二次創作小説(紙ほか)

第六十話:ブラック ( No.142 )
日時: 2014/10/02 22:58
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sPkhB5U0)

「誰だ? 貴様は」

 怪訝な顔で聞いたカーマイン。直後、ゴウカザルがそれを排除せんとばかりに拳を炎で包んで殴りかかる。
 が、ゴウカザルの腕を包んだルカリオは、刹那それを高く天井へと投げ飛ばしてしまう。

「おいおい、ざっけんなよ。誰だ? て聞きながら攻撃とかマジ鬼ですかぁ!? リオ、波導弾!!」

 身体に波動が駆け巡る。エネルギーがバチバチと拳の一点に集められ、そして発せられた。
 ズドン、と打ち出される青い気合の玉。回避を試みるゴウカザルだが、空中で身体を立て直し、アクロバティックな動きで弾を避けた。
 しかし、次の瞬間、弾の軌道がぎゅん! と音を立てて曲がったのである。
 それだけではない。まるで吸い寄せられるようにゴウカザルを狙っていく。

「避けようとしても無駄だぜ。波導弾は相手の身体に宿るエネルギー、つまり波動に反応してぶつかるまで追尾し続ける!!」

 波動を導く弾と書いて、波導弾。精神エネルギーである波動はすべての生き物に存在するが、その中でもルカリオは波動が非常に強いポケモンである。故に、この技を扱える数少ないポケモンなのだ。
 たとえ、目を瞑っていたとしても、持ち主の波動が強ければ強いほどより標的の波動を読んで勝手に追尾してくれる。
 それが波導弾という技だ。
 ドォン、と爆発音が響いて煙が立ち込める。しばらくすると、ゴウカザルの身体はまっさかさまにパーティーテーブルへと落っこちた。

「ペ、ペロリーム、ムーンフォース!」
「やられる前にやれ、神速!!」

 青い風が吹く。そして、正拳突はしっかりとペロリームの腹を捉えた。
 呻き声を上げるペロリーム。そのまま前のめりに倒れた。

「あ、あんたは一体……!?」
「よーう、またまた会ったな。大体3度目ってところか? 俺の名はライ……じゃなかったブラック! 珍しいポケモンを探して旅をしてる物好きだ」

 カーマインとシェナを前にして、ゴーグルの少年は高らかに名乗った。
 自信満々といった笑みで続ける。

「で? これで終わりかよ。特に『絶望の使徒(ハッピーエンド・チルドレン)』のそいつに至っては何の能力も使っていないんじゃないか? この俺を舐めてもらっちゃ困……あれ?」

 ふとブラックは、目の前に居る相棒のルカリオを凝視した。動きが少しおかしい。
 ふらついているような感じだ。いや、それだけではない。
 前のめりに倒れたはずのペロリームの身体が起き上がり---------

「ペロリーム、火炎放射!!」

 余裕そうな顔で微笑んだペロリームの口が、ガバァッと開き、炎が放たれる。

「飛び退いて避けろ!」

 唯でさえ脚力の強い上にメガシンカした状態だ。一度地面を蹴ればルカリオは天井まで飛び上がれるはずだった。
 しかし、ジャンプは僅かそこで止まってしまう。
 さらに炎を一気に浴びたルカリオは、そのまま燃えながら倒れる。
 炎が治まった頃には完全に目を回していた。

「これがあたしの能力、『破壊の遺産(イベル・ミゼル)』。相手の生命力を”直接”トレーナーが奪い取るというもの。加えて、あたしのペロリームの脅威の耐久見た? あの程度じゃ半分も削れてないよ」
「ははっ、まさかメガドレインみたいに奪った生命力を自分のポケモンの力に変えたのか!?」
「それは違うかな? 別に奪ったところでどうこうできるものでもないみたいだし? でもね……」

 次の瞬間、ペロリームを中心に巨大な紫色のオーラが放たれた。
 圏内にいたしたっぱやそのポケモン、さらにはセレナやテイル達までも巻き込む。
 幸い、カルムとブラックはその圏内に納まっていなかったのかなんとも無かったが、リオが心配だ。
 そして、途端に彼らは胸を押さえてうずくまる。

「がはっ、ゲホゲホ、なんだこれは!!」
「あの子のポケモンを中心に輪が広がってる!?」
「気付いた? ”破壊の輪(デストロイ・リング)”。これは圏内にいる生命体の生命エネルギーを奪う代物。まあ今のあたし程度の力じゃ命そのものを奪うことはできないけどね」

 ククッ、と悪戯っ子のように微笑むシェナ。
 悪魔だ。
 家族同然だったはずの彼女が始めてそう思えた。
 憤りを感じる。
 歯を食いしばる。
 
「あははっ! でも、そのまま終わらない生き地獄を味あわせてあげなよ-------------」
「好い加減に、しろォーッ!!」

 怒りの咆哮とガッ、と鈍い音が響くと同時にペロリームの身体が吹っ飛ばされる。
 カルムのゲコガシラが電光石火でペロリームの懐にもぐりこんだのだ。

「何でお前たちはそうやって、俺の仲間を傷つけるんだァーッ!!」

 続けて水の波動。今度こそペロリームは唸り声を上げて倒れた。
 普通ではありえないほどゲコガシラの攻撃力は増していた。
 そう。ありえないほどに。
 見れば、カルムの身体を中心に青い輪が広がっていく。
 その中に入っているゲコガシラは、普段よりも生き生きとしていた。
 
「カルムのバカっ! 何でお父様のことを分かってあげないのよ!」
「言っても無駄だシェナ。一気に押しかけるぞ。行け、ハッサム」
「オーケー、頼んだよ、クチート!」

 2体のポケモンが現われる。
 大きな顎を持つ角を頭に生やした欺きポケモンのクチートと、赤い鋼鉄の身体に身を包んだ鋏ポケモンのハッサムが降り立つ。

「おいカルムとやら。俺で足りるかどうか分からねえが助太刀入れさせてもらうぜ」
「良く言いますよ。あんな凄いポケモンを操ってて!」
「いーや、それでもあいつのペロリームに一撃でやられちまった。御苦労、リオ!」

 そう言うとブラックはルカリオのニックネームを呼びながらボールに戻す。
 そして、別のボールを投げた。

「行ってこい、”リュー”!!」

 ボールから飛び出したのは水色の曲線的な身体を持つドラゴンポケモンのハクリューだった。
 美しい流線形のラインは神秘的なものを感じさせる。
 ぶつかり合う4つの視線。
 完全に包囲されたと思われた絶望的な戦線は1人の少年によって、1筋の光が差し始める。
 破壊の盤上で死のワルツを舞う破滅の歌姫。
 それを止めるのは誰なのか。

 ***

「あんのバカ、ちゃんとやってればいーんだけどねー」

 少年が岩山を歩いていた。
 それも、どこか幼さが残る少年だ。
 そして、その背後には親子ポケモンのガルーラが後を追うようについていっていた。
 地図を見ながら、辿りついた先には森がある。
 そこには多くの赤いスーツの面子が張り込んでいた。
 が、しかし。

「ガルーラ、10万ボルト!」

 ああいけません。ポケモンの技を人に向けて撃ったら、そりゃ気絶するに決まってます。
 というわけで黒焦げに調理されたそれらを踏み越えるどころか踏みにじって奥へ奥へ進んでいく。

「……時は一刻を争う……だから、ヤツを此処で止める!!」

 その右手には、キーストーンが埋め込まれたメガリングが嵌められていた。