二次創作小説(紙ほか)
- 24話 大量発生・捕獲 ( No.116 )
- 日時: 2013/12/12 15:51
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「しっかし酷い目に遭ったな。まさか偶然、メグロコの行進に遭遇するなんてよ」
まさか突然、メグロコの大群が押し寄せて来るとは思わなかった。偶然とは恐ろしいものである。
だが、リリエルはその偶然を否定した。
「いえ、偶然ではありません。というより、メグロコは普通、あんた大群で生活するポケモンではありません」
「そうなんすか? ってことは、さっきのは……?」
「……この砂丘に限った話ではありませんが」
と前置きして、リリエルは語り始めた。
「どうも最近、いたるところでポケモンが異常な大量発生を見せているようです。まだ大量発生が起こってから数日しか経っていないので、報道などはされていませんが」
「大量発生……」
そう言われて思い出す。確かシナモンも、ソンサクシティとカンネイシティを繋ぐ道路でポケモンが大量発生していると言っていた。そもそもそのせいで、レストとリコリスはこの砂丘を横断しているのだが。
「私はその大量発生には何か裏があるのではないかと思い、独自で調べています。この砂丘にいたのは、それこそ偶然ですが」
しかしその偶然のお陰でレストたちは助かったのだ、偶然様々である。
「ポケモンの大量発生なぁ……この甘い蜜の匂いが関係してんのか?」
「甘い蜜?」
レストが何気なく発した言葉に反応したリリエル。どうやら彼女は(普通は嗅げないので当然だが)この砂丘に甘い蜜の香りが漂っていることを知らないようで、レストは簡単に説明した。
「成程、カンウシティ特産の甘い蜜ですか。私も頂いたことがあります」
「あの甘い蜜ならポケモンも誘き出せるし、その作用じゃないかなって、今のとこあたしたちは思ってるんですけど」
どうですかね? とリコリスが尋ねると、リリエルはまたそれを否定する。
「確かにあの甘い蜜はポケモンを呼ぶ効果がありますし、レストさんがその匂いを感じたというのならそうなのでしょう。しかしそれにしては規模が大きすぎます。あの甘い蜜を一瓶すべて使ったとしても、あそこまでの大群を誘導することなんて不可能、さらに視点を広げれば、大量発生は各地で起こっています。それがすべて、トレーナーが甘い蜜でポケモンを捕まえようとして起こった事故と言うのは、些か強引です」
「うーん、そうですか。まあそうですよね」
「まあ、よほど大量の甘い蜜を使用すればありえなくもない話ですが、甘い蜜は個人として買うことのできる個数が規制されていますから、やはりありえな——」
「待った」
とそこで、レストが制止する。
「今、大量の甘い蜜があればありえる、って言いましたか?」
「? まあ、はい。ありえてもおかしくないとは思います。絶対にありうる、とまでは断言できませんが」
しかし可能性があるのなら、レストには思い当たる節がある。
「リコリス」
「うん。それだったら、カオスの仕業かもしれないね」
「カオス? それは、どのようなものなのでしょうか?」
リリエルはカオスを知らないようだ。報道もされておらず、インターネットでも情報がないので、実は意外と影を潜めている組織なのかもしれない。
それはさておき、レストはざっくりとカオスについて説明する。同時に、カンウシティで起こった甘い蜜の窃盗についても。
「……成程。そのカオスという組織が大量の甘い蜜を盗んだのなら、それを使ってポケモンを得ようとするのは道理、筋は通っていますね」
それに、とリリエルは続ける。
「その手の組織は、理由こそ様々ですが、とにかく多くのポケモンを得ようとする傾向があります。野生のポケモンを大量に捕獲したり、トレーナーのポケモンを強奪することだってザラにあります。例をあげるなら、カントー、ジョウトのポケモンマフィア、ロケット団。ホウエンの大災害を引き起こしたマグマ団、アクア団。シンオウのギンガ団や、イッシュのプラズマ団もそうですね。後はカロスの——」
と言ったところで、リリエルの言葉が止まった。次に紡ぐ言葉が出て来ず、口を開いたり閉じたりしている。
「——とまあ、このようにポケモンの略奪を行う集団は数多くいます。カオスもその一つであるのなら、見逃すわけにはいきません」
どこかぼかしたように言うの彼女だったが、レストは特に気にしなかった。
「そうっすね。とりあえずは、カオスの連中がどこにいるのか見つけねえと」
「でも、この広い砂漠で闇雲に探しても見つからないよ。これと言った目印があるわけでもないし……」
「いえ、そうでもないですよ」
リリエルは言う。どうやら探すアテがあるようだ。
「先ほどのメグロコは、ここから西の方角へと直進していましたよね」
「ん、まあ確かにそうでしたけど、だからなんすか? 今から追うってわけにも行かないですし、もう見失ってるっすよ」
「そうですね、ですが方角さえ分かれば十分です。この砂丘は広大で、障害物となるようなものもほとんどないため、迷いやすいです。しかし障害物がないということは、逆に言えば目的地があるのならそこへ直進できるということです」
「?」
少々回りくどいリリエルの説明に首を傾げるレスト。リコリスも深く考え込んでいる。
「具体的に言いますと、レストさんの仮説が正しいのなら、先ほどのメグロコは甘い蜜の香りの発生源へと向かっているはずですよね。ならばその発生源に向かう途中、メグロコたちは何か障害物に阻まれるでしょうか?」
「あっ、そうか! つまり、何もない砂漠だからこそメグロコたちは一直線に香りの発生源に向かえるから」
「方角さえ分かれば、後はその方角に向かってまっすぐ進んでいけばいい、というわけだな」
やっと理解した二人。多少道中で軌道を修正する必要はありそうだが、それならまず間違いなく目的地に辿り着ける。
そうして、三人はひたすら西へと歩き続けたのだった。
リリエルの言った通り、一時間ほど西へと進むと目的地に着いた。
そしてその目的地には、レストの推理通り、カオスの構成員たちがいた。
簡易テントを建て、そこを取り囲むようにしてかなり広い範囲に巨大なネットを張っている。
さらにネットの両端には、一つ目に球形の体、その左右にはU字型の磁石がついているポケモンがいた。
磁石ポケモン、コイル。
どうやらあのネットにポケモンの群れ場引っかかると、コイルの磁力でネットを縛り、逃げられないようにして捕縛しているようだ。
さらにその近くには巨大なコンテナがいくつもある。恐らく、捕えたポケモンを入れておくための檻だろう。
「本当にカオスだったな……どうする?」
「決まってます、ポケモンたちを救出しますよ」
見たところ、数はそこまで多くない。少なくとも、いつかのソンサク洞にいた下っ端ったちよりも少人数だ。
「まず私が奇襲をかけ、囚われたポケモンたちを救出します。その時に彼らと戦うことになるでしょうが、逃走も考えられますので、お二人はその阻止と、私のサポートに回ってもらえますか」
「分かりました」
とりあえずの作戦が立ち、まずはリリエルが先行する。
「頼みますよ、カエンジシ」
そしてリリエルは、一体のポケモンを出す。雄々しくなびく赤い鬣を持った、獅子のようなポケモンだ。
王者ポケモン、カエンジシ。
リリエルとカエンジシはゆっくりとカオスの拠点に接近し、見つからないギリギリの距離をキープ。そして、
「行きますよ、カエンジシ……爆音波!」
直後、何かが爆ぜるような爆音とともに凄まじい衝撃波が放たれる。
「うぉ……!」
その余波はレストたちのところまで飛んでくるが、衝撃波が放たれた先に比べればどうってことない。
その惨状はというと、衝撃波が放たれた先にはほとんど何も残っていないほど。ネットどころか、仮説テントすら吹き飛び、その中にいただろう下っ端たちもまとめて宙に投げ出され、砂漠の向こうへと消えて行く。流石にコンテナは残ったが、生存しているのは直撃を受けなかった下っ端たちだけだ。
「なっ、何事だ!?」
「奇襲か!?」
「にしては派手すぎねえか!?」
などと慌てふためく下っ端たちに、リリエルはカエンジシと共に特攻していく。
そんな様子を見て、レストとリコリスは、
「……なんか、俺たちのサポートなんて、必要なさそうだな」
「うん……そだね」
モンスターボールを握る手が、少し寂しく感じられた。
というわけで恒例の悪の組織イベントです。それと、地味にカンウシティでの伏線を回収しています。覚えていますか、あの時の甘い蜜ですよ、皆さん。最後はなんだかギャグっぽい終わりになってしまいましたが、これで終わりではありません。次回、三人目が登場です。何の三人目かって? それは次回をお楽しみに。