二次創作小説(紙ほか)

第三十七話:ギリギリ・バトル ( No.110 )
日時: 2014/01/19 22:02
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 0.DI8Vns)

 砂浜に、空を切って何かが落ちてくるような音。ベシャッと何かがへしゃげたような音が響いた。
 完全に真っ黒焦げになってしまったニャスパーの姿が、そこにあった。
 つまりは、完全に戦闘不能にされたといったところか。
 無言でニャスパーをボールに戻すカルム。喉の奥で全力待機していた声が、気付けばようやく出るようになっていた。
 激しく、鬱。1匹目からこんな負け方では、先が思いやられるばかりである。
 風が、「やめろやめろ」とケラケラ笑いながら囁いているかのようにすら思えた。だが、振り払う。そんなもの、弱気になっている自分が勝手に作り出した幻想だ。
 再三帽子をかぶりなおし、ボールを握り締める。自然と力が入った。
 ------------戦えるか?
 半透明になったボールケースからは、中の自分の相棒が自分の気持ちを察したかのように、強く、強く頷いた。
 相手は最終進化のポケモンで、決定打となるタイプの攻撃は通用しない。ステータスは一回りは愚か、二回り大きいのである。

 ------------何だ、逆に言えば”それだけじゃねえか”。

 そう、所詮相手はポケモンであって”化け物”ではないのだ。倒すことの出来ない、創造神話上の化け物ではないのだ。
 絶対に攻略法はあるはずだ。 正攻法にせよ、そうでないにせよ、だ。
 相手が自分の使うのと同じく、ポケモンという一種の生き物である、そう考えれば気が楽になった。すると、シビルドンの体には無数の傷のようなものが、見える。そして引っ張り出した自分の知識から、カルムは確信した。

 ----------------賭けになるけど、勝てる見込みはある!!
 

「行けッ、ゲコガシラ!!」

 カルムが次に繰り出したのは、ゲコガシラだった。自らに最も忠実な相棒。だが、主従なんていう関係は、とっくに超えている。地面を踏みしめる。
 カッと目を見開き、カルムは腕を振るった。そして、今までのどの奥に押し込めていた声を張り上げて出した。

「ゲコガシラ、水の誓い!!」

 刹那、ゲコガシラは地面を思い切り殴る。裏拳気味に放ったゲコガシラの拳は、水色のオーラらしきエネルギーを放っており、地面を叩き割った、というよりは地面という一種の空間を切り裂いて、そこから水を出現させた、というのが正しかった。
 無数に拡散して、シャワーのように降り注ぐ水。それを見ていたテイルは、自分も水を浴びていることに気付いた。

 ----------何のために?

 ギリッと歯を噛み締める。常に電気を放つポケモンは、水に濡れると自らの電気で感電するらしい。
 ただ、それでも電気タイプは電気に対し非常に強い。仮にそんなことが起こっても、平気なはずだ。
 それを知っていたテイルは、そんな使えもしない知識を伴った理由でびしょ濡れにされたと思うと、今にも脳の血管がはち切れそうだった。

「馬鹿馬鹿しい!!」

 テイルは、息を荒げて叫ぶ。

「シビルドンは、自ら電気を生産する故にゴムのような皮で自らの電気が自分の体へ通電するのを防いでいるんだ。いくらこいつが常に発電してるからって、感電してぶっ倒れた、なんてオチになると思ったか!!」
「ああ、”知ってますよ”。」

 さも、そう言うのを読んでいたかのように、カルムは不適な笑みを浮かべた。それをいちいち聞いていたら、またキレそうになるので、テイルは敢えて聞き流した。
 雨はまだやまない。つくづく、びしょ濡れになっている体が腹立だしかった。
 -------------いや、待て。”まだ降っているのか?”
 テイルは再三辺りを見回した。間欠泉が原因で降り始めたはずの擬似雨がまだやまないのは幾らなんでもおかしい。
 気付かなかったが、地面が暗くなっている。しかし、その範囲は見て取るに半径10m圏内と言った所か。だが、なお降り続けるその雨を見て、テイルの決して悪くは無い頭は、1つの結論を出した。

「雨乞いか------------------------!!」

 ギリッと歯を食いしばった。だが、逆に言えばそれだけだ。奴は何の目的で、雨を降らせた?
 しかし、そんなことをいちいち考えるほどテイルは大人ではない。

「関係ねえ、ぶっつぶせ、10万ボルト!!」

 腕を振り回し始めるシビルドン。紫電が何本にも腕に集中し----------------------体中へ拡散した。

「はっ!?」

 全身が電気で輝いているようにさえ見えるシビルドン。電気を放つ前に、濡れた体のせいで電気が全てそれを通り道とし、流れてしまったのである。さらに、シビルドンは、さっきのワイルドボルトの如く輝いているのではない。
 ”苦しんでいるように見えた”。

「なっ、何で・・・・・・・!!」

 見れば、シビルドンの体には無数の擦り傷のようなものが見える。さっきのサイコショックの爆発で、体に傷が付いたのだろう。あくまでも、ゴムの役割を果たしているのは体の表面層だけだ。
 だけど、サイコショックの爆発で弱点の層が露見するほど弱くは無いはず。

「分かりませんでしたか?」

 カルムは笑みを浮かべる。

「俺はさっき、とにかく我武者羅にサイコショックをニャスパーに撃たせた。」
「ば、バカ言え!!シビルドンの体がそこまで軟弱な訳が・・・・・・。」
「確かに、サイコショックの爆風ではそう簡単には傷つきませんよ。でも-----------------」

 テイルは何となく分かっていた。目の前で為すすべも無く金色の光を放ち続けているシビルドンを横目にするしかないほど、焦っている。

「”石の破片を”あんなに食らったんだ、傷ひとつ付かないわけが無いでしょ。」
「くそっ・・・・・・!!」

 ニャスパーの念動力は確かに強くなっていた。だからまず、サイコショックで爆風を起こした後、念力で岩を砕き、そしてその破片をシビルドンへ叩き付けたのだ。
 
「岩があの時砕けてたのは、シビルドンの10万ボルトじゃなくて、ニャスパーの念力だったって言うのかよ!!」
「そうですね。後は、電気を傷口に集中させるためにシビルドンを濡らす必要があった。」
「お手上げだ・・・・・・まさか、進化してから殆ど無敗を誇っていたシビルドンがこんな形でやられるとは・・・・・・!」

 雨は止み、そこにはぐったりと横たわった電気魚の姿。テイルはボールの光線をシビルドンに当て、中へ戻した。

「柔を以って剛を制せ・・・・・・か。」

 まぐれだ。はったりに決まっている。自分がこんなことで、奴とイーブンになるなど、考えられない。
 ------------いや、俺は過去の奴の戦い方に囚われすぎた。
 それにしても、なんと言うやり方だろう。型破りというか、なんというか・・・・・・。
 
 ------------だから、こちらも極上のおもてなしをしねぇとなッ・・・・・・!!

「こっからだ。てめーは癖こそあるが・・・・・・所詮アイツは俺らには敵わないってことを証明してやるんだ!!存分に暴れてきな、カットロトム!!」

 空を切って飛んだボールは爆ぜて、中からは芝刈り機のような影が現れた。それも、電気をまとったような。
 しかし、カルムはこれだけは信じたかった。今のそれのケラケラ笑いは、自分の敗北を予感させるものではない、と。


後書き:今回、テイル戦の続きです。辛くも、これで2対2です。でも、相手はテイル。このまま負けるほど、弱い相手ではありません。ちなみに、今回のシビルドンの倒し方はデンキウナギの生態を基にしました。この小説では、そういった工夫した戦い方を展開したバトルをメインにしていきたいと思う今日この頃です。次回は、テイル戦の続きです。あまり、長々と続けるわけにはいきませんからね。それでは、また。