二次創作小説(紙ほか)
- Re: 【銀魂】 泥中ノ蓮 【色々とお詫び】 ( No.1 )
- 日時: 2013/08/30 23:42
- 名前: べるりん ◆LL2ucVkJQE (ID: XTBNCiTB)
◆ プロローグ ◆
——『朝霧村』。緑豊かで治安もかなり良く、毎日市場は騒がしい村である。村人の数はきわめて少ないがそれでも活気があった。
そんな村のとある建物の地下には二つ牢獄があった。隣り合う牢獄だが間には分厚い壁があり、声など聞こえない。窓もなければ、灯りは牢獄の外から漏れてくる光のみである。そしてその牢獄の中にはそれぞれ一人ずつ、子供が入れられていた。手と足両方に枷がついており、それが鎖によって壁についている。その為牢獄内を動き回るくらいしかできない。
そこに閉じ込められているのは『忌み子』と呼ばれている双子である。二卵性双生児で男の方が数分早く生まれたらしい。共通した容姿で、真っ白な髪と血濡れたように赤い瞳を生まれつき持っていた。
そして忌み子と呼ばれるその双子は、毎日村人から暴力を受けていた。おかげで二人とも体から傷は消えない。
「ぐっ……うあっ!! がはっ……!!」
隣の牢獄から聞こえた叫び声に、意識を失っていた双子の妹の方が目を覚ました。
妹もつい先程まで暴行を受けていたようだ。頬は完全に腫れ上がっており、右の目は全くと言っていいほど開いていない。口からは血が垂れている。腕も足も内出血や痣で完全に変色している。
しかしそんな自分のことは気にもせず、痛む体を動かして少女は牢獄の出入り口付近ギリギリまで移動し、鉄柱の間から顔を出して隣の牢獄内を見た。
——酷い有様だった。複数の大人に兄は暴行を受けているのだ。
腹を蹴られ、前髪を無理やり掴まれ、顔面を殴られ、腕を思いっきり捻られている。少女は目を見開いた。兄の悲痛な叫びはとまらない。
「やっ……やめてえええぇぇぇぇっっ!!」
「っ!! 馬鹿!! 何して……うぐ……ぅ!! ガッ、ア゛ア゛ア゛ッ!!」
「やめて!! お兄ちゃんに酷い事しないで!!」
ぼろぼろと少女の瞳から涙が零れる。が、大人達はそんな少女の叫び声さえをも楽しんでいるようだ。
『双子の忌み子だから』と言う理由で牢獄に閉じ込められてもう何年経ったのかもわからない。少女自身『忌み子』と言う言葉の意味は最近知ったようなものだ。非常に簡単に言えば、忌み子というのは望まれていない子供のことだ。
加えて容姿も非常に不気味な双子は地下に監禁され、ストレス発散も兼ねて暴力を毎日振るわれている有様なのだ。食事も残飯程度で、酷い時には有り得ないものをも出される。
「忌み子に酷い事して何がわりぃんだよクソ娥鬼!! 生きてるだけでも幸せに思いやがれ!!」
「それともなんだよ妹ォ、おにーちゃんの代わりにテメェがもう一回ボコられっかぁ?? それならいいのかよォ〜??」
「なっ……に言ってんだ!! 妹に手ぇ出すんじゃねェェェッ!! ——ガハッ!!」
「黙れ! 忌み子が命令してんじゃねぇ!!」
「なんでもいい!! 私をどうしてもいいから、お兄ちゃんにだけは——っ!!」
その発言を聞いて、大人達はニヤリと妖しく笑った。
くの字になってうずくまっている兄の方をひと蹴りしてから妹の牢獄の方に全員が入って行った。ガチャンッと隣の牢獄の扉が閉められる音がした。兄は地面を這って牢獄の出入り口ギリギリまで移動し、妹のいる牢獄が見える程度に鉄柱の間から何とか顔を出した。
思いがけない光景に目を見開く。先程暴行を受けていたのに、自分のせいでまた受けているのだ。
自分の時とは比にならないくらいの暴行。一人は持っていた煙草を妹の体に押し付け、一人は馬乗りになって顔面を殴り続け、一人は腹を幾度も幾度も蹴っている。
「やめろ……」
思わず声が震えた。ギュッと目を瞑り暴行に耐えている妹の姿が、やけにハッキリ映る。
涙が零れ落ちてしまう。昔からそうだ。妹は何もかも自分にかぶせた。兄が受けている暴行も何もかも、自分にくるようにする。
(何で俺はこんなに……弱いんだよ……ッ!!)
ギリリッと唇を噛み締める兄。あまりに強いソレに、唇からツゥッと血が垂れた。
その時妹の呻き声や暴行の音が止む。ついに大人達も飽きたのかと思い、改めてそちらを見る。しかしそうではなかった。
ピクリとも、妹が、動かない。
「んだよ〜、忌み子ちゃん死んじまったか〜??」
「まぁどうでもいいんだけどな〜??」
(俺の……せいで。俺のせいで。俺が、弱いせいで……!!)
プツンッと、少年の中で何かが切れた。
——その日の夜、朝霧村はシンと静まり返っていた。
ただ一つ、ペタペタと言う足音が聞こえる。ジャラジャラとなにか金属のようなものを引きずる音も。
並ぶ家々には赤い何かがついている。道にも植物にも、何もかも。家の壁にもたれぐったりしている人間。道の真ん中に倒れている人間。首より上がない人間。腕が妙な方向に曲がっている人間。転がっている肉塊。
そんな人間——死体全てを避け、歩いて行く少年。その腕の中には少女がいた。少年は体中に血を浴びていた。
そして少年は少女を抱えたまま、ゆっくりと闇の中に消えていった。
プロローグ___________End