二次創作小説(紙ほか)
- 第三十三話:焔 ( No.99 )
- 日時: 2014/01/03 12:29
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 0.DI8Vns)
「・・・・・・。」
カルムが目を覚ますと、そこはベッドだった。虚空に手を伸ばす。
「生きて・・・・・・るのかな。」
ふっ、と息を漏らした。相も変わらず頑丈な体である、と感じた。目をやれば-----------------見覚えのある少女の姿が。
「セ・・・・・・レナ?」
「あ、起きた?お隣さん。ここはポケモンセンターの中の病院だけど?」
セレナだった。ああ、付きっ切りで看病してくれたのか、と。
「貴方の容態、結構悪いわよ。栄養失調。だから、栄養剤入りの点滴を打ってるの。」
「あっそ・・・・・・。」
ここで状況を素早く理解する。自分の腕に刺さった針を見た。カルムはゆっくり起き上がった。見渡せば、ここが個室だと理解する。----------------ちょっと待て。幾ら鈍感なカルムでも察知できた。年頃の男女が個室で一緒になるというのは----------------いささか危険ではないか。
「ちょっと待て、何で君が居るんだ!!」
「え?あの後大変だったんだよ?お隣さんをテイルさんが担いで・・・・・・。」
「あのなぁ・・・・・・僕だって男なんだよ?警戒心が無さ過ぎるって言うか、何ていうか・・・・・・。」
「お隣さんに、私を襲う勇気なんて無いと思うけど?」
セレナは少し小馬鹿にしたような表情で、笑った。にこにこと。幾らカルムといえど、黙っては置けない。
「おい、どういう意味だ。僕だって男だ。その気になれば-----------------」
「万一のときは、ハリボーグのニードルアームで串刺しにするし。」
「ははー、すみませんでしたぁー!!」
「態度変わりすぎ!!」
ポケモンの力にはかなわない。というかその前に、国家権力のお世話になってしまうだろう。彼女には敵わない、つくずくそう感じる彼であった。
カルムはふと思い出す。あのモノズはどうなったのか。
「そうだ!!あのモノズは!?」
「・・・・・・。」
セレナは口ごもった。うつむき、帽子で瞳が見えなくなる。
「・・・・・・テイルさんも、応急処置はしたの。ジョーイさんも、精一杯頑張って・・・・・・やれることはやりつくしたけど・・・・・・。」
彼女は、最後の一言を言い出せないようだった。だが、彼女の挙動からカルムは悟った。守れなかったのだ。あの小龍の命を。
「そ、そんな・・・・・・。」
「あ、命は取り留めたんだけど。」
「おい!!」
拍子抜けした。取り合えず。命が助かったと聞いて、安堵の息をつく。
「ったく、てっきり助からなかったのかと・・・・・・。」
「ううん。外傷自体は良くないけど、そこまで悪くも無いって感じ。だけど・・・・・・。」
毛布をかぶり、巣箱に閉じ篭ったままの龍がそこに居た。まるで何かにおびえているかのように。龍が本当に傷を負ったのは体ではない。心だったのだ。
「可愛そうに・・・・・・前のトレーナーに散々虐待されていたのね・・・・・・。」
人間不信。これだった。
「木の実をあげても、食べないの。さっき診てみたら、喉にも炎症があって、前に刺激性の強い薬品を入れられた餌を食べさせられたんじゃないかしら?完全に人間を信じていないのもあるし、喉を痛めているのもあるわ。」
ジョーイさんの言葉は、あまりにもセレナが聞くには辛すぎた。
セレナからこの話を聞き、カルムは唇をかみ締めた。
「クソッ!!」
壁に右手をたたきつけた。だけど、どうしようもならないことは分かっていた。
「なぁ、セレナ!!僕にできることはできないのか!?」
「・・・・・・明日、点滴を外すって。どうせ、止めても行くんでしょ?」
「・・・・・・ああ。」
薄暗い森の中。古びた白いコンクリートの建物があった。病院、と言えば聞こえこそ良いが、とてもそうではなかった。廃屋。その二文字に当てはめるのが正しかった。
その中へ、つかつかと入っていくバーミリオン。ガブリアスの滑空により、ここまで来れたのだった。建物の入口まで歩を進め、電子ロックらしきもののモニターに、手の平をあてがった。
『拳紋確認OK。Msバーミリオンを認識しました。』
音声と同時に重い鉄のスライドドアが開いた。奥につながる階段を目に止めると、彼女は再三つかつかと足音を立てて、歩を運ぶのだった。
それは、廃屋に擬態したフレア団の基地だった。基地と言っても、遠征の際の拠点のようなもので、本拠地ではない。だが、忠誠を誓った首領の命に従い、七炎魔将全員が久々に集結するというのは、なかなか悪い話ではなかった。
扉を開け、部屋に入る。片眼鏡(モノクル)を掛けた男--------------------オペラがすぐさま声を掛けた。
「おやおやこれは『炎魔恐慌(アンラ・マンユ)』ことバーミリオンさん、やけに遅かったですねぇ。」
「誰のせいだと思ってるんだ貴様ァー!!」
思わずつかみかかった。
「ガブリアスの滑空とエアームドの飛行じゃ、明らかに違うだろうが!!」
「まぁまぁ、ほらエアームド。きんきんに冷えております故・・・・・・。」
「何だとぉー!?冷たッ!!エアームド中で震えているよ!?お前冷凍庫に入れただろ!!」
モンスターボールは半透明になっており、常にトレーナーが中のポケモンを確認できる。ボールの中のエアームドは、成るほど確かに震えていた。
「はて?私は単にアイスバーの”じゃりじゃりくん(ソーダ味)”をいつも保管しておく場所に入れたんですけどねぇ?」
「それが冷凍庫だろーがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「しかし、『炎魔強暴(アエーシュマ)』はまだ来ていない。」
訝しげに、オペラの横についていたクロームが言う。すると、バーミリオンは、会いたくなかった人物に出くわす。
「『炎魔恐慌(アンラ・マンユ)』。どうやら、負けてのこのこ逃げ帰ってきたようですわね?」
冷たく女の声が響き渡った。バーミリオンは、内心とても不快だった。序列が自分よりも下の癖に、高慢な態度をとるこの女が、彼女はとても嫌いなのだ。そこには、美しい金髪を持った貴族を思わせる格好の女が安楽椅子に鎮座していた。
「序列2位の名が泣いているわ。」
「・・・・・・だが、『炎魔羅刹(パリカー)』。中級の貴様ごときでは、手も足も出なかっただろうな。」
「それは言い訳ですわ。貴方程度が、一般のポケモントレーナーに敗北するとは、思っても見なかったこと。好い加減、首領も貴方の序列を再検討なさるべきですわ。」
「そうでもないと思うな。」
中世的な声が響いた。まだ、成人しきっていないような声が。
「僕から言わせれば、バーミリオンさんが戦ったトレーナー、-----------テイルは昔、北の地方で猛威を振るったトレーナーなんですよ?」
「『炎魔導士(アストー・ウィザード)』。貴方、『炎魔恐慌(アンラ・マンユ)』の肩を持つのね?」
「まさか。」と声は続いた。奥のほうから姿を現した少年は、ノートパソコンを小脇に抱えて言った。
「僕は誰の肩を持つわけでもありませんよ?ただ、貴方さえ貶めることが出来ればそれで良いんですよ。」
屈託の無い笑顔だった。それが金髪の女の感情を逆なでする。震える手でボールを投げた。それに気付いた少年は、受身をとる形でボールを投げる。金髪の女が投げたボールからは、ナスカの地上絵を思わせる容姿の鳥もどきポケモン、シンボラー。一方の少年が投げたボールからは、一種の蛹のような白い殻に四肢が付いた姿をしており、殻の中心には 六角形の穴が開いていて、そこから鋭い眼がのぞいているだけで、
他は得体の知れないものとなっている忍耐ポケモン、コモルーだった。
「シンボラー、サイケ光線!!」
「コモルー、守る。」
両者、指示を出した。技が相殺され、弾け飛ぶ。サイケ光線はお馴染み、(?)”守る”は、どんな技も無力化してしまう技だ。しかし、連続して出すと失敗しやすい。
「おい、そこまでにしろ。」
その場に居る人間達を束ねると思われる、軍隊を思わせる服を着た、貫禄のある中年男性がそこにいた。
「用件を伝える。”ハッピーエンド・チルドレン”が本部に到着した。」
後書き:今回の時点で、異名だけですが七炎魔は全て出したつもりです。そして、最後に出た”ハッピーエンド・チルドレン”とは何なのか。正月早々思わせぶりな展開ですが、まぁお楽しみに。それでは、また。