綾香は逃げていた。噎せ上がる嗚咽と、こぼれそうになる涙を堪えて。時間は遡る。何時もの様に、傍らにユウヤが居る。綾香はそれを全く気にも止めず、泣き続ける。ユウヤはそれを、冷たい瞳で見ていた。ーーいつまでこの状況が続くのーーそんな事をふと思った。その時だった。ユウヤがクスリと笑ったのが耳に届いた。綾香が顔を上げると、見えたのは、人形のように乱れのない笑顔を見せる、ユウヤだった。その笑顔に、背筋が凍り付くような感覚に襲われた。