二次創作小説(紙ほか)
- 23話 バタイ砂丘・大群 ( No.115 )
- 日時: 2013/12/11 17:42
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
バタイ砂丘は、ソンサクシティとバタイシティを繋ぐ砂丘だ。砂丘と呼ばれているものの、その広さは砂漠と言っても過言ではない。灼熱の太陽が降り注ぎ、砂嵐が吹き荒れる様子は、ホーラ地方でも指折りの厳しい環境だ。
そんな中を、レストとリコリスは歩んでいた。
「うぅ、あうぅ……うーうー」
「いつまで唸ってんだよお前。流石にそろそろうっせえぞ」
「こんな砂嵐がびゅーびゅー吹いてる上に、こんなに暑いんだよ……唸りたくもなるよ」
「そりゃあ、そんな恰好してたら暑いだろうよ」
リコリスの服装は、黄色い長袖のカットソーTシャツに水色のジーンズ、ベージュのキャスケットを被り、足は茶色いロングブーツ、首には青いストールを巻いた上にサングラスまでかけている。
異常なまでに肌を見せないリコリスの服装には、れっきとした意味があった。
「だってぇ、砂漠なんて紫外線の集中豪雨地帯だよ。肌焼けちゃうもん」
「そんなに気にすることか? それ」
「気にするよ! 女の子はそういうもんなの!」
「ラルカはまったくそんなこと気にしなかったけどな……」
「あぁ……ラルカちゃんはそんな感じするね」
しかしリコリスは違う。いくらレストでもそれは分かるが、しかし気にしすぎだとは思った。
「はぁ、何でこんなところを横断する羽目に……」
「しゃーねえだろ、カンネイシティに向かう道は通れないって、シナモンさん言ってたんだしよ」
「そうだけどさぁ……」
そうだ。紫外線が嫌ならそもそもこんなところに来なければいい。しかし、それでもこの二人がこの場所にいる理由はというと、話は昨日の夜に遡る。
ラルカとの仲違いを終えた日の夜。レストとリコリスの元に、シナモンがやって来た。
やって来たと言っても、それは食事を運んだり布団を敷いたりと、仲居としての仕事をするためであり、特別二人に用事があったというわけでもないのだが、そのついでのように彼女は言ったのだ。
「そういえば、ふたりはこのままどうするの?」
要するに、次はどの街に向かうのかと言うことだろう。レストは特に考えてなかったが、リコリスはそうではないようで、
「次はカンネイシティに行こうかなって思ってるよ。ホーラ地方の三大都市の一つだし、ジムもあるしね」
カンネイシティというと、カンウシティの教会にある庭園を造り出したジムリーダーがいる街だったか、とレストは思い返す。その人物には少なからず興味もあり、ホーラ地方でも大きな街らしいので、レストもそこへ行きたいと思ったが、
「そう、じゃあ気をつけてね……あっ」
「どうしたんすか?」
思い出したように、シナモンは声をあげる。レストが尋ねると、
「いけない……ごめんね、今カンネイシティにいくための道は閉鎖されてるの」
「えぇ!? 閉鎖!? 何で!?」
「なんだか、ポケモンが大量発生してて、とおれないみたい。今、警察の人とかがいろいろしらべてるんだって。それが終わるまでは閉鎖するって」
「はあん。まあ気になるけど、だったら別のルートで行けばいいだけじゃないんすか?」
何気なくそういったレスト。しかし、リコリスはその発言にビクッと身を震わせた。
「そうだけど、そうなるとバタイシティを経由しないといけないんだよ……」
「バタイシティ? そこに、ジムはあるのか?」
「あるよ、バタイシティのジムリーダーはネロくんっていうの。ちょっとこわいけど、いい人だよ」
ほんわかと答えるシナモンに対し、リコリスはどこか遠い目をしている。この温度差は何なのだろうか。
「ならまずはそのバタイシティからでいいか。えーっと、タウンマップを見るからに……うわ、随分遠回りだな」
ソンサクシティからカンネイシティまでは、南下すればすぐに着くが、バタイシティを経由するとなると、西にぐるっと回らなくてはいけない。その上、その道中には砂漠、山脈など、険しい土地が広がっている。
「ま、別にいいか。そういうところの方が、強いポケモンも多そうだしな。つーわけで、バタイシティを目指すぞ。いいな、リコリス」
「えぇー……」
リコリスははっきりと嫌だとは言わなかったが、かなり嫌そうな顔をしていた。それはレストにも分かったが、近くにジムのある街は他になさそうなので、無視してバタイシティを目指すという方針で固めた。
ということがあり、現在に至る。
「うぅ、焼ける、焼けるよぅ……あたしの肌が紫外線に侵食されて——」
「ちょっと黙れお前。とはいえ、暑いのは確かだな。しかも長い、どこまで続くんだこの砂漠は」
小一時間ほど歩き続けているが、まだ砂丘を抜けられそうにない。どころか、周りに目印となるものが何もないため、まっすぐ歩いているのかすらも不安になる。
「まさか、こんなとこで道に迷った、とかじゃねえだろうな……」
「えぇ!? そんなの嫌だよ! あたしはまだ死にたくない!」
「飛躍しすぎだ、お前どんだけパニくってんだよ」
暑さで頭がやられたのだろうか、などと思いながらも歩を進めるレストだが、その足が不意に止まった。
「どうしたの?」
「いや、なんか変な匂いがする……何だこれ、仄かに甘い匂いが……」
鼻孔をひくつかせながら言うレスト。リコリスには甘い匂いなどまったく感じられないが、鼻が利くレストには分かるらしい。
「……これ、匂ったことあるぞ。カンウシティの甘い蜜だ。あれに近い」
「甘い蜜? 確かあの蜜って、ポケモンを引き寄せる効果があるから、誰かがその蜜でポケモンを誘ってるってこと?」
甘い蜜の香りは遠くまで拡散するのだが、その遠くまで飛んだ匂いは普通、人間には嗅ぎ分けられない。それを嗅げるレストの嗅覚は、ポケモンレベルのようだ。
「あと……なんか聞こえるな」
「聞こえるって、何が?」
「なんか、大群の何かがすげえ勢いで突っ込んで来る時の地響きみたいな音だ」
「……それって」
リコリスは振り返る。今まで歩んで来た彼方後方から、砂煙が上がっているのが見えた。砂色の鰐のようなポケモンで、目の周りや縞模様のようになっているラインが黒い。
砂漠鰐ポケモン、メグロコ。
それが群れをなして、こちらへと向かって来ている。
「メ、メグロコの群れ!? なんかこっち来てるよ!」
「やべえなこりゃ……と、とりあえず逃げるぞ!」
と言って、二人は一目散に逃げ出すが、メグロコの数が多すぎる。多少横に逸れた程度では逃げ切れず、しかも意外に速い。
「ど、どうしよう……このままじゃ、追いつかれる……」
「あんなのに巻き込まれたらひとたまりもねえし、ポケモンで応戦しようにも数が多すぎる……!」
絶体絶命のレストとリコリス。このままではメグロコの群れに押し潰されてしまう。
そんな時だ、どこからか叫ぶような声が響く。
「そこのお二方! 伏せてください!」
その声を聞き、レストは反射的にリコリスを引き寄せて地面に伏せた、というより橋っている時の勢いそのままにダイブした。
レストに下敷きにされたリコリスが何か呻いているが、そんなことを気にしている場合でもない。今度は雄叫びのような声が耳に届く。
「カエンジシ、爆音波!」
直後、メグロコの群れの一部が吹っ飛んだ。同時に凄まじい突風が吹き荒れ、砂塵が舞う。
メグロコの群れは中央付近が吹き飛ばされたようで、被害に遭わなかったメグロコたちはそのまま直進。吹っ飛ばされたメグロコも、起き上がったものはまた前に進む。
「二人とも、こちらへ!」
「っ」
そしてレストとリコリスは、何者かに腕を掴まれ、そのまま引きずられるようにして引っ張られる。
どれくらい引っ張られていただろうか。しばらくして、掴まれていた腕は解放され、巻き上がる砂塵も消えていた。そこで初めて、レストはその人物を視認する。
レストよりも年上だろう女だ。癖のある赤い長髪に、黒いブラウスと赤黒チェックのスカート。黒いロングブーツと、首には貴族的なスカーフのようなもの、クラバットが巻かれている。
「ここまで来れば安全ですね……大丈夫でしたか?」
「え、ああ、はい……大丈夫、です」
急な展開にレストが頭の整理をしていると、ぱんぱんと力なく腕が叩かれる。そこでレストは、今までずっとリコリスの顔面を胸で圧迫していたことを思い出し、解放する。
「っ、ぷはっ、本当に死ぬかと思った……レスト君! いつまであたしにサブミッション極めてるつもりだったの!?」
「別に関節は極めてねえよ。そんなことより、えぇっと、あんたは……?」
レストが尋ねると、女は思い出したように名乗る。
「あぁ、失礼、まだ名乗っていませんでしたね。私はリリエルといいます。あなた方は……?」
「俺はレストです。で、こっちが」
「リコリスです、助けてくれて、どうもありがとうございました!」
こうして、レストとリコリスは、絶体絶命の危機をリリエルに助けられたのだった。
今回からバタイシティ編スタート、まずはバタイ砂丘です。そして大光さんのオリキャラ、リリエルが登場しました。キャラ崩壊などの不備がありましたら、お申し付けください。では文字数もやばめなので次回予告。次回はまた奴らが登場する予定です。お楽しみに。