二次創作小説(紙ほか)
- 第八十五話:風来の影探偵 ( No.183 )
- 日時: 2015/01/20 23:01
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
「やだ、ブラックさんが------------!!」
セレナの顔が恐怖で真っ青になる。がくり、とその場に崩れ落ちた。
カルムも奈落を覗き込もうとするがクリスティに「やめろ!」と肩を引っ張られた。
「でも、ブラックさんが!!」
「あいつはあの程度で死ぬタマじゃない、それよりも-------------!!」
とクリスティが言葉を綴ろうとするが
「う し ろ」
その前にぞくり、と2人は背筋が泡立った。振り向けば、クロームがメガフーディンと共に凍りつくような視線を向けながら浮いていたからだ。
ふーディンの指先が”光った”。
そして、次の瞬間に”何か”がカルムの頬を掠める。
肉がぱっくり、と割れてそこから血が垂れてきた。
余りの一瞬の出来事に痛みを感じなかった程だった。
「離れろ、カルム!!」
テイルの声で痛みと共に我に返った彼は、咄嗟に彼女から距離を置いた。
次の瞬間にテイルのシビルドンがフーディンの背後を取って電撃を纏った全身で体当たりを仕掛ける。
ワイルドボルト。
メガフーディンの超能力は驚異的だ。
しかし、超能力に全てを頼った反動で肉体は衰えているといえる。
テイルのシビルドンの筋力は鍛え上げられており、そこらの個体とは比べ物にならない。
つまり、電撃を纏ったそれをぶつければいくらメガシンカポケモンといえども、フーディンならば倒せる可能性があるのだ。
あるのだ、が--------------
「金縛り」
冷たい彼女の台詞と共に、シビルドンの体が一瞬で止まった。
電撃は止まる。
フーディンの体には紫電一閃触れられていない。
馬鹿な、今の速度に反応したというのか、とテイルは冷や汗を垂らして喉から搾るように「くっ」と呻いた。
「特性:悪戯心をトレースした。もう、並みのポケモンではフーディンに対処は出来ない」
カルムは疑問を抱いた。
本当に、彼女は七炎魔将序列六位なのだろうか。
正直、此処までの戦いぶりを見ればバーミリオンやカーマインを凌ぐほど、にも見える。
「何で、彼女ほどの実力者が下級という座に甘んじているんだ……!?」
「大方、臭いものに蓋をした、といったところか」
クリスティが突然進み出て言った。
「彼女も能力者、なのだろう」
その力の全貌が明かされていない以上、『絶望の使徒』には及ぶかどうかは分からんが、と彼は加える。
大方、先ほどセルリアンが言っていた「欠陥品」もそのことだろうか。
「これは僕の推理だが、彼女の能力が強くとも何か欠陥のあるものだったとすれば、『絶望の使徒』などという大層な役には就かせられないような欠陥があったとすれば、だ。フレア団は仮にも一度、組織の内部に就かせた人間を外に出すことも出来んから、今の位置に甘んじさせているのだろう」
「その能力って----------!!」
「僕の推理によれば、だが」
まず、1つ目は先ほどの既存のものとは異なる新たな”技”。
そこから-----------
「技を新たに作り出すことが出来る、能力か。つまり、ポケモンの力を120%以上引き出せる能力ということだ」
次に2つ目。フーディンの力を借りずにセルリアンを吹っ飛ばしたこと。
「もう1つは、普通に超能力、といったところか」
というのが彼の推理だった。
しかし、所詮は憶測の域を過ぎない。
「さて、落ちたブラックだが、あいつの心配は後だ」
「で、でもあの高さから落ちたら死----------」
「後だ!!」
クリスティは声を荒げる。その鬼気迫る態度にカルムは思わず口ごもってしまった。
そして、クリスティはまだ投げていないボールに手を掛けた。
中から現れたのは-----------
「頼むぞ、エンブオー!!」
丸っこい体躯の大柄な二足歩行の豚のポケモンだった。エンブオーと呼ばれたそのポケモンは図鑑では認識できなかった。
ただし、容貌は少なくとも、頭脳派の彼にはミスマッチに見えたが。
「こいつはイッシュ地方の格闘タイプのポケモンだ。1つ、奴の動きを観察したが確実にフーディンを倒す方法を見つけた。ジュペッタとエンブオーの2匹掛かりでな」
「か、格闘ォ!?」
今度は驚きを通り越して呆れる。エスパーポケモンに対して悪ポケモンを出すという発想は無いのか、この人は。
「た、タイプ相性分かってるんですかあんたはぁ!?」
「分かっている。だからこそ、奴を此処で倒せる自身がある」
「いや、格闘タイプはエスパータイプに弱いですよね!?」
「とにかく、だ」
クリスティはまず「セレナを下げておけ、精神的に疲労しているだろう」とテイルに指示を出した。
次にカルムに「ここから先、絶対に声を出すなよ」ときつく言った。
最後に------------
「こちらから仕掛けさせて貰う。エンブオー、フレアドライブ!!」
唐突に攻撃を開始した。
大火豚は火炎を纏ってメガフーディンに突撃する。
ただし、どすん、どすん、とのろのろと走りながら。
思わずカルムは「遅っ!?」と声に出してしまいそうになった。
当然のように金縛りが襲い掛かってエンブオーの体はそこで硬直してしまった。もう、動けないだろう。
「馬鹿馬鹿しい。こんな遊びいつまでもやってられな-----------」
がしり、とフーディンの細身の胴に実体の無い影の手が掴まれた。
足元を見ればフーディンの影から伸びている。
「忘れたのか? 僕がジュペッタも出していたことを」
シャドーダイブだろう。エンブオーを囮にジュペッタを影にもぐりこませたのだ。
くっ、とクロームは苛立ち気に呻くと「サイコキネシス」とフーディンに指示を出す。
エンブオーの金縛りは解けてしまうが、ジュペッタを倒した後に鈍足のエンブオーも片付けてしまえば良い事だ。
あの程度のフレアドライブ、避けようと思えば避けられる。「くっ、し、しまった!」とクリスティの声もする。
策を破られて悔しがっているのだろう、と彼女は呆れた。
とっとと倒し-------------
轟!!
と熱風と共に、拳がフーディンの体に迫った
さっきまでのろのろと移動していたエンブオーの拳だ。
それも、鈍足のエンブオーにしては有り得ない程の速さだった。
「さぞ僕が本気で悔しがっている----------と思っていたのか?」
クリスティの顔は不敵に、そして無敵に笑っていた。
「これでも昔は”風来の影探偵”として、ぶらぶらしながら通りかかった事件を解決し、イッシュの各地を回ったものだ。そこで養った洞察力、思考力は僕の最大の武器だ」
彼は続けた。
「”あいつ”に出会ってから僕は確固たる”目的”を見つけた。そして、ライ……いやブラックとも出会って沢山の思い出が出来た。そして、応用力という最大の武器を身につけることに成功した」
クリスティは最後に訴えるように叫んだ。
「僕が変えるんだ、お前らによる破滅の未来を!」
エンブオーの拳、動きは普通からは考えられないくらい速く、フーディンにぶつかるのは秒読みだ。
「”ふいうち”だ。お前のサイコキネシス、利用させて貰ったぞ」
--------そうか、ふいうちは悪タイプの技で、さらに相手が攻撃したときのみ限定だけど、先制技! フーディンが先に攻撃した場合は、フーディンよりもさらに先に動けるんだ!
そのために、ジュペッタを餌にフーディンを攻撃させたのだ。
カルムはクリスティの発想に思わず舌を巻く。
が、しかし。
「この程度----------!!」
ひゅん、とフーディンの姿が消える。
テレポートですぐ上空まで移動したのだ。
失敗だ。
ふいうちは不発に終わってしまう。
だが、クリスティは相変わらずの笑みを浮かべ、叫んだ。
「まだ分からないのか。フーディンの足元の影に潜っていたジュペッタは既に移動した!! そして、この技はガード不可能! さあ、耐えられるかな?」
次の瞬間、ジュペッタの体がフーディンの背後から現れる。
フーディンの体の表面に照明の光が当たっていない部分、つまり背中の影から現れたのだ。
完全なる死角。エンブオーのふいうちを避けるのに精一杯だったのだ。
反応など、出来なかった。
「ゴーストダイブッ!!」
ジュペッタの影の爪が、フーディンの背中を---------------切り裂いた。