二次創作小説(紙ほか)
- Re: originalダンガンロンパ ( No.52 )
- 日時: 2013/07/31 08:30
- 名前: 魔女の騎士 (ID: lMEh9zaw)
- プロフ: http://akanohadou.web.fc2.com/oridann-character.html
‐”あいつは若いのによくやるよ。さすがはリリアの息子だ”
‐”あ〜、またこいつの相棒自慢が始まったぞ……”
‐”ほっとけほっとけ。酒がまずくなるわ”
‐”ひどいことを言うんじゃない。ジャンはおれにとっちゃ息子のようなもんなんだぞっ!!”
‐”耳にタコができるくらい聞いてる。お〜いジャン、どうにかしてくれこいつ。お前の相棒だろ”
仕事の終わりに仲間と飲みに行ったときの光景が思い出される。
それは、日本に帰る直前のもので、年齢の都合で飲めないおれのためにわざわざ酒場でなく、 レストランで食事をしていたときのもの。
…最後に見た仲間の姿だ。
(……なぜだ)
あんなに強い彼らが、”絶望”というものに負けた?
こんなにも、短い間に?
内容はともかく、手紙の筆跡は間違いようもなく先輩であり、血痕も本物。
モノクマを操っている真犯人の狙い通り、動機としては確かに十分だろう。
この閉鎖された空間を出ない限り、アメリカに帰国することははっきりいって不可能だ。
……もちろん、おれはだれかを殺すつもりなど微塵もない。
ようやく平静を取り戻したところで、静まり返った小ホールを見渡す。
小ホールに残っていたのはおれとその場に座り込んだ米倉、そして端の方に佇んでいた大山の三名だった。
「二人とも……大丈夫…か?」
「ああ……なんとかな。米倉、大丈夫か?」
「………」
米倉は顔を伏せたまま、こくこくと頷き返す。
あまり大丈夫そうではないが、こちらの声は聞こえているようだ。
「……単刀直入に聞くが、手紙はどういうものだった?」
「おいは…信じられない……。こんな手紙……」
大山は首を振ると、白い封筒に入った手紙を差し出してきた。
読め…ということか?
「読んでいいのか?」
「かまわない……。他のを…読めば…少し……冷静に……なれる」
「ありがとう。なら、おれのも渡そう」
互いに手紙を交換し、封を切ってから裏返す。
出てきた手紙は、便箋ではなく和紙で文字もペンとは違い炭筆で丁寧に書かれていた。
(これは………)
大山の手紙の主は、雰囲気から女性からのようだった。
内容は道場が何者かによって爆撃を受け、道場が保たないということ。
大山は逃げろという旨だった。
「この手紙は一体だれからなんだ?」
「師匠の奥さんで……おいたちの……母さんみたいな…人、だ」
「そうか。この文字はその人のもので間違いないか?」
「……多分、間違いない……と、思う。速水の手紙は……英語、か?」
「あぁ、仕事の仲間からきたんだ。 助けてほしい、と」
「そう……か。本物……なの、か?」
「今のところは、分からない。この状況では明らかに怪しい内容だが……
筆跡が完全に偽装されたものとも思えない」
内容は偽装できるだろうが、筆跡まで偽装となればかなり難しい。
筆跡はその人物の癖まで浮き彫りになるからだ。
いくら犯人がおれたちの周囲を把握していても、真似をするのは限界がある。
特におれの手紙と大山の手紙では言語がそもそも違うため、その違いも踏まえると更に偽装は難しくなるだろう。
おれがこの手紙を嘘だと決めつけられないのもそれが原因だ。
- Re: originalダンガンロンパ ( No.53 )
- 日時: 2013/07/31 08:42
- 名前: 魔女の騎士 (ID: lMEh9zaw)
- プロフ: http://akanohadou.web.fc2.com/oridann-character.html
「……辛い、な」
「……ああ。大山は辛くないのか?」
「正直……おいは……唐突過ぎて……信じられない……。
確かに……心配……ではある……」
「そうだな。すまない、当然のことを聞いたな」
「いや……。気にして……ない」
「そうか。……米倉、大丈夫か?」
「………うん」
米倉の前まで膝を折り、尋ねてみる。
そこで、米倉はようやく顔をあげた。
元から白い肌なこともあってか、顔色は幽霊のように青白い。
泣いていたのか、彼女の青い瞳は赤く腫れあがっていた。
「これがおれの手紙だ。読みたくないのなら構わないが……」
「……ううん、読む」
米倉が手を伸ばして手紙を受け取る。
祖父が外国人とあって英語も分かるのか、彼女は黙々と読み進めているようだった。
「この人……どうなっちゃったの?」
下りの部分まで読み切ったのか、米倉が目を丸くする。
「分からない。ただ、この手紙からすれば彼は既に……」
「……そう、なんだ」
先輩がどうなったのか、分からない。
その先を早く知りたいのなら、殺人を起こせ、ということだろう。
最も、この情報が本物であるのか疑わしいところだが……。
「あの…力也くんのも、いい?」
「ああ……見て、いい」
「ありがとう。刹那くんも、ありがとう」
おれの手紙を返し、今度は大山の手紙を読み始める。
彼女の顔はまだ青白いが、ようやく落ち着いてきたようだった。
「大山くんのも……ひどいことになってるんだね」
「米倉、落ち着いたか?」
「うん。刹那くんと力也くんのを見たら、みんな同じなんだなって思って。まだ、不安だけど……」
米倉は自らを抱え込むように小さく縮こまると、震える声で言った。
「わたしのお手紙は…友達からなの。
わたしのおじいちゃんが変な人たちに家を爆破されて、重傷になっちゃったって。
おじいちゃんはわたしに会いたいって言ってて…。早く戻ってきてあげてって」
「そうか……。辛い、な」
「うん…。でも、だからってだれかを殺すなんて嫌だよ。
そんなことをして、おじいちゃんが喜ぶ訳ないし……」
胸に手を当てて大きく息を吐き出し、隣に置いていた彼女自身の手紙を手に取る。
「これ……渡すね」
「いいのか?」
「うん。わたしのも……見たほうがいいかなって。刹那くんなら、何か分かるかもしれないし」
「ありがとう。善処する」
米倉が大山の手紙を返した後、おれは彼女から手紙を受け取り、中身を開く。
彼女の手紙は、おれと同じ便箋でピンク色で四方をふちどりされていたものだった。
表記はイタリア語だろうか、見慣れない文字が並んでいる。
が、所々英語と似ているので、なんとか読むことはできそうだ。
「イタリア語か……。米倉は達者だな」
「そんなことないよ。家族でお話するのに必要だから、いつの間にか覚えちゃっただけなの」
米倉は手を前で組むと、かすかに笑みをみせる。
…やはり、彼女は泣き顔よりも笑っている方が似合うな。
おれは彼女傍目に、手紙に一通り目を通す。
手紙の文体はおれのもの大山のものとも異なり、少女を思わせるような丸い文字が続いている。
内容は……米倉の言ったことと一致しているようだ。
特に、彼女が言及していない部分で気になるところはない。
「速水……なにか……分かる、か?」
「そうだな……」
手紙から目を離し、考えられることを二人に話す。
第一にこの手紙はおれたちをここから出たいと思わせるような内容であること。
第二にどの手紙にも何かしらの事件が起こっているということ。
第三に、手紙が届いた日付が明記されていないことだ。
ただ、紙の質からモノクマの言っていた通り、比較的どの手紙も最近のものであることは分かる。
「そういえば……みんな……携帯電話、なかった」
「アヤメちゃんはスケジュール帳がないって言ってたね。わたしのくまさんの腕時計もなくなってたし……」
おれたちの持ち物のなかに時計や携帯電話、スケジュール帳といった日付が分かるものが全てなくなっていたことも考えると、 犯人はおれたちに今の時間を知られてはまずいのかもしれない。
連絡手段である携帯電話はともかく、日にちを明かさない意図は不明だが……。
他の皆の手紙を見れば、また何か分かるのだろうか?
「ところで、二人に聞きたいことがある」
「なん、だ?」
「………いや」
開きかけた口を閉じ、おれは頭を振る。
おれは、あの動機とやらが起こるまでは、例の毒の件は伝えるべきだと思っていた。
殺人を未然に防ぐことは無論、それまでのおれたちならモノクマに対抗するためにも、
毒物を集めて処分する方向になるものと思われたからだ。
だが、今は違う。
皆を疑いたくはないが……今回の件で殺人のことはとにかく、少なからずここから出たいとは思っているはずだ。
だとすれば、殺人が起きてもなにもおかしくはない。
むしろ、ここで毒のことを伝えるのは、殺人を促す可能性すらある。
大山と米倉はおそらく、殺人を起こすことはないかもしれないが……
彼らが万が一だれかに話せば、その人物が必ずしも殺人を起こさないとは断定できない。
ならば、毒のことを伝えるのはせめて全員が落ち着くのを待った方がいいだろう。
「すまない、なんでもないんだ」
「そうなの?」
「ああ……。そろそろここから出よう。もう五時過ぎだ」
「そう……だな……」
「米倉、立てるか?」
「うん。ありがとう、刹那くん」
米倉にむかって手を差し伸べる。
それに米倉は捕まるとよいしょっと呟いて立ち上がった。
「……ふふ」
「どうした?」
「いや……和むなと……思った」
大山が姿勢を中腰から元に戻して、小さく笑みを浮かべる。
「笹川が……よく…夫婦だと……言っていたな、と。
……確かに…似合ってる」
「……悪いが、そんなつもりはないぞ」
「そうだよ。刹那くんとは友達だから、夫婦じゃないよ」
米倉……間違ってはいないが、否定するところはそこじゃないだろう。
おれの視線を感じたのか、米倉がちょこんと小動物のように首をかしげてみせる。
その隣で、大山はにっこりと満面の笑みになった。
「ふふ……。じゃあ、みんなで……帰ろう、か?」
「ああ。そうしよう」
「うん。帰ろう」
大山に続いて米倉が、米倉に続いておれの順番で並び、小ホールを出る。そうして、各自自室へと戻っていった。