二次創作小説(紙ほか)

Re: originalダンガンロンパ ( No.6 )
日時: 2013/07/03 12:52
名前: 魔女の騎士 (ID: lMEh9zaw)


「それにしても、変だよな」
「何がだ?笹川辰美」
「だってよ。寮と言えば、79期生以外の連中もいるわけだろ?だれも見かけてないじゃないか」
「そうだな。それにあの鉄板は、まるでおれたちを閉じ込めるためのようだ」
「おいと……安積でやったが……壊れなかった」
「無理もないわ。鉄だもの」
「どうなっているんでしょうね。ドッキリでしょうか?」
「ドッキリにしちゃ、ちぃと手が込み過ぎじゃないか。やっぱり、ヤバいんじゃねぇの?」
「どちらにせよ、腹をくくるしかない。虎穴に入らずんば虎児を得ず、だ」
「うふふ……。もうとっくに入ってるけどね」


 アヤメの笑い声が辺りに反芻する。
既に真っ暗闇に突入したおれたちは、だれがどこにいるかも分からない。

 辛うじて、まだ出口の扉が開いているのが救いだ。
ここで閉じられでもしたら、何人かは混乱に陥るだろう。


「おい、来てやったぞ。とっとと明かりをつけやがれ」


 彼の声を合図に、天井の照明が一斉に点灯する。
そこで、おれたちを待ち受けていたのは…


「あれ?入学式だね、どう見ても…」


 米倉がホッとした表情を浮かべる。
 赤い絨毯の敷かれた上には、ちょうど15人分のパイプイスが並んでいた。
奥の舞台にはマイクの付いた教壇とその後ろに日の丸の旗と希望ヶ峰学園の校章が掲げられている。


「んー、これって“普通”の入学式と同じだね」


 ずいぶんと前にいた雅が真っ先にパイプイスに座り、きょろきょろと辺りを見回す。


「ほら、みんなも座りなよ」
「だな。ずっと立ちっぱだと疲れるし。菊もしんどいだろ?」
「あ……はい……」
「静かに。ここは式場なんだぞ。とりあえず、空いてる席からみんなつくんだ」
「お前さんは先生かよ」


 雑談を交えながら、各自で適当に座り、おれも後ろの席につく。
それから、おれはゆっくりと辺りを見回した。

 小ホールという割には体育館並の広さがあり、ザッと見ても縦30m、横は15mくらいありそうだ。
そして、今は上げられているが、奥の舞台は天幕付きの立派なもので、それだけでも希望ヶ峰学園の凄さを実感できる。


(やはりな……)


 しかし、おれは予想通りの光景にため息をついた。
左右を見渡すと、バスケット用のゴールの下に見える通気孔らしき場所にも、鉄板が打ち込んである。

 どうにも、この企画を練った人間は徹底しておれたちを外から隔離させていると思わせたいらしい。
思わせたい、だけならいいのだが。


「それにしても……おふざけにしては、ずいぶんと悪趣味ですわね」
「まったくな。とんだびっくりだぜ」


 花月がそう言って明るく笑い飛ばしたときだった。
おれたちが“普通じゃない”光景を目の当たりにする事となるのは…


「オーイ、全員集まった〜!?それじゃあ、そろそろ始めよっか!!」


 どこからともなく声が、先ほどの校内放送の時のものが聞こえたかと思うと、“ソレ”はいきなり現れた。
白と黒色のカラーリングが、縦で半分に分かれたクマ、か?


「え…?ヌイグルミ……ですか?」
「ヌイグルミじゃないよ!ボクはモノクマだよ!キミたちの、この学園の学園長なのだッ!!」
「学園長……?」


 ここまで何かに視線を奪われたのは、生まれて初めてだったかもしれない。
だが、その対象が、あんな訳の分からない物体だったとは……思いもしなかったが。


「ヨロシクねッ!!」


場違いなほど明るい声。
場違いなほど脳天気な振る舞い。
間違いない、先程の声の主はこいつだろう。
 おれの抱いていた不快感はいつの間にか、底知れない恐怖へと変わっていた。
が、しかし……


「うおおお、スッゲェェェーッ!!!」
「ヌイグルミが喋ったぁぁぁー!!」


その中でも、花月と雅は幼い子供のように目を輝かせていた。


「お、おお、落ち着け!どうせ、ヌイグルミの中にスピーカーが仕込んであるだけだろう!!」
「お前さんが落ち着けよ」


 空気も読めずにはしゃぎだす花月と雅。
それに突っ込む篠田と御剣に、おれは一瞬どうすればいいのか分からなくなる。

ただ、冷静そうな篠田が、この状況にどこか戸惑っているのだけは理解できた。


「だからさぁ、ヌイグルミじゃなくてモノクマなんですけど!しかも、学園長なんですけど!」
「うわぁぁぁぁ!動いたぁぁぁぁっ!!」
「おいマヌケども。そのうるせぇ口閉じねぇと、糸縫い付けて二度としゃべれなくしてやるぞ?」
「雅歌音、花月京、落ち着くんだ!恐らく、ラジコンかなにかだろう」
「しょぼーん。ラジコンなんて子供のおもちゃと一緒にしないで。深く深くマリアナ海溝より深く傷付くよ」
「あ、ごめんなさい。クマさ……じゃなくてモノクマさん」
「米倉、謝らなくていい」


 おれは息を深く吸い込んで、モノクマというぬいぐるみを睨みつける。
やつはこの希望ヶ峰学園の学園長だと言っていたが、仮にこれがオリエンテーションというのなら、ここまでの悪ふざけも大概だ。


「あのねぇボクには、NASAも真っ青の遠隔操作システムが搭載されてて!って、夢をデストロイするような発言をさせないで欲しいクマー!!」
「クマ?ベタなのね」
「じゃあ、進行も押してるんで、さっさと始めちゃうナリよ!」
「それキャラ違うだろ、コロ○ケだろ」
「ご静粛にご静粛に。えー、ではではっ!」
「…諦めた、な」
「起立、礼!オマエラ、おはようございます!」
「「おはようございまーすっ!!」」
「おい、ここは幼稚園か?ぶっ殺すぞ?」


 きゃっきゃっとはしゃぐ花月と雅に不動の苛立った声が混じる。
知らぬが仏、という言葉の通りか。楽しそうだ。


「まあまあ、落ち着いて。では、これより記念すべき入学式を執り行いたいと思います!まず最初に、これから始まるオマエラに学園生活について一言。
えー、オマエラのような才能あふれる高校生は、“世界の希望”に他なりません!そんなすばらしい希望を保護するため、オマエラには“この寮内だけ”で、共同生活を送ってもらいます!みんな仲良く秩序を守って暮らすようにね!」
「は?」
「えー、そしてですね…その共同生活の期限についてなんですが」


なんのことかよく分からないおれたちに、わざとらしく、モノクマは一拍溜めると


「残念!!期限はありませんっ!!つまり、一生ここで暮らしていくのです!それがオマエラに課せられた学園生活なのです!」


きっぱりとそう言い放った。

 一生ここで暮らす?

おれはその言葉を自分の中で繰り返して、雷に打たれたような衝撃を覚えた。