二次創作小説(紙ほか)
- 第七十二話:一緒にいるということ ( No.164 )
- 日時: 2014/09/28 17:52
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sPkhB5U0)
メェークル牧場。のどかな雰囲気と綺麗な空気に包まれた12番道路、フラージェ通りの途中にある牧場である。
ライドポケモン、メェークルを中心に他にもその進化系であるゴーゴートがあちこちで歩いていたり寝ていたりと見ているだけでほっこりする。
最近はフレア団の罠なり、ジム戦なりで心身共に疲れきっていたので良い休息である。
一般開放もしている上に広いので自由にポケモンを遊ばせることができた。
カルムもニャオニクス達を出して束の間の休憩をしていたのだった。
「ふぅ、落ち着くよ。自然がいっぱいだしさ。な、ニャオニクス」
「ニャオ」
すると、一匹のゴーゴートが寄り添ってきた。そのまま横になって倒れ、寝息を立ててしまった。
図鑑ではメェークルは穏やかな性格のため、最初に人と暮らし始めたポケモンと記されていた。進化系のゴーゴートもしかりだ。
だから人馴れしてるんだろうな、と。
「ほほほ、どうかね。ポケモンと一緒に居る……そんな当たり前のこの時間がとても愛おしく感じられるじゃろ」
ふと、年老いた声がした。
振り返れば、緑色のハンチングを被り、曲がった腰を抱えてやってきた小柄な老人がいた。
「貴方は?」
「何、ただの自然が好きな老いぼれじゃよ。わしのゴーゴートがここの牧場で育ったポケモンでな。度々連れて来るんじゃ」
カルムの傍で寝ているゴーゴートを指差して老人は言った。
このゴーゴートはこの老人のポケモンだったらしい。
「住まいが近くなんですか?」
「ほほ、ここからすぐのヒヨクシティじゃよ」
へぇ、とカルムは呟いた。ヒヨクシティは案外ここから近いところらしい。
すると、老人は続けた。
「昔のことじゃ。身体が弱かったメェークルをここの牧場主の友人だったわしが療養のために引き取ったんじゃ。だけど、あいつはうちに居ついてしまっての。そのまま友人と相談して育てることにしたんじゃよ」
「そのメェークルがこのゴーゴートなんですか?」
老人は首を振った。
「いや、あいつはもういないよ。風邪を抉らせたまま、そのまま死んでしまった。せっかくゴーゴートに進化して、子供もできたというのに」
哀しそうな目で老人は語った。
それでも、懐かしそうに空を見上げて。
このゴーゴートは、その子供じゃよ、と老人は言った。
「長くいきていると、出会いもあれば別れもある。その別れの中に、”死”という出来事が絡んでくることもある」
「死……ですか」
「それでも、あいつは今もわしの心の中で生きている。それにあいつの子供がここにいる。命はそうやって、ずっと1つの輪の中で続いていくんだよ」
老人は牧草に腰掛けると、申し訳無さそうに言った。
「すまんかったの。老いぼれのシケた長話に付き合わせてしまって」
「いや、良いんですよ、僕は別に」
ああそうだ、とカルムは言った。
「僕、カロス地方のジム巡りをしているんですけど。ヒヨクジムのジムリーダーのことで何か知っていますか?」
「ヒヨクジムのジムリーダー?」
老人はふむ、と考え込むような仕草をすると、続けた。
「若造、それは即ちこのわしに挑むと言う事になるの」
「へ?」
一瞬、カルムはワケが分からない、といった顔をしたが老人は快活に笑ってみせた。
「何故ならヒヨクシティジムのジムリーダーは、このわしフクジじゃからの」
「---------!!」
驚いた。目の前にいたこの老人が、自分の戦うべき相手であるジムリーダーだったとは。
フクジと名乗った老人はふふっ、ともう一度微笑むと言った。
「老いぼれと思って見くびるなかれ。今尚花を咲かせてみせよう、何てな。若造、今日ジムに着かないで良かったな。ジムは閉めていたからの」
「はは、全くですよ」
彼の笑顔につられて、カルムも自然と笑顔になっていた。放ったらかしにされているニャオニクスが不満そうに「ニャー」と鳴いた。
「ああ、ごめんごめん」
軽く謝ると、抱き寄せた。
フクジが微笑んで言う。
「ポケモンとの絆は大切にしなさいよ。そして、慌てず騒がず、じっくりと育てていくんだよ」
「はい!」
「それじゃ、わしはそろそろ……」
と、フクジが立ち上がった。
「次に会うときはジム戦じゃな」
「ええ、勝って絶対にバッヂを貰います!」
「元気の良いことじゃ。楽しみにしておるぞ」
ゴーゴートに跨ると、フクジはそのまま去ろうとする。
「出会いと別れ……か」
自分も、このニャオニクスが死んだら、悲しむのだろうか。いや、悲しむとは思うが、どうなるだろう。
考えたこともなかった。
が、フクジが振り返って言った。
「でも、今の時間を大切にしなさいよ。一緒に居ることが最高の思い出じゃからな」
***
「……確かに妙な構造だ」
倒れたリングマを尻目に、外したチョーカーを見てテイルは言った。
しかし、困ったことがある。元が他のトレーナーのポケモンだけあって、ボールに入れて回収しようにもボールとポケモンのIDが合致しないとボールの光線を弾いてしまう。
すると、チョーカーの構造を調べていたマロンが駆け寄ってくる。
「先輩っ! このチョーカーを調べてみたんですけど、きほんは2つのプログラムに分けられていて……」
が、肝心のテイルは顔を真っ赤にして振り向かない。
「先輩っ、聞いてるんですか!」
「だー、るっせぇ! 聞いてるっつーの! で、2つのプログラムってなんだよ」
「ポケモンを洗脳するプログラムと、そのポケモンの脳に働いて能力を高めるプログラムです!」
「どっちも同じようなもんじゃねえか。よーするに自己暗示かけて強くするってことだろ。筋肉に負担がかかってらぁ。リミッター外して無理矢理身体を動かしたからだろうよ」
そして再びテイルはチョーカーをじっくりと観察した。
---------ん? 何だこのパーツ、どっかで見た気が……。
そのときだった。
バチバチ、とチョーカーから音がする。
もしかして、さっきのもう1つのプログラムというのは------------
「マロン、回収したチョーカーを全部捨てろ! いや、どっか遠いところに放り投げろ!」
「えええ!?」
「爆発するぞぉぉぉ!!」
かごの中に入れておいた他のチョーカーを全部を放り投げ、マロンの上に覆いかぶさって伏せる。
直後、ボン、ボン、と音がして砂煙が上がった。チョーカーはいずれもパーツが弾けとび、もう使い物にならなくなっていた。ころん、とネジや鉄の破片が転がってくる。
軽い爆発で済んだからよかったが、これが大爆発を起こしたら今頃大惨事になっていただろう。
「マロン、大丈夫か!?」
テイルが声を掛ける。
が、肝心の彼女の顔は真っ赤に染め上がっており、「ふにゃあ〜」と言葉にならない声を上げて目を回していた。
「……大丈夫じゃなさそうだな」
はぁ、と溜息をついたテイルはそのまま彼女を負ぶって、今後どうするか考えることにしたのだった。
「あ、そーだ」
テイルはふと呟いた。
「博士、ヒヨクシティに着いたかな」
後書き:ヒヨクシティ編開幕です。と言ったものの、まだヒヨクシティに着いていませんけどね。先駆けて登場したフクジですが、ジム戦はもう少し先になると思います。それでは、また。