二次創作小説(紙ほか)

Re: 【銀魂】 生涯バラガキ 【ミツバ編】 ( No.209 )
日時: 2013/12/18 20:51
名前: 花火 ◆Pt1jMZuGaQ (ID: ESJvCUA5)
プロフ: http://www.youtube.com/watch?v=f3fc7bZxJwo


 85訓 不器用な人ほど悪役に見えてしまう


「「っおおおおお!!」」


 栄蓮と土方は背中合わせで浪士共を次々と斬り伏せていく。
 返り血と己の血で顔や体は赤く染まっている。


「どけェコラァァァ!」
「「「うわァァ!」」」


 栄蓮も必死の形相で大量の浪士共を斬りつけている。
 その時だ。栄蓮の背後で一人の浪士が銃をかまえた。


「…!」

 
 次の瞬間、連続で発砲される銃弾。
 とっさに反応した栄蓮は数発は弾くが、四発程くらってしまう。


「うぁ゛…!!」
「栄蓮ッ!!!」


 土方は声を荒げ、目の前の浪士を斬りつけるとすぐさま駆け寄る。


「バッ…おまっ、傷口開いてんじゃねーか?!」
「大丈夫じゃァァ…!」
「どこが……ッ?!」


 土方の背後からも銃が発砲される。
 栄蓮を庇うように立ち彼もまた数弾は弾くが、足に大きな一発をくらってしまった。

 ズザザザザッと倒れこむ土方。


「く…ッ!」
「に…兄さッ…!」
「いまだァァァ! 殺れェェェ!」
「ッ…うおらァァァァァ!」


 栄蓮がとっさに立ち上がり、襲いかかってきた浪士共を斬りつけた。
 そして土方に肩を貸し、二人は移動をはじめる。


「足…っ、大丈夫…?!」
「たいしたこたァねェ…! だがあの威力は…。…?!」


 浪士共に囲まれていることに気がつき、二人は足を止めた。
 その浪士共の中心にいるのは蔵場だ。


「残念です。ミツバも悲しむでしょう、古い友人を亡くすことになるとは…。
 あなた達とは仲良くやっていきたかったのですよ」

「……」

「そのために縁者に近づき縁談まで設けたというのに…まさかあのような病持ちとは。
 姉を握れば総悟君は御しやすしと踏んでおりましたが…医者の話ではもう長くないとのこと。
 非常に残念な話だ……」


 二人はすくりと立ち、まっすぐに蔵場を見据える。


「…ハナから俺達抱き込むために、アイツを利用するつもりだったのかよ」

「愛していましたよ。商人アキンドは利を生むものを愛でるものです。
 ただし…、“道具として”ですが」

「ど…う、ぐ…」

「ええ。あのような欠陥品に人並みの幸せを与えてやったんです。感謝してほしい位ですよ」


 栄蓮はただまっすぐに蔵場を睨んでいた。土方は煙草を一本吸い始める。


『 せめてよォ…死ぬ前に一時でも人並みの幸せ、味わわせてやりてーんですよ 』

「…クク。外道とは言わねェよ。俺も似たようなもんだ。ひでー事腐る程やってきた。
 挙句…死にかけてる時にその旦那叩き斬ろうってんだ。…ひでー話だ」

「兄さん…」

「同じ穴のムジナ、という奴ですかな。あなたとは気が合いそうだ」

「…そんな大層なもんじゃねーよ」


 そう言って土方は煙草をくわえ、ジャキッと刀をかまえた。


「俺ァただ——…惚れた女にゃ、幸せになってほしいだけだ」


「……」


「こんな所で刀振り回してる俺にゃ無理な話だが…。
 …どっかで普通の野郎と所帯もって、普通にガキ生んで、普通に生きてってほしいだけだ。
 
 ただ…そんだけだ」


「…なるほど。やはりお侍様の考えることは私たち下郎にははかりかねまするな。
 …撃てェェェェェェ!!!!」


 ——ドォォォォォォォォォォンッ!!

 栄蓮達の近くが爆撃される。黒い服の集団がこちらへ向かってくるようだ。


「しっ…真選組だァァァ!」
「ットシィィィ! 栄蓮んんんん!」
「隊長ォォォォ!」


 —


「車を出しなさい」


 現場から抜け出した蔵場は、仲間に車を出すように命じた。
 その姿はどこか苛立たしげである。


「とんだ誤算。やはり野蛮な猿どもと手を組もうなどと無理な話でしたか。
 病院へ向かいなさい。…あの女、死にかけとはいえ人質位にはなるでし…」


 ズン、と蔵場の肩に二本の刀がささった。
 痛みに顔を歪める蔵場と対照的に、車の屋根上の栄蓮と土方はニィッと笑う。


「き…貴様らァァァァ!」
「ふ…振り落とせェェ! 何をやっている! 早く撃ち殺せ!!」
「「!」」


 窓から上半身を出して一人の男が銃を向けてくる。二人はチッと舌打ちした。
 その時だ。バガンッと木刀が振り下ろされ、男は転がり落ちる。——銀時だ。


「てっ…てめェ!」
「安心しな。せんべえ買いに来ただけさ。…てめーらで届けてやりな」
「わッ?!」


 激カラせんべいとかかれた袋を栄蓮はキャッチする。
 銀時はタイヤに木刀をさしている。ズガガガという大きな音が響いた。


「…そのほうが、アイツも喜ぶだろ」
「「!」」


 前方には刀を片手に持った総悟。栄蓮と総悟の目が合い、そして土方と総悟の目があった。
 次の瞬間二人も刀をタイヤにつきさした。


「「っがあああああ!!」」


 スラリと総悟は刀に手をかけ、ゆっくりと抜き始めた。







 ——————————…私を置いていくんだもの。
 



『 …近藤さん 』




 ——————————…浮気なんてしちゃダメよ?




『 八雲さん… 』




 ——————————…きっと自分の道を貫いてくださいね。





『 …栄蓮… 』




 ——————————…きっと…、



『 十四郎さん… 』



 ——————————…きっとよ。























        『  そーちゃん  』



















 ——————————ズドォォォォォォォォォォンッ!!


 一閃。


 総悟の刀が振り下ろされ、蔵場達の乗っていた車が真っ二つになった。
 そして次の瞬間大きな音をたてて爆発する。


「————」


 四人は静かにそれを見ていた。


 —


「姉上」


 病院に戻った一行。…総悟は一人、ミツバのいる病室へとやって来た。
 …もう、灯火は、消えようとしていた。


「…めんなさい、ごめんなさい…。…俺ァ…ろくでもねェ弟だ…。結局姉上の幸せ奪ってきたのは、…俺…。
 …ごめんなさい。…ごめ……。……!」


 俯く総悟の頬に、そっとミツバの真っ白な手が添えられる。


「そーちゃん…いいの……。よく、頑張った…わね…。
 立派に…本当に立派になった…。本当に…、強くなった……」

「っ姉上…強く、なんかねェ…。僕は…、…俺ァ……」

「振り返っちゃ…ダメ……」


 ミツバはふわりと微笑み、すぅっと目を細めた。


「決めたんでしょう…自分で、あの時。…自分で選んだ道でしょう。
 っだったら…。…謝ったり…したらダメ…。泣いたりしたら、ダメ……」

「っあ、ね…」

「わき見もしないで前だけ見て……歩いていくあなた達の背中を見るのが、好きだった…。
 ぶっきらぼうで、ふでぶてしくて不器用で……。でも優しいあなた達が、大好きだった……」

「あね、うえ…ッ」


 そうっと優しく優しくミツバは総悟の頬を撫でる。総悟の表情が泣きそうに歪んだ。


「だから……私……、とっても…幸せだった……。
 あなた達のような…素敵な人と、出会えて……っ」

「…っ」

「っあなたのような…、素敵な…弟を、もてて……ッ」

「っ、…」




「そーちゃん…。あなたは…私……の…、自慢の…弟…よ………」




 スルリと。

 ミツバの手が、総悟の頬から離れておちた。総悟はその手をそっと掴み、己の頬に添える。


 もう二度と、動くことはない。
 もう二度と、握り返してくれることはない。


 もう二度と、ほほ笑みかけてくれることはないのだ。



「…ううっ…、…っく、ぅ…! あ、ねうえ…っ」
「————」
「あねうえ…ッ!」


 静かな部屋で一人、総悟は涙を流した。


 —


「にいさん」


 屋上で栄蓮は土方の背中に声をかけた。…だが、兄は振り返らなかった。 
 …もうきっと、分かっているのだろう。

 静かに栄蓮は土方の隣に肩を並べた。


「…ミツバ、今……亡くなったってさ…」
「…そうか」
「兄さん……」
「…………」


 無言で土方はミツバに渡せなかった激カラせんべいの袋を開けた。
 何枚も何枚も、バリバリと音を立てながら食べる。何枚も、何枚も。


「…っ辛ェ…辛ェよ…ッ」
「に、ぃ…さ…?」
「…チキショー…ッ、辛すぎて涙出てきやがった…っ…」
「…っ」



「…辛ェよ——————————…ッ」


( その涙は、きっと )