二次創作小説(紙ほか)

originalダンガンロンパ ( No.86 )
日時: 2013/08/20 20:06
名前: 魔女の騎士 (ID: lMEh9zaw)
プロフ: http://akanohadou.web.fc2.com/oridann-character.html


「笹川あああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」


 安積の絶叫が裁判所に響き渡る。
 おれたちはその中で笹川のおしおきの様をモニターで見ていた。
今はドットの文字だけがおれたちの前に映し出されている。

 最後に映った豚を模した化物が斧を振りかざす映像からすれば……笹川は……。
おれはあまりの酷さに、震える拳を強く握り締めた。
笹川の目の前で父親を殺した映像を流し、挙句に化物に斬り殺される。あんな酷い殺し方は見たことがない……っ。


「辰美……ちゃ…ん……? いやだよ……っ。辰美ちゃあああああああんっ!」
「随分と酷いやり方じゃの」
「うええええええっ」
「なんて……ことをっ」
「こんな…酷すぎますっ! こんなのっ」
「ひいいいいいっ。もう……もうやだよぉっ!」
「アヤメ、笹川は〜……?」
「……死んだわ、もう。あなたは見ちゃダメよ、数学者さん」


 笹川の処刑に、皆の顔が一様に青くなり、数名は打ち震え、また数名は泣き悲鳴をあげる。
しかし、やつだけは違った。


「エクストリーム! アドレナリンが全身に注入されるううううう!!
 やっぱいいですなぁ。ゲームだと設定も簡単だし、どこまでも残酷に殺せますし、なにより思い出のゲームに殺されるっていいよね!!」
「貴様あああああああああああああああああ!!!!!
 ふざけるなああああああああああああああああっ!!!!」
「安積!!」


 笹川が死んだことで激昂した安積がモノクマに今にも飛びかかろうとする。おれはそれを地面に取り押さえた。
それでも、安積の怒りは収まらなかった。今にもおれの腕を抜けようと、躍起になって暴れまわっている。


「離せええええ、速水刹那!! あいつの、あいつのせいで笹川辰美が死んだんだっ!!
 許せるものかああああああああっ!!」
「うんうん。分かるよ。安積くんの気持ち」
「なんだとぉっ!?」
「信頼してた笹川さんに裏切られて絶望してるんでしょ? かわいそうにねぇ」
「貴様あああああああッ! そもそも全て貴様のせいじゃないかっ!!」
「安積っ! もうやめろっ! これ以上、おれも死人を見たくないっ!!」
「っ。……すまない、速水刹那」


 我に返ってくれたのか、安積は暴れるのを止める。
そこでおれは、ようやく安心することができた。
しかし、一方でモノクマは舌打ちすると玉座の上であぐらをかき始めた。


「ちぇッ。あ〜あ〜、つまんないの。妙な正義感に目覚めちゃってさ。
 せっかく処分できると思ったのに……残念だよ」


 処分……要は、安積を挑発して自分に暴力を振るわせた後、校則違反で殺す、ということだろう。
昨日の朝もその手を使って安積を挑発していたが、今回のものは一層質が悪い。


「学園長が、生徒にそんなことを言っていいのか?」
「ああ怖い怖い。速水くんに睨まれるとほんと、ボクの身の毛がよだっちゃうっ。
 うぷぷぷぷ……早いとこか〜えろっ! じゃあね〜っ」


 おれはモノクマを睨みつけ、ドスを聞かせた声で尋ねる。
 すると、思ったよりもあっさりとモノクマは引き下がった。
玉座から煙が吐き出され、やつの姿が煙の中に消える。
いつも通り、煙が晴れた時には、やつの姿は玉座から消えていた。


(………いなくなったな)


 モノクマがいなくなったことを確認し、おれは安積を解放する。
加減する暇もなく取り押さえたため、もしかしたら跡が残ったかもしれない。


「おれがいうのもおかしいが、大丈夫か?」
「ああ……むしろ、君には感謝しているよ。どうしても、僕は直情的だから……自分を抑えることができなくて。
 まだまだだな……僕は……」


 安積は易易と立ち上がると、全身を震わせてうなだれる。
それから、普段の彼では思えないような消え入りそうな声でこう言った。


「笹川辰美が最後に言っていたんだ。助けてくれとっ。
 なのに、僕は彼女を助けてやれなかったっ!
 それが悔しくて、悔しくて……っ! 僕は……っ!!」
「……安積」


 安積は泣いていた。
自分を責めるように、悲しみの涙をボロボロとこぼして泣いていた。
おれはしばらく、黙ることしかできなかった。

 無闇な慰めの言葉をかけても、現実は変わらない。
そう言うと冷たい人間と思うかもしれないが……
おれ自身が安積の立場とすれば、話を聞いてもらえる方がいい。

ただ、一箇所を除いて。


「生きるんだ。安積。それが笹川の望んだことでもある。
 生きて、生きて、一緒にここから出よう。だから、今は耐えてくれ」


 笹川が言っていたこと。この絶望的な状況で生きること。
それだけはおれは伝えるべきだと思った。
死ななければ、生きていれば、きっといつかここから出られるときがくる。
モノクマのやつに一泡吹かせることもできる。
それに……おれとしても”親友”を死なせたくはない。


「……ああ。必ず、生きてここを出るっ。
 そしてあいつを捕まえて殴ってやるっ!!」


 そう彼女と約束したからなっ!!
安積は袖で涙を拭うと、最後にそう言い足す。
おれはそれに力強く頷き返した。




 こうして、おれたちの非日常は終わったかのように思えた。
だが、今回の事件が更なる絶望への布石であることを、おれたちはまだ知る術もなかった。


第二章 殺人ゲェム END




『壊れたメガネ』を手に入れた。
笹川辰美の遺品。
ゲームのやりすぎで近視になった彼女のために、彼女の父親が購入したもの。
ブルーライトカットで目に優しい。

originalダンガンロンパ おしおき編 〜参照500突破 ( No.87 )
日時: 2013/08/20 20:11
名前: 魔女の騎士 (ID: lMEh9zaw)
プロフ: http://akanohadou.web.fc2.com/oridann-character.html


「これから先、また殺人が起きるだろうな」


 学級裁判が終了しモノクマがいなくなった後、
ずっと沈黙を保っていたおれたち中で発言したのは不動だった。
この場では最も聞きたくなかった言葉に、おれたちは一斉に不動の方を向く。


「なんだとっ!?」
「なにがおかしい? 一回起こったことだ。一度あることは二度ある。
 てめぇらの脆弱な精神じゃ、また誰かを殺す輩が現れるだろう」
「そんな訳あるかっ。二度と」
「で? それを信じていた結果がこれだろう?」
「っ」


 不動の言葉に安積が唇を結ぶ。
そう、確かに花月が死ぬ事件が起きるまで信じていた。

 殺人なんて起きるはずがない。
よもや、この中のだれかが起こすはずがない、と。
だがそれは笹川によって裏切られてしまった。

 一度殺人が起きた以上、殺人がおれたちにとって普通じゃなくなったことを意味する。
不動の言っているこれからも殺人が起きる、ということはそういうことだろう。

今のおれたちには耳の痛い話だ……。


「まーくん……」
「俺様はもう行く。いい加減疲れた。てめぇらといるのもな」


 不動は一人、裁判所を先に出る。
その後、不穏な空気から逃げるように、残されたメンバーも徐々に裁判所を後にした。
最後まで残っていたのは…おれと安積と、米倉だった。


「米倉…そろそろ戻ろう」
「……ごめんなさい。もうちょっと辰美ちゃんといたいの」
「……米倉澪」
「二人は先に帰ってていいよ。付き合わせちゃったら悪いから」
「……いや、そういう訳にはいかない」
「え?」
「あんたとは約束しているだろう? 一人にさせないと」
「……あ」
「米倉澪、僕もしばらく残りたい」
「闘真くん、大丈夫なの」
「……あまり、大丈夫じゃないが……大分、マシになった」


 安積の顔は未だに強ばっているが、先ほどと比べて落ち着いているように思えた。かといって、まだモノクマが出てきたときのことを考えると心もとない。
念のため、傍にいたほうがいいだろう。


「君たち、いつまでここでウロウロしてるのさッ」


 不快を覚える言い回しにおれは後ろを振り返る。

 また、あいつだ。
おれは心底、穏やかでない気持ちでそいつを見下ろす。
そこには鉤爪を出し、赤いランプを点灯させているモノクマが立っていた。


「いて悪いのか? 特にそういう話は聞いてないが」
「むむむ……そうですがっ。でもいつまでもいられると困るんだよね〜。
 これからお片づけしなきゃいけない訳なんで。
 あ、そうそう。さっき言い忘れてたんだけど……」
「なんだ?」
「安積くん、米倉さん、今回は多数決で助かったけど、次回は人数が更に少なくなるから気をつけてね。
 間違った犯人に、しかも自分に投票するなんてお馬鹿なことはさあっ!」
「っ」


 モノクマの言葉に、二人は目を合わせ、目を細める。
おれは傍から聞いているだけだったが、二人が何をやっていたかはすぐ理解できた。
おそらく、彼らは犯人を決める投票の際、笹川に入れず、自分に票を入れたということだろう。
笹川が犯人であることを認めたくなかったのか……あるいはそれ以外の理由なのかは分からない。
ただ、今の二人の様子をみると前者の理由である気がした。


「……なるほど。おれから気をつけるように言っておく。二人とも、行くぞ」
「……ああ」
「……うん」
「うんうん。速水くんはいい子だね。その調子でがんばってねーッ」


 おれはモノクマに返事を返さず、無言でエレベーターの方へ二人を誘導する。
本当は米倉の意思を汲んでやりたかったが、あの機嫌の悪いモノクマでは、いつ言いがかりをつけてくるか分かったものじゃない。


「すまないな、二人とも。残りたいと言っていたのに…」
「ううん。刹那くんは悪くないよ」
「ああ。モノクマが…やけに機嫌が悪かったからな。
 変な言いがかりをつけられる前に出てよかったと思う」
「そうか、ありがとう」


 おれたちはその後、始終無言のままだった。
と言うより……話せなかった。
口を開けば、今はいない笹川の話しか出てこなかったからだ。

 彼女なら、ここで茶化してくれたかもしれない。
雰囲気を変えるために、好きなゲームの話でも聞かせてくれたかもしれない。

だが……それはもう想像に過ぎない。

おれは彼女がいなくなった虚しさを感じながら、安積と米倉とそれぞれ部屋に戻っていった。