二次創作小説(紙ほか)
- 第四十五話:ショウヨウジムへ ( No.121 )
- 日時: 2014/02/15 18:49
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 0.DI8Vns)
「に、逃がしちまったか……!」
「ねーねー、カルムー?」
少女、フリルが話しかけてきた。ミツハニーを倒してくれるなど、なかなかの活躍はしてくれたので良いだろう。
「何で、ふれあ団はカルムを仲間にしようとしたのかな」
「……さーな」
いや、分かっている。自分の中に秘められたクソみたいな能力の所為で、故郷を追われたことも。仲間をこんな戦いに巻き込んでしまったことも。
----何、僕はあいつらの仲間になるつもりは無い。それに、この世界を連中の好き勝手にしてられるかってんだ!
「なぁ、フリル」
「何?」とあどけない返事が返ってくる。その約束を、繋がりを大切にしたかったから。
「また、バトルしような」
「……うんっ!」
屈託の無い笑顔で、フリルは確かにそう返したのだった。
***
セレナはクリスティと別れた後、とっととジムに向かうことにした。
カルムは居ないようだった。ジム戦もせず、ほっつきまわって見知らぬ大人と話していたことを問われるのが怖かった。
何より、カルムと出くわすと変なことになってしまうのではないか、と考えていたのだ。
『それは君が彼のことが好きだから、では不十分かな?』
違う、とは言い切れない。だけど、まだ断言は出来なかった。
「さっさと済ませちゃお……」
「アレ? セレナ?」
一番聞きたくない声を聞いてしまった。
間違いなく、カルムだった。
「まだジム戦やってなかったのか?」
「あ、うん! そうなのよ、だけどちょっとポケモンたちをもっと鍛えないといけないかな……と思って。」
「あっそ。んじゃ、僕さっきポケモン回復させてきたばっかりだから、とっとと行ってくるわ」
緊張はいつの間にかカルムからは消えていた。セレナは真逆だったが。
そして、セレナはヒップホップする胸を押さえて、ジムの中に入っていくカルムを見送ったのであった……。
***
壁。
壁が確かに聳え立っていた。
だが、その壁には確かにいくつかの突起が見えた。手を掛ける事が出来る程度の穴も開いていた。
極めつけは、壁に大きな岩場が突き出ていることだった。
通常のバトルフィールドほどの大きさだ。
「良く来ましたね、チャレンジャー」
声が聞こえた。男の声だった。見れば、浅黒い肌に、ジュエルのようなものを埋め込んだ特長的な髪型、そして何よりスポーツマンを思わせる高い背。だが、がっちりとしているわけではなく、すらっと細身を帯びた体つきだった。黒いシャツが、よりそれを際立たせていた。
ポッキーのような細い指の先には、彼の副業が関係しているのか、チョークの粉が薄く白く纏わりついている。
また、ズボンのベルト付近にはその副業であるクライム用ロープを引っ掛けるための金具らしきものをつけている。
そして、カルムはその声が足場にあることに気付いた。ざっと見て、この地上から5m程はある場所だが。
「そこに安全ロープを垂らしています。ここまで上ってきてください」
「……は?」
思わず、耳を疑った。つまるところ、このジムリーダーは経験の無いド素人にロッククライミングを要求しているというのか。
「安全ロープはあります。それでは、どうぞ」
さもなければ、挑戦は受け付けないといった様子だった。
良く見ると、岩場の端に、鉄製の梯子が見える。そこに足をかけてフィールドに乗って来いということだった。
だが、カルムという男は非常にこの手の筋力勝負が苦手である。
別に運動が苦手だとか、どういうわけではない。
だが、握力に自信が無いのである。
「だぁー、もうやってやるッ! 僕はカルムッ! アサメタウンのカルムです!」
「元気が良い。よろしいことです。それでは、自らの手で私への、ジムリーダー・ザクロへの挑戦権を勝ち取ってください。貴方の前に立ちはだかるこの壁を登りきることで。ただし、一度でも両方の手と足が離れて宙吊りになった瞬間、ロープが自動的に貴方を下に戻す仕組みなっています。お気をつけて」
***
「ぜひゅ、ぜひゅ、もう無理……ヒィヒィ」
手が痛い。もう、五回目である。好い加減に手が千切れるかと思った。ザクロは、
(この試練にここまで苦戦する人は初めて見ました……)
と口に出しそうになった程だった。しかし、未だに諦める気配は無い。弱音を吐いているものの、まだ諦める様子はない。
必死に掴み、手が千切れそうな痛みに耐えて尚這い上がろうとしているのだ。
「うああっ!」
また、足と手が離れた。ロープによって地面に戻されるカルム。
だが、それでも尚向かっていく。
(ですが、逆にここまで粘るチャレンジャーを見たのも初めてです)
「まだまだだぁッ!」
***
「へっへっへ、どんなもんだッ……!」
汗が流れ落ちる。だが、確かに上りきって見せた。手が焼けるようにと痛むものの、それは日頃自分が鍛えていない所為なのであって。
「貴方の壁に立ち向かう姿、確かにその目で拝見させてもらいました」
「こんなもんですよ。ショボかったでしょ、初対面なのに嫌な醜態を見せてしまいましたね……」
「いえ、素晴らしかった。」
ザクロの反応は、思ったものとは少し違うような気がした。
「目の前に聳え立つ壁がどれ程大きいのかは人によります。ですが、自力で登りきれば皆同じ。クライムとは、上りきれさえすれば取り敢えず”看破した”というステータスが平等に付くスポーツです」
このザクロという人物は、人の諦めず立ち向かう心を見ているかのようだった。
「途中辞めようと何度思っても、貴方は”辞めなかった”。本当に律されるべきは、自らの苦難を、成すべきことを棚上げして逃げてしまうことです」
とても大きい器だった。
「貴方は諦めずに、ここまで辿りつきました。今度は、その心。ポケモンバトルで試させて下さい」
ザクロ:ショウヨウシティジムリーダー
『ワイルド マイルド ロッククライマー』
後書き:ポケモンの小説なのに、ポケモン的要素が一つも無かった今回です。まず、フレア談のことからですが、階級にも異名が付いているわけです。ただの余計な設定ですが。
さて今回は、タダのジム戦前の前置きです。それ以上でもそれ以下でもありません。さて、次回ですがいよいよショウヨウシティジム戦です。お楽しみに。