二次創作小説(紙ほか)
- 第八十三話:人形 ( No.179 )
- 日時: 2014/12/05 05:01
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
***
「さあ、次のポケモンを出しなさいな。最も、スピアーの槍がすぐにその胸を刺し貫きますわ」
セルリアンは余裕綽々といった表情で言った。
「速い……しかもあの槍、かなりの殺傷力があると見た」
さっきの光景を垣間見ていたクリスティはジュペッタに敵の掃除を命じながら呟いた。
スピアーの槍には毒がうっすらと塗られている。しかし、その強さは体に入れば命の危険もあるのだ。
モンスターボールに戻しておけば、一先ずそれは避けられるが、このままでは全滅である。
「テイル、その場を任せる」
「え、お前」
「スピアーの力加減、速さ、全て見誤っていたようだ。何せメガシンカは想定外だったからな」
「た、確かに」
テイルは続けた。
「スピアーのメガシンカはカロス地方じゃ発見されてねぇからな」
「というわけだ。僕とジュペッタも加勢する」
はぁーっ、と息を吐き頭を抱えてテイルは仕方なさ気に「しゃーねぇ、雑魚は任せろや」と背中を押す。
「ヤツの分析は完了した。もう、敵ですらない」
頷いたクリスティは階段を上り、目の前のフロアへ---------
***
「行け、バシャーモ!」
「頼んだわよ、チルタリス!」
カルムとセレナはそれぞれ、スピアーに対して有利な炎タイプのバシャーモと飛行タイプのハミングポケモン・チルタリスを繰り出した。
しかし、相手の速さははっきり言って尋常ではない。
動いた瞬間に倒されている可能性だってある。
さっきのように。
「あーららら。弱点を突けば勝てる、安易な発想ですわね」
挑発するセルリアン。自分が不利な状況なのに、だ。
「うるさい、一気に焼く!! バシャーモ、ニトロチャージ!」
「チルタリス、龍の波動で援護よ!」
炎を纏い、飛び掛るバシャーモ。そして、紫色の波動でスピアー目掛けて放射するチルタリス。
しかし。
「スピアー、守る!」
直後にバリアが展開され、跳ね返されるバシャーモ。そこに隙が生まれた。
「毒突きですわ、スピアー!」
見えた。スピアーの槍からどす黒い液体が大量に分泌されたのが。
カルムの首筋に冷や汗が伝った。
たったの1秒。それがとても長く感じられた。
なのに、自分には何も出来ない。
スピアーは体勢を崩したバシャーモにそれを食らわせ-----------られなかった。
体が動かないようだった。見れば、槍の先にはジュペッタが。
そして、カルムが振り向けば、そこにはクリスティが立っていた。
「失礼、横槍入れさせて頂いた。そいつの分析が終わったのでな」
「いや、分析って……!」
ぎりっ、とセルリアンは歯軋りをした。
邪魔者が入ったのが気に食わない。
しかし、同じことだった。同様の手法でどんな敵も素早く突いて落とすのみ。
「どんなポケモンでも私のメガスピアーの速さには付いていけませんこと!」
「そいつは確かに素早い。しかし、ただ忙しく動き回っているだけでは僕のジュペッタには勝てない」
そのとき、クリスティの腕にある腕輪-------いや、厳密に言えばそこに嵌められた石が光りだす。
同時に、ジュペッタの首に掛けられた石も光り輝きだした。
「ジュペッタ、メガシンカ」
直後、ジュペッタの周りに卵の殻のようなものが纏わりついた。そして、それが膨れ上がり、爆ぜて消える。
ジュペッタの腕、顔には新たにファスナーがついていた。そこがジャキッ、と無機質な音を立てて開く。
同時に奇声を上げて、体の中に詰まっていた負の力が溢れ出した。どす黒いオーラが漏れてくる。
これが、メガジュペッタだった。
「同じことですわ! スピアー、毒突き!」
しかし、セルリアンは臆していない。それどころか再びスピアーは攻撃態勢に。
だが、それはクリスティとて同じだ。落ち着き払った表情で言った。
「ジュペッタ、鬼火」
「無駄ですわ! 撃たれる前に落とす----------」
反論するセルリアン。しかし、そのときだった。
メガスピアーが接近するよりも、遥かに速いスピードで青白い炎がジュペッタの体の回りから渦を描いて放たれた。
そして、その炎を喰らい、スピアーは失速。そのまま途中で止まってしまった。
「メガジュペッタの特性は”悪戯心”。変化技を素早く出せる。そして、相手が物理的な技を主体にして戦うポケモンの場合---------先手で鬼火を打って機能停止にできる。何故ならば、鬼火を食らったポケモンは火傷状態となり-------」
再び動こうとしたスピアー。毒突きをジュペッタに放った。しかし、ジュペッタはそれを片手で受け止めてしまう。
「その痛みが原因で体が動かしづらくなる。つまり、相対的に物理技の威力も下がる。貴様のメガスピアーはもう機能停止だ。諦めろ」
「し、仕方が無いですわね」
悔しそうに引き下がるセルリアン。どうやら、1対1の戦闘ではクリスティの方が上手だと悟ったらしい。
1対1では。
「ですが----------ミツハニー軍団、やってしまいなさい!」
次の瞬間、カルムは妙な羽音を聞いた。クリスティも同じだ。振り向けば、大量のミツハニーの群れが。
「おーっほっほっほ! 何故、この私がこの発電所を任されたか、それはこの私が七炎魔将の中で唯一”群れ”を持つため! 群れレベルでポケモンを育成しているのは、世界広しと言えどこの私くらいでしょうね!」
ぶんぶんぶん、ぶーんぶん、羽を鳴らしてとやってくるミツハニーをシビルドンに追い払わせ、テイルは叫ぶ。
「ま、まずい、クリスティ! あのアマ、この発電所の最下層に大量のミツハニーを忍ばせてやがった! ざっと見て数は----------数百くらい?」
「いや、アバウトすぎでしょ!」
突っ込んだカルムの声虚しく、ミツハニーはどんどん襲い掛かってくる。しかも、彼女の手持ちにはまだビビヨンもいるのだ。
というか、もう出てきている。
「おーほっほっほ! ミツハニーはただ闇雲に羽ばたいている訳ではないですわ! ”風起こし”であなたたちの方に風を向けていますの。”風”が貴方達の方に向かっている状態で私のビビヨンが眠り粉を放ったらどうなるやら」
まずい。既にビビヨンは麟粉を浮かせて眠り粉を撃つ準備に入っている。しかもミツハニーが邪魔で、ビビヨン本体を叩けない。
そしてとうとう、カルムは頭がぼんやりしてきた。眠り粉を吸ってしまったのだ。
セレナもがくり、と膝立ちになる。
と、そのときだった。どこからともなく一直線に飛んでくる蒼い光。それが天井にいるシンボラーを刺し貫いた。
直後、シンボラーの体が硬直。そのまま落ちてくる。
ガッシャァン、と床に勢い良く落ちてきたシンボラーの体は凍えて震えていた。
「冷凍ビーム……!?」
怪訝そうに言ったセルリアンの視線はこのフロアのドーム状になっている部分。工事や検査の際の作業員用の足場があるのだが、そこに目が行った。
見れば、貫禄ポケモン・ダイケンキの姿が。
ヒステリックに叫ぶセルリアン。その顔は怒りの余り、青ざめていた。
「バーミリオン!! 貴方、まさか私の邪魔を!!」
すぐに声は返ってきた。
「バーミリオン? 多分、人違いだコノヤロー」
ただし、声の主は”男”だったが。