二次創作小説(紙ほか)
- 第一話:はじまりの朝 ( No.9 )
- 日時: 2015/07/13 02:47
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
「あの子、また目覚まし壊したわね……」
一階でコーヒーをすすりながら、女性は言った。彼女は、カルムの母親で、家事全般をこなす元気ハツラツとした元気な女性である。だが、眠りグセのあるカルムには手を焼いている。
血こそ繋がってはいないが、大事な息子には変わりない。
変わりないのだが、それそれとでは別問題である。
ならば。ちょうど、コーヒーを置く手の近くに、コマドリポケモンのヤヤコマが止まる。
「ヤヤコマ、ちょっとカルムを起こしてきて頂戴」
「キチュチュ!」と一声鳴くと、ヤヤコマは飛んでいった。
***
ヤヤコマは、人になつきやすいポケモンだ。彼女の言うことを素直に聞き、カルムの部屋へ入り込んだ。スースー寝息を立てる1人と1匹。そして刹那。カルムの額を---------突いた。
「い、いってえええ!!」
カルムは、絶叫して起き上がった。ヤヤコマは、我関せずとばかりに窓から素早く逃げる。カルムは、「焼き鳥にしてやる!!」と叫んで、ヤヤコマを掴みかけたが間一髪。あと少しでヤヤコマは焼き鳥としてカルムの食卓に並ばずに済んだ。本気で焼こうと思ったのか、カルムの手には焼き鳥の串がしっかり握られていた。
不満な顔でカルムは立ち上がった。もっとも、外の時計はもう、9時を回っているのだが。そして、ニャスパーを揺すり起こす。
「起きてよ、ニャスパー」
ニャスパーは、こちらを睨みつけて腕を振り上げる。
「いってえええ!!」
次の瞬間、カルムの頬には、オレンジ色のラインがついた。本日二度目の絶叫である。つまり、引っかかれたのだ。
「ま……まだ怒ってるのか? それとも、起こされたのが嫌だった?」
しかし、カルムもポケモンのことは言えない。眠るのが好きな彼は、その眠りを邪魔する者に対して、容赦しないのだ。現に、さっきヤヤコマを捕らえようとしていたし、目覚まし時計はハンマーによって、無惨にも叩き潰されている。ニャスパーも彼に似たのか。まさに、ポケモンは飼い主に似る、だ。
***
「お隣へ挨拶?」
シュガートーストを口にほおばりながら、カルムは聞き返した。「そうよ。」、と母は答える。
至極、面倒な話だと彼は思った。しかし、母には逆らえない。「目覚ましの件は不問にしてあげるから。」と言われれば、しぶしぶだが、行くしかなかったのであった。
「ちょっと、パジャマで行くつもり!?」
靴を履こうとしたら母親に、襟元を掴まれた。まあ、当然だろう。普通、パジャマでお隣に挨拶しようとする人間など、世界広しといえども、カルムしかいない。「ちゃんと身だしなみを整えて行きなさい!」と、クローゼットの方へ首を向けられる。ごきゅ、と首の関節が鳴った。
「いってえええ!!」
家中に、彼の悲痛な叫びが響き渡った。本日二三度目の。無論、近所にも聞こえただろう。仕方なく、クローゼットから自分のお気に入りのジャージに着替え、帽子をかぶる。最後に、サングラスをかけてビシッと決まった。
「よし、これで完璧だな。行くぞ、ニャスパー!」
ニャスパーが肩に飛び乗る。そして、玄関の戸を開け放すと、爽やかな風が流れ出てくる。
「いってきまーす!!」
後ろの母に叫ぶと、自慢のランニングシューズで駆け出した。戸口の前には、見慣れたサイホーンの姿が。カルムの母は、サイホーンレーサーとして、活躍していた。この家のサイホーンは、少し前までは現役で活躍していたが、今は引退している。
「行ってくるな、サイホーン」
頭を撫でてやる。ひんやりとした感触が気持ちいい。サイホーンも、嬉しそうに「ぐお〜」と鳴いた。
***
「セレナ!今日、ポケモン図鑑貰う日だけど、昨日引っ越してきた人も貰うらしいよ!ねー、一緒に行っちゃお!」
「サナが行くことになってるんでしょ。私は、トロバ達と待ってるから。というか、今日は騒がしいわね。朝っぱらから、叫び声が三度も聞こえたんだけど」
美しいブロンズの髪をポニーテールにして、縛った少女----------セレナはため息をつく。友人の黒いリボン柄のピンクTシャツに、ショートパンツでツインテールの少女、サナは、釣れないとばかりに頬を膨らませる。
「ねえ、一緒に行こうよ行こうよ行こうよ行こうよ行こうよ行こうよ行こうよ行こうよ行こうよ行こうよ行こうよ行こうよ……」
「あああ、鬱陶しい!!分かったわよ。全く……。」
友人を自室に入れたのが、間違いだったとばかりにセレナは呆れた。一方のサナは嬉しそうに、
「玄関で待ってるねー!」
と言って、先に行ってしまった。セレナはもう一度ため息をつく。そして、結んでいた髪を解き、帽子をかぶる。そして、愛用しているサングラスを帽子にかけた。
「じゃあ、行こうかしら。」
「あ、でも初めて会う人なんでしょ?大丈夫なの?」
「大丈夫よ。もう、この髪は誰に見られても平気だわ。」
***
「さーて、とっとと行こうっと……。」
駆け出すカルム。向かう先は、隣人の家だが……。さて、とっとと済ませて三度寝をしようと、走り出す。すると、少女の声が聞こえる。
「あっ! セレナ、この家だよ!」
「この家も、何も隣家なんだけ……キャッ!!」
ぶつかった。カルムは、モロに顎に頭がぶつかったのか、ヒリヒリする顎を抑える。本日、4回目の絶叫。
「いっでえええ!!」
あ、朝聞こえたのはこの声だ、と確信した。
セレナの帽子がはらりと落ちる。カルムは思わず、言葉が漏れた。美しい、ブロンドの髪。
--------きれいだな、と。
と。口には出さなかったが。一方、頭を押さえながら、セレナは立ち上がる。しかし、帽子をかぶりなおすと、叫んだ。
見れば。自分の手が、彼女の胸の膨らみに触れているのが分かった。
--------あ、やべ。
「ば、馬鹿ぁっ!!」
一瞬、何を言われたのかわからなかったが、ガスッと再び鉄拳炸裂。
彼女はダッと駆け出して視界から見えなくなった。
そして、カルムの意識は暗転したのだった。
***
「あー……うぐぐ、いたたたた……」
しばらくして。重い瞼を
「な、なんだよ……」
「ごめん! 大丈夫だった?」
サナは、カルムの前に進み出る。そして、謝った。
「いや、君が謝らなくていい。それより、あれは君の友人だろ? 彼女に悪いことしちゃったな……」
「ううん、大丈夫だよ。あれは事故だって、日を見るより明らかだし……」
まだ、顎がヒリヒリするのか、顎を抑えるカルム。サナは、申し訳なさそうに答えた。
しかしまあ、すばらしい感触----------じゃなかった、凄まじいパンチであった。
「何か変なこと考えてない?」
「いや、別に!!」
いかんいかん、とカルムはその思考を振り払った。
目の前の少女は、勘がとても鋭いのか。考えていることを全てお見通しのようだったが、すぐに「ま、良いか」と言うと----------
「自己紹介忘れてた。あたしはサナ!よろしくね!」
---------思い出したかのように自己紹介した。
あ、ああ、と一瞬戸惑った彼であったが、自分も釣られて自己紹介を返す。
「僕は、カルム。よろしく。こいつは、俺の相棒のニャスパーさ」
ニャスパーは、小さなあくびをした。彼なりの挨拶だろうか。
「わーっ!ニャスパーだ、かわいー!サナ、本物を見たの初めて!」
「はは、そうなんだ……」
「セレナもニャスパー持ってるけど、お揃いだね!」
「セレナ?」
思わず聞き返す。「うん!」と、サナは答える。
「さっきの子だよ!」
と続ける。セレナ……あれが、あの子の名前か。
「でもさ、悪く思わないであげて!セレナは、本当は優しいんだから!」
「あ、あー、分かった。」
「じゃあ、こっちに来て!」
あれ?僕はお隣さんちに挨拶しに行っただけなんだけど……と、思いつつもサナに引っ張られながらカルムは駆け出す。
***
「あーあ……やっちゃった……」
「まあ、気にしないでください」
「そーだよ」
アイスコーヒーを飲みながら、彼女は項垂れる。友達と思われる2人の少年。片方は、大きい体格で黒いシャツ。もう一方の少年は、オレンジ色の膨らんだ髪を持ち、博識そうな容姿だが、片方の少年とは対照的に小柄だ。大きい体格の少年の名は、ティエルノ。一方の小柄な少年は、トロバだ。
「治ってたと思ったのに……」
「それは、この町の人と慣れていたからでしょう。根本的な問題は治ってなかったんですよ。ブロンズの髪の方なんて、この地方にたくさんいますし。あ、そうだ。これ見てください」
トロバは、くいっとタブレットを向けた。そこには、こう書いてある。
”怪奇!またもや、ポケモン大量発生! 先日、ミアレシティのカロス発電所で、ポケモンの大量発生が起こり、一時は発電レベルの低下が起こる事態となった。”
「これ、知ってるわよ。」
「そうなんですか。まぁ、良いでしょう」
「でも、嫌な予感がするんですよ」と、トロバは言った。ただ、この時は誰もが知る由もなかった。
-------既に、終わりの始まりの序章は過ぎ去ったのだと。
後書き:今回はカルムとセレナの出会いです。この話、結構変えました。最近のタクの作風が現れていると思います。何であれ、次回もお楽しみに。