二次創作小説(紙ほか)
- 第四十三話:セルリアン ( No.119 )
- 日時: 2014/02/09 19:30
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 0.DI8Vns)
「モノズ、大丈夫かぁー!」
竜の息吹を至近距離で受けたのだ。普通のドラゴンポケモンならば、立っていられるはずが無い。
だが、カルムは知っている。
モノズのガッツは、その程度ではないことを。
「ガルルル……!!」
一度復活した龍は、折れる前よりも雄雄しく、そして気高い生き物となる。
何故ならば、今受けた一撃が自分が折れた一撃に比べれば、何とも無いことを知っているから。
何度も大きな心と体の傷を負い続けたモノズは”痛みを知る”ことが出来ていた。
だからこそ、もっと自分が強くなれるし、今の自分の主人の下ならば尚更だと。
だから、報わねば成らない。
自分が勝つことで。
「モノズ、気合打め……かーらーのッ」
”竜の怒り”!!
紫色の怒りを込めた光線が発射された。砂浜をえぐり、砂煙を起こす。
竜の怒りとは、炎によって固定のダメージを与える技。ドラゴン技の中でも初級に位置する。
そして、そこに佇んでいたヌメラを容赦なく包んでいく。
「わわっ、すご……」
瞬く暇も無く。ヌメラは一瞬にして怒りの炎に焼かれていた。
そして、炎が過ぎ去った後は、丸焦げのヌメラ焼きが完成していたのであった。
ぷすぷす、と音が立っているのが分かる。
焦げた臭いが辺りを漂っていた。
「ひゅー、助かったァ。クソッ、何が最弱のドラゴンポケモンだ、冷や冷やしたぜ」
「あーあ、戻って。ヌメラ」
残念そうにヌメラをボールに戻すフリル。
「まけちゃった……でも楽しかった」
にっこりと、笑顔で彼女は言った。
その言葉で、カルムは忘れていた何かを思い出す。
ボールのスイッチを押して、「がんばったな」とモノズを中に戻した。
「楽しかった、か」
-----良いか、カルム。楽しむことを忘れてはいけないのだ。何事も。
いつか、恩人がそう言っていた。
勝つだけがバトルではない。
最近、勝つためだけに固執していた気がする。
「じゃあ、勝利って何だよ」
呟いたが、見つからなかった。
だけど、同時にそれでも良いと思った。
これから見つければいいから。
「ありがとな、僕も大切なモノを思い出せた気がする」
「そう? よくわかんないけど、よかった。また、バトルしよっ」
答えは決まっていた。
「ああ!」
そういって、彼女の小さな拳と優しくあわせたのだった。
再戦を誓って。
次に会う時は、互いに強くなってから、と。
「気楽なものですわね? Mr.カルム」
声が聞こえた。鋭い、女の声だ。
咄嗟に振り向く。
目に入ってきたのは、女の服装。
それも、所謂ゴスロリといわれるドレスのようなものだった。
御伽話のお姫様が着ているような、青を基調としたカラーリング。そして、白いフリルのような装飾。
女の髪は美しい金だった。それに、燃える炎のような赤のカチューシャを嵌めてある。
極めつけは、フレア団の紋章が施された胸元のブローチだった。
「あんた、何なんだッ」
「見て分かりませんこと? 私はフレア団七炎魔将。中級工作部隊”スパイラル・ショック”の1人。【炎魔羅刹(パリカー)】ことセルリアンとは、私のことですわよ?」
「フレア団だとォ?」
怪訝な目でカルムは、女・セルリアンを睨み付けた。はっきり言って、炎をモチーフとしたフレア団に有るまじき服装だった。
「中級ねェ、そして。しかもそれが単騎で挑んでくるとは」
見たところ、部下らしき人間は見なかった。
「はっ、何を申すかと。侮ってもらうのが一番困りますわ。中級=上級より弱いという方程式は、フレア団では通用しないことッ!」
高圧的な態度で、セルリアンは言い迫ってくる。お嬢様タイプといったところか。
フリルが袖を引っ張ってくる。
「ふれあだん? きいたことあるけど、ハッピーになりたいって、いい人じゃないの?」
「バカ言うな、こいつらは何やかんやで色んな悪事を働く悪い連中だ。独りよがりな幸福を求めるのが、どんなに悪いことかッ!」
歯を食いしばってカルムは答えた。
ポケモンを奪われて沈んだ町の人々。
オペラに何度も傷つけられ、二度と癒えることのない心の傷を負ったモノズ。
そして、戦いを強いられ、傷つけられた仲間達。
許せることなど、1つもない。
なのに、女は言った。
「我々の同志にならないかと持ちかけに来ました」
その瞬間、何かが切れた。
前にも感じた脳が沸騰する感覚。
「頭沸いてるのかてめーらは」
嘲笑ってやった。
「今更僕に何のようだよ」
哀れみの眼差しも向けてやった。
「そうやって、幾つの命を傷つけたッ!!」
「……」
「そうやって、何人の人の心を傷つけたッ!!」
「……」
「黙ってんじゃねえよ」
ボールを握る手を強めた。ボタンを潰すように乱暴に押して、投げる。
「黙ってんじゃ、ねえよッ!!」
ボールからは、ゲコガシラが飛び出してきた。対象を睨みつけている。主君の仇を自らが代わって討つといった使命を既に心得ているようだった。
流石、トレーナーとは以心伝心といったところか。
「私の本日の行動は、導入に過ぎませんこと? あくまでも、紹介のようなものです。」
「だから、まだ覚えておく程度でいいですわ」と、セルリアンは補足した。しかし、「唯……」と言葉をつないでいく。
「貴方が抵抗した場合、それ相応のおもてなしを、という命は受けていますがね!」
そういって、セルリアンもボールを構える。
「私の命令は、絶対ッ! 忠誠を誓え、我が僕よ! お行きなさい、ミツハニー!」
***
「フレア団は、あるポケモンを狙っている」
クリスティは続けた。
「それも、とても珍しい……言うなれば幻のポケモンだが、それを使えば」
セレナは唾を飲んだ。一体、何が起こっているというのか。
「亜空間の摂理さえも歪めてしまう。唯、正確に言えばそれはフレア団の中でも、野心の大きい”裏切り者”の狙いらしいがな」
「裏切り者?」
「そうだ」とクリスティは相槌を打った。
「フレア団に居るうちに、己の野心が育ちすぎて、ついに反旗を翻そうとしている愚か者だ」
後書き:今回、オリキャラ登場から更にフレア団七炎魔将登場です。フリルのような精神的に幼いキャラを書くことは少ないのですが、キャラ崩壊は無かったのでよしと思っています。
そして、新たな炎魔・セルリアン。彼女は所謂お嬢様系我侭キャラという奴ですが、かなり高慢です。
さて、次回の更新もお楽しみに。それでは、また。