二次創作小説(紙ほか)

第五十六話:パーティ ( No.138 )
日時: 2014/07/10 23:25
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)

 ---------------カーマインさんか。本当に久しいな。会うのが楽しみだ。
 その晩、カルムはカーマインのことについて思い返せることを片っ端から思い返していた。
 ---------------あいつらも来るのか。好い加減、話しても良いよな。どーせ、僕を蝕むあの”呪い”のことさえ触れなければ良いだけだし。
 でも、と一瞬考える。
 ---------------こんなに友達ができて……僕ってやっぱり幸せ者だ。いずれ、あの呪いについても話すときがくるのかな。

 ***

 パーティ当日。あれから2日経ったが、シャラシティの指定場所に迎え用のシャトルバスが来るとの話だった。
 あの後、カルムはカーマインのことについては何も語らなかった。そして、カーマインが軍で大賞を取った記念という名目だと聞くと嬉しいような表情を浮かべていた。
 今朝、カルムは----------いつもの格好で「よし、行くか!」といった。そしたらテイルに小突かれた。

「バカかおめー、パーティなんだからちゃんとした正装で望むべきだろ」
「ぷっ、あはははは! テイルさん、スーツ似合ってなさすぎですよぉ」
「なぁ今度は本気で殴ろうか? うん?」

 確かにいつもカジュアルなシャツに白衣を纏っているというものだったので、違和感を感じる。
 すると、マロンも着替えたのか降りてきた。
 テイルは彼女のために衣服などを手配していた。曰く「研究以外興味ないんで白衣とかシャツとかしかもってないんですよ」とのことだったからだ。
 このままでは手入れの行き届いていない髪にぐるぐる眼鏡という残念な少女姿を他の連中に醸しかねない。
 仕方なく、泣く泣く(本当は)可愛い後輩のために有り金を叩いたのだった。
 ついでに髪の手入れも理髪店で行うようにアドバイスしておいた。眼鏡はあるならコンタクトにしておけとも言っておいた。
 完全に彼の好みの押し付けなのだが、彼女はむしろ「はいっ!」と気前よく答えてくれた。

「せんぱい、どうですかぁ」

 その後輩の声が聞こえる。
 振り向いた方から着替え終わった彼女の姿が。

「おっ。来たか……マジかよ」

 それを見た瞬間、テイルの胸は跳ねた。
 ”本当に”可愛い。
 いつものもっさりとした感じは払拭され、綺麗に手入れされた明るい色の長髪、眼鏡は外されコンタクトレンズになったことで彼女の澄んだ瞳がより一層美しく見えた。
 そして服装も普通の黒のブレザーというものだったが、はっきり言ってそれぐらいがいい。
 華奢な体付きが彼女の魅力を際立たせる。
 いつもの残念な少女姿はどこへ吹っ飛んでしまったのか、彼女自身も自分の容姿の変化に戸惑っているようである。

「せんぱい、へんじゃないですか?」
「ば、ばか言うな。何でいっつもそうしないんだ!?」
「ふぇ!?」

 ずいっ、と詰め寄るテイル。
 頭の中が色々と錯乱してしまっていて、思わず言葉が飛び出る。

「今度から、俺の前で眼鏡を掛けることは許さねえぞ! それだけじゃない、髪も綺麗にして、それとちゃんとおしゃれもして……とにかくっ! その姿でいてくれ!」

 何を言ってるんだろう、と。彼氏でもないのに発してしまった言葉を抑えたいが、もう遅い。

「うーん、お熱いですねお2人」

 傍から見ていたカルムが横槍を刺した。
 思えば、こいつが居たのを忘れていた。ぶん殴りてぇ、それが最初に感じた衝動だった。

「いっそ、パーティ会場で式挙げちゃいます?」

 というか此処がポケセンのロビーだったのを忘れていた。
 周りの視線が恥ずかしい。
 そうでなくとも身体の体温が急上昇するのを感じるのに。

「〜〜〜〜〜〜〜!!」

 テイルは、言葉にならない声を真っ赤な顔で発するマロンの手を握り、とっととポケモンセンターを出てしまった。
 
 
「さーて、僕は何の服を着ていけばいいんだ?」

 仕方なく、ブティックに行って溜まった金でそれらしい服を買うことにした。
 
 ***

 買ったのは黒いコートに白いワイシャツ、そしてズボン。それを着こなし、お気に入りの帽子とワイドフレームサングラスを掛ければキマリ。どっちかと言えばラフな感じだと思う。
 ----------多分これで大丈夫だ。多分。
 シャトルバスには案の定、ようやく落ち着いたテイルの姿が。

「テイル先輩。彼女とはどうで、いだっ!!」
「おーおー、もう一回喰らいたいかい? うん? 地獄に送っちゃうからさ、思い出に一発打たせてあげることにしてんだけどよ」
「ヒィッ!! いや、悪かったですって」

 相当ゴキゲン斜めのようだ。自業自得、因果応報なのに。
 マロンは俯き加減に火照ったままの顔をそっぽに向けていた。
 少しからかいすぎたか? と流石に悪く思ったカルムだった。
 と思ってる間に他の面子も見えてきたようだった。

「お隣さんっ! まさか此処で再会するなんてね」

 セレナだ。今日は大きい唾の帽子を被り、髪を一括りにして纏めているようだった。そして、水色のパーティドレスを着ている。
 そして、サナにティエルノ、トロバも追いかけるようにやってくる。
 サナはピンクの短めのパーティドレス、ティエルノとトロバはスーツを着てやってきた。
 正直似合ってる。違和感なんて感じない。結構ティエルノもムーディなスーツ似あうんだなと思ったカルムだった。

「お待たせ、パーティといえばダンスだよねぇ。楽しみにしちゃうなぁ」
「ったく、ティエルノさんはそればっかりですから」
「とにかく、こんなことって二度とないんじゃないかな! ご馳走楽しみ♪」

 と思い思いの言葉が聞けた。

「君達らしーよ」
「本当だわ。後、バトルシャトーなんだから、ポケモンのコンディションもばっちり? 仮にもあそこはバトル施設よ、お隣さん」
「ああ、分かってるって」

 本当のところ、まさか、パーティの途中にバトルなんかやるか? と思っていた。
 それでもポケモン達のコンディションはいつも以上に整えたはずだ。
 だが、そのまさかが当たることになろうとは思いもしなかったのである。 
 カルムはシャトルバスの中で仲間達に告げた。

「なあ、バトルシャトーに着いたら君たちに伝えておきたいことがあるんだ。今の君たちなら話せる気がする」

 ***

「でっけぇ……」

 バトルシャトーは目の前に佇む古城だった。ショボンヌ城とは比べ物にならない。流石にパルファム宮殿と比べるのは酷だが、白レンガの壁が光沢を放つように見えるほど麗しい。そしておめぇなんざ眼中にねぇよと言わんばかりの巨大さ。
 一目で気に入った。
 すぐに回廊に通された。案内人と思われる中年男性に導かれながら、カルムは仲間達に語りだした。

「僕にとって、カーマインさんは恩人、いや家族みたいなものなんだ」
「え? どういうことなのよ」
「僕の母さんはサイホーンレーサーのサキ。この人の事は知ってるよね?」
「え!? そうだったの!?」
「でもでも、カルタロとサキさんってあんまり似てないよね」

 サナが思い出したように言う。サイホーンレーサー・サキの知名度はハンパではないらしい。

「ああ、それがポイントなんだ」

 そして、大広間に通される。
 遠い奥のステージには、老いて尚も放ち続ける貫禄を持つ男が居た。
 マントを羽織り、軍服を着た厳格そうなシワが寄せられている。ヒゲを沢山蓄えているため、口は見えない。だが鋭い眼光からは威圧的なものは感じない。
 今はまだ、穏やかだ。
 
「僕とサイホーンレーサー・サキと直接の血のつながりは無いんだ。僕は子供のいなかった今の母さんに引き取られただけ。それでも母さんには感謝してる。僕をこんな広い世界に送り出してくれたから」

 ふふっと笑みをこぼすカルム。
 
「どういうことですか? そ、それじゃあ、サキさんに引き取られるまでカルム君は----------」
「孤児だった」

 あっさりと、告げるようにカルムは言った。


「そして、僕が外の世界に出るまで、必死で守ってくれたのが---------今、目の前に居るカーマインさんなんだ」