二次創作小説(紙ほか)

第五十九話:バトルシャトー攻防戦 ( No.141 )
日時: 2014/07/11 14:01
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)

「は、はは……嘘だろ?」
「あたしはこの世界を壊す」

 にっこり笑顔で彼女は言った。確かにそう言った。何度聞かずとも分かる。
 あんなに優しかったはずの彼女が、どうして!? とカルムはつくづく思った。

「彼女は奴隷階級の出身だった。しかし、彼女の親は必死に私の元へ逃げてきて、赤ん坊の彼女を預けたのだ。そして---------力尽きて死んだ」

 奴隷……!?
 そんな話初耳だ。
 それに、そんな話は昔話だとばかり思っていたのだ。

「オーレ地方の南方。アヴァロンと呼ばれる監獄の島がある。だが、実態は奴隷の収容所だ。彼女は、そこで看守の白人と奴隷の黒人との間に生まれたハーフらしくてな。所謂、看守と奴隷の禁じられた恋愛というやつだったらしい。それで彼女は黒人が多い奴隷階級出身にも関わらず白人の特徴を色濃く受け継いでいる」

 だが、それだけではない、とカーマインは続けた。

「カルム。お前は憎いか? 能力だけでお前を忌み嫌ったこの世界を! お前を里親から離したこの世界を! 私は憎い。そうやって人の自由を奪う人間が居れば奪われる人間が居る。それだけで虫唾が走る!! すべてを平等に、すべてを新人類の元に1つにすれば世界は平和になる」
「あたしは従う。お父様に。あたしを生かしてくれたお父様に!!」

 能力-----------自分に秘められた能力のことだ。
 そして過去、自分がその能力でどんな目にあったのか、カルムは思い出していた。
 フレア団の下っ端達は今だ不気味に傍観するのみ。恐らく指示さえあれば動き出せるようになっているのだろうが。
 たたっとセレナ達はプラターヌ博士の下に行く。

「博士……! カルムに何があったんですか!?」
「……まさかこんな形で話すことになるなんて思わなかったけれど」

 博士の表情が暗くなった。
 
「プラターヌ君。そして選ばれし君たちは拘束させてもらう」

 直後、全員がポケモンを出す。
 マルノームにペンドラー、ズルズキンにミルホッグ、ローブシンにライボルトなど、次々に無数のポケモンが襲い掛かってきた-----------が、それらは途端に吹っ飛ばされる。
 シビルドンだ。テイルのシビルドンが長い腕から繰り出されるドレインパンチで襲い掛かってきたポケモン達を薙ぎ払ったのだ。
 さらに、マロンのバオッキーがミルホッグを蹴り飛ばす。

「おいっ、ポケモン出した後にボーッとしてんじゃねえぞ赤スーツゴルァ!! つーか誰がてめーらなんざに捕まるってんだ! おめーらにはそこらへんのポッポがお似合いだぜ!」
「ですっ! ているさんの言うとおり、はかせにはいっぽもちかづけさせないです!」

 だが囲まれたこの状況では圧倒的不利。しかし。

「私たちも行くわよ! 行け、ハリボーグ!」
「レッツステージオン、ヘイガニ!」
「頼みますよ、フラエッテ!」
「いっくよー! テールナー!」

 全員がそれぞれの相棒を繰り出した。

「よほど余裕があるのね。私達が博士の近くに寄るまで攻撃の指示を出さなかった辺り」
「それがあの人のポリシーだ。戦いはフェアな状態で圧倒してこそ真の勝利といえるって言っていた」

 博士もボールを投げる。中からは二足歩行の亀ポケモン、カメールが現われた。その名のとおり、亀そのものだが前述の通り二足歩行の上に目つきも精悍になっている。さらに毛で覆われたふさふさの耳と尻尾が生えているので、唯の亀とは一味も二味も違うのだ。

「頼むよカメール! 水鉄砲!」

 次の瞬間、物凄い水圧で水流が撃ちだされた。一気に仰け反ったポケモンが下っ端共々巻き込んで吹っ飛ばされる。

 ***

 一方のカルムは今だカーマインと決着をつけるためか、論をぶつけ合っていた。

「それでもカーマインさん達がやっていることは悪そのものだ! 人やポケモンをこれ以上傷つけないでくれ!」
「悪? それは世間一般論に過ぎない。ミスと言うのは周りが正しいからこそ見えてくるものだが、逆に言えば周囲すべてが間違っていればミスなど隠れて見えて来ぬまいよ!」
「ーッ!!」

 何が正しいんだ? 何を信じればいい?
 誰が間違っていて、誰を味方にすれば良い!?
 すべてが葛藤の渦に巻き込まれる。
 そのうち、すべてが、思考回路そのものを葬っていく------------


「こんのバカルムがぁぁぁぁぁ!! 迷ってる暇なんざあるか!!」


 怒鳴り声が聞こえた。右で必死に戦っているテイルの声だった。

「間違っていようがいまいが、テメェが正しいと思ったことをやれば良いだろ!! 他のヤツになんか惑わされんな! テメェはテメェ、アサメタウンのカルムだろうが、違うかぁー!!」

 その言葉が、再び自分の血を滾らせる。
 そうだ。何でここで燻ってる必要があるんだ。
 何も信じられないわけじゃない。
 信じられるものは此処にある。
 信じられる基準は此処にある。
 いつも見えないけどすぐ此処にある。
 まず、自分が居る。
 そして--------------こいつ(ポケモン)らがいる!!

「カーマインさんっ、シェナ!! ”俺”はそれでもアンタらが間違ってるとしか、思えないんだッ!!」

 チッと舌打ちするカーマイン。シェナの肩に手を置いた。

「もう良い。力づくでも仲間にする。シェナ、良いな?」
「オーケー。カルムの眼を覚まさせる!!」

 ステージの奥で2人のモンスターボールが投げられた。
 シェナのボールからはホイップポケモンのペロリーム。一方のカーマインのボールからは、サルのようなポケモンが現われたが、図鑑が認識を弾いてしまった。

「っ!?」
「こいつは火炎ポケモンのゴウカザル。北の地方に生息するポケモンだ。私とナナカマドは私が仕事でシンオウに出向いたときにポケモンの話で親友になった。あいつは熱心なヤツだよ。だから多くのものが惹かれたのだろうな。これはその絆の証なのだよ!!」

 そうカーマインが叫ぶと、ふぅっと炎を吐いたゴウカザルはキッと標的を見据える。

「ナナカマド博士だって、あんたがそんなことをするのを望んじゃいないはずだ!!」
「カルム。お前にもナナカマドにも申し訳ないと思っている。だから、世界をより美しく、あの方の元で変えることが私のせめてもの罪滅ぼしなのだよ!」
「んなもんは唯の自己満だろうが!!」

 だが、これ以上の問答は無用だと思ったのか、カルムもボールを構えた。
 と、そのときだった。

 -----------戦場を青い風が駆け抜けた。

 たちまちにしたっぱのポケモンは静まり返って、沈黙。そして倒れる。

「な、何が起こったって言うんだ!?」

 テイルでさえ、全く何が起こったのか分からないようだった。
 次々とフレア団のポケモンはバタバタバタと倒れていく。

「オーイオイオイオイ、何か面白そうな事やってんな、オイ」

 いつ割れたのかも分からない窓から不敵な笑みを浮かべてスパイダーマンよろしく入ってきたのは、あのゴーグルを掛けた少年だった。