二次創作小説(紙ほか)

第五十四話:強襲 ( No.134 )
日時: 2014/08/10 11:31
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)

 ホテル・セキタイで2泊して体の疲れを癒したカルムは、シャラシティへの唯一の移動経路である映し身の洞窟へ足を運んでいたのだった。


 ***

 大まかに今まで起こったことを説明しよう。
 リア充に何回か絡まれた。
 あ、分からない? それでは説明しよう。
 カルムは天然の鏡によって構成されたこの洞窟で、道中鏡を通して目を付けられた多くのポケモントレーナー(とリア充)に勝負を挑まれ、いずれも返り討ちにしていた。

「いや、どいつもこいつもやれダーリン、はいハニーだのやれラブラブカップルだの、終いにはハネムーンだの、ふざけんなゴルァァァァァァ!!」

 という、非リア共の悲痛で虚しい咆哮は置いておき。
 さっきから飛び出してくるポケモンも、バリヤードやダンゴロなどが多いが、ぶっちゃけ前者が徘徊しているのを見たときはゾッとしたものである。
 しかし迷った。どうも道が入り組んでいるからかどちらに行けば良いのか分からない。
 この洞窟を抜ければシャラシティだが、このままでは餓死してしまうという彼の飛びすぎた杞憂はさておいて。
 
「ぎゃあー!」

 悲鳴が聞こえた。
 でも多分、野生のポケモンに襲われたものだろうと思って無視していた。
 だが、大きい足音がこちらに向かってくる。
 バックパッカーの男がこちらを通り過ぎると、見れば冬眠ポケモンのリングマが目を血走らせて腕を振り上げて「うおりゃー!」とどっかのバイソンの如く走ってくる。
 リングマは、樋熊のような巨体を持ち、2足歩行する上、凶暴極まりない(というイメージが強い)ポケモンである。

「……リングマって、洞窟にいるポケモンだっけ」

 そういって、図鑑を開いた。
 何かがおかしい。だって、首には変なチョーカーが付いてるし。
 と、そのときだった。
 カルムの姿を認めると突然襲ってきた。
 さらに、それに続くかのように岩陰から、毒針ポケモンのスピアーが飛び出してくる。しかも首には同じ形状のチョーカーがついている。
 さらにカルムを狙うかのように他にも同じチョーカーをつけたポケモン、ハブネーク、ザングース……完全にカルムを包囲してしまった。

「は、はははは……ひょっとして僕狙い?」

 こくり、と頷く代わりに一気にポケモン達が飛び掛ってきた。
 瞬間的に本能が、危険信号をビリッと右手へ伝達した。
 咄嗟にバッグへ閉まっていたモンスターボールを全て投げる。
 飛び出したゲコガシラ、ニャオニクス、プラスル、ワカシャモ、モノズは即座に戦闘態勢を取り、主へ向かってきた伏敵を吹っ飛ばした。
 後退はしたものの、完全に退けた訳ではない。
 まだ、油断ならない。
 これはバトルではない。乱闘である。止むを得ない。

「おーやおやおやおや。また会いましたねぇ、カルム君」

 つかつかと洞窟の奥から歩みを進める音。
 その正体は正しく、憎き七炎魔将、オペラだった。
 虫唾が走る。
 
「先日は部下が失礼しました。お詫びに、ポケモン達をプレゼントしに来たところですよ」
「プレゼント? ……ふざけんな、何でお前がこんなところにいるんだ!」
「実験ですよ、実験。チョーカーをつけたポケモンが、どこまでフレア団のために従順になるか? の実験をね。そこで君が来たので、どこまで彼らの性能が底上げされるか、ここで観察させてもらいますよ」
「まさかこいつら……奪ったポケモンか!!」
「そうですねぇ。コボクタウン襲撃はそのために行ったんですよ」

 とのことだった。
 どうやら、他のトレーナーを(さっきのバックパッカーか)ダシに勝手な実験を行っていたところだったらしい。
 これはさすがに座視できない。というか、フレア団の行い全部が座視できないものなのだが。

「フライビーユニット、起動!」

 そう叫ぶと、機械の蜂が現われて、空中で大きく円を描き始めた。カシャカシャ、としきりに音を立てているのを見ると、カメラ機能か何かと思われる。

「そこのポケモンは好きにして良いですよ? そのチョーカーはまだ試作品。戦闘データを取るために協力してもらいます」

 悔しいが、そうなるしかないようだ。
 真に悔しいが。

「それでは、私はこれで」

 そう告げてオペラは洞窟の奥に消えていった。
 いや、私はこれで、じゃないでしょ、と。
 無責任すぎんだろ、と。
 突っ込みたいが、抑える。どうやら、ポケモンを放って、あの変なカメラ仕掛けるだけだったらしい。
 と思ってる間にリングマ、ザングースが早速襲い掛かってくる。

「ゲコガシラ、ズルズキンにアクアジェット! ニャオニクス、リングマにサイコショック連打!!」

 何とか撃退、とはいかない。
 ニャオニクスの念じ球は確かにリングマがあっさりと振り払ってしまう。あのチゴラスを一撃で薙いたサイコショックが全く通用しない。
 恐らく、レベルの差か。認めたくは無いが。
 また、ゲコガシラのアクアジェットもザングースを吹っ飛ばしたが、倒しきれていない。

「ワカシャモ、ツンベアーに二度蹴り!!」

 ドカドカッと二発、蹴りを入れるワカシャモだが……やはりというべきか、相手は唸り声を上げただけで響いていない。効果は抜群のはずなのに。

「モノズ、ハブネークに龍の怒り! プラスル、ツンベアーに10万ボルト!」

 だが、ダメだ。なかなか倒せない。

「やばいな……!!」

 --------数分経過。味方は完全に疲弊しきっており、そろそろ逃げることを考えなければいけない。
 このままでは全滅だ。
 相手はチョーカーの力で相当強化されているのか、今だ疲れた様子を見せない。
 そのとき、ニャオニクスがとうとう疲労に耐えられなくなったのか、膝を付いた。
 それを狙って、リングマの巨大な腕が振り下ろされ、今にもニャオニクスが潰されそうだ。

「ニャオニクスッ!! 戻れ!!」

 しかし、間に合わない。
 そのときだった。

 -----------刹那、青い風を見た。

 ぎゅん!! という音と共に、流れるような拳がリングマの背中を撃つ。
 しかも、あれほど疲れを見せなかったリングマが唸り声も上げずに倒れてしまった。 
 さらに、青い風は敵ポケモンの間を縫っていく。バタバタバタ、と一瞬で形勢は傾いた。
 速すぎて、残像しか見えない。
 それはようやく全ての敵を殲滅すると、止まった。
 青い風の正体が分かった。
 それはポケモンだ。
 それも、青い獣人のような自分が、ついこの間出会ったポケモン-------------ルカリオ。しかし、コルニが所持していたものとは違い、肌色の体毛に包まれ、黒いラインが体中を迸っている。

「リオ、お疲れ」

 誰かが言った。
 すると、ルカリオの姿は自分が知るものに戻る。
 メガシンカだったのだ。
 暗闇にうっすらと影が見えた。そして、そのトレーナーの元にルカリオは駆けて行く。

「大丈夫だったか?」
「は、はぁ」

 ゴーグルを掛けている上に暗い所為で姿は分からない。しかし、身長はテイル程の長身ではないものの、自分よりも背格好は高く見えた。
 声から相手は男だ。トーンは若干、テイルよりも少年味がある。

「なら良いや。それと------------」

 去っていくのか、男の声が遠のいていく。
 しかし。


「連中にこれ以上関わるな。お前、いつか大切なモンを失うかもしれねえぜ」


 その言葉だけははっきりとカルムの脳裏に焼きつき、離れなかった。


後書き:今回、度々現われる少年。彼の人物像がだんだん見えてきたでしょうか。そして、だんだん明るみになってくるオペラの実験。アニメのアクロマに似ていたかもしれませんが、残念ながらアクロマとは一切関係ないので悪しからず。
それでは、次回はシャラシティに到着です。お楽しみに。