二次創作小説(紙ほか)
- Re: originalダンガンロンパ おしおき編 ( No.88 )
- 日時: 2013/08/22 17:08
- 名前: 魔女の騎士 (ID: lMEh9zaw)
- プロフ: http://akanohadou.web.fc2.com/oridann-character.html
既に時計は午後の八時を指している……。
部屋に戻ってからのおれは一人、学級裁判で気になることをまとめていた。
16席の教壇。おしおきの様子。そして、一瞬だけ映った希望ヶ峰学園の校門。
パンドラの件は何度も考えたので保留するが、あの残酷なおしおきができることは、真犯人にはそれだけ巨大な力があることになる。
モニターや照明、部屋、それに処刑に使った武器とロボット……どう考えても一人や複数いたところで、易易と揃えられるものではない。
となれば……真犯人には巨大な組織が後ろについているとみて間違いないだろう。
あとは……あの門だ。
笹川の処刑の際、一瞬だけモニターに希望ヶ峰学園と思われる場所が映ったときがあった。
門前の形状や位置、それらはおれがこの学園に訪れたときの記憶と一致する。
問題はその門の周辺で、笹川の父親を撃っただれかだ。
希望ヶ峰学園の前にあんな輩がいるとすれば、世間ではただ事じゃないだろう。
そもそも…日本では銃刀法違反だ。一体、どこから銃を持ってきたのか……。
そこで、おれは薄々思っていたあることが脳裏によぎった。
”希望ヶ峰学園の隠蔽したある事件”。
その事件におれたちは巻き込まれたのではないかと。
(外からの助けを待つしかないのか……っ)
内部は鉄の扉でしっかり施錠されている上に、道具もない。
窓や通気口といった他に外に出られる場所も鉄板で塞がれている。
希望があるとすれば、まだ行けないエリアのみだ。
しかし、あのモノクマの性格上、そう簡単におれたちを出すつもりはないだろう。
となれば、後は外からの助けを待つ他、おれたちが脱出する術は残されていない。
……それが分かったところで、おれに何ができる?
ピンポーン
「だれだ?」
頭を抱え、考えを巡らせた際にインターホンが鳴る。
それに、おれは考えるのを止めて扉の前に向かった。
「刹那くん、いる?」
「米倉? 今開ける」
扉を開けると、米倉が小さな腕で二人分の瓶のジュースとグラスのコップを器用に抱えていた。
床下には袋に入っていた三つの菓子パンが落ちている。インターホンを押すときに置いたのだろう。
おれはそれを拾い上げると、米倉から二本のジュース瓶を取り上げた。
「あっ、ありがとう」
「いや……重そうだからな。どうかしたのか?」
「あのね、優くんが用意してくれてたから食べようと思って。
刹那くんだけ食堂に来てないって聞いたから、持ってきたんだ」
「そうか、ありがとう」
「あの……実はわたしも食べてなくて……一緒に食べていいかな?」
「ああ。ちょうど時間を持て余していたところだ」
米倉を迎え、机をテーブル代わりにして、ジュースとグラス、パンを置く。
そして、米倉は椅子に座らせ、おれはベットに腰掛けた。
「他の皆は?」
「ご飯を取りに来たあとはみんな部屋に閉じこもっちゃってるみたい。
あの後、アヤメちゃんと食堂に行ったとき優くんがそう言ってたよ」
「食堂を通ったのか? 大丈夫か?」
「え…? どうして?」
「いや……花月の遺体があそこにはあるだろう?」
「あ……それなんだけど、モノクマさんが片付けちゃったみたいで……綺麗になってたよ。
優くんが教えてくれたんだ」
‐「死体があると気持ち悪いでしょ。衛生的にも悪いし…なので、ボクが綺麗に片付けておきましたっ」
死体がないことに戸惑っていた石蕗にモノクマがそう伝えたらしい。
それを、今度は石蕗から米倉も聞いたということだった。
「優くんもとても料理をする気が起きなくて……ただ一応お腹が空いたらって、パンを用意してくれてたの」
「なるほど。 石蕗は気配りがいいな」
「うん。優しいよね、優くん」
米倉はそう言って菓子パンの袋を破り、小さくかじりついた。
ゆっくり咀嚼している姿は本当にリスのような小動物を思わせる。
しかし飲み込み辛いのか、ひたすら頬張っていた。
「米倉、無理に食べない方がいい。後で食べたい時に食べたほうがいいだろう」
「う、うん……そうするね」
おれはひとまずジュースの蓋を開け、グラスに注ぐと米倉に渡す。
それに、米倉はありがとう、とお礼を言うとまず半分を一気に飲み、その後はちまちまと飲み始めた。
「刹那くん」
「なんだ?」
「今日はありがとう。刹那くんがいてくれたおかげで助かったよ」
「……どういう意味だ?」
「学級裁判。わたし…全然だれが犯人かなんて分からなかったから……。
刹那くんと不動くんがいなかったら死んじゃっていたかもなって」
米倉がジュースを飲むのを止め、一息つく。
「だから、ありがとうって言いたかったの」
「当然だ。みんなを死なせる訳にはいかないからな……。むしろ、すまなかった」
「え?」
「おれがもっと早く行動できていたら、笹川も事件を起こさなかったかもしれない。
未然に事件を防ぐのが、おれの仕事なのに……」
警察の役割として、事件の調査以外に、市民を守る役割と事件を未然に防ぐ役割がある。
おれはその中でも、事件の調査の専門だ。
だが……現状ではかえって、事件を未然に防ぐ事の方が遥かに重要度が高いだろう。
終わったことは変えることができない。
今回の殺人事件のように……。
「……すまないな、愚痴を言って」
「……ううん。そんなことない」
米倉は首を振ると、まっすぐにおれを見て言った。
「刹那くんは、がんばってたと思うよ。
だって、刹那くんだってわたしたちと同じ状態だったんだもん。
その中でそれ以上にわたしたちのことを気にしてくれてたのは刹那くんだよ」
「いや……それがおれの仕事だ」
「仕事? 違うよ、刹那くんはここでは学生でしょ? わたしたちと同じだよ」
「……。……そうだったな、忘れていた」
おれも本来であれば超高校級の警察官として呼ばれた学生。
現状での自分の立場上、警察官であるべきだと思っていたが……よく考えれば米倉の言う通りだ。
そう思うと、随分気持ちが楽になる。
「そうでしょ。 だから、刹那くんが全部一人で抱え込むことはないと思うよ。
一人じゃできないこともいっぱいあるんだし……みんないるから」
「ああ……そうだな」
おれは内心苦笑し、グラスに入ったジュースを飲み干す。
まさか……米倉に励まされるとは。
おれも、まだまだだな……。
「刹那くん、とても真面目だから、いつか全部自分のせいじゃないかって思うんじゃないかなって」
「……そんな心配はしなくていい。米倉は、自分の心配をしてくれ。
皆を守ることがおれの超高校級の能力だから」
「……そうかもしれないけど」
「大丈夫だ。おれにはあんたを含め、安積や皆がいる。そうだろう?」
「……うん。でも、何かあったら言ってね? わたしのできることは少 ないけど、お話だけなら幾らでも聞くから」
「ああ……ありがとう」
再びパンにかじりつき始めた彼女に習って、おれもパンを取り出してかぶりつく。
そうして、ジュースを時々酌み交わしながら、おれたちは他愛もない話を始めた。
好きなもの、趣味、学校でやりたかったこと……。
それは強制的なサバイバルゲームを課せられたなかで、数少ない心安らかになれるひと時だった。
時間は過ぎ、夜時間になる直前。
おれは米倉を部屋まで送っていった。
「刹那くん、送ってくれてありがとう」
「いいや……おれの方こそ、ありがとう。楽しかった」
「よかったっ。それじゃあ、おやすみなさい。また明日」
「ああ、また明日」
挨拶を交わし、米倉が部屋の扉を閉じてから部屋に戻る。
そうして、おれはシャワーを浴びてベットに入った。
強制的なサバイバル生活を忘れさせる、安らかなひと時を過ごせたおかげか。
あの陰惨な事件が起こったあとだというのに、不思議とよく眠れた一日になった。