二次創作小説(紙ほか)
- 第五十七話:カーマインとシェナ ( No.139 )
- 日時: 2014/07/11 04:33
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)
「親の居なかったどころか、捨てられていた僕だけじゃなく、他にも孤児を子供のいない夫婦に引き取ってもらうまでカーマインさんは育ててくれたんだ。自分が今まで稼いだ費用をなげうってわざわざ孤児院まで作ってね。僕にとっては家族同然、いや恩人なんだよ」
「ですが、何故今……」
「さーね? 嫌になったのかな。隠し事してる自分が」
そうこう言っているうちに、奥で佇むカーマインの前にまで一行はやってきてしまった。カルム達の意思ではない。案内人がそうさせたのだ。
「後ね、その頃に仲良くなった女の子が居てさ。孤児院に居た皆とは家族同然なんだけど、同年代でもその子とは仲良くってさ」
「幼馴染ってやつですか?」
「そうだろうね。でも、幼馴染という言葉じゃあいつとの関係は計れないかも。恥ずかしい話、結婚しよう♪ とか幼ながらに約束しちゃったもんな。ま、今考えればどうでも良いし、あいつも忘れちまってるだろ」
セレナは妙にイライラする感情を覚えるのは何故だろうか、と思っていた。
まあいい。どうせ昔の話なんだろうし。
「でも確か、カーマイン大尉は風のうわさによると1人娘がいるんだとか」
「じゃ、そいつかもしんないな」
***
まさか、今此処で直接会わせて貰うとまでは思っていなかった。
もう一度彼の姿を眺めるが、でっぷりとした中年太りの身体に蓄えられた白髭が良く似合う歴戦の戦士にして紳士だった。そして、その男の近くに見覚えのある若い男が似合わない黒いスーツを着て喋っていた。
癖下や声から分かるが、正しくプラターヌ博士だった。
「久しいですね、カーマイン中尉。いえ、今は大佐にまでご出世なられたようだ。おめでたい話です」
「ナナカマド君にも報告したよ。実に遅い出世だったと自分の中では思っているがね。60になって大佐昇進というのは、若い頃の私の計画(プラン)では考えられんかったよ。やはり軍から身を引いていた時間が私には長過ぎたようだ」
「いいえ滅相も無い! その間、貴方が何人もの子供達を救っていたか! ナナカマド先生から聞いています。貴方は私や先生の誇りだ。素晴らしい人物であると感激しています。それに------------」
プラターヌ博士の声はこちらが近づくに連れて、より聞き取りやすくなっていく。
「----------カルム君を図鑑の所有者に推薦していただいたのは間違いなく貴方なのですから! おかげで彼は今、素晴らしい体験をしている。勿論、彼の仲間もね!」
「彼には才能がある。それに、”能力”の件もひっくるめて、ポケモンを通して自分と向き合って欲しいと思ったのだよ」
「仰せの通りです」
目を細くして語るカーマイン。しかし、瞳に影を落とすと続けた。
「だが、辛い思いを再び彼が味わっているというなら、私は彼に旅を止めさせたいんだがね」
「とんでもないよ!」
気付けば、カルムの足は一歩を踏み出すどころか駆け出していた。
そして口から勝手に言葉が飛び出ていた。
カーマインは突然割り込んできた彼に驚いたようだった。
「……まさか、カルムか?」
「久しぶり……だね、カーマインさん!」
彼の表情を見ると、彼はようやく自分の中にあった”カルム”と今目の前に居る少年が重なったようだった。
そして、豪傑はガハハハと思い切り笑った。大きく重い口をあけて。
「大きくなったもんだ!! たったの2年の間にな!! 一目見て分かるくらいだ」
「驚いたよ。僕を博士に推薦してくれたのがカーマインさんだなんて」
「がはは、すまぬかったな。いきなり。だが私はお前に旅を通じて向き合って欲しいと思ったんだ。引き取ってもらったばかりのサキさんには申し訳ないと思って、後で何度も謝ったんだがね。あのときのニャスパーはどうだ?」
「ニャオニクスに進化したよ!」
2人の姿は血は繋がっていなくとも正しく親子そのものだった。
傍で見ていた友人達は思い思いを語る。
「ま、積もる話も沢山あると思うしね♪」
「見ていてこっちも笑顔になります」
「思わず踊りたくなっちゃうねぇ」
「あなたは本当そればっかりね。でも分かる気がする」
すると、プラターヌ博士が歩んでくる。
「皆、久しいね! 元気かい? ははっ、聞かれてたみたいだね、結構前から。もしかしてカルム君から自分の過去をカミングアウトしたのかい?」
「あ、博士! 久々です! まあ、そんなかんじなんです」
セレナが返す。
「は、博士! それより図鑑を直接見ていただけたいのですが!」
「それより、メガシンカについて分かったことは!?」
「それよりそれより、僕のダンスを!」
「それよりそれよりそれより、可愛いポケモンの」
思わず苦笑いしながら博士は言った。
相変わらず個性的な面々だ。
「はは、質問は一個ずつ、ね? それより彼の過去はどこまで聞いた?」
「えーっと、孤児でカーマインさんに育てられていたことですか?」
「それだけかい?」
「それだけって、まだあるんですか?」
「いや、実は---------------」
博士が口を開こうとした次の瞬間、後ろから長身の少年の、テイルの頭髪が覗く。
「博士って! それより報告が!」
「ああ、ごめんごめん、そっちの方が大事だったね。君たち、悪いけど後で--------」
そういって、テイルに連れられた博士はその場を去っていくのだった。
「博士も大変だね」
「同感です」
今回は珍しくラストを締めたのはトロバの言葉だった。
***
「悪かったな。お前をあの時は守れなくて」
「ううん、あれは僕が外の世界に進むための大切な出来事だったんだって、今は思ってるんだ。それに、今の旅は苦しいことも辛いこともあるけど、面白いことや楽しいこともいっぱいあった。だからこのまま続けさせて欲しいんだ!」
「それが本音なら良いのだがね」
やや憂鬱気にカーマインは言った。
やはり何だかんだでカルムが心配なのだろう。
「それより、”シェナ”のヤツは?」
「もうすぐご来賓の皆様と挨拶を終えて来ると思うが----------全く、誰よりもお前に会うのを楽しみにしていたくせに早く来んものか」
ふぅん、とカルムは呟いた。
と、そのときだった。
突然、目が何かに覆われる。誰かの手のようだ。
「だーっれだ♪」
懐かしい声色。ああ、”彼女”だと気付く。
凛とした静かな草原に響くような綺麗な声。
「シェナ! やっぱりお前だったのか!」
「だいっせいかーい!」
そういって覆われていた目は光を取り戻し、ピンクのパーティドレスを着た少女が目の前にやってくる。
髪の色は薄い黄色。まさに名前の由来どおりのバーントシェンナーそのものだと思える。だがとても綺麗で美しい。
それを彼女は一括りにして後ろで纏めており、所謂ポニーテールだった。
そして愛くるしいエメラルドの瞳に色白の肌。
誰が見ても美少女そのものである。
身長は自分よりも少し低い程度。
「忘れてなかったよね? ね?」
「もちろん」
「もーう、反応薄いんだからっ!」
シェナはカーマインの孤児院でカルムが物心着いた頃から一緒に居た仲だった。
カルムにとっては家族同然である。反応こそカーマインに比べれば素っ気無いが、久々に顔を合わせた幼馴染を前にしてついそうしてしまうだけだ。
「クチートは元気か?」
「もっちろん!! 元気だよっ! それより、カルム」
ずいっ、と彼女が顔を寄せてくる。
満面の笑顔で。
「あたしね、今日のこの日をすっごい楽しみにしてたんだよ!」
「ふ、ふーん、そうなんだ」
「だからね、心行くまで楽しんで欲しいな!」
ならばお言葉に甘えるしかないだろう。
幼馴染にしばしの別れを告げて、カルムは友人達の元に戻ったのだった。
(何か照れるな……まるでそれじゃ僕に会うのを楽しみにしてたみたいじゃないか)