二次創作小説(紙ほか)

Re: 【銀魂】 生涯バラガキ 【ミツバ編】 ( No.199 )
日時: 2013/12/13 00:54
名前: 花火 ◆Pt1jMZuGaQ (ID: x9WEDbHK)
プロフ: http://ameblo.jp/hanabi1010/entry-11728085320.html

参照≒「蒼紫→副隊長」。あと土方とか沖田とか。

 —

 土下座を続けながらそういう近藤。
 結局その場で返事をできないまま、その日は終わった。


 81訓 優しい人は損をすることが多い


『 …… 』


 近藤達が江戸へ上京する3日前となった。栄蓮は相変わらず空を見上げている。
 そんな栄蓮の隣にミツバが腰掛けた。


『 ミツバ… 』
『 どうしたの? そんなに浮かない顔して…何かあった? 』
『 …… 』


 —— “ 栄蓮…本当にずっとここにいてくれるの? ”

 不安げに、そして嬉しそうに尋ねてくるミツバを栄蓮は思い出した。
 だからこそ言えるわけがない。


 “ 江戸へ行かなくてはならないかもしれない ”などと。


 その時、近藤が八雲を連れてきたようだ。…何故かボロボロである。


『 あら。近藤さん、と…八雲さん? ふたりともボロボロじゃないですか 』
『 いや、ちょっと鎖を断ち切ってきたんだ! なっ、八雲! 』
『 …そッスね 』


 恐らく…“鎖”というのは、八雲が言っていた男のことだ。
 八雲を人斬りとして育てたその男を何とかしたのだろう。おかげでぼこられたようだが。


『 ミツバ殿。ちょっと八雲の治療をしてやってくれるか? 』
『 ええ、いいですよ 』
『 …… 』
『 八雲、大丈夫だ。ただの治療だ 』


 ミツバに対して一瞬怯えたような瞳を向けた八雲に近藤はそう声をかけた。
 それを聞いて八雲は表情を少し緩め、そしてミツバと共に一室へ入っていった。

 近藤はくるりと栄蓮の方を振り返る。


『 …栄蓮。その…昨日の事なんだが… 』
『 … 』
『 八雲もな、共に江戸へ行くことを決めてくれたよ 』
『 …… 』
『 今も男に話をつけてきたんだ。
  …これでもうアイツは、無理に人を斬らなくていい 』


 安堵しながら近藤は言った。栄蓮も小さく微笑む。


『 近藤さん。私も…八雲を支えたいですよ。私なんかで力になれるのなら、協力したいです 』
『 …… 』
『 でも…ミツバを置いてはいけない 』


 ミツバは病弱だ。江戸に行ったとして空気の悪さに体調が悪くなるのは避けられないだろう。
 栄蓮自身それは嫌なのである。


『 そうだよな…。それにもう約束してるんだもんな。総悟とも 』
『 …はい。どうすれば… 』
『 ——っああああああ!! 』
『『 ?! 』』


 八雲の叫び声が響き渡り、近藤と栄蓮は驚いて駆けつけた。
 
 そこには治療を終えた八雲とミツバ。それに二名の仲間がいた。
 その二人も動じているようだ。


『 オイ、何があった?! 』

『 す、すいません、近藤さん…! 俺達、噂の蒼紫の化け物がいた事に驚いて…!
  つ、つい…大声で…あ、蒼紫の、化け物だって…言ったんです…! 』

『 そ、そしたら…目の色、変わっちまって… 』


 八雲の精神状態は今極限なのだ。いくら縁をきったからと言ってもだ。
 近藤は慌ててうずくまっている八雲に近づく。


『 オイ、やく——ッ 』

『 テメェらも! テメェらも結局はアイツらとおんなじかよ?! ちょっと頼れば…!
  そうやってまた…みんな俺を裏切る…! っ化け物呼ばわりする!! 』


 その声にはまだ幼い少年の苦しみがあらわれていた。
 ずっとずっと苦しんだのだろう。近藤はそんな八雲に落ち着けといわんばかりに手を伸ばす。


『 触んな!! もう…俺に、関わんな…!

  もしくは…、殺せ…! ッ…殺してくれ…!! どうせ俺は化け物なんだよ…! 一生そう呼ばれんだ…ッ! 
  何かを護ろうとしただけなのに…なんで…なんで俺が化け物なんて…ッ! 
  ただ…護りたかっただけなのに…!!』


 次々と紡がれる言葉。全員が全員固まっていた。
 しかし次の瞬間、 うおらァッ! と言う掛け声と共に八雲が吹っ飛んだ。


『 こんの…馬鹿ァァ! 』

『 な…なんだとコラァッ! テメーに俺の気持ちが分かんねぇだろ?!
  家族に裏切られる気持ちなんざ…! 』

『 分かるかボケェェ! 』

『 じゃあ…! 』

『 でも! 人にぞんざいに扱われる気持ちは分かんなくもないよ?! 
  家族護ろうとする気持ちは分かんなくもないよ?! 私はその家族さえも傷つけちゃったけどね?! 』


 必死の剣幕で言ってくる栄蓮に八雲は目を見開いた。
 栄蓮は弱々しく微笑んで、八雲と目線を合わせるようにしゃがんだ。


『 凄いと思うよ…。家族そうやって、護ろうとできるんだから。
  どんな手段であれ…そうやってちゃんと、護り続けてたんだから 』

『 …もう護るものも、必要もなくなった…。親は完全に狂った…。
  俺にはお前を…誰かを殺す理由も…、もう何もない。…頼むから、殺してくれ 』

『 アンタが私を殺す理由がないように私にもアンタを殺す理由はない 』

『 …頼む…。もう…恐ェんだ…。裏切られんのも…誰かを殺すのも…もう…恐ェ…。
 俺に……居場所なんざ…ねェんだ……ッ——! 』


 よほど人に化け物と呼ばれたことが苦しかったのだろう。
 家族に裏切られたことも、誰かを殺すことさえも、本当はずっと恐ろしかったのだ。


『 …居場所ならあるよ 』
『 え… 』
『 江戸へ行くんでしょ? …あるじゃん 』


 その言葉に八雲は目を見開き、近藤を見た。近藤は優しく微笑む。


『 それにもし居場所がなくなったのなら、私がつくってあげる。
  アンタは人間だし、それに…ひとりじゃない 』

『 …… 』

『 何があっても、私は…私達はアンタを裏切らない 』


 八雲の瞳を見つめながら言う栄蓮。彼はどこか安心したような笑顔を見せた。


 —


『 …ミツバ、ちょっといい? 』
『 ……。なぁに? 』



 あれから2日。いよいよ明日は江戸へと旅立つ日だ。
 ちょいちょいと栄蓮はミツバを呼び出し、縁側に腰掛けた。


『 ……ミツバ、私いま悩んでることが 』
『 江戸へ、行ってあげて 』


 ハッとなり、思わずミツバを見る栄蓮。彼女は微笑んでいた。
 …涙をこぼしながら。


『 近藤さんにも…お願いされたんでしょう? 土下座、されてまで…。
  それに…今の八雲さんをなんとかできるのは、きっと栄蓮しかいないわ 』

『 ミ…ツバ… 』

『 八雲さんのために…江戸へ、行ってあげて 』

『 何ででさァ?! 』


 ガササッと再び茂みから総悟が飛び出してきた。
 その表情はミツバと栄蓮と同じように苦痛で歪んでいる。


『 姉上が先だったじゃねェかィ! なんで姉上もそんなこと言うんでさァ?!
  栄蓮と一緒にいたいって言ってたじゃねーかィ! 』

『 総ちゃん…。私もね、八雲さんに幸せになってほしいの。
  …どうか“幸せ”を知ってほしい… 』

『 何で…ッ! 栄蓮! 
  なァ栄蓮! 姉上の傍に居てくれよ! …ッ居てあげてくだせェ! 』

『 そ…うご… 』

『 そーちゃん… 』


 我が儘などではない。…総悟は自らの姉のことを思って言っているのだ。
 

『 姉上は口では栄蓮の背中押してるけど…泣いてるんですぜ?!
  本当の気持ちなんて分かってんだろィ、栄蓮?! 』

『 …っ 』

『 っなァ栄蓮!! 』

『 そーちゃん! 』

『 っ! 』


 グシッとミツバは涙を拭い、総悟の頭の上に手を置いた。ミツバは無理に微笑む。


『 いいのよ。…有難う、そーちゃん 』
『 な…んで…っ 』
『 ミツバ…私…… 』
『 栄蓮。…私は背中を押すわ。八雲さんを…支えてあげるのよ? 』
 

 寂しい思いをグッとこらえてミツバは言う。
 くしゃりと栄蓮の顔が歪み、ゆっくりと立ち上がった。


『 ごめんね、ミツバ。…ありがとう 』


 そう言って去っていく栄蓮。その背中を見つめながら、またミツバは涙を流し始めた。
 確かにミツバは今栄蓮の背中を押している。だが…それは全て優しさなのだ。



『 待てよ…待てよ栄蓮! 』

『 そーちゃん… 』

『 姉上の本当の思い分かってんだろ?! なんで?! なんで姉上のことは後回しなんでさァ?! 
  親友なんじゃねェのかよ?! それとも親友はどうでもいいのかよォ?!』

『 そーちゃん…ッ! 』


 ギュウッとミツバが総悟を抱きしめる。涙が総悟の頬におちた。


『 人間にはね…どうしても、我慢しなきゃいけない時があるのよ… 』

『 でも…ッ 』

『 …私が八雲さんのためにできることは、我慢すること。
  …それしかできないの。治療も、会話も…彼自身を癒してあげることは、私にはできなかったから… 』

『 姉、上ェ… 』


 自らの姉の切実な思いに、総悟はぎゅうッと目を瞑った。



( どうして、この世界は )
( 誰かが犠牲にならなきゃ、誰かに幸せを与えられないんでィ )