二次創作小説(紙ほか)
- 22話 別れ・一緒 ( No.113 )
- 日時: 2013/12/10 18:41
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
満身創痍のハリボーグに、テールナーは木の枝を突き付けているので、いつでも攻撃できる——即ち、いつでもとどめを刺せる状態を意味していた。
「もうお前に勝ち目はない、諦めろ」
「っ、く、ぅ……!」
悔しそうに歯噛みするラルカ。だが彼女は、とにかく声を張り上げる。
「まだ、まだよ! まだ私のハリボーグは戦闘不能じゃない!」
「つってもあと一撃で終わりだろ。見てみろよ、今すぐにでもテールナーはハリボーグを攻撃できるんだぜ」
「でも! まだハリボーグはとどめを刺されてない! だったらまだ負けじゃない!」
明らかに負けが確定している状況でも、ラルカはそれを認めなかった。レストは深く溜息をつくと、
「お前、いい加減にしろよ。強情にもほどがある。公式戦じゃないんだから、どの道戦闘不能になるポケモンをわざわざ倒す必要もない。だからとどめを刺していないだけで、実質的なお前の負けは決まってんだよ」
「なによ! だったら早くとどめを刺せばいいじゃない!」
「……ちっ。分かった、そこまで言うなら望み通りとどめを刺してやる。そうすればお前も認めざるを得ないだろ。テールナー、炎の——」
枝の先端に灯った炎が一際強くなる。揺らめく炎は、今まさにハリボーグへと襲い掛かろうとする——その時だ。
「待って!」
レストトラルカの間に、一人の少女が割って入る。
「? なに、この子……?」
「リコリス……お前、何でここに……!?」
その少女は、リコリスだった。
「シナ姉から連絡があったんだよ。レスト君の様子が変だって。だから急いで駆け付けたんだ……で、話は聞かせてもらったよ」
リコリスはいつもとどこか違う、静かで落ち着きのある声で、諭すように語りかける。
「あたしは二人に何があったかとか、昔がどうとかは知らない。レスト君のことだってまだ知らないことは多いし、ラルカちゃん、だっけ? のことなんて、全然知らないよ。でも、それでも、君らに言えることはある」
どこか呆れたように息をつくリコリスは、続ける。
「二人とも、もっと落ち着こうよ。レスト君は言葉きつすぎだし、ラルカちゃんは言ってることが滅茶苦茶。お互い主張があるんだろうけど、もっと落ち着いて。それと、レスト君」
「……なんだよ」
リコリスの口調は、まるで悪戯をした子供を叱るようなものだった。
「あたしなりにいろいろと考えたけど、その考えだとこの一件は君が悪いと思うよ。だって、ラルカちゃんは君が何も言わずに故郷を去った理由を聞きたいだけ、なんだよね?」
「う、うん。そうだけど……」
「だったら、それに向かって帰れは酷い。君とラルカちゃんは、幼馴染、なのかな? いつから一緒かは知らないけど、たぶん長い間一緒にいたんじゃないのかな。それなのに別れの言葉もないなんて、酷すぎる」
「そ、そうよ! 何で生まれてからずっと一緒だった私に一言もなくこんなところに来てるのよ!」
「……どうだっていいだろ、んなこと」
リコリスとラルカ、二人の言葉にも、レストは頑なに答えない。
「なによ、あんただって強情じゃない。人の気持ちも知らないで、勝手なことばっか言って、私よりも身勝手よ……」
今までずっと強気だったラルカの表情は沈んでいき、言葉も弱くなっていく。
「あの町で私と同い年の子供はあんたしかいないのに、そのあんたがいなくなったら、寂しいじゃない……私はまだ、あんたと一緒にいたいのに」
「……やっぱ、それが本音か」
実を言うと、レストにはラルカの本当の気持ちというものが薄々分かっていた。元より訳を話せば大人しく帰る相手とも思っていない。なんだかんだと理由をつけてついてくるだろうと思っていた。
「いいか、ラルカ。俺たちももういい歳なんだ、いつまでも一緒ってわけにはいかねえんだよ」
「だからって! なんで何も言わずに行っちゃうのよ……!」
「っ……」
しかし、やはりレストは答えない。言葉に詰まり、視線を逸らすばかりだ。
「何とか言ってみなさいよ、レスト!」
「レスト君!」
「……あぁ——」
語調の強くなる二人に対し、遂に堪えきれなくなったのか、レストは口を開く。
そして、
「——うるせえよお前ら! 二人になった途端言いたい放題言いやがって! ちったぁ俺のことも考えろ!」
爆発した。
「俺だってなぁ、好きでこんなとこにいるわけじゃねえんだ! 急に親の離婚が決まったと思ったらすぐにこんなとこに連れて来られてんだぞ! こんなどこかも分からねえ場所なんかより、生まれた時からずっといる町の方がいいに決まってんだろ!」
「レスト君……」
「それになぁ! お前は俺がいないから寂しいとか言ってたが、俺だって寂しいっての! お前の言う通り、あの町で俺とつるんでたのはお前だけだ! 俺だって別れたくはなかったよ!」
「レスト……」
肺の中の酸素をすべて吐き出し、叫ぶだけ叫んだレストは、肩で息をしながらも続ける。しかしその口調は、一気に沈んだ。
「……俺だって寂しいんだ。お前と別れたくはなかった。だが、この先ずっと一緒ってわけにはいかねえ、分かれってのはいつかやって来るものだ。納得できようができまいが、そういうもんなんだ。そうやって自分を納得しなきゃ、前には進めねえんだよ……」
ラルカの本音は、レストと一緒にいたい、別れたくないということ。しかしそれは、レストも同じだった。
「あの町で俺と一緒にいたのはお前だけ、だから俺も、お前がいない生活は考えられなかった。だから、少しでもそんな気を紛らわせるために、こっちに着いてからすぐ旅に出た。博士に誘われなくても、自分から申し出るつもりだったんだ」
小さな町でずっと一緒に、たった二人で育ってきたため、互いが互いにかけがえのない存在となった。それが、レストとラルカの関係だった。
「お前と同じだ、俺もお前と別れるのは嫌だった。別れを告げなかったのも、その言葉を口にしたら、お前と別れるということを自覚しねえといけないからで……つまりは、お前との別れを認められなかったからだ」
ひたすら静かに、レストはそう締め括った。
それからしばらく沈黙の時間が流れたが、やがていたたまれなくなったのか、レストが焦ったように口を開き。
「と、ま、まあそういうことだっ! さっきも言ったように、俺たちはもうずっと一緒にはいられねえ。流石にもう帰れなんて言わねえが、そういうことだっ! 分かったか? 分かったな! 分かったらもうこの話は終わりだ!」
強引に話を終わらせようとするレスト。自分で言ったことが恥ずかしかったのが、必死で照れを隠そうとする。しかし赤面している顔では、それも無意味で、どころか滑稽にすら見える。
「……あはっ! なーんだ、レスト君って不良っぽい人だと思ったら、意外と可愛いとこあるじゃん」
「う、うるせえよ! お前には関係ねえだろ! 黙ってろ!」
「そういうのも強がってるみたいで可愛いよ、レスト君?」
レストをからかいながら笑うリコリスに、何も言い返せない。というより、今の二人の力関係ではレストが何を言ってもリコリスには敵わない。
「っ……俺はもう宿に戻るっ!」
それを悟ったレストは、踵を返し、全速力で走り去ってしまった。あっという間に二人の視界から消えてしまう。
「あーあ、行っちゃった。まいっか、それよりも……ラルカちゃん」
「……あっ、な、なに?」
リコリスは、レストがいないことを確認すると、ラルカに歩み寄る。その声や動作、そして雰囲気は、いつもの明るい彼女のそれとは、少し違っていた。
リコリスはラルカの目の前まで来ると、静かに、そして優しく、口を開く。
「ちょっと、話があるんだけど——」
翌日。
この日でレストたちも『雪見館』を出なくてはならないのでその準備をしていると、ラルカが訪ねてきた。
「私、旅に出る」
開口一番、ラルカはそう言い放った。
「私もあの後考えたけど、あんたの言う通り、これから先もずっと一緒っていうのは無理かもしれない。それは受け入れるわ」
でも、と続け、
「それでも私は、あんたと離れたくない。ずっと一緒は無理でも、離れるのだけは嫌」
それは、まったくレストの言うことを受け入れていないのでは、とレストは反論しそうになるが、それより早くラルカは言った。
「だから、私も旅に出る。この地方を巡って、ジムバッジ集めて、ポケモンリーグに出場する! あんたと同じように!」
は? と思ったレストだったが、ラルカ曰く、
「一緒にいるのは無理、だったらせめて、一緒のことをして昔の感覚を思い出すの。それならいいでしょ?」
ということらしかった。
レストにはまったくもって理解不能かつ意味不明な理屈だったが、ラルカらしいとは思った。それに彼女が納得しているのなら、それを否定する理由もない。
というわけで、それだけ言ってラルカは一足先に旅立った。ハリボーグ一体ではこの街のジムはきついので、新しいポケモンを探しながら次の街を目指すそうだ。
「……はぁ、結局あいつも、旅に出るんだな」
嘆息するレスト。しかしその声は、どこか嬉しそうだ。
こうして、また一人、新しいトレーナーが、旅立ったのであった。
というわけで、ラルカ問題はこれにて解決。あ、先に言っておきますが、レストとラルカは恋愛フラグ的なあれではないです。単に二人とも、仲のよい遊び相手を求めている感じです。作中では雰囲気を壊さないために言いませんでしたが。しかし、こうして見るとレストはなかなかにツンデ——もといぶっきらぼうですね。こういうキャラは嫌いじゃないです、自分で作っておいてあれですけど。では次回、次の街に行く、途中のダンジョン的なあれですダンジョンと言うか、フィールドですけど。それでは次回もお楽しみに。