二次創作小説(紙ほか)
- 第八十四話:強襲・メガフーディン ( No.182 )
- 日時: 2015/01/05 19:47
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
直後、ミツハニーの動きが慌しくなる。何に従ってよいのか、分からず混乱し出したのだ。
すぐさま、風の向きは変わった。眠気はそこで納まる。カルムは眠気覚ましにカバンの中に詰めてあったいつもの缶コーヒーのタブを開けて一気に口の中に流し込んだ。
さらに、ミツハニー達が別々の方向に羽ばたいた所為か、風が一気に乱れた。
つまり、ミツハニー達はそのまま眠り粉を互いに浴びることになる。
騒ぎはすぐに収まった。
口と鼻を手で覆っていたが、その間に1匹、また1匹とミツハニーが落下したのを見た。
気がつけば、ミツハニーはぶつかり合ったり眠り粉を浴びたりで皆フロアに落ちていたのだった。
再び、蒼い光が走る。慌てるセルリアンが回避の指示を出す前に、今度はビビヨンを撃ち貫き、射落とした。
「よーく当てたな、”ミルマ”」
声の主がカルムには分かった。ブラックだ。彼が駆け付けて助太刀を入れてくれたのだ。思わず、「ブラックさん!?」とその名前を呼んでしまった。
すると、彼がいる方にクリスティが叫ぶ。
「遅かったんじゃないか?」
「おいおい、いーじゃねぇか。いっつもはアンタが遅いんだから」
この2人、知り合いというよりは旧知の仲、というか……友人に見えた。
「お膳立てはしたぜ。とっとと発電所奪還しちまいな」
ブラックの声がクールに響く。フラットに「ったく、仮にも年上に……」と返すクリスティだが敵の方を見た。
もう、セルリアンを守るものは無い。
「スピアー! やってしまいなさい!」
しかし、それでも尚彼女は火傷を負ったスピアーで攻撃してくる。
だが、カルムはそれを見逃さない。
「無駄だよ、此処で終わりだ! 火力が削がれたならば、もう怖くない!」
バシャーモがスピアーの首根っこを掴んだ。
もう、逃げられない。
「バシャーモ、放り投げてブレイズキック!!」
直後、宙に放り投げられたスピアーは動く暇もなく、そのままバシャーモの炎を纏った脚に蹴っ飛ばされ、そのままセルリアンの方へ。全身が燃え上がり、まさに火炎弾。
しかし、咄嗟に構えた彼女は、スピアーがぶつかる前に何とかボールの中に収めることができたのだった。
しばらく呆然としていたセルリアンだが、
「……大失態、ですわ!! こんなこと、あって良い訳がない!!」
ヒステリックに叫んだ。
そのときだった。彼女の背後に”何か”が現れた。
ローブで顔が隠れて見えない小柄の少女。
見れば、それは七炎魔将序列6位のクローム、そしてその手持ちであるフーディンだった。
「……セルリアン。これは?」
「連中にまんまとやられましたわ。シンボラーもこのザマですわ」
「強がるけどあなた、幸運。この時間帯にあたしが様子を見に来なかったら、身柄を拘束されてもおかしくなかった」
そして---------、とクロームは続けた。
「この発電所だけは奪われるわけには行かない」
そう言って、今度は自分が前に進み出る。
「セルリアン、引っ込んでて」
「ぐっ、下級が中級の私に命令を---------」
はぁ、と溜息をついた彼女はギラリと鋭い視線をセルリアンに浴びせた。
「-------じゃないと、一緒に”処分”する。貴方も」
ひっ、と小さな悲鳴が聞こえたのが分かった。実は七炎魔将というのは、序列があまり関係ないのではないか、と疑った。
それでもヒステリックにセルリアンは言い返した。
「あ、貴方のような”欠陥品”が----------!!」
今の言葉にカルムは少々耳を疑った。
-------欠陥品?
唯単に罵るだけならば他に言葉があるはず。今の言葉に少々意味があるように感じた。しかし、いずれもクロームをキレさせたことには変わらなかった様だ。
「……去ね」
次の瞬間、セルリアンの体が浮き上がり、発電所の機械に叩き付けられた。後頭部を強く強打したようだ。
(やはり首領の判断は正しかった……! 落ちぶれとはいえ、彼女もまた---------)
まるで今、フーディンは何もしていなかったように見える。
吐血した彼女はそのまま地面に落ちた。
「……幾ら上司だからって、今の言葉は許さない」
ふぅ、と息をついた彼女は言った。
「必要な電気を回収するまで残り僅か--------デリートする」
平坦とした言葉ではあったが、同時に一連の言動にカルムは戦慄を覚えた。
フレア団という組織、いや正確に言えば七炎魔将だが、オペラにせよネープルにせよ、人格が破綻してしまっているのではないか、と。
「ちっ、此処は何としても発電所を解放する!! シビルドン、行くぞ!」
「ジュペッタ、奴をどかすんだ!」
ところが、次の瞬間だった。2匹とも体がカチコチに硬直し、そのまま動けなくなってしまう。
「サイコキネシスで動きを止めた。更に------------」
吹っ飛ばされる2匹。それぞれのトレーナーの下へ。
ローブで隠れて見えなかったが、クロームの右の耳にはイヤリング--------そこに耳の割に大きな石が嵌めこまれている。
キーストーンだ。
それに彼女が触れた途端、眩いほどの光と共に、フーディンの体が激しく輝く。
卵の殻のようなものに包まれ、それが弾け飛んだ。
そこにいたのはフーディンではない。
頭には赤い鉱石が表れ、長く白いひげに瞑想のような組んだ足が特徴的なメガシンカポケモン、メガフーディンの姿が。
「メガシンカ、完了。更に----------」
メガジュペッタの方を見たフーディンの体の回りにオーラが溢れ出た。
「金縛り」
「いや、特性:悪戯心でジュペッタが先に動く! 挑発で補助技を封じるんだ!」
だが、クリスティは言っている途中で気付く。
フーディンの方が遥かに速い。
ジュペッタが動くことはなかった。
金縛りが炸裂してしまったのだ。
「メガシンカ後の特性:トレースによって悪戯心をコピーした。しかも、メガシンカしたフーディンの素早さは、七炎魔の手持ちでは最速。もう、誰も止めることはできない」
無表情のまま、淡々と語るクローム。先制技を撃ちあったとき、先に行動するのは誰か、答えはより素早さが高い方なのだ。
「ミルマ! 冷凍ビーム!」
再び、狙い撃ちでフーディンを狙撃するブラック。
しかし、次の瞬間フーディンの姿が消え、見失う。
気がつけば-----------
「こっち」
あたりを見回すが、声の主はいない。
しかし、気配を感じ、その方向を向く。
ブラックと、ダイケンキのミルマは戦慄した。
ミルマの鼻先に、フーディンがいる---------------!!
「零距離、念動(サイコ)”爆弾(ボム)”----------BOM」
強力な念動力が発動し、よって圧縮された弾が爆ぜた。爆発音と共にブラックが居た場所に煙が上がる。
しばらく、唖然としてその光景に見入っていた4人だったが、すぐに何かが真っ逆さまになって落ちていく姿が見えた。
作業用の薄いフロアが壊れたのだ。
下は、奈落。何も見えない。
落ちたが最後、だ。
「ブラックさぁぁぁん!!」
カルムの声が響く。
暗い発電所の最下層へ、ブラックは落ちていった-------------