二次創作小説(紙ほか)

第六十五話:布石 ( No.152 )
日時: 2014/08/11 00:59
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)

 突貫してきたクチートの頭を-----------打った。
 それは見事な光景だった。
 マッハの勢いで振り切られたそれはクチートの頭に直撃し、ボールのようにぐにゃりと一瞬へしゃげたそれは気持ち良いくらいに君の良い音を立てて吹っ飛んでいった。
 そのままゴシャァと壁に叩き付けられた。

「よし、やったか!!」
「ふ、ふふふ……」

 不敵な笑みを浮かべるシェナ。
 そのとき、カルムは再びクチートが向かった方向を見る。
 ---------己の失策に気付いた。
 クチートが飛んで行った壁の近くにはセレナが-----------!!

「その女に噛み付いちゃえ!!」
「させるかぁぁぁ!!」

 セレナもようやく敵の接近に気付いたのか、ヒッと本能的に恐怖を感じる。
 が、同時にそこを横切る影。

「ワカシャモ!?」

 と彼女が言い終わらないうちにワカシャモがクチートの顔面に蹴りを入れた。
 加速のおかげで相当素早さが上がっていたのか。
 そして、さっき自分が叩き付けられた壁に、今度は埋め込まれた。

「ク、クチート!?」
「お前のクチートとよく遊んだもんだ。懐かしいよ」

 クチートの事をよく可愛がってたよな、僕もお前も-----------
 ふと、シェナはカルムの瞳を見た。 
 そんな昔話をするには相応しくない程恐ろしく冷え切っている。
 
「だけど---------それが今の”俺”達を傷つけるっていうのなら、容赦はしない」

 バチバチ、とカルムの手が閃光に包まれる。そこから何本ものラインがワカシャモに繋がれた。

「これは戦闘なんだろ? んじゃあ、俺も遠慮なくいかせてもらうぜ!!」

 ぐいっ、とそれを引っ張る。ワカシャモの眼にはXのような紋様が浮かび上がっていた。
 刹那、ワカシャモは更に跳んだ。いつもよりも何倍も。
 遠く遠く、目の前の敵へ。
 埋もれた壁の中から起き上がったクチートは再び壁の中に埋もれることになった。
 
「そのまま首掴んでもう一回放り投げろ!!」

 一瞬の間にシェナは久々に恐怖と言うものを味わった。
 カルムは「もう動けない敵」に止めを刺しにいったのではない。
 「まだ動ける敵」に止めを刺そうとしたのだ。
 再び空に放られたクチートは体勢を整える暇もなかった。
 刹那、ワカシャモは跳んだ-----------
 今度は高く。天空を掴みに行くように。


「ワカシャモ、スカイアッパー!!」


 決まった。
 大きく振り上げられた拳は確かにクチートの腹を捉え、クリーンヒット。
 身体がぐらついたクチートは、そのまま地面へ落下した。

 ***

「おらぁ、おらぁおらおらおらぁぁぁ!!」

 ハッサムのバレットパンチが連続で繰り出された。オラオラさっきから言ってるのは当然、パンチを放っているメガハッサムではなく、カーマインだ。
 どっちがスタンドだ状態である。
 
「連続バレットパンチ! 弾丸の拳から放たれるそれを何度も喰らって耐え切れるポケモンは今だかつていない!」
 
 「加えて---------」とカーマインは続けた。

「メガハッサムの特性は、テクニシャン! 威力の低い技もこいつにかかれば致命傷を負わせられる程の必殺技と化す!」

 流石全身凶器のメガハッサム。ホッチキスのように長く伸びた鋏はもっと重く、もっと硬く、そしてもっと速い拳を繰り出せるのだ。
 これを喰らえば、まず人間の頭なら即爆発四散、中のものが飛び散るであろう。
 何せ、弾丸(バレット)拳(パンチ)なのだから。その速さはピストルで撃たれた銃弾に劣らない。 
 しかし、目が砂漠と言う環境で鍛えられているフライゴンと言う種族に属すナックは、かろうじてそれを避けていた。
 零れた拳は柱だのなんだのに当たり、正に手当たり次第に破壊していく。

「必殺、必殺ってさっきから言ってるけどよぉ?」

 ナックの口から大の字の炎が吐き出された。
 
「あんたのメガハッサムだって、これ喰らったら一撃だろうが! エビフリャー舐めんなゴルア!!」
 
 自分を鼓舞するかのように叫ぶブラック。
 そして明らかにそれは全国のフライゴンに対して失礼な気がしなくも無いが、主人に対する忠誠の厚いナックはそれさえも褒め言葉と捉えたのか、突っ込んでいく。

「今度はちょっくら混乱してもらうぜ! ナック、超音波!!」

 耳には聞こえないが、今メガハッサムの脳内はかなり揺さぶられている。
 ぐらぐら、ぐらぐら、とだんだん方向感覚を失わせていく。
 ふらふらと動けなくなったハッサムはその場に膝を付いてしまった。

「むっ!? 卑怯な」
「これでしめぇだ!!」

 天井を突き破って、流星群が落下してきた。

「流星群ッ!!」

 幾多もの落石がハッサムへ降りかかった。しかし、所詮はドラゴンタイプの技。
 効く訳が無い。
 そう思っていた----------------

 ***

「おや、定刻。帰って映画を観なければ」
「今日は帰さないぞオペラ!!」

 時計を見て呟いたオペラの耳を劈くかの如くバーミリオンの怒声が響いてくる。
 この男は全く!! と目まで言っている。
 
「分かってますよ、分かってますとも」

 戦場は再び1つになった。
 一見すれば、オペラとバーミリオンの2人を全員が囲んでいるという構図だが、何せ相手が悪い。
 さらにその周りを下っ端達が取り囲んでいるのだから。
 が、そのときだった。
 
 ----------天井を突き破って無数の流星群が降りかかってくる。

「え、ちょ、ええええ!?」

 たちまち戦場は混乱とパニックに包まれる。
 ナックがメガハッサムへ流星群を撃ったのではない。
 ブラックが指定した範囲は、これだった。

 ---------ここら一帯。

 既にバトルシャトーは崩壊寸前。じゃあどうするか。
 とりあえず、全員は思った。

 ---------流星群使うならもっと空気読んで使えぇぇぇ!!!

 と。
 カーマインはようやく悟った。
 さっきまでブラックはただただフライゴンを回避させていたわけではない。
 柱を破壊し、天井を崩落させることで”脱出せざるを得ない状況を作る”ため。
 そして、突きつけられた選択はこれしかない。
 ”逃げる”。
 
「カルム。いつか貴方を絶対仲間にするから。ただ、そこから生きて帰れれば、だけど」
 
 そう吐き捨てて七炎魔将とシェナはオペラのサザンドラとバーミリオンのエアームドにそれぞれ分割して飛び乗り、脱出したのだった。
 命が惜しい下っ端達もそれぞれ逃げ惑い、出て行く。どうやら犠牲者は出ずに済みそうだ。
 -------肝心の僕ら以外は。

「えええ!? あいつら逃がしたのは良いけど、どうすんだこれ!?」

 まず、奴らが外で待っているということはないだろう。
 流石にポケモンや下っ端の多くが損傷(これもポケモン)を負っているのでこれ以上の深追いは危険だと感じるのが普通か。
 では、どうやって出るのか。

「おい、お前ら! こっちに来やがれ!!」

 ブラックの声が最後に響き、天井が崩れ落ちた---------------