二次創作小説(紙ほか)

第七十五話:疾風のアブソル ( No.169 )
日時: 2014/10/04 10:37
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sPkhB5U0)

 ゲコガシラが体に水を纏って突撃した。必死にサイコエネルギーを溜めた角で押さえつけたアブソルはかろうじて跳ね返すことに成功する。一方のゲコガシラも跳ね飛ばされた際に地面に手を突いて衝撃を緩和させたものの、想像以上のパワーだったのか、息を若干切らしていた。

「ゲコガシラ、怯むな! 水の誓い!」

 地面へ拳を放つ。途端に亀裂から間欠泉が吹き出てアブソルを吹っ飛ばした。
 流石の威力である。しかし、水さえも踏み台にしてさらにアブソルは高く跳んだのだった。

「アブソル、サイコカッター!」

 ぎゅんぎゅん、と超能力で圧縮された刃が風を切り裂いて次々とゲコガシラへ襲い掛かった。
 直感で感じる。
 これ、やばくねえか、と。
 肌が泡立ち、唇が乾く。
 この瞬間、次に出すべき指示は分かっていた。

「ゲコガシラ、電光石火!」

 向かってくる刃は2発。それらはこちらに向かうにつれ、互いの距離を狭めていく。ならば、こちらにやってくる前に電光石火で2つの間を通り抜けてしまえばいいのだ。
 地面を蹴り、一気にアブソルとの間を詰める。

「----------!」
「そのまま、蹴っ飛ばせ!」

 アブソルの横っ面にゲコガシラの蹴りが炸裂した。あまりにも速過ぎる不意打ち。流石のアブソルも何もできなかった。
 悶絶した表情をみせるアブソル。だが、今ので完全にキレたらしい。

「ごめんね、お隣さん。私のアブソル、ちょっと怒りっぽいからッ!! アブソル、辻斬り!」

 アブソルの刃が鋭く、妖しく光った。そして、今度はお返しと言わんばかりに地面を蹴り-----------消えた。
 一瞬で目の前から忽然と姿を消してしまったのだ。
 いや、違う。

 --------後ろだ---------!!

 気付いたときにはもう遅い。背後を切り裂かれたゲコガシラは衝撃で吹っ飛ばされる。
 何というスピード。まさか消えたようにみえるとは。まさか以前、ハクダンでテイルの手持ちを打ち破ったのはこのアブソルではないだろうか、と慄くカルム。
 見ると、背中には真一文字の傷ができていて、痛々しかった。
 尚も威嚇するような表情でアブソルが詰め寄っていく。

「ゲ、ゲコガシラ!!」

 声を掛けた。ゲコガシラも流石に参ってしまったようだ。何よりも背中の傷が痛そうである。
 かろうじて、立ち上がるも苦しそうな顔だ。
 
「どうする、お隣さん。相当痛がってるみたいだけど」
「……僕たちの負けだ、ゲコガシラ。無理したらいけな--------」
「ゲロゲーロ!!」

 直後、べしゃっ、とカルムの顔面に水がかかる。
 ゲコガシラが水を吐いたのだ。

「こ、このヤロー! 人が心配してやってるのに、水ぶっ掛けるヤツがいるかぁー!」

 だが、ゲコガシラの姿は「まだまだ戦える」と言っているようにも見えた。
 
「やらせてあげたらどうだい?」

 博士が言った。

「怪我はバトルに付き物。無理は禁物だけど、ゲコガシラがまだやりたいって言ってるんだ。できる限り、最後まで戦わせてあげようよ」
「博士……」

 --------しゃーねえな。
 カルムはハンチングの鍔をくいっ、と上げると、叫んだ。

「ゲコガシラ、飛び跳ねる!!」

 ゲコガシラがその声に応えるかのように地面を蹴り、上空へ飛んだ。一瞬、ゲコガシラが目の前から消えたと錯覚した

「それでこそ、カルムよ! アブソル、サイコカッターで迎え撃て!」

 超能力の刃が再び音を立ててゲコガシラへ向かう。しかし、これだけでは終わらない。
 さらに、自分からも刃にエネルギー纏わせて突っ込んでいく。

「サイコカッター2発に辻斬り! これで終わりよ!」
「いーや、足元を良く見るべきだったな、セレナ」

 次の瞬間だった。セレナは驚愕する。
 間欠泉が、アブソルめがけて吹き上げてくるのだ。

「そ、そんな! 今の間に水の誓いをもう一回使ったの!?」

 アブソルの体はゲコガシラの視界から消えた。一瞬で、間欠泉が脚に到達し、上に吹き上げられてしまったのだ。
 先に地面に着地したゲコガシラは勢いを失って落下してくるアブソルを見据える。
 
「ゲコガシラ、電光石火ァー!!」

 地面を蹴り、跳んだ。そして落ちてくるアブソルの腹をめがけて、拳を叩き込む。
 落下の力と、ゲコガシラの上昇していく力が相乗し、アブソルの全身に衝撃が走った。
 が、尚も動ける様子。

「ゲコガシラ、煙幕だ!」

 今度は煙幕だ。一瞬でアブソルの視界を煙が塞いだ。アブソルは周りが見えなくなり、混乱する------------が、ようやく視界が晴れ、安堵の息を漏らす。

「アブソル---------!!」

 主人・セレナの声でアブソルは我に返った。
 自分が落下”していた”ことに気付く。
 受身を取ることを忘れ、落下のダメージが諸に全身に叩き付けられた。

「ゲコガシラ、電光石火!」

 最後にゲコガシラが止めと言わんばかりに体当たりした。
 うめき声を上げたアブソルはそのまま、地面に倒れこむ。

「や、やったか!?」

 だが、尚も起き上がろうとするアブソルは、最後っ屁と言ったところか、サイコカッターをゲコガシラに飛ばして地面に倒れこんだ。
 一方、不意の一撃を食らったからか、ゲコガシラもまた、同時に地面に倒れこんだのだった。
 勝負は、引き分け、だった。

「あー」

 カルムは察したようにつぶやいた。これ、イーブイ掛かってるんだったよね、と。

「戻れ、ゲコガシラ。よく頑張ってくれた」

 カルムは微笑みながらゲコガシラをボールに戻す。一方のセレナも同様だった。

「何ていうかなー、引き分けか。お隣さんには勝ちたかったんだけど」
「同じだよ。それよりも、イーブイはどうしよっか」
「マーベラース! 素晴らしいバトルだったよ」

 パチパチ、と拍手しながら博士が歩み寄ってくる。

「皆が成長している姿を見て、安心したよ」
「それは良いんですけど、イーブイ……」

 そういえば、結局どちらが手に入れるのか、ということだ。

「あー、そうだね。引き分けだったからね」

 と博士が頭を掻いた、そのときだった。ピーピー、と博士のホロキャスターに着信が入る。
 開くと、化石研究所の所長さんからだった。

『いやー、すみません。イーブイ実はもう1匹いるんですけど、送り忘れてしまって。そっちに後で送っておいたんですよ』
「……」

 そのホログラムメールを覗き込んでいたカルムとセレナは絶句した。今まで、俺達は何やってたんだろ、というような微妙な空気が流れる。

-----------お隣さん、私たち何やってたんだろうね。
 -----------唯一ついえるのは、僕たちはもう……戦わなくて良いってことなんだ。うん。
 -----------あ、今度またバトル申し込むから。
 -----------うっそ、マジで?

 「ブイブイー!」という博士に抱えられたイーブイの喜んだ声が響き、場にはひたすら疲れきった雰囲気が漂っていたのだった-----------


後書き:ゲコガシラってアクアジェット覚えないみたいですね。今まで勘違いしていたので、全部電光石火に修正しておきました。というわけでセレナ対カルムですが、結局イーブイは2匹いたということで決着しました。にしてもアブソルってやっぱり格好いいですね。メガシンカしたら中二かっこいいとか言われますが、まさにそのとおりですよ。さてヒヨクシティ編はそんなに時間かけないと思います。後々の話のために。次はジム戦ですね。それでは、また。