二次創作小説(紙ほか)
- 第六十四話:加速 ( No.149 )
- 日時: 2014/08/06 21:58
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)
「ハッサム、バレットパンチ」
大きく伸びた鋏が弾丸の如きスピードでナックを捉えた、が--------
「噛み付いて上に放り投げろ!」
鋼の鋏にナック-------フライゴンのニックネーム---------は勢い良く噛み付いた。フライゴンと言う種族は素早い動きを得意とする。反射神経もハッサムとは比べ物にならないのだ。
本来、鈍足なハッサムが追いつけるわけが無い。
天井へ飛ばされたハッサム。
そのまま、口を向けられる。大の字の炎が広がり、迫る。
「一気に決めるぞ、大文字!」
「慌てるな。炎の軌道を見極めろ! 剣の舞!」
咄嗟にカーマインは指示を出した。そして、大の字の炎を躍るように避けたハッサムは同時に攻撃力も底上げする。
冷静な観察眼により、火の粉1つ当たることもなく、そのまま急降下。
再び、弾丸の拳の構えに入る。
「ッ! やっぱメガシンカポケモンは伊達じゃねえってか」
「一撃で決めさせていただくぞ。バレットパンチ!」
「させねえよ、突っ込んでくるなら迎え撃つだけだ! 大文字!」
キィィと再び大の字の炎が現われ、放たれた。
拳を低く構え、突き出すハッサム。
それを迎え撃つように。
だが。
それは一瞬の出来事だった。大の字に広げられた炎の合間を縫うように、一瞬で距離をつめたのだ。
流石に面食らったのか、何もできないまま、そのまま顔面に拳を食らう始末。
「止めのバレットパンチ!」
「させるか、地ならし!!」
直後、ナックは自分の尾で地面をたたき始めた。徐々に波打っていく床。それに足を取られてハッサムは倒れこむ。
「メガシンカしたといっても、トロさはそんなに変わってないみたいだからな。反射神経の割に、案外足腰は弱いんじゃねえかって思ったんだ」
「下らぬ。バレットパンチだ」
「させねえよ!」
この一瞬で一気に細長い身体を背後に回らせていたナック。そして、零距離で大の字の炎を-----------ぶつけた。
-----------この---------一瞬で!?
馬鹿な、という考えがカーマインの脳裏を過ぎる。
-----------下手をすればオペラの固体以上だ----------む? このフライゴン、そういえば----------
「ハッサム、守る!」
紫のバリアーが展開され、炎を弾いた。
「くっそぉー! 惜しかったぜ!」
当たれば一撃必殺。しかし、そう上手くいくものではない。
***
床に穴が開いた。もう何度目かは分からない。振り下ろされた大顎--------実際は頭に生えた角らしいがどう考えても化物----------が再び床を突き破り、抉った。
「もーうっ!! 逃げてばっかでつまんなーい!!」
-----------やってられるか、こんなのとマトモにさ!
火力はメガシンカ前より何倍も上がっている。
全くである。こんなのと打ち合っていては、ダメージレースで負ける。
じゃれ付かれてお終いだ。
というわけで、カルムはワカシャモに逃げさせまくっていた。
(……しっかし何だろうな。時間がたつにつれて、ワカシャモの動きがどんどん機敏になっているような……)
そう思い、図鑑を広げてみる----------ダメだ。カロス図鑑外のポケモンだから弾いてしまった。
「だけど、これを利用すれば----------ワカシャモ! もっとだ! もっともっと逃げろ!」
場を駆け巡るワカシャモ。に続いて目の前のものを破壊しながら奇声を上げて暴れまわるクチート。
あー、これ後でどうするんだろーなー、という考えよりも先に、今どうするべきかを考えなければいけないのだろうが、流石にやばい気がする。
苛立つシェナ。好い加減怒るだろうな、と思っていた頃だ。
「あーっ!! もうっ!! クチート、アイアンヘッド!」
全身が鉛の色に変色したクチートは、そのままロケットのように突っ込んでいく。
「避けろ!」
だが、ワカシャモは跳んだ。跳んでそのままアイアンヘッドを避けてしまった。
----------普通なら、かわせる訳がないのに。
(しくじった……あのワカシャモ、特性が”加速”なんだ! カルムがそれに気付いているかどうかは知んないけど、クチートじゃ追いつけない!)
既に時遅し。
ワカシャモの脚が猛々しく燃える炎に包まれる。
「これで決めろ! ワカシャモ、ブレイズキック!!」
それは確かに目にも留まらぬ速さだった。
クチートを目掛けて放たれた容赦の無い一撃は、確かにクリーンヒットすると思われた。
しかし--------直前になってワカシャモの身体が崩れ落ちた。
「!?」
思わず、シェナの方を見る。
手が紫色のオーラに包まれている。そこから、何本かの紫色のラインがワカシャモに突き刺さっていた。
完全に失念していた。彼女自身の能力、『破壊の遺産』だ。
「卑怯だぞ、シェナ!」
「卑怯も何もないんじゃないの? これはバトルじゃないわ。”戦闘”よ」
戦闘。確かにそうだった。
決められたルールで戦っているわけじゃない。
そんなことは重々承知しているはずだった。
何の文句も言えなかった。
だが、これだけはいえる。
「こんな戦い方をして、自分のポケモンに申し訳ないとは思わないのかよ!!」
「-----------!!」
一瞬、彼女の言葉が詰まる。
だがすぐにキッとこちらを向くと言い放った。
「遊びは……おわりだよ!!」
同時にクチートが鬼のような形相で奇声を上げる。
身体がピンクのオーラに包まれた。
「じゃれつく!!」
一歩踏み出し、拳をぶんぶんと振り回した。
そのまま、動けないワカシャモへ飛び掛る。
ズドォ、という鈍い音と共に砂煙がとんだ。
が、かろうじてワカシャモは直前で抜け出したようだった。
「フェアリータイプの物理技の中ではかなりの威力を誇るこの技。メガクチートにじゃれつかれたら、”冗談抜きで死ぬ”わよ?」
「えーっとさ、フェアリーでこんな破壊的なタイプだったっけ」
「うるさい、アイアンヘッド!!」
今度は全身を鉛に変えてロケットのように突撃してきた。
「---------ダメか! なんなら一か八か、これに賭ける!」
相手の有効打はこちらに対する接触技しかない。
つまり、クチートはこちらに突貫するしかないのだ。
では、どうするか。
避けられないのならば、逆に考えるのだ。
---------避けられなくても良いさ、と。
相手が突っ込んでくるなら、それを利用してこちらも接触技で打ち返してしまえば良い。
避けられないのならば、避けずに使える手段で返り討ちにするだけだ。
「ワカシャモ、ブレイズキックだッ!!」
ワカシャモの脚が炎に包まれる。
瞬間。空気が斬れた、といっても過言ではない。
マッハの勢いで放たれたそれは、既に加速の限度を超えており、制御不可能。
そんなものを今更軌道を変えて避けられるわけもなく。
突貫してきたクチートの頭を------------打った。