穏やかに答えた。
「…おれにはそういう女性はいない」
「え〜っ!? せっちゃん、本当に隠してない?」
「なぜそう思う」
「だって、みーちゃんも菊っぴもあややもタッツーも、せっちゃんと仲良いもんっ!
初日なのにあんなに仲良しってことは、せっちゃん、だれか好きなんでしょっ!?」
「…いいや。全く、そんなつもりはない」
「ウーン…そうかなぁ…? そうかなぁー……?」
雅は首を捻りながら、疑いの視線を向ける。
そう言われても、おれとしてはそれ以外、他に何も言いようがないのだが……。
「では、雅はおれがだれを好いているように思うんだ?」
「う〜ん……そうだなぁ。やっぱりみーちゃん?
タッツーはなんだかんだ言って、あづみんだと思うんだよねっ。
後、菊っぴはきょんきょんで、あややはしぃちゃんと仲良しって感じ」
「……間宮とアヤメが?」
他の組は理解できるが、彼らは覚えのない組み合わせだ。
彼らの接点らしいものとすれば、おれの記憶では最初の探索のときに一緒であったくらいしかない。
「うん。しぃちゃんがお昼ご飯のとき言ってたんだけど、ローゼンっておもしろい人だねって。
だから、しぃちゃん、あややが気になってるんじゃないかな〜って!」
そう言い、次にキャーッ!と雅は一人、声を上げてはしゃぎ始める。
普通の女性ならば、そう大して気にとめなかっただろうが…彼女は超高校級のソプラノ歌手。
はしゃぎ声一つでも、頭にワンワンと響いてくる。
「…その一言で判断するのは、どうかと思うが」
「絶対そうだよ〜っ! わたしの勘って結構当たるんだもん♪」
「だとしても…おれは皆のことは同級生程度にしか思っていない……。それは本当のことだ。」
「ええぇ〜、お似合いなのにーっ!」
「…そういう雅は、だれか気になるやつでもいるのか?」
「え?……えーと。…………。
………まーくん?」
「不動、か?」
「あ、えーとっ! なんというか、まーくんってあれだけど、良い人だと思うんだっ!」
良い人?
おれは雅の言葉に思わず、そう尋ね返しそうになった。
不動の初対面や報告会での態度や言動を見る限り、おれの中ではどうにも、攻撃的なイメージが強い。
特におれはともかくとして、雅が関わろうとするためかもしれないが、彼女に対しての扱いは、目に余るものがある。
普通なら、嫌っているまではいかないとしても、多少の苦手意識はあってもおかしくはないはずだ。
「どうしてそう思うんだ?」
「え? なんとなく。女の人の第六感ってやつだっけ?」
「…あんな酷いことを言われてもか?」
「え、そんなこと言われたっけ?」
「……は? ……マヌケ、とか」
「あ、それか。う〜ん……わたし、嫌なことはすぐ忘れちゃうからな〜。
あんまり気にしてないよ、そういうの」
「……そうなのか」
「うんっ!」
雅は満面の笑みで頷くと、こう付け加えた。
「それにね、”仲良くなりたい”って思ってたら、相手もいつか答えてくれる。
お母さんの受け売りだけど、わたしもそう思うんだっ!」
「…ああ。いい言葉だな」
「でしょ〜。 えへへ、せっちゃんにそう言われると照れちゃうかもっ。
うん、そろそろ晩御飯前だし、わたしも真面目に探そうかな…。
それじゃ、せっちゃん、またあとでねっ!」
「ああ、またな」
言い終わる前から舞台に繋がる小さな階段を駆け上がり、瞬く間に雅の姿が牡丹色の幕の中に消える。
”仲良くなりたい”……か。
他人を疑いたくなるようなこの状況下でも、ああいう風に思える雅は、おれたちの中でもっとも必要な存在なのかもしれない。
「おれも…探すか……」
まだ時間はある。加えて、調べなければいけないことも山積みだ。
今はそれを一つ一つ片づけていくしかない。
片隅で”消えた高校生”の行方を考えながら、おれは再び東雲の鞠の捜索に戻っていった
- Re: originalダンガンロンパ ( No.35 )
- 日時: 2013/07/15 07:45
- 名前: 魔女の騎士 (ID: lMEh9zaw)
あれから数時間、笹川、雅と共に小ホールをくまなく調べたが、
特にめぼしいものはなく、肝心の東雲の鞠は遂に見つからなかった。
その内に、安積と花月から晩御飯ができたと伝言から、
小ホールの探索を打ち切って、ひとまずは食事にすることになった。
「んんー、おいしーいっ!
茶碗蒸しとか鮭の塩焼きとか、普通の見た目なのにすっごくおいしいよ!」
「ありがとうございます。お昼は洋食でしたので、今晩の料理は和食にしてみました。」
「私としては、洋食が好きですけど……まぁ、悪くありませんわ」
「日本料理はヘルシーフードと呼ばれてるからなっ! 健康にはいいんだぞっ!」
「食事中に御託はいいっての。せっかくの飯が不味くなるじゃないか」
「でも…本当に…石蕗の…料理は……おいしい」
「ああ。久しぶりに日本料理を食べたが、いいものだな」
「うんうん、んんーめぇっ! 優って本当に料理上手いんだなっ!
本場でもなかなかここまでいかないぜ」
「あ、ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」
「そんな風に遠慮しなくていいって。ほんと美味いんだからこれっ」
「分かったから、口に物を入れて喋るな。行儀が悪いぞ」
「そーだそーだ。眞弓ちゃんの言うとおりだぜ、ガキんちょ」
「おっさんに言われたくねーしっ!」
「ああん? なんつったいまっ!?」
「…どっちもどっちだね〜」
「二人とも、喧嘩はダメだよ? あ、優くん。
後でこの料理の作り方教えてくれないかな? おじいちゃんに作ってあげたいの」
「もちろん、いいですよ」
「わぁ、ありがとうっ」
「わたしも教えて教えてーっ!」
「あら、じゃあわたしも教えてもらおうかしら?
料理のレパートリーも増えるし」
「あ…あの……わたし……も……」
「ええ、いつでも聞きにきてください。
もしレシピが欲しかったら、手書きになりますがお渡しします」
一名はやはり欠席だが、同じ境遇の者同士、打ち解けてきたこともあるだろう。
昼食時よりも和気あいあいとしている食卓になった。
しかし、殺人を強要された今の状況では、和やかなだけではいられない。
全員が箸を置いた頃を見計らって、必然的におれたちは今日のこと、
そして、これからのことについて話す流れになった。
「んー、どこもだめかー……」
東雲の鞠探しに参加した全員から話を伺ったところ、
予想通り、他のグループでも、東雲の鞠を見つけることはできなかったらしい。
一応、鞠捜しに来ていない他の生徒たちにも尋ねてみたが、
彼らもそういうものは見かけていないとのことだった。
「まいったなぁ…菊の大事なもんだってのに。どこいったってんだよ……」
花月はいつになく参った様子で木製のイスの背にがっくりと体を寄せ、
坊主頭を掻きながら、大きく息を吐く。
「あの……すみません。……お時間…とらせてしまって…」
「ううん、気にしてないよ。こっちこそ見つけてあげられなくてごめんね、菊ちゃん」
「おい、ガキんちょ。なんで菊ちゃんに謝らせるんだよっ。
今すぐお前が土下座して謝るべきだろっ!?」
「はぁっ!? なんでいなかったやつにまで謝らなきゃいけないんだよっ!?」
「おい、二人ともっ。今はこんなこと話してるときじゃないだろう」
「そうね。これからのことを話さなきゃいけないもの」
「ああ、そうだ。 喧嘩は後で好きなだけやればいいっ!」
「いや、それも問題だろ」
「とりあえず、だれか何か気がついたこと、もしくは気になることはないか?
あれば、遠慮なく発言してくれ」
どうやら、安積が司会を務める件は、既にみなの暗黙の了解になっているらしい。
安積が13名を一度見渡し、発言を促した後、最初に緩く手を挙げたのは、間宮だった。
「質問、出口は見つかったの〜?」
「いいや、まったく。通気口とか、舞台裏とか……
なんか怪しげな箇所は狙ってみたけど全部アウトだった」
「おいたちの…部屋も……出口、なかった」
「食堂にも、それらしいものはなかったな……」
「…つまり、何の進展もなかった、ということですわね」
仰々しくため息をついた挙げ句、何食わぬ顔で言ってのけた北条に対し、数人が眉を寄せる。
何もしていないお前に言われたくない、ということだろう。
特に花月と篠田は顕著で、明らかな敵意をもって、彼女を睨みつけていた。
だが、すぐに周囲の空気は一変する事になる。
「あら、分かったじゃない。逃げ場のない密室に閉じ込められたってことが」
周囲の空気が一瞬で凍りつき、全員の視線がアヤメへと集中する。
しかし、俳優とあって元から見られることは慣れているのか、彼女は狼狽えることもなく涼しげな様子だ。
確かに彼女の言う通りなのだが…こうもはっきり述べられると、おれとしても唖然とするしかない。
「お、おいおいアヤメちゃん。そんなこと言いなさんなって。よりにもよって、こんなときにさ…」
「でも、事実は事実よ。それは受け入れるべきだと思うわ」
「…まぁ、そーだよね〜。事実は事実だもんね〜」
「で、でもさっ、出口がないってことは、わたしたちどうすればいいの?」
「…簡単ですわ。ここから出たければ、だれかを殺せばいいのですから」
「おい、洒落にならないからやめろよっ!!」
北条の言葉に、花月が反論の声を上げる。
やはり、徐々に関係を築いてきたとはいえ、まだ異常な所に閉じ込められたことが大きいのだろう。
程度の差こそあれ、全員動揺は隠しきれないようだ。
「みんな落ち着いてくれ。冷静にこれからどうすべきか考えよう。
悪い方に考えれば、悪い方にしか行動できなくなる」
「うーん……そうだね。なにか、いい方法はないかな?」
米倉がそう言って首を傾げてみせる。
そこで、スポットライトに照らされたようにアヤメがまた躍り出た。
「簡単よ。ここでの生活を受け入れるだけ」
「……えと、それはここで暮らすことを受け入れる、ということでしょうか?」
「そうよ。住めば都って言葉があるでしょう? モノクマの校則にさえ違反しなければ、食糧にも寝る場所にも困らないのだから、 快適に過ごせるんじゃないかしら。もちろん、殺し合いなんてなかった場合よ」
「それは……本気、か?」
「あら、わたしはいつでも本気よ? こういう経験なんて滅多にできないから、とても新鮮で楽しいわ」
「いや、おれとしてはこれが仮想現実(バーチャル)ならまだしも、現実(リアル)はマジ勘弁なんだけど?」
笹川は半ば呆れた様子で呟き、異様な物でも見るようにアヤメを覗く。
おそらく、大半のメンバーはそう思っているだろう。
おれとしても、彼女のように、今の現状を楽しむ、なんてできる気がしない。
「ところで、提案があるんだけど、いいかしら?」
「提案? その提案とはなんだ、アヤメ・ローゼン」
「閉じ込められている以上、わたしたちはこの場所で夜を過ごさなければならない。
それは分かるわよね。みんな、夜時間に関するルールは覚えてる?」
夜時間に関するルール……第二項と第三項のあれだな。
おれは頭の中に電子生徒手帳の規則を思い浮かべる。
2.夜10時から朝7時までを夜時間とします。
夜時間は立ち入り禁止区域があるので注意しましょう。
3.就寝は二階に設けられた個室でのみ可能です。
他の部屋での故意の就寝は居眠りとみなし罰します。
この二つが夜時間のルールに当たるはずだ。
- Re: originalダンガンロンパ ( No.36 )
- 日時: 2013/07/15 07:46
- 名前: 魔女の騎士 (ID: lMEh9zaw)
「この夜時間に関して、もう一つルールを追加した方がいいと思うの」
「ルールの……追加…です…か?」
「そう。単刀直入に言えば、夜時間の出歩きは禁止。
校則では夜時間の出歩きは禁止してないけど、そこに制限を設けるのよ」
「え、あやや、それどうして?」
「だって、こう思わない?
夜の闇に紛れてだれかが殺しにくるんじゃないかって」
「なっ!? なにを言っているんだ、アヤメ・ローゼン!
僕たちがそんなことをするはずがないだろうっ!?」
「もちろん、そう思いたいわ。でも、そう思ってしまう子だってこの中にいるかもしれないわよ?
わたしも含めて、ね」
「…つまり、その防止策として、夜時間の行動に制限をかける訳ですわね?」
「ええ。でも、校則と違って強制力はないからみんなの協力が要るわね。
ここにいない”だれかさん”はとりあえずとして…ね?」
ここにいないだれか…不動のことだな。
正直に言えば、おれとしても仲間を疑いたくはない。
が、現状を悪化させないためにも、ある程度の線引きは必要だ。
現時点で一番恐ろしい事態は疑心暗鬼による共倒れ。
それだけは、なんとしても避けなけばならない。
「わたくしは賛成ですわ。アヤメ様のおっしゃる通り、
それなりにルールを設けなければ、疑念に埒があきません」
「僕も男子を代表して賛成するっ!」
「ちょいちょいお兄さんっ。あんたいつの間に代表になったんだよ!?」
「まー、いいんじゃね? これに反対ってやついないだろ?」
「…そう、みたい…だな」
「うふふ、みんな賛成でいいのね? それじゃ、約束よ。わたしはもう行くわ」
「…え? どちらに行かれるのですか?」
「もうすぐ夜時間になるから、その前にシャワーを浴びようと思って。だれか一緒に行く?」
「わたくしも行きますわ。では御剣様、部屋の前までお供してくださる?」
「え? …あ、ああ、分かりましたよ」
アヤメと北条、それに御剣が付き添って食堂から出て行く。
それは他の者に留める隙すら与えないような、ごく自然で当たり前の行動のようだった。
「も、ものすごい割り切りようだねー」
「こんな場所に泊まるのに何の疑問も抱いてないってノリだったよな、あれ」
住めば都、か……。
殺人さえ起こらなければ、確かにそうかもしれない。
だが、例え殺人がなかったにしろ、一生ここで生活するのはだれもが嫌なはずだ。
手遅れになる前に、一刻も早く脱出口を見つけなければ……。
「どうするの〜? 三人もいなくなっちゃったけど?」
「う…。そ、そう、だな……。では、今日の会議はこれくらいにしよう。
もうすぐ夜時間だからな! 僕らも明日に備えて今日は休もう、以上っ」
「……ここに…泊まる……しか…ない……ですか?」
「仕方ないだろ、菊。寝なきゃ体力削られるだけだし。あ、なんなら一緒に寝る?」
「…え?」
「なななな、何を言ってるんだ 花月京っ!? 年頃の男女が一緒に寝るなんて、破廉恥だぞっ!!
風紀が乱れるし、なによりそういうことはだなっ ごふっ!?」
「お前黙れよ。話聞けねーだろ」
顔を赤くして慌てふためく安積に、笹川は遠慮なくひじ打ちをくらわせる。
それが、また懐に入ったのだろう。
安積は報告会のときと同じように、その場に膝をついていた。
……笹川、少しは加減してやれ。
「京、さすがに、それはまずくないか? モノクマってやつ、リア充はお断りっぽいし」
「リア充?」
「恋人がいるってこと。まあ、ラブラブってやつな」
「そ…それは……」
「違うって。おれと菊は昔から家も近かったし、仲良かったから一緒に寝たりもしたけど、
添い寝くらいなもんだし、今回もそれだけだよ。な、菊」
「………」
「…菊?」
「………あ。………は…はい。……そう…です」
「どうしたんだよ? やっぱり疲れてんのか?」
「……た、たぶん」
「じゃあ、早く部屋に戻って休むか。おれの部屋くる?」
「えっ。……い、いい…ですっ! ……一人で、寝れますっ!」
「そうか? それならいいけど、なんかあったらおれの部屋来いよ?」
「は…はい……」
「それじゃ、おれらも行くわ。お先ーっ」
花月と東雲が二人そろって出ていくのを見送り、二人の姿が見えなくなって数分が経過した後。
瞬く間に女性陣から黄色い悲鳴があがった。
「京くんと菊ちゃんって本当に仲良しだよね」
「いやいや、”仲良し”じゃないだろあのレベルッ!?
ああ〜っ! ったく、見てるこっちが砂糖吐きそうだったぜっ!
くっそあの鈍感野郎っ!! 気づけっての!!」
「うわああああ、菊っぴ片思いなんだぁっ!! どうなるんだろっ!?
すっごく先が気になるよねっ、まゆゆんっ!!」
「わたしは別に…。それより、雅、余計なことをしてややこしくするんじゃないぞ」
「は〜いっ!!」
「な、なんだって言うんだこれは!?」
「女性は……ああいう話が……好き、だからな」
「そうですね。とても楽しそうです」
女子が一斉に盛り上がる最中、おれを含めた男性陣はなんとも言えない表情で、女性陣営を眺める。
そういえば、女性はこういう系統の話が好きらしいな……。
おれには理解できないのだが……。
「ところで、今日はこれでよしとして、明日からはどうするの〜?」
「今日のように手分けして調査を続けよう。何か発見があったらまた互いに持ち寄ればいい」
「うん、オッケーッ! そうしようそうしようっ!」
「歌音ちゃん、元気だね」
「花月と東雲の件だろう。まったく、呑気なやつだ」
篠田はやれやれと言わんばかりにため息をつき、未だに興奮の冷めない雅にうるさいぞ、と釘を刺す。
こうしてみると、まるで篠田が雅の保護者のようだ。
「それじゃ、僕はここの片づけをしてから行きますので、皆さんは先にお帰りください」
「おいも……残る。石蕗」
「大山さん、ありがとうございます」
「おれも手伝おう」
「いえ、大丈夫です。食器洗浄機に食器を入れるだけですので……また明日、手伝ってください」
「……分かった。ありがとう」
「どういたしまして。皆さん、おやすみなさい」
石蕗が一度頭を下げ、微笑みかける。
その笑顔に見送られながら、おれたちは揃って食堂を出て行った。
部屋に戻ったおれが最初に始めたことは、引き出しに入っていたノートに今日の出来事を記すことだった。
なにぶん、初めての場所だ。覚えることも多い。
なによりも、今は一刻を争う事態だ。 だからこそ知りえたこと、疑問に思うことは、できる限り記憶しなければならない。
(やはり、多いな……)
寮の構造、設置された設備、モノクマ、そしてもう一人の79期生……。
簡潔に内容を絞るとこんな感じだが、それをまとめることに随分時間を使ってしまったらしい。
おれが書き終えた頃には、あの忌々しい声が部屋中に響き渡っていた。
キーン、コーン… カーン、コーン
「えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより夜時間になります。
間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す。
ではでは、いい夢を。おやすみなさい……」
……時間か。
おれはノートの上に鉛筆を走らせながら、思わずため息をつく。
ここを出ない限り、毎晩この不快な声を嫌でも耳にしなければならない。
そう考えれば、とてもため息をつかずにはいられなかった。
夜時間には出歩かない……だったな。
先ほどの約束を思い出し、ふと、気づかぬ内に扉の前に戻っていた自分に苦笑する。
この時間帯も調べてみたいところだが…今日は休もう。
さすがに初日から約束を破るのは、気が引ける。
そう自分に言い聞かせ、コートとネクタイを脱ぎ、ベッドに横になる。
特に身体的に疲れたことはなかったが…精神的面での疲労は否めなかった。
久しぶりの学生生活に重ねて、某映画のような理不尽なサバイバルゲーム。
これでは、疲れないはずがない。
おれ自身、まだどこかこの状況を受け入れられないのだから……。
それでも……おれが、みなを守らなければいけない。
警察という役職もあるが、おれの思うところでもある。
話していない者もいるが、基本的にみな良い奴だ。
だから、だれも死なせたくない。殺し合いなど、以ての外だ。
(必ず……全員で出よう)
胸に誓い、ゆっくりと目を閉じる。
そして片隅にこれが悪い夢であることを願いながら、希望ヶ峰学園の初日は幕を閉じていった。