二次創作小説(紙ほか)

第三十五話:交錯 ( No.103 )
日時: 2014/01/12 17:57
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 0.DI8Vns)

「・・・・・・とは言ったものの・・・・・・。」

 翌日。セレナに連れられて、モノズのケージの前に来たものの、やはり自分に出来そうなことは無いように思えた。

「完全に心を閉ざしてしまってる。これはなかなか難しそうだぞ。」
「どうするのよ。」
「分からないよ。プロにでも難しいさ。だけど-------------------」

 カルムは少し笑みを浮かべて続けた。自信に満ちた、そしてポケモンをまっすぐ見据えた瞳だった。

「認めさせる!僕達が味方だってことを分からせる!僕らが、オペラのような奴じゃないって分かれば、こいつだってきっと-----------------」

「お前が思っているほど上手くいくとは、俺は思わないがな。」

 どこか、棘のあるような声。低く、少しくぐもった声だった。声の主は分かっている。

「テイル-----------------------!!」

 怒りがふつふつとわいた。まるで冷めたような声に、カルムのアタマは余計に煮え立った。

「そいつをこっちに引き渡せ。センターで手に負えねえポケモンは、こっちで対応することになっている。言っとくがヤバいね。まず、その状態があと何日続こうなモノならば----------------------」

 テイルの口から告げられた言葉は、あまりにもカルムには辛すぎた。だが、辛辣すぎる。少し、いつもの彼とは違うように感じた。

「--------------死ぬよ?そいつ。それでも、やるのか?」

 カルムの瞳を見据えた。真っ直ぐだ。だけど今は、怒りで歪んでいるようにすら見えた。

「やるに決まって------------------!!」
「お前は憧れで突っ走るところがあるようだが、お前の”ソレ”は俺に言わせりゃただの幻想だ。散々傷つけられたそいつの心が簡単に治ると思うな。結局お前は自分の中にある”理想のトレーナー像”に憧れて、出来もしねえことをやろうとしてるだけだろ。そりゃ、ちょっと違うんじゃないのか?そーゆーのを、世間は”無責任”って言うんだよ!!」

 最後だけ、少し語調が強くなった。半端な気持ちで、このモノズの気持ちが背負えるものじゃないとは分かっている。だけど、だけど、彼の--------------テイルの発言は、カルムの怒りと同時に闘争心を掻き立てた。
 セレナが急いで、テイルをたしなめる。

「ちょ、ちょっとテイルさん!それは酷いんじゃ・・・・・・」
「すっこんでろ、女子供は。これは俺らの問題だ。」

「アンタはいっつもそうやって----------------------!!」

 カルムの瞳孔が開いた。しかし、思った以上にテイルの反応は冷めたものだった。まるで、何も感じていないような。オペラと同じものすら感じられる。


「納得いかねぇならポケモンバトルでケリをつけろ。トレーナーならな。」


 これが決めてだった。一層、カルムの気持ちを突き上げた。

「勝負しろ、テイル!!この”俺”と!!」

 テイルはそれを聞くと、表へ出て行った。少し息を漏らしながら。セレナは急いで駆けていく。テイルの後を追って。去り際にテイルはこうつぶやいた。

「ミュライユ海岸で1時だ。良いな?」

 そういい遺すと、テイルはつかつかと出て行った。



 
 カセキ研究所の周辺でセレナはテイルを呼び止める。

「ちょっとテイルさん!何であんなことを!」

 セレナが膨れっ面でテイルにたずねてくる。テイルの表情に、いつもの軽い調子は無い。しかし、振り返って一度微笑んで見せた。申し訳なさそうな、そういった印象の。

「カルムには悪いことしたって思ってるさ。ただ1つ、確かめたかっただけだ。」
「確かめたかった事?」
「あいつの”能力”---------------------だ。」

 能力。そう、先日カルムが見せた能力だった。彼曰く、「呪い」だというあの。

「あれの報告を昨日、博士にしてみた。すると、ちょいと意外な答えが返ってきてな。っと、その前に・・・・・・ま、その能力のこともあるんだけどよ。アレだ。あいつが本当にマジかどうか、確かめたかったんだ。」
「そうなんですか?じゃあ、さっきのはワザとですか?」
「に決まってるだろ。」
「・・・・・・カルムは絶対に途中でモノズを諦めたりなんかしませんよ。だって、ティエルノから聞いたんですけど、トロバがドードーに襲われたときも自分が真っ先に向かっていったって。」
「だからこそだ。」

 テイルは言い切って見せた。他に思惑があるかのように。

「”だからこそ”、見てみたかった。そして、確信した。ああまでして、仲間やポケモンを想える”ワケ”がな。それが、あいつの能力と関係があるのさ。ただ、それは俺の口から言うべきことじゃない。」

 つまり、カルムの性格と能力は関連性があるということになる。
 「じゃあな。」、そういうとテイルは再びミュライユ海岸へ歩を進め始めた。その後ろ姿を見て、セレナは唇をかみ締めた。

(カルムが・・・・・・何かで悩んでいるんだったら、私が力になってあげたい。彼の支えに私がなってあげたい!)

 だが、何も出来ない自分に蟠りを感じていた。今聞いたことをカルムに話すことは出来る。だけど、それでは全部ダメになってしまう気がした。

(私には・・・・・・何も出来ないのかな。)

 後に残るのは、”諦め”だった。




 モノズのケージの前で、一人、カルムは考え事をしていた。湧き上がるのは、嫌な記憶。自分の能力にまつわる事には嫌な記憶しかない。忌み嫌われて、差別される。それがどんなに苦しいことか。友人との付き合いなんて-------------思ってみれば、上辺だけのはずだった。なのに-------------------自分は表向きだけ爽やかな嫌な奴のはずなのに・・・・・・。

(何故俺は情けを掛ける?)

 気付けば、芽生えたのは「信頼」だった。だけど---------------それを肯定したくない自分が居る。”それ”が、自分を蝕む能力の副産物だと分かっているから。
 だからこそ、モノズを助けてやりたかった。信じられるのはポケモンだけ、そう思い込んでいる自分の必死な叫びだった。忌み嫌われ、虐げられる。自分と同じ境遇の---------------いや、自分そのものに重ね合わせられた。

「俺はお前を絶対助けてやる。お前がどう思おうが、俺はお前を地獄から引き上げてやる自信がある。」

 そういえば、モノズが出てきそうな気がした。こいつも俺と同じだな、と思った。どんなに情けの言葉を掛けられても、相手の心の奥底にあるものが見えてしまうから。

「だけど今は違うんだ。」

 例え、幻想でも良い。しがみ付いているだけの自分でも良い。自分は今の仲間を大切にしたいから。

「俺のところに来ないか?」

 疑問形にこそなったが、これは確認の問いかけだった。





「逃げずに来たか。」

 いつもの不敵な笑みを浮かべて、先輩がそこに居た。ひりひりと熱さが頬を焼いた。歯をかみ締めて、何とか耐える。それでも、太陽のように全く存在感が薄れない彼を感じ、カルムの肌はあわ立った。

「さっき・・・・・・僕に激を飛ばすために、わざとあんなことを言ったんですよね?」

 テイルは答えなかった。カルムは人差し指を目前に居る先輩----------------テイルに突き立てる。できないかもしれない。だが、それでも此処で彼を超えて見せたかった。

「分かってるじゃねえか。だけど、”それだけじゃない”ことも分かっているんだろ?」

 カルムは頷いた。「ええ、ですからバトルが終わった後、教えてくれませんか?」と続ける。

「構わんな。」
「そうですか・・・・・・なら。」

 「宣言します。」とカルムは言った。そして、次に来る言葉を出したとたん、もうそこに「僕」としての、表向きとしての彼は居なかった。

「”俺”は今日、此処でアンタを倒すと!!」


後書き:更新が久しぶりになってしまいました。どうも、タクです。ヤフー・モバゲのデジモンフォーチュンに嵌ってしまい・・・・・・とうのは言い訳ですね。ポケモンのスレで、デジモンの事を持ち出すのもおかしな話ですが。さて今回、カルムの能力を探ろうとするテイルと、苦悩するカルム、そして何も出来ない自分に蟠りを感じるセレナ。この3人の心理描写に苦労しました。自分は大体、行き当たりばったりで書いているのでちょっとおかしいところがあるかも、と思いましたが、それは置いておいて。まぁ次回、久々のカルムVSテイルです。お楽しみに。