二次創作小説(紙ほか)
- Re: 魔天使マテリアル 「さよなら、また会おう」 ( No.29 )
- 日時: 2013/10/12 17:31
- 名前: 瑠李 (ID: x2W/Uq33)
- プロフ: 説得力・・・汗
その日は一日中、全く話が頭に入ってこなかった。
昨日会ったはずの悪魔も現れないし、仲間が襲われる気配も無い。
それでも心の奥に残る不安と焦りは残り、サーヤを悩ませていた。
そんなサーヤに、レイヤは不安げに声をかける。
それでもサーヤは首を横に振り、あくまでも平静を装った。
本当は苦しくて、話してしまいたくてたまらない。
でも今話してしまえば、レイヤ・・・いや、マテリアルたちは皆、サーヤのことを止めるだろう。
それだけは、駄目なのだ。
サーヤが魔界へ、悪魔の方へ行かなければ、仲間に光は残されていない。
それがサーヤの決心を繋ぎとめ、揺らすことを無くしていた。
そんな不安定なサーヤに気付きつつも、サーヤの纏う断固とした雰囲気になかなか疑問を繰り出せないでいるレイヤ。
何かあったのだろうか。
何かあったというのも、昨日夕方、サーヤが路地裏で倒れているとの連絡を聞いた伊吹が、すぐさま駆けつけたという。
その場に自分は居なかったのだが、サーヤは無傷だった。
もしかすると、その倒れるまでの、自分達のしらない空白の時間。
この間に、サーヤに何かがあったのかもしれないと、レイヤは考えていた。
_____
暗い部屋で一人、小さくか弱く呟く女。
その隣に、まるでろう人形のように白く無表情な顔でたたずむ少年。
まるで絵画のような雰囲気の一面だった。
女は抜けるような白い肌をしており、ダークブラウンの髪は長く、顔をうかがうことは出来ない。
一方の少年は、無表情を貫き通し、女の傍から一時も離れない。
少年が女から離れないのは、離れたくない、という気持ち、愛から来るものではない。
見張っている、と言う、義務的なことからだった。
少年の目から逃れることが出来ない女は、いつも一人、今にも枯れそうな涙を流し続けている。
そして今日も女は、ただひたすらに、変わることなく、涙を流していた。
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空が赤く染まった、夕刻、帰り道。
サーヤはぼんやりと歩いていた。
空は赤くとも、サーヤの心は晴れぬまま。
今日一日考えていて解ったことがあった。
それは、あの出来事が、確実に夢では無いということ。
休み時間のこと、サーヤは一人、屋上へ来ていた。
誰にも気づかれないよう、声も、気配もひそめて。
そこでなんとなく、服の上から、いつも首に下げているホイッスル大の破魔の笛を触った。・・・否、触ろうとした。
バチッ と、鋭い電流のような音。
サーヤの手に走った痛み。
なんとなくだが、サーヤは理解した。
自分は今、”笛に触れられない”。
よって、マテリアルの力を使うことが出来ない。
ああ、昨日の出来事は本当なのだ。
唯一魔を払うことの出来る破魔の力が封印された。
つまりは、マテリアルを襲うことが極端に簡単になってしまう。
気がつけば、サーヤの瞳からは大粒の涙が零れ落ちていた。
否応もなく理解させられた、別れの合図。
前触れもなく告げられた、決別の刻—————。
少女は一人で、真夜中の路地裏へと歩いた。
冷たい風が吹き付ける。
少女はそんな暗闇の中、一人で立っていた。
行く宛てが無いようには見えない、しっかりとした足取り。
それでも、その少女は、どこかフラフラと歩いていた。
暫く歩き続けた少女。
ふとある場所で止まる。
少女は目を見開くと、何の躊躇もなくその場所へと入っていった。
その場所は、人目の無い路地裏。
何も面白いものは無いというのに。
そしてその路地裏に入った瞬間、少女の目は光を変える。
少女は泣きそうだった。
震える唇を動かして、小さく。
誰にも、聞き取れないように。
「さよなら、また・・・・会おう」
その場に風が吹き荒れ、次の瞬間には、少女の姿は見当たらなくなっていた。